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第4章 熱き逃亡の果てに
第40話 萌の正体
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萌は何も言わず下を向いたまま立っている。
「役目を立派に果たせたな。初めての仕事にしては上出来だ。ゆっくり休むといい」
男は優しく萌に話しかけた。
「どういうこと?」
胡桃が大きな声を出す。
「どうやら何が起こっているのかを把握できていないようだな。無理もない。説明しよう」
「止めて!」
男の言葉を萌が激しく制した。
「どうしたIM21。何が起こっているのか説明をしてあげるのが親切というものではないのか?」
「お願いだから。止めて!」
「スパイ養成学校の優等生から出る言葉とは思えないな」
「スパイ?」
胡桃は思わず聞き直した。萌がスパイってどういうことだ?
「こいつは今田萌ではなくIM21と呼ばれるスパイだ。そう、お前達と同じ二十一世紀の人間ではなく、この世界の人物ということになる」
「まさか嘘だろ!?」
俺は思わず叫んだ。
「残念ながら本当だ」
「どういうこと?」
胡桃も信じられないといった声で聞く。
「IM21の使命はこの世界の秘密を知ってしまった者を捕獲すること」
俺と胡桃は萌を見た。萌はじっと下を向いたまま何も話さない。
なぜだ! そんなバカな話があるわけないだろう。萌は今まで俺達と逃走してきたんだぞ? スパイならどうしてそんな手の込んだことをする必要があるのだ?
「そうなの萌? 私たちを騙していたの?」
胡桃は意外と落ち着いた声で話す。俺はパニック寸前だ。
「おかしいだろ!? スパイなら俺達がこの世界に来たときに捕まえれば済むことだ。何で一緒に逃亡生活をする必要があるんだ?」
「それは我々も理解に苦しむところだ。我がタイムパトロールもIM21からの連絡がなかなか来ないので自ら動いたというわけだ。事の真相は後ほどゆっくり聞くことにしよう」
「萌! お前は俺を騙してたのか? 俺のことを好きだって言ったのは全部嘘なのか?」
萌は相変わらず視線を下に向け無言を貫いている。
「俺は女にもてたって何とも思わねえ。だがお前と接する内に人を愛することの意味がわかってきたような気がしてたんだ。なのに全部口から出任せの愛だったのかよ!」
俺の目からは一粒の涙がこぼれた。自我が芽生えてから初めての涙かも知れない。俺が女の前で涙を見せるなんて考えられないことだ。
でも、考えてみればこんな簡単にこの世界に来られるわけがない。いくらなんでもセキュリティが甘すぎる。あれはわざとだったのか。今考えてみると学校でも不思議なことが起こりすぎていた。定期の記憶がなくなった美紀とか。定期の音が聞こえないクラスメイトとか。これら全部萌が操作していたことだったというのか。
「萌! 何とか言えよ!」
どう思われたっていい。俺は涙を拭うこともせず萌に向かって叫んだ。
「初めはそうだった。騙してた。でも、途中からは騙そうなんて気持ちはなくなっていったの。本当よ。信じて!」
黙り続けていた萌がようやく口を開いた。
「嘘つけ!」
「私、宮本君や胡桃と行動するに連れて気持ちが変わっていったの。最後は本気で二人を逃がそうとしてた」
「何わけのわからないことを言ってるんだ! お前は俺達を導くのが役目なんだろ? 今更繕うなよ!」
「嘘じゃないわ。今は本気で真歴君が好き」
「嘘つけ!」
「嘘じゃないわ」
別に萌のことを好きだったわけではないが、純粋な男心を弄びやがってという激しい感情がこみ上げてくる。人に恨みの感情を持ったのは初めてかも知れない。
「お願い信じて」
萌は涙を流しながら俺の手を両手で掴んだ。
「止めろ! 何で今になってこんなことをする必要があるんだ!」
俺は萌の手を振り払った。萌はその場にしゃがみ込むと大きな声を出して泣き始めた。
「では、ご同行願おうか」
男が手錠のようなものを出した。男以外に数名の警察官らしき人物が俺達を囲むようにして立っている。恐らくもうどうすることもできないのだろう。
考えてみれば俺はつまらぬ人間だ。人を見る目がないばかりか先のことを考えることもできない。わけのわからない夢ばかりを追い続けるだけで計画性なんて欠片もない。そればかりか周りの者を巻き込んで、人の人生まで変えてしまって。胡桃、ごめん。俺がいなければお前はきっと幸せになっていたはずだ。
「うおーーーー!」
俺は泣いた。誰もが驚くほどの大きな声で泣いた。恥ずかしさなんて微塵も感じない。もうどうなったっていい。
「真歴・・・・」
胡桃が小さな声で呟く。
「真歴君・・・・ごめんなさい。私、私・・・・今の私は本気であなたを愛してるわ。だから」
萌はそう言うと突然男に体当たりをした。
「逃げて!」
「そんなことをすると反逆者扱いになるぞ。それでもいいのかIM21!」
「反逆者になってもいいわ。これが答えよ。早く逃げて」
俺は目の前で何が起こっているのか把握できないでいる。萌は何をしているのだ?
「何してるの!? 早く逃げなさい!」
萌の必死の叫びに俺と胡桃はようやく反応した。
「すまない萌」
俺たちは男の横をすり抜け懸命に走った。警官達も予想外な展開に一瞬固まっていたのか俺と胡桃をとっさに止めることはできなかった。
「こら、待て!」
後ろから男の声が聞こえた。
「役目を立派に果たせたな。初めての仕事にしては上出来だ。ゆっくり休むといい」
男は優しく萌に話しかけた。
「どういうこと?」
胡桃が大きな声を出す。
「どうやら何が起こっているのかを把握できていないようだな。無理もない。説明しよう」
「止めて!」
男の言葉を萌が激しく制した。
「どうしたIM21。何が起こっているのか説明をしてあげるのが親切というものではないのか?」
「お願いだから。止めて!」
「スパイ養成学校の優等生から出る言葉とは思えないな」
「スパイ?」
胡桃は思わず聞き直した。萌がスパイってどういうことだ?
「こいつは今田萌ではなくIM21と呼ばれるスパイだ。そう、お前達と同じ二十一世紀の人間ではなく、この世界の人物ということになる」
「まさか嘘だろ!?」
俺は思わず叫んだ。
「残念ながら本当だ」
「どういうこと?」
胡桃も信じられないといった声で聞く。
「IM21の使命はこの世界の秘密を知ってしまった者を捕獲すること」
俺と胡桃は萌を見た。萌はじっと下を向いたまま何も話さない。
なぜだ! そんなバカな話があるわけないだろう。萌は今まで俺達と逃走してきたんだぞ? スパイならどうしてそんな手の込んだことをする必要があるのだ?
「そうなの萌? 私たちを騙していたの?」
胡桃は意外と落ち着いた声で話す。俺はパニック寸前だ。
「おかしいだろ!? スパイなら俺達がこの世界に来たときに捕まえれば済むことだ。何で一緒に逃亡生活をする必要があるんだ?」
「それは我々も理解に苦しむところだ。我がタイムパトロールもIM21からの連絡がなかなか来ないので自ら動いたというわけだ。事の真相は後ほどゆっくり聞くことにしよう」
「萌! お前は俺を騙してたのか? 俺のことを好きだって言ったのは全部嘘なのか?」
萌は相変わらず視線を下に向け無言を貫いている。
「俺は女にもてたって何とも思わねえ。だがお前と接する内に人を愛することの意味がわかってきたような気がしてたんだ。なのに全部口から出任せの愛だったのかよ!」
俺の目からは一粒の涙がこぼれた。自我が芽生えてから初めての涙かも知れない。俺が女の前で涙を見せるなんて考えられないことだ。
でも、考えてみればこんな簡単にこの世界に来られるわけがない。いくらなんでもセキュリティが甘すぎる。あれはわざとだったのか。今考えてみると学校でも不思議なことが起こりすぎていた。定期の記憶がなくなった美紀とか。定期の音が聞こえないクラスメイトとか。これら全部萌が操作していたことだったというのか。
「萌! 何とか言えよ!」
どう思われたっていい。俺は涙を拭うこともせず萌に向かって叫んだ。
「初めはそうだった。騙してた。でも、途中からは騙そうなんて気持ちはなくなっていったの。本当よ。信じて!」
黙り続けていた萌がようやく口を開いた。
「嘘つけ!」
「私、宮本君や胡桃と行動するに連れて気持ちが変わっていったの。最後は本気で二人を逃がそうとしてた」
「何わけのわからないことを言ってるんだ! お前は俺達を導くのが役目なんだろ? 今更繕うなよ!」
「嘘じゃないわ。今は本気で真歴君が好き」
「嘘つけ!」
「嘘じゃないわ」
別に萌のことを好きだったわけではないが、純粋な男心を弄びやがってという激しい感情がこみ上げてくる。人に恨みの感情を持ったのは初めてかも知れない。
「お願い信じて」
萌は涙を流しながら俺の手を両手で掴んだ。
「止めろ! 何で今になってこんなことをする必要があるんだ!」
俺は萌の手を振り払った。萌はその場にしゃがみ込むと大きな声を出して泣き始めた。
「では、ご同行願おうか」
男が手錠のようなものを出した。男以外に数名の警察官らしき人物が俺達を囲むようにして立っている。恐らくもうどうすることもできないのだろう。
考えてみれば俺はつまらぬ人間だ。人を見る目がないばかりか先のことを考えることもできない。わけのわからない夢ばかりを追い続けるだけで計画性なんて欠片もない。そればかりか周りの者を巻き込んで、人の人生まで変えてしまって。胡桃、ごめん。俺がいなければお前はきっと幸せになっていたはずだ。
「うおーーーー!」
俺は泣いた。誰もが驚くほどの大きな声で泣いた。恥ずかしさなんて微塵も感じない。もうどうなったっていい。
「真歴・・・・」
胡桃が小さな声で呟く。
「真歴君・・・・ごめんなさい。私、私・・・・今の私は本気であなたを愛してるわ。だから」
萌はそう言うと突然男に体当たりをした。
「逃げて!」
「そんなことをすると反逆者扱いになるぞ。それでもいいのかIM21!」
「反逆者になってもいいわ。これが答えよ。早く逃げて」
俺は目の前で何が起こっているのか把握できないでいる。萌は何をしているのだ?
「何してるの!? 早く逃げなさい!」
萌の必死の叫びに俺と胡桃はようやく反応した。
「すまない萌」
俺たちは男の横をすり抜け懸命に走った。警官達も予想外な展開に一瞬固まっていたのか俺と胡桃をとっさに止めることはできなかった。
「こら、待て!」
後ろから男の声が聞こえた。
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