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第三十七話 お姉ちゃんからの果たし状

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 私達が今日の宿に入ったのは、空が赤く染まった夕暮れ時であった。
「カーカー」
「あら、窓に烏がいるわ。それにしても大きな烏ね」
「まあ、異世界だからね」
「それにしても夕暮れ時に烏って、何か縁起悪いわね」
「この世界では烏は縁起のいい生き物よ。何せ黒いからね。黒は神の色よ」
「本当に変わってるわ」

「え! この烏って伝書烏だわ!」
「伝書烏?」
私は慌てて烏の足を見た。
「やっぱり手紙が結びつけられているから間違いないわ」
「手紙を運ぶのって普通鳩でしょ。一歩譲って魔法の世界風に言ってもフクロウじゃなくて?」
「ここの世界では烏なの」

 私は手紙を烏の足から取ると早速開けてみた。
『話がしたい。帰られたし。ピピプル・クレタ・ビチャ・シッコ』
「お姉ちゃんからだわ・・・・」

「どうしたの? 顔色が悪くなってきたけど」
「この文章って怒ってる時の書き方よね」
「そうだね。芽依もそう思うよ。果たし状って感じだもん」
 私は顔色が益々悪くなるのを実感することができた。

「何を怒ってるのかしら?」
「何か心当たりがあるの?」
「別に大したことじゃないけど・・・・冷蔵庫に入ってたお姉ちゃんのプリンを食べちゃったことかな?」
「そんなことで果たし状はないでしょ」
「この世界ではプリンは貴重品なの。作り方だって未だに解明されていないわ」
「芽依、プリン作れるよ。作ってあげようか?」
「嘘! まさかそんな!」

 この会話に小百合が落ち着いた声で話す。
「芽依ちゃん。ここにはプリンの素は売ってないのよ」
「そんなもの使わないよ。牛乳と卵があれば作れるんだよ」
「何、この敗北感は・・・・」
肩を落とす小百合は何やら呟いている。
「小学生の芽依ちゃんより女子力が低いなんて・・・・」

「もしかしてお姉ちゃんの日記を内緒で読んじゃったからかな?」
「そんなの隠しカメラでも付いてない限りばれないでしょ」
「そ、そうよね」
「で、何が書いてあったの?」
「敵軍の戦闘状態とか。緊急時の攻撃態勢とか」
「それって日記じゃなくて機密文書じゃないの?」

「ひょっとしたら応接室の高価な観葉植物に硫酸を掛て枯らせちゃったことかな?」
「何してるのよ!」
「高価な観葉植物なら硫酸を掛けても大丈夫だと思ったのよ」
「そんなの小学生でもわかるわよ! ねえ、芽依ちゃん」
「硫酸て何?」
「ごめん、話を振った私がバカだったわ」

 悩んでいても仕方ないので、取りあえず城に戻ることにしたわ。今回って最終回じゃないわよね?
「お姉ちゃん、ごめんなさい」
こうなりゃ先手必勝よ。
「何を謝っているのだ?」
「え? 怒ってるんじゃないの?」
「いや、旅も疲れてきただろうから、一度戻ってきてはどうかと思っただけだが」

「じゃあ、プリンでも日記でも観葉植物でもないの?」
「違うが」
「良かったー」
大喜びをする私にお姉さんはそっと声を掛けた。
「元気そうで何よりだ。ところでそのプリンと日記と観葉植物って何のことなのか聞かせていただこうか?」
こうして墓穴を掘った私は長時間にわたり大目玉を食らうのであった。
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