落ちこぼれ魔女のリーサとラスボスのミーニャ

小松広和

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第2章 新たな敵を倒せ

第23話 千載一遇のチャンスです

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 この部屋は落ち着きません。昨夜も殆ど眠れませんでした。せっかくウトウトしかけても髑髏が急にうめき出しますので目が覚めてしまいます。今は昼ですが薄暗いため何時なのかさえわかりません。ミーニャさんは軍事会議があるとかでどこかへ行ってしまいましたので、この不気味な部屋には私独りでいます。
「恨んでやる~」
「呪ってやる~」
何か聞こえてきました。
「う~~~」
この部屋に長時間独りで居るのは無理です。どこかへ行くことにします。

 廊下をまっすぐ進むことにしましょう。もし帰り道がわからなくなったら大変です。
「・・・・・・・・」
どこまで行っても同じ景色です。

 わかりました。この魔王城は窓が一つもありません。道理で暗いはずです。それにしても長い廊下ですね。いくら歩いてもきりがないので帰ることにします。来た道をまっすぐにと。あれ、こんな所通ったでしょうか? はっ! 今デジャブーのようなものを感じました。まさか私の部屋に帰れないのではないでしょうね。やはり予想通りです。こんな廊下通っていません。

「キャー!」
大蛇が天井からぶら下がっています。でも、作り物のオブジェでしょうから大丈夫です。
「シャー!」
本物でした! 私は腰を抜かしながら地面を這って逃げます。このような体勢でありながら、恐らく自己最高の速度で逃げていると思います。でも、こんな大蛇が城内にいるのに退治しないのでしょうか?
                                                                     
 やっと大蛇が見えない場所まで来ることができました。ん? 何かにぶつかったような?
「若い娘だ。血を吸わせて貰うぞ」
「キャー!」
この姿この台詞、間違いなく吸血鬼です。何でこんな所に吸血鬼が居るのですか? 吸血鬼はモンスターじゃないですよね。私は必死で走ります。映画やゲームの情報が本当なら血を吸われると私も吸血鬼になってしまいます。かつてないスピードで走っています。あれ? 腰が抜けたのではなかったのでしょうか? 人間必死になると自己再生能力が高まるのかも知れません。医学的には証明不可能な気もしますが。

 私は重そうな鉄の扉の取っ手を持ちました。早くこの扉を開けないと吸血鬼に追いつかれてしまいます。でもか弱き私の力ではこの重い鉄の扉はなかなか開けられません。ガチャ。簡単に開きましたね。自分の能力を喜ぶべきなのでしょうが、年頃の女性としては複雑なものがあります。

 扉をくぐって外に出ると私は慌てて扉を閉めました。これで安心です。あれ? 外? 城の外に出ることができたということですか? だとしたらこのまま逃亡することも可能なのでは? これは思わぬチャンスを掴むことができました。早速先ほどの走りで逃げることにしましょう。

 3分経過。もう走れません。何なんですか、この体力の無さは。さっきは必死でしたので走り続けられましたが、今の状況ではその能力は発揮できないようです。仕方ありません。歩くことにします。落ち着いてみるとここはお花畑であることが認識できました。ウツボカズラにハエトリソウにフクロユキノシタ・・・・って食虫植物ばかりじゃないですか! お世辞にも『綺麗なお花畑!』とは言えません。

「人間の匂いがする?」
「え?」
「おい、ここに人間の娘がいるぞ!」
ええーーー! 人食いドラゴンです! どうしましょう? 今まで見たドラゴンよりは大きくないですが、ドラゴンはドラゴンです。はっきり言って大ピンチですよね。逃げなくては。

「どちらへ行くつもりですか? ふふふ」
不味いです。囲まれてしまいました。
「若い女性は特に美味しいんだよな」
「ああ、こんな上等の肉は久しぶりだぜ」
とんでもない会話を本人の目の前でしています。

「私は脂肪分も少なく美味しくないと思います。どうか見逃してください」
「そんなことできると思うか?」
やはりダメですよね。覚悟することにしましょう。思えば私の人生って碌なことがありませんでした。城から抜け出そうとした私が悪いのです。ミーニャさん、ごめんなさい。

「やはり塩焼きがいいな」
「バカかお前は。焼くなら醤油が一番だ」
「煮込み料理にしようぜ」
どんな調理法でも私には関係ありませんね。でも揉めている間は生きていられますから、もっと揉めてください。

「最初はグーじゃんけんポン」
じゃんけんを始めてしまいました。これで揉めることはないですよね。もうダメです。
「あいこでしょ」
「あいこでしょ」
「あいこでしょ」
なかなか決まりません。待たされている間のこの緊張感は何でしょう。もう耐えられません。

「いい加減にしてください! 肉を三等分してそれぞれで料理したらいいではありませんか?」
「おー! それは名案だ!」
余計なことを言ってしまいました。
「取り敢えず頭を殴って殺すとするか」
「キャー!」

「お前たち何をしている」
「これはラスボス様。人間が迷い込みましたので」
「その娘は私の親友だ。まさか今殺そうとしてなかっただろうな」
「滅相もない」
「あまつさえこの娘の肉を塩焼きや醤油焼きや煮込んで食べようなどと考えていなかっただろうな?」
「申し訳ありません! お許しをー」

「ところでリーサ」
「は、はい!」
不味いです。城の外に逃げようとしていたことがばれてしまいました。
「城の中庭で何をしていたのだ?」
「え? 中庭?」
どんな広い中庭ですか! 結局私は城からは出ていなかったのですね? 助かったにもかかわらず何気に落ち込む私なのでした。
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