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第十四話 伝説の魔術

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「いつまで寝てるんだ? マリー」
「四郎? あなたが起こしに来るなんて珍しいわね」
「たまにはこういう朝もいいかなって」
「そうね。確かに新鮮な感じだわ」
「もし結婚できたら、毎朝こんな感じになるのかな?」
「わ、私が起こすわよ」

 私達は早々に宿を出ると村の長老っぽい人物に呼び止められた。
「これは珍しい。この村に旅人が来られるのは実に五年ぶりじゃ」
「五年ぶり? そんなに人が来ないの?」
「あの峠と最近増えた飛龍のせいで誰もこの村に来なくなりましてな」
これは凄いわね。噂には聞いてたけどこれほどだとは思わなかったわ。

「せっかく来られたのですから、この村に伝わる秘伝の魔術で願い事を叶えて差し上げましょう」
「秘伝の魔術?」
「五年に一度使える魔術で、どんな願いでも叶えられますのじゃ」
何か胡散臭いわね。

 私達は小さな建物の小さな部屋に案内された。壁際にはたくさんの壺が置かれており、部屋の真ん中には机が一つ置かれている。その机の上には大きな水晶玉があった。
「占いじゃないわよね」
「れっきとした魔術ですぞ」
「まさかお金を取るとか?」
「もちろん無料じゃ」
「じゃあ、この壺を売りつけるとか」
「そんなことはいたしませんぞ」
私は疑いの眼差しで老人を見つめた。

「ただし願いを叶えられるのは一人じゃ」
 私は火炎の魔術で先制攻撃をする。小百合は運良くこれを交わすと、どこからともなく取り出した日本刀で私に切りつけた。芽依は天井近くまで舞い上がると氷の粒を私達に降らせて対抗した。
「ちょっ、ちょっと。こんな狭い部屋で突然戦闘を始めないでくだされ。水晶が壊れたら願いを叶えることもできませぬぞ」
私達は一瞬で静まりかえった。
 
「もっと平和的な方法で決めてくだされ」
「仕方ないわね。しりとりで決めましょう」
「こんな重大なことをしりとりで決めるの?」
「いいじゃない。語彙力が多い人が勝つ種目よ。四郎のお嫁さんは良妻賢母でなくちゃいけないわ」
「わかったわよ。勝負しましょう」
小百合は自信満々で挑んできた。身の程知らずね。
「芽依は嫌だよー」
「なら一人脱落ね」
「やるよ。やればいいんでしょ」

「じゃあ、私から行くわね。『四郎』」
「四郎の『う』ね。『ウサギ』」
「『ぎ』? いきなり難しいよ。どうして芽依の時だけ点々が付いてるの?」
「芽依、ヒントをあげるわ。死刑執行に使う道具」
「あ、わかった! 『ギロチン』」
早くも一人脱落した。チョロいわね。

 しかし、小百合は意外と粘ってきた。
「勝負が付かないわね。じゃあ、こうしましょ。自分の好きな物だけを答えるの。もし、好きじゃないものを答えてしまったら負けね」
「いいわよ」
私はニヤリと笑うとしりとりを続けた。
「えっと『カラオケ』だったわよね。と言うことは『け』か。『け』はほとんど出てしまったわね。け、け、け『消しゴム』」
「消しゴムなんて好きなの?」
「好きに決まってるじゃない。小さい時から消しゴム集めるのが趣味だったわ」
「本当なの? 適当に言ってるんじゃないでしょうね」
「特にスーパーカー消しゴムは集めまくったわね」
「いつの時代の話よ!」
「城に帰ったら見せてあげるわ」

「それから時間制限も付けましょう。十秒以内に言えなかったら負けよ」
「何勝手にルールを付け足してるのよ!」
「もう三十分もしりとりをやってるのよ。長老にも悪いと思わないの?」
「うっ、それは・・・・」
「じゃあ、数えるわよ。十、九、八」
「『む』よね。昔話も言ったし。無人島も言ったわよね」
「五、四、三」
「む、む、『虫』」

 一瞬小百合が固まった。
「言ったわね。虫が好きって言ったわね」
「す、好きよ。それが何か?」
私は呪文を唱え一つの箱を出した。
「この中にはあなたの好きな虫がたくさん入ってるわ。家によく出るあの虫よ。Gとも言われてるわね」
「ひええ!」
「さあ、開けなさい。好きなんでしょ?」
小百合は泣く泣く負けを認めた。

 当然私の願いは四郎に愛されて結婚すること。私は今、四郎の腕にしがみついて幸せに浸っている。
「城に帰ったら結婚式を挙げましょう」
「ああ、そうしよう」
さすが伝説の魔術ね。効果抜群だわ。

「マリー、起きなさいよ」
「え? 小百合?」
「もうみんな食事を済ませたわよ」
「まさか今のは夢?」
信じられないわ。夢落ちに頼るようじゃ作者もネタが尽きてきたってことよ! 絶対に許さないんだから!
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