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第五十七話 幼なじみ
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それは突然の出来事だった。すれ違った女性が四郎に声を掛けてきたのだ。この小説に出てくる女性だからもちろん美人よ。
「四郎君! 四郎君よね?」
「え? 誰だっけ?」
「ええー、忘れたの? 菫だよ。河崎菫」
「嘘だろ!? 何で菫ちゃんがここにいるの?」
「ちょっと菫って誰よ」
私は小百合に聞いた。
「私もよく知らないわ」
「芽依、知ってるよ。お兄ちゃんの幼なじみだよ。隣に住んでいたから生まれた時から知ってるようなものだよ。芽依が家にやって来たのはお兄ちゃんが四歳の時だから芽依より先輩になる感じかな。正真正銘の幼なじみだね」
「私そんなの知らないわよ」
小百合がやや焦り気味に話す。
「小百合さんがお兄ちゃんと仲良くなったのは中学校に入ってからだよね。菫ちゃんは小学校四年の時遠くへ引っ越したから直接会ってないんだよ」
「菫ちゃんに会えてうれしいよ」
「私もよ。こんな奇跡ってあるのかしら」
二人の様子を見て私は、
「えらく仲いいわね」
と呟いた。
「それはそうだよ。引っ越すまで毎日のように遊んでたし、帰りたくないって我が儘言っては私達の家に泊まっていったんだから」
「何それ・・・・」
小百合の顔が珍しく怖くなったわね。
「私、今でも持ってるんだよ。約束のミサンガ」
ミサンガ? 四郎から貰ったのかしら?
「四郎君は?」
「もちろん大切にしまってあるよ」
何ですとー?
「将来結婚しようって約束して二人で作ったんだよね」
「ああ、そうだったな」
「私今でもその気持ち変わらないよ」
ちょっと聞き捨てならないわね。私が四郎に声を掛けようとした瞬間、小百合が大きな声で怒鳴った。
「四郎君! この人は誰なのよ! ちゃんと説明して!」
小百合のこんな大きな声は初めて聞いたわ。
「この子は菫ちゃん。小さい時の知り合いさ」
「四郎君、知り合いだなんて冷たいな? 婚約者って言ってよ」
「どういうこと!」
「そういうあなたは誰なの?」
「わ、私は四郎君の恋人の林郷小百合よ」
「四郎君。私と婚約してたのに恋人を作っちゃったの?」
「いやそれは」
「仕方ないよね。突然消えちゃったのは私の方なんだから。でも、もう安心して私は赤い糸に引き寄せられて戻ってきたわ。約束通り結婚できるのよ」
「言わせておけば言いたい放題いいやがって!」
小百合の顔はどんどん赤くなっていく。ていうか、ここは私が怒るところでしょ。主役なんだし。次期女王なんだし。
「後から出てきた人は関係ないわ。先約は私なんだし横取りしないで」
「何が横取りよ! 小学生の約束なんてないのも同然よ」
「四郎君だってミサンガを大切に持ってるって言ってたじゃない。約束は有効よ」
このままではダメだわ。四郎は主役の私と結婚することを主張しておかないと。でないととんでもなく酷いストーリーができあがってしまうじゃない。
「昔は昔、今は今よ。四郎君は私と付き合ってるの。過去のあなたは向こうに行って!」
「待ちなさい。私は」
「それは私が現れない時の話でしょ。現に私は四郎君の前に戻ってきたの。この時点で四郎君の気持ちは昔に戻ったのよ」
「だから私はマリー」
「戻ったなんてどうしてわかるのよ。幼い頃の仲良しと男女の恋愛を一緒にしないで!」
ダメだわ。小百合の勢いが強すぎて会話に入っていけないわ。
こうして小百合と菫は、『なぜ菫が異世界にいるのか』という大きな疑問には一切触れられることなく更に白熱していくのであった。
「四郎君! 四郎君よね?」
「え? 誰だっけ?」
「ええー、忘れたの? 菫だよ。河崎菫」
「嘘だろ!? 何で菫ちゃんがここにいるの?」
「ちょっと菫って誰よ」
私は小百合に聞いた。
「私もよく知らないわ」
「芽依、知ってるよ。お兄ちゃんの幼なじみだよ。隣に住んでいたから生まれた時から知ってるようなものだよ。芽依が家にやって来たのはお兄ちゃんが四歳の時だから芽依より先輩になる感じかな。正真正銘の幼なじみだね」
「私そんなの知らないわよ」
小百合がやや焦り気味に話す。
「小百合さんがお兄ちゃんと仲良くなったのは中学校に入ってからだよね。菫ちゃんは小学校四年の時遠くへ引っ越したから直接会ってないんだよ」
「菫ちゃんに会えてうれしいよ」
「私もよ。こんな奇跡ってあるのかしら」
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と呟いた。
「それはそうだよ。引っ越すまで毎日のように遊んでたし、帰りたくないって我が儘言っては私達の家に泊まっていったんだから」
「何それ・・・・」
小百合の顔が珍しく怖くなったわね。
「私、今でも持ってるんだよ。約束のミサンガ」
ミサンガ? 四郎から貰ったのかしら?
「四郎君は?」
「もちろん大切にしまってあるよ」
何ですとー?
「将来結婚しようって約束して二人で作ったんだよね」
「ああ、そうだったな」
「私今でもその気持ち変わらないよ」
ちょっと聞き捨てならないわね。私が四郎に声を掛けようとした瞬間、小百合が大きな声で怒鳴った。
「四郎君! この人は誰なのよ! ちゃんと説明して!」
小百合のこんな大きな声は初めて聞いたわ。
「この子は菫ちゃん。小さい時の知り合いさ」
「四郎君、知り合いだなんて冷たいな? 婚約者って言ってよ」
「どういうこと!」
「そういうあなたは誰なの?」
「わ、私は四郎君の恋人の林郷小百合よ」
「四郎君。私と婚約してたのに恋人を作っちゃったの?」
「いやそれは」
「仕方ないよね。突然消えちゃったのは私の方なんだから。でも、もう安心して私は赤い糸に引き寄せられて戻ってきたわ。約束通り結婚できるのよ」
「言わせておけば言いたい放題いいやがって!」
小百合の顔はどんどん赤くなっていく。ていうか、ここは私が怒るところでしょ。主役なんだし。次期女王なんだし。
「後から出てきた人は関係ないわ。先約は私なんだし横取りしないで」
「何が横取りよ! 小学生の約束なんてないのも同然よ」
「四郎君だってミサンガを大切に持ってるって言ってたじゃない。約束は有効よ」
このままではダメだわ。四郎は主役の私と結婚することを主張しておかないと。でないととんでもなく酷いストーリーができあがってしまうじゃない。
「昔は昔、今は今よ。四郎君は私と付き合ってるの。過去のあなたは向こうに行って!」
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「それは私が現れない時の話でしょ。現に私は四郎君の前に戻ってきたの。この時点で四郎君の気持ちは昔に戻ったのよ」
「だから私はマリー」
「戻ったなんてどうしてわかるのよ。幼い頃の仲良しと男女の恋愛を一緒にしないで!」
ダメだわ。小百合の勢いが強すぎて会話に入っていけないわ。
こうして小百合と菫は、『なぜ菫が異世界にいるのか』という大きな疑問には一切触れられることなく更に白熱していくのであった。
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