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第4章 熱き逃亡の果てに
第41話 逃げ延びてやる
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俺と胡桃は振り向くことなくまっすぐに走った。とにかく逃げ切ることが萌の思い切った行動に対する答えだと思う。絶対捕まることはできない!
全速力で走るうちに俺は自然と胡桃の手を握っていた。胡桃がやや遅れたという意識があったのかもしれない。または一人で走るのが怖かったのかもしれない。いつの間にか手を握っていたのだ。
ようやく塔の端に辿り着くと、先ほどと同じように窓硝子に沿って歩いた。タクシー乗り場を二つ越えたところで遂に見つけた。歩行者用のチューブだ。チューブの入り口には先ほどの丸ではなく歩く人の絵が描かれている。やはり俺の読みは正しかったんだ。
「あったぞ!」
「本当だわ」
タクシー乗り場とは違い利用者は殆どいない。ただベルトコンベアーのようなものが動いている。俺たちは急いでチューブへと入った。
チューブの中は歩く歩道になっているようだ。ちょうどエスカレーターをまっすぐ前に動かしている感じだ。これは俺たちの住む二十一世紀にもあったと思う。暫くすると駅のホームのようなものが見えてきた。
「何だこれは?」
「きっとここで乗り換えるのよ」
チューブはこの先二手に分かれていた。
俺達は今まで乗ってきたベルトコンベアーからホームに下りた。
「どちらに行けばいいんだ?」
「少しでも長く続いているチューブにしましょう」
俺は胡桃の言う通り遠くまで伸びている方のチューブを選んだ。
チューブを抜けると再び未来の町が目に飛び込んできた。今までの町とは異なる未来的な家が建ち並んでいる。独楽のような家。卵のような家。逆三角形のような家まである。見慣れた形状の家は全くなかった。
「ここならエレベーターが使えるかもしれないわね」
「そうだな。町の中心部へ行ってみようぜ」
俺たちは町の中心部を目指して歩いた。ここではもう警報が鳴っていないので走らなくても大丈夫だろう。
二十分ほど歩くとようやくエレベーターが見えてきた。
「あったぞ!」
俺は喜んで走ろうとするのを胡桃が止制した。
「待って、近くに警備ロボットがいるわ」
本当だ。危ないところだった。
「警備ロボットが行ってからエレベーターに乗るか」
「そうね」
ところが警備ロボットはこの場所を移動しようとしない。エレベーターの前をうろちょろしているだけだ。
「もしかしてここも警備対象になっているのか?」
「考えたくないけど、どうやらそうみたいね」
「仕方ない。また隣の塔に移動だ」
「同じことの繰り返しね?」
「そうかもしれないが今は警備の届いてない場所に行くしかねえ」
「そうね。可能性が残されてる限り、諦めちゃダメよね」
俺たちは今来た道を走って戻ることにした。
そして、辿り着いたところは先ほどの動く歩道のチューブだ。しかし、さっきはいなかった警備ロボットが行き来している。
「もうダメかもしれないな」
「何言ってるの。真歴らしくないわよ。私の知ってる真歴はそんなこと言わないわ。諦めちゃ終わりって言ったの真歴じゃない」
「すまん。変なこと言ってしまったな」
「さあ行きましょう」
胡桃の声は優しかった。今まで接してきた中で恐らく一番優しい声だと思う。
俺達は警備ロボットを避けながらできるだけ目立たない路地裏を移動した。
「疲れたな」
「そんなこと言ってると捕まるわよ」
「わかってる。でも少しでいいから休ませてくれ」
俺は地面に座り込んだ。
よくわからない倦怠感が俺の体を支配している。理解しがたい闇のようなものが俺を包み込むようにのしかかっきた。もう歩けない。そんな気持ちが湧き上がってくる。
「捕まってもいい・・・・」
「何言ってるの? 本気なの?」
胡桃が俺を睨み付けるように言ったが、俺の気持ちは変わらなかった。
「どうしたの? 何か変よ」
「俺にもわからないが体が動かないんだ」
俺は地面を見つめるように呟いた。
「捕まってもいいの?」
「ああ、捕まっても殺されることはないだろう。いっそ捕まった方が楽なんじゃないか?」
胡桃は俺の肩を掴み揺すぶった。
「しっかりして真歴! 殺されない保証なんてどこにもないのよ。さあ、立ってお願い!」
だが俺の体は動かない。思い重力に押しつぶされているように立ち上がることができないのだ。
「萌はどうなるんだろう?」
「萌の心配より今は自分の心配をしなさいよ」
「萌は自分を犠牲にして俺達を逃がしてくれたんだ」
「だったらそれに答えるためにも逃げましょう」
「萌は今頃どんな罰則を受けてるのかな? 萌が酷い目に遭ってるのに俺だけ逃げるなんて出来ねえ」
「萌は私達を騙したスパイなのよ!」
「違う! 萌は俺のことを好きだと言ってくれた最初の女性だ」
「真歴・・・・。あなた本気で言ってるの?」
胡桃は寂しそうな表情を浮かべたが、今の俺は何も感じない。
「ああ、今考えると俺も萌のことが好きだったのかも知れない。捕まれば萌に会える」
「そんな・・・・」
「捕まろう! 捕まって萌に会おう!」
「やっぱり変よ。真歴しっかりして!」
その時、胡桃が異変に気付く。
「変な音が聞こえない?」
「変な音? 何も聞こえないぞ」
「キーンと言う高い音よ」
「よくわからねえ」
胡桃は辺りを見回した。
「よくわからない。よくわからないけど私も気力が減退してる気がする。どういうこと?」
胡桃は路地裏に置かれてるゴミ箱やら木箱やらをひっくり返し始めた。
「あった! これよ! この木箱の中にスピーカーがあるわ。このキーンて音はここから聞こえているの」
「それがどうしたんだ?」
「見てなさい」
胡桃がそのスピーカーを壁に叩きつけると俺の体が急に軽くなっていった。
「これはマインドコントロールよ。この超音波で気力を減退させて自首させるつもりだったのね。たまたま私達がスピーカーのある場所に来てしまったというわけ。もう立てるでしょ。行くわよ」
俺は今までのことが嘘のように立ち上がることができた。
全速力で走るうちに俺は自然と胡桃の手を握っていた。胡桃がやや遅れたという意識があったのかもしれない。または一人で走るのが怖かったのかもしれない。いつの間にか手を握っていたのだ。
ようやく塔の端に辿り着くと、先ほどと同じように窓硝子に沿って歩いた。タクシー乗り場を二つ越えたところで遂に見つけた。歩行者用のチューブだ。チューブの入り口には先ほどの丸ではなく歩く人の絵が描かれている。やはり俺の読みは正しかったんだ。
「あったぞ!」
「本当だわ」
タクシー乗り場とは違い利用者は殆どいない。ただベルトコンベアーのようなものが動いている。俺たちは急いでチューブへと入った。
チューブの中は歩く歩道になっているようだ。ちょうどエスカレーターをまっすぐ前に動かしている感じだ。これは俺たちの住む二十一世紀にもあったと思う。暫くすると駅のホームのようなものが見えてきた。
「何だこれは?」
「きっとここで乗り換えるのよ」
チューブはこの先二手に分かれていた。
俺達は今まで乗ってきたベルトコンベアーからホームに下りた。
「どちらに行けばいいんだ?」
「少しでも長く続いているチューブにしましょう」
俺は胡桃の言う通り遠くまで伸びている方のチューブを選んだ。
チューブを抜けると再び未来の町が目に飛び込んできた。今までの町とは異なる未来的な家が建ち並んでいる。独楽のような家。卵のような家。逆三角形のような家まである。見慣れた形状の家は全くなかった。
「ここならエレベーターが使えるかもしれないわね」
「そうだな。町の中心部へ行ってみようぜ」
俺たちは町の中心部を目指して歩いた。ここではもう警報が鳴っていないので走らなくても大丈夫だろう。
二十分ほど歩くとようやくエレベーターが見えてきた。
「あったぞ!」
俺は喜んで走ろうとするのを胡桃が止制した。
「待って、近くに警備ロボットがいるわ」
本当だ。危ないところだった。
「警備ロボットが行ってからエレベーターに乗るか」
「そうね」
ところが警備ロボットはこの場所を移動しようとしない。エレベーターの前をうろちょろしているだけだ。
「もしかしてここも警備対象になっているのか?」
「考えたくないけど、どうやらそうみたいね」
「仕方ない。また隣の塔に移動だ」
「同じことの繰り返しね?」
「そうかもしれないが今は警備の届いてない場所に行くしかねえ」
「そうね。可能性が残されてる限り、諦めちゃダメよね」
俺たちは今来た道を走って戻ることにした。
そして、辿り着いたところは先ほどの動く歩道のチューブだ。しかし、さっきはいなかった警備ロボットが行き来している。
「もうダメかもしれないな」
「何言ってるの。真歴らしくないわよ。私の知ってる真歴はそんなこと言わないわ。諦めちゃ終わりって言ったの真歴じゃない」
「すまん。変なこと言ってしまったな」
「さあ行きましょう」
胡桃の声は優しかった。今まで接してきた中で恐らく一番優しい声だと思う。
俺達は警備ロボットを避けながらできるだけ目立たない路地裏を移動した。
「疲れたな」
「そんなこと言ってると捕まるわよ」
「わかってる。でも少しでいいから休ませてくれ」
俺は地面に座り込んだ。
よくわからない倦怠感が俺の体を支配している。理解しがたい闇のようなものが俺を包み込むようにのしかかっきた。もう歩けない。そんな気持ちが湧き上がってくる。
「捕まってもいい・・・・」
「何言ってるの? 本気なの?」
胡桃が俺を睨み付けるように言ったが、俺の気持ちは変わらなかった。
「どうしたの? 何か変よ」
「俺にもわからないが体が動かないんだ」
俺は地面を見つめるように呟いた。
「捕まってもいいの?」
「ああ、捕まっても殺されることはないだろう。いっそ捕まった方が楽なんじゃないか?」
胡桃は俺の肩を掴み揺すぶった。
「しっかりして真歴! 殺されない保証なんてどこにもないのよ。さあ、立ってお願い!」
だが俺の体は動かない。思い重力に押しつぶされているように立ち上がることができないのだ。
「萌はどうなるんだろう?」
「萌の心配より今は自分の心配をしなさいよ」
「萌は自分を犠牲にして俺達を逃がしてくれたんだ」
「だったらそれに答えるためにも逃げましょう」
「萌は今頃どんな罰則を受けてるのかな? 萌が酷い目に遭ってるのに俺だけ逃げるなんて出来ねえ」
「萌は私達を騙したスパイなのよ!」
「違う! 萌は俺のことを好きだと言ってくれた最初の女性だ」
「真歴・・・・。あなた本気で言ってるの?」
胡桃は寂しそうな表情を浮かべたが、今の俺は何も感じない。
「ああ、今考えると俺も萌のことが好きだったのかも知れない。捕まれば萌に会える」
「そんな・・・・」
「捕まろう! 捕まって萌に会おう!」
「やっぱり変よ。真歴しっかりして!」
その時、胡桃が異変に気付く。
「変な音が聞こえない?」
「変な音? 何も聞こえないぞ」
「キーンと言う高い音よ」
「よくわからねえ」
胡桃は辺りを見回した。
「よくわからない。よくわからないけど私も気力が減退してる気がする。どういうこと?」
胡桃は路地裏に置かれてるゴミ箱やら木箱やらをひっくり返し始めた。
「あった! これよ! この木箱の中にスピーカーがあるわ。このキーンて音はここから聞こえているの」
「それがどうしたんだ?」
「見てなさい」
胡桃がそのスピーカーを壁に叩きつけると俺の体が急に軽くなっていった。
「これはマインドコントロールよ。この超音波で気力を減退させて自首させるつもりだったのね。たまたま私達がスピーカーのある場所に来てしまったというわけ。もう立てるでしょ。行くわよ」
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