控えなさい! 私はマリーよ!

小松広和

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第四十七話 風物詩の輸入

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「もうすっかり秋ねぇ。風が爽やかだわ」
ミーンミンミンミンミン。
「蝉の声もいい感じね」 
「それ、おかしいでしょ!」
「何がよ」
「どうして秋に蝉なのよ?」
「蝉と言ったら秋の風物詩でしょ」
「蝉は夏の風物詩よ!」

「あら? そうだったかしら?」
「大体この異世界に蝉がいるの?」
「もちろんいないわ。私が説明して魔力の高い人に作らせたのよ」
「ちょっとその蝉を見せてみなさいよ」
疑り深いわね。これが小百合の悪いところよ。人の言うことを全然信用しないんだから。仕方なく私は蝉の立体映像を見せてやることにした。

「これが蝉よ」
「何なのこれ! 足が十本、羽が5枚、挙げ句の果てに目が七つ。あんた蝉を見たことないでしょ!」
「ないわよ。木の高いところにいたり保護色だったり。簡単には見つからないもの」
「呆れたわね」
「でも鳴き声は完璧よ」
「鳴き声だけね」
「飛び立つ時におしっこをかけていくって聞いてたから、虫に水を蓄える仕組みを作るのに苦労したわ」
「それでウォーターサーバーみたいなのを背負ってるわけ?」

「他にもたくさん表の世界から持ってきた物があるわよ。春の風物詩の鈴虫でしょ」
「それが秋の風物詩よ」
「冬の風物詩の蛙でしょ」
「冬は冬眠してるわよ!」
「食べ物だってあるわ。冬のスイカに春の松茸」
「滅茶苦茶ね」

「熊を連れてきたのは大きな間違いだったわ。被害が絶えないのよね」
「日本の物を取り入れるのはいいけど、ちょっとは日本の勉強をしなさいよね」
「失礼ね。私は日本の文化を取り入れるために派遣された大使よ」
「あなたみたいな人が大使をしてるからこうなるのよ! ていうか大使の意味知ってる?」

「わかったわ。あなたの意見も少しだけ聞いてあげるから日本の様子を説明しなさい」
私は日本から輸入してきた物を立体映像で並べて、小百合に説明させることにした。やるだけ無駄な時間だけど、ほんの少しの間違いが発見されるかもしれないわ。

「どういうこと? ほとんど間違ってるじゃない」
「だから言ってるでしょ。無茶苦茶なのよ」
「だって本物を見る機会なんてほとんどないんだから仕方ないじゃない」
「本物を見なくても図鑑や百科事典があるでしょ」
ガーン! これは盲点だったわ。
「もしかしてマリーってバカなのかしら」
「何か言った?」
「別に」

 その時、芽依が満面の笑みで飛び込んできた。
「ねえねえ、凄いの捕まえたよ。ほら妖精さん!」
「それはトンボよ」
「小さな人間に羽が生えてるだけでしょ!」
どうやらいろいろと改善点がありそうね。仕方ないから今回は小百合の言うことを信じてあげることにするわ。

「それと近くの池に鯨がいたよ」
頭を抱え込む小百合であった。
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