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第八十七話 適任者

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 私は家来に命じて適当な若者を連れてこさせた。
「この三名なら年齢的に良いかと存じます」
「ご苦労。早速オーディションをするから準備をしなさい」
「はい、かしこまりました」

 で、今日はオーディションの日。私達四人(私と小百合と芽依と菫のことよ)が椅子に座り候補者の見定めをすることにしたわ。とりあえず四郎に『カノンちゃんには恋人がいたんだ~諦めよう』と思わせればいいだけだからそんなに難しくはないわよね?

「じゃあ、一人目の人入りなさい」
「はーい、俺の名前はパリッピー。ご先祖様は緑色の鳥なんだぜ」
何か軽そうな人が来たわね。

「まずは何をするか理解してるわね?」
「もちろんさ。カノンちゃんて子の恋人を演じればいいんだろ?」
「そうよ。できる?」
「任せなって。俺に不可能はないぜ。かわい子ちゃん」
「控えなさい。私は次期女王よ」
「へー? スゲエじゃん」
「知らずに来たの?」

「何か頼りないわね」
「でも、見た目はいけてるわよ」
私のぼやきに菫が反応した。もしかしてこういうのが好みなの?

「じゃあ、少し演技力を見せて貰うわ。こちらの女の子をカノンだと思って芝居をしてみて」
「え? 私?」
小百合は突然の指名に驚いている。これはこれで面白いわね。

「OK、任せて」
小百合は席を立ってパリッピーの前に言った。

「ヘイ彼女。可愛いねえ。俺と付き合わないか?」
「はいカットー! 自分の役目わかってるの?」
「彼女と付き合うんだろ?」
「違うわよ。前から付き合っているカノンの恋人役をするのよ」
「どう違うんだ?」
「だから、今ナンパするんじゃなくて以前から付き合ってる彼を演じるのよ!」
「よし、任せとけ!」

「へい、カノン。いつ見ても可愛いね」
「あなたは誰ですか?」
「俺はパリッピーだぜ。今日からお前の恋人さ」

「違うって言ってるでしょ!」
「どこが違うんだ? それよりみんなでパーティーしようぜ」
「もういいわよ。次の人と代わって」
軽い上にバカだわ。これでは使えないわね。

「失礼します」
えらく礼儀正しそうな人が来たわね。
「私の名前はジーニスと申します。現在王立大学の一年生で主に法律を学んでおります」
何か凄いエリートね。この国の王立大学は日本で言う東大よ。しかも法学部は一番の難関だわ。

「話は聞いてるわね」
「はい、説明は受けております」
「カノンて子の恋人役なんだけどできる?」
「大丈夫です。人間心理をうまく突いて理想通りに誘導して見せます」
「頼もしいわね」

「この人でいいんじゃない?」
「でも見た目が今一ね」
この発言はもちろん菫よ。菫って顔にこだわる性格だったのね。

「じゃあ、この人をカノンだと思って演技してみて」
「わかりました」
小百合がジーニスの前に行く。

「カノンさん。僕という恋人がいながら男の人と会っているのですか?」
いいわねえ。なかなかやるじゃない。
「あなたは誰ですか?」
「君の恋人のジーニスですよ」
「私はあなたなんか知りません。四郎さんに誤解を与えますから変なことを言わないでください」

「ウオーーーー! 虚偽の申請をしてしまった。刑法第二百四十六条に規定されている詐欺罪に触れてしまったー!」
何なのこいつ?
「そ、そ、そんなバカな男よりエリートの僕の方がいいに決まっているだろ・・・・・・・・ああーーーー! 今度は刑法第二百三十一条の侮辱罪で処罰されてしまう!」
「もういいわ。次の人」
なんか碌な人がいないわね。

 最後に来たのはボサボサの髪にヨレヨレの服を着たおじさんにも見える風体の男だった。
「自分の役目はわかってるわね」
「・・・・・・・・」
「え? 何て言ったの? 全然聞こえないわ」
「えっと、あの・・・・・・」
「何なのよ! はっきり言いなさいよ!」

「・・・・ぼ、僕・・・・」
「ん?」
「女の人と面と向かって話したことがないので緊張してしまって・・・・」
「何でこんなのが混じってるのよ! 絶対恋人役なんてできないじゃない!」

 こうして私達四人は大論争の末パリッピーを選んでしまうのであった。後から考えたらもう一度他の人を捜すという選択肢が一番だった気がするわ。

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