控えなさい！ 私はマリーよ！

第三十話 酒場

「おい、ここって酒場じゃないのか？」
「そうよ。人が集まって話をする所。まさに情報収集にはもってこいの場所よ」
「でも俺達未成年だし、こんな所に来たらまずくないか？」
「それは大丈夫よ。この国の法律では十二歳から飲酒ＯＫだから」
「相変わらず滅茶苦茶な国ね。次期国王の顔が見たいわ」
小百合、相変わらず嫌みな女ね。

「いらっしゃいませ。何になさいますか？」
早速、若くて美しい店員さんが注文を取りに来たわ。美しい店員がね。
「何がどんな飲み物なのか、さっぱりわからないわね」
小百合がメニューを睨み付けて何やらブツブツ言っている。
「この『腐竜の胆酒』というのだけは注文してはいけない気がするけど」

仕方ないから助けてあげるわ。
「何も知らないのね。私があなた方に合ったドリンクを注文してあげるわ」
「もの凄く嫌な予感がするのだけど。真面目に選びなさいよね」

　暫くすると私の前に注文したオーブスト酒が置かれた。これって美味しいのよね。一口飲むとフルーティーな香りが広がって、ほんのり甘くって、うーん大満足。

「芽依のお酒に変な物が入ってるよ」
「あなたのはソフトドリンクよ。さすがにお酒は早すぎる気がしたから」
「この細長いものって何？　ええ！　これ動いたよ！」
「活きのいいのが当たったわね。それはヴェールドゥテール。あなたたちの世界ではミミズと言われてるわ」
「きゃあ！　こんなの飲めないよ！」
「ヴェールドゥテールの酢漬けは健康にいいのよ。足腰の痛み、骨粗鬆症、認知症に効くと言われているわ」
「芽依はまだ若いんだよ！」

「私のお酒ってやたら生臭いんですけど」
「それが『腐竜の胆酒』よ」
「やっぱりわざと変な物を注文してるんじゃない！」
「それってお酒の王様って言われてるのよ。匂いは癖があるけど最高に美味しいお酒よ」
「本当でしょうね？」
「ちょっと刺激的な味がたまらないわ」

「じゃあ、飲んでみるわね。本当に大丈夫でしょうね」
ゴクリ。
ボカン。
「あまり多く口に入れると大爆発するから気をつけるのよ」
「何度も言って悪いんだけど、そういう重要事項は飲む前に言ってくれるかしら？」
「それで美味しかったのか？」
四郎がさりげなく尋ねる。
「思いっきりまずかったわよ！」

「さあ、次は四郎よ」
「俺の酒はさっきからピンクやら赤やら色が次々に変わるんだが、こんなの飲んで大丈夫なのか？」
「もちろん大丈夫よ。ただし、私と結婚したことを想像しながら飲むの。いい？」
「ちょっと、どういう意味よ」
「このお酒は想像した未来を予想してくれるの。うまくいく場合は甘く美味しくなるわ」
「うまくいかない場合は？」
「辛くなるわね」

　四郎は私の言葉を聞くと急に席を立って歩き始めた。
「どこへ行くのよ！」
「ちょっとトイレに」
「飲んでから行きなさい」
「もう漏れそうで」
「漏らしてもいいから飲みなさい」
四郎は諦めたのか席に着いた。本当に往生際が悪いわね。

「いい？　より具体的に想像するのよ。二人でソファーに座って寄り添うシーンとか。仲良く料理を作るシーンとか」
「プリンセスが料理を作るわけ？」
小百合は余計な一言を発した。いつものことだけど。
「うるさいわね。四郎のためなら毎日でも作るわ」
「それは遠慮しておきます」
「何か言った？」
「いえ別に････」
四郎は下を向いた。

「さあ、想像した？　じゃあ、飲みなさい。きっと甘い香りで包まれるはずよ」
「うおおおお！　辛い！　水ー」
「どういうことよ！」

　その後、
「ねえ、次は私との結婚生活を想像して飲んでみて」
「芽依も芽依も」
こうして四郎は次々と辛さ地獄にのたうち回るのであった。

　あれ？　これって四郎は誰と結婚しても苦しむってことかしら？