タイムトラベル同好会

小松広和

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第4章 熱き逃亡の果てに

第42話 観念するとき

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 俺は再び胡桃と手を繋いで走り出した。
「でも、どこへ行けばいいんだ?」
「きっと非常出口があるはずよ。それを見つけるの」
「非常出口ってどんなものだ」
「それは分からないわ」

 路地裏を曲がると見慣れたマークが目に入ってきた。
「これって非常口ってことよね?」
緑の人が走っているマークだ。
「信じられねえ。まさか五千年先の未来でもこのマークが使われているなんて」
「嘘みたいな話ね」
例によってマークのある塀に手を伸ばすと通り抜けることができた。

 中は薄暗く、螺旋階段がどこまでも続いている。
 降りても降りてもゴールは見当たらない。
「一体どこまで続くんだ」
「今は辛抱よ」
「わ、わかった」

 暫くは何も考えず延々と階段を下り続けた。
「あ、あそこに扉が見えたわ」
永久に続くと思われた螺旋階段の先に白い明かりが見える。もちろん階段の途中も明かりはあるのだがかなり薄暗い。普段使わない所に電気代を費やすのももったいないという考え方か? 最もこの時代に電気というものが存在しているかどうかも怪しいのだが。

「本当だ! よし急ぐぞ」
俺は階段を下りる速度を速めた。
「真歴、ちょっと待ってよ」
胡桃は俺から離れまいと必死で付いてくる。

 ようやく螺旋階段の終わりに辿り着くことができた。と言うことはここは一階なのだろうか? 俺の目の前にはお世辞にも豪華とは言えない扉がある。俺は扉をそっと押してみた。全く動かない。この扉は地震や火事と言った非常事態に使われるものだろうが、俺の見る限りではまだ使われた形跡はない。重くて動かないのではなく錆付いて動かない感じだ。恐らくずっと閉まり続けた扉なのだろう。今までの未来風の扉ではなく俺達になじみの深い扉であることからも、ずっと作り替えられていないことがわかる。
        
 俺と胡桃は体中で扉を押すと少しだけ動かすことができた。一度動き出すと扉はキーという音を立てて開いた。
 俺たちが扉から出ると一人の男が警備ロボット数体と腕組みをして立っているのがわかった。そう、ユリナの家に来た人物であり、萌の正体を暴露した人物である。

「手間を掛けさせおって」
俺は慌てて扉の取っ手を回したが何の反応のない。。
「残念だが非常口の出口は内側からしか開かない仕組みになっている」
「くそう!」
俺は悔しさから非常扉を叩いた。

 俺はどうすることもできないと悟り、男に向かって尋ねた。
「萌はどうした?」
「安心したまえ。ちゃんと保護している」
「俺たちをどうするつもりだ?」
「取り敢えず、ある場所に来て貰おう。話はそこでゆっくりできる」
「ああ、分かった。そこに行けばいいんだな?」
俺は落ち着いた声で言う。
「真歴?」
胡桃はやや不安そうな声だが俺の言葉を尊重するかのようにそれ以上は何も言わなかった。

「妙に潔くなったものだ」
「どうせ逃げたってこの塔の中を走り回って終わりだろ。無駄な時間じゃねえか」
「ほお、少しは頭を使えるようだな。いい考え方だ」
男は俺たちに手錠をはめることはしなかった。

「こっちに来ていただこう」
俺たちは別の塔に連れて行かれた。
 団子が一つしかない小さな塔だ。ここは恐らく警察署のようなものなのだろう。中に入ると冷たい空気が俺たちを迎えた。コンクリートの壁で囲まれた窓もない建物。俺たちはここで取り調べを受けることになるのだろう。

 俺達が連れて行かれたのは大きなスクリーンにたくさんのボタンが付いた指令室といった感じの部屋だ。これがマザーコンピュータとやらに通じているのだろうか?
「まあ、その椅子に座り給え」
俺達は進められるまま宙に浮いた椅子に腰掛けた。タイムマシンにあったあの椅子だ。

「連れてこい」
男の命令で部下の警察官が動いた。やがてその警察官に連れてこられたのは萌だった。
「萌!」
俺は思わず叫んだ。
「大丈夫か? 酷い目に遭ってないだろうな?」
「真歴君! 裏切り者の私を心配してくれるの?」
萌は蚊の鳴くような小さな声で言った。

「さて、君たちは本当に困ったことをしてくれたものだ」
ユリナの家に来た男は俺たちの前に座るとゆっくりとした口調で話し始めた。
「この世界の秘密を知ることがどれだけの犯罪になるか分かるかね?」
どうやらこの人物が一番のボスのようだ。

「特にIM21。お前はどれほどの重罪を犯したか分かっているのか?」
「分かってるわ」
「分かっててなぜそんなことをする?」
萌は黙った。何を話すか迷っているのだろうか? それとも俺に聞かれたらまずいことがあって言いにくいのだろうか?

「どうしたIM21。なぜ答えない?」
この問いかけに萌はゆっくり口を開いた。
「それは分からないわ。でもこの二人を裏切りたくなかったの」
「バカな奴だ。一時の感情で一生を棒に振るなんて。お前はかなりのエリートじゃないのか? もっと自分の将来を大切にした方が賢明だと思うがね?」
「ううん。一生裏切ったという気持ちを持ったまま生きていくより、犯罪者として生きていく方がいいわ」
「ほお、犯罪者として罰せられてもかね?」
「ええ、覚悟の上よ」

「私には理解に苦しむ理論だな」
「それはあなたが真剣に人を好きになったことがないからよ」
この言葉に胡桃が少しむっとした顔をしたがここでは何も言わなかった。
「恋愛対象などいくらでも変わりはあるだろう。お前は美人だしエリートなんだぞ?」
「わかってないわね? 私は真歴じゃなきゃダメなの。これが本当の愛よ。真歴に嫌われるくらいなら死刑になった方がましだわ!」
「萌!!!」
この言葉にはさすがに胡桃も反応して席を立ちかけたが、
「胡桃! ここは感動のシーンだ。もう少し我慢しろ!」
と俺が胡桃を制した。胡桃は俺の手を払いのけるとチッと舌打ちをして再び席に着いた。

「良き思い出と共に生きるか。いい話だ。だが、お前の期待には応えることはできそうにないのが残念だ」
「どういうことだ!?」
俺は思わず大声を出してしまった。

「残念だが、IM21。お前は全ての記憶をなくし、一般人として生きていって貰う。今までの苦労が水の泡になるがそれも仕方あるまい」
「それって宮本君や胡桃の記憶がなくなるってこと?」
「そういうことになる」
「そんなの嫌!」
「仕方のないことだ。それともいい思い出を胸に一生牢屋で暮らすか?」
下を向いて泣き出した萌を見ていると俺の心が締め付けられる。胡桃には悪いが萌の気持ちが痛いほど伝わってくる。俺は男に向かったお願いしてみることにした。恐らく無理だろうが言わずにはいられない。

「裏切ったといっても、俺たちを無事に捕まえることができたんだ。萌を許してやってもいいんじゃないか?」
何とか萌を助けたい。今はそれだけだ。自分の心配などしている余裕はなかった。このままでは萌がかわいそうすぎる。しかもことの発端は俺にある。拾った定期券の秘密を捜索しなければ良かったんだ。
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