タイムトラベル同好会

小松広和

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第3章 未来への旅立ち

第33話 恐怖の双六は容赦なく続く

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 待てよ。ユリナが萌と同じ所に止まったってことは、俺はもう一度『好きだ』と言わなければいけないのか? もう勘弁してくれ!
 そして見たくない文字がゆっくりと現れる。
『好きな人と見つめ合って愛してるよと囁いてもらう』
「あれ? さっきと違うぞ?」
「止まる人によって微妙に変わることがあるんだ」
「てか、こっちの方がきついじゃねえか!」

 ユリナは俺を見つめ始めた。
「おい、何で俺を見つめ出すんだ?」
「愛を囁いて貰うために決まってるだろう」
「双六は好きな人って言ってたぞ。俺達出会ったばかりだよな。好きって言うのには無理があるよな」
「私は君のことが大好きだよ」
ダメだ。完全に酔ってやがる。

「ねえ、早く言ってよダーリン」
「ユリナ、頼むから正気に戻れ」
「私、男の人から告白されるの初めてだよ。きっと感動的なんだろうな」
ユリナは俺の肩を両腕でガシッと掴んだ。
「い、いきなり何するんだ?」
ユリナは意外と大きく身長が170cmくらいはありそうだ。それだけに力も胡桃以上に強かった。動けないぞ。

「もう離さないぞ。愛の言葉を囁かなかったらこのままキスするからな」
ダメだ。目が据わっている。ユリナの背後では鉄パイプを持った胡桃と金属バットを振りかぶった萌が今にもユリナの後頭部を殴ろうとしていた。何で女の一人暮らしの部屋に鉄パイプや金属バットがあるのだ?
「わかったわかったから。酔いから醒めろ!」
ユリナは何も聞こえないのか目を閉じ、唇を尖らせて顔を近づけてくる。

「愛してるよ」
『ブー』
ええーーー! これ程度では無理なのか? まさかもっと感情を込めろって言うんじゃないだろうな?

 ユリナの顔は更に近づき萌と胡桃の腕に力がこもる。
「ユリナ、俺はお前なしでは生きていけないんだ。愛してる。いつまでも一緒にいてくれ」
『ピンポーン』
俺は頭を抱えて大きく首を振った。恐らく俺史上一番の黒歴史を作ってしまった! だが逃亡中の状況で殺人事件を起こすわけにはいかねえ。俺は一生懸命自分自身に言い聞かせるのだった。

 その後もいろんなお題が出される。
『東京タワーとスカイツリーのどちらかでデートをするとしたらあなたならどちらを選びますか? その理由を五十字以内で答えなさい』
「国語のテストか!」
『好きな人を三人から一人選び手を握ってウインクせよ』
「できるかー!」
結局やらされた。因みに一番当たり障りがなさそうなユリナを選んでおいたが、
「信じていいんだよね」
と涙を流して喜ばれてしまった。酔っ払いを選んだのは失敗だったのか? しかし、胡桃と萌のどちらかを選ぶのはさすがにやばすぎる。選ばなかった方の攻撃を考えると恐らくこの選択しか残されていなかっただろう。

 そして一時間後。ようやくゴールの手前まで辿り着いた。俺は後六マスでゴールできる。
「六出ろ!」
五だった。今回ほど神頼みをしたことはないぞ。もう双六のお題に悩まされるのはこりごりだ。だがこの恐怖の双六ももう終わりだ。

 しかし世の中そう甘いものではない。盤上にとんでもない文字が浮かび上がった。
『現在最下位の人とキスをする』
ちょっと待て! いくら何でもこれはやりすぎだろう!
「ははは、私は女の子同士でしかこのゲームをやったことがないからな。まさかこんな課題が出ようとはな」
と言いながらも、ユリナは大声で笑っている。ところで、最下位って誰だ? 俺は慌てて盤上を確認する。胡桃だ!

「え? そんな。ダメよ!」
胡桃が慌てて言う。
「そうだよ。萌じゃなきゃダメだよ。萌が代わりにしてあげる」
萌が立ち上がろうとするのを胡桃が萌の腕をしっかりと掴んで止めた。

「どうしてもって言うのなら、しても。・・・・いいわよ・・・・」
「いいぞ~。やっちまえ~」
ユリナが酔っぱらいが出すような大きな声で囃し立てる。
「絶対ダメ~!」
萌が胡桃の腕にしがみつく。
 しかし、これまた困った。まさか胡桃がこんなこと言うとは想像もしていなかった。

「何、しないの?」
マジか! 胡桃は顔を真っ赤にして目を閉じたまま俺を見つめている。
どうしろって言うんだ。俺はどうしていいかわからず部屋のあちこちを見る。決して胡桃を見ることはできなかった。
 
 やがて双六が赤く光り出しカウントダウンが始まった。
「早くしないと失格になるわよ」
胡桃のやや小さめの声が俺を更に焦らせる。俺はそっと胡桃の腕を掴んだ。
「お願いだから止めて!」
大声で叫ぶ萌をユリナが押さえる。

「やっぱりダメだ。キスなんて人前でやることじゃねえ!」
俺はそう叫ぶと失格の道を選んだ。
 よく考えたら俺は寝る場所が指定されてるんだから失格になっても良かったのでは? もっと早く気付くべきだった。俺は再び頭を抱えて首を大きく振った。
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