控えなさい！ 私はマリーよ！

第五十四話 反省するマリー

「このフルーツ美味しいわよ。四郎君も食べる？」
「ありがとう。本当に美味しいね」
「でしょう。もっと食べていいわよ」
「あんまり食べると小百合の食べる分が減っちゃうだろ？」
「私はいいの。それより四郎君が喜ぶ顔を見る方が幸せよ」

　何かこの二人仲良くなってない？　これはあれよね。相合傘をさせたのがいけなかったのよね。今のうちに何とかしなきゃ取り返しのつかないことになりかねないわ。

「それはマリーさんがいけないんだよ」
「芽依、私の心が読めるの？」
「何となくわかるようになったんだよ」
ええ！　芽依の魔力って凄い成長だわ。私でもできない魔術を使える様になったってこと？

　そうだ！　芽依に四郎がどう考えているか読み取ってもらえばいいのよ。
「お願いがあるんだけど」
「わかった。やってみるよ」
「まだ、何も言ってないわよ」
「お兄ちゃんの気持ちを読み取ればいいんだよね」
「そ、その通りよ」
これは迂闊に芽依の悪口を考えない方が良さそうね。

「その通りだよ」
やりづらいわね。
「そしてマリーさんが小百合さんに意地悪したことで、マリーさんのことを『何て冷たい女なんだ。マリーのことは見損なったぜ』と思ってないか探ればいいんだよね」
「そこまで言ってないわよ」
「ん？」
芽依が私の顔を覗き込んできた。

「わ、わかったわよ。あなたの言う通りよ。お願い」
「任せて」
芽依は陽気に四郎の所へ行った。

　暫くして芽依はハラハラする私の所に戻ってくると悲しそうな顔で視線を落とした。
「どうなの？」
「お兄ちゃん、ずぶ濡れになって歩き出した小百合さんを見て愛おしくなっちゃったんだって。マリーさんとはもう話したくないって」
「ええええーーー！！！」
ど、どうすればいいのよ！　私、四郎に嫌われちゃったじゃない！　確かに昨日のことはやり過ぎだと思うわ。嫌われて当然だけどそんなの嫌よ！

「冗談だよー」
「このタイミングでリアルな冗談を言うんじゃないわよ！」
「でも、昨日のはやり過ぎだよ。小百合さんのあんな姿を見せたら男心をくすぐっちゃうよ」
「反省してるわよ」
でも、どうすれば四郎の心をもう一度私に向けられるのかしら。

「いい方法があるよ」
「え！？　何？」
「マリーさんも同じようにずぶ濡れになればいいんだよ」
「どういうこと？」
「この先に大きな滝があるみたいだから、マリーさんが滝に打たれて反省する姿を見せれば、きっとお兄ちゃんも『なんて健気な娘なんだ』と感動してマリーさんを好きになるよ」
「本当でしょうね？」
「お兄ちゃんと小さい時から一緒に暮らしてきた妹が言うんだよ。間違いないって」

　私達が滝に到着すると大きな水音がゴーゴーと鳴り響きていた。
「ちょっとこの滝大き過ぎない？」
「これくらいの方が説得力があるのだよ」
「そうなのかな？　命の危険すら感じるんだけど」
「だから心が動くんだよ」
「なるほど」
こうして世間知らずの私はまんまと芽依に騙されてしまうのであった。