タイムトラベル同好会

小松広和

文字の大きさ
上 下
21 / 45
第3章 未来への旅立ち

第21話 未来って凄い! 凄すぎるぜ!!

しおりを挟む
 壁の中はまるで別世界だ。明るい照明の中、まっすぐな通路が延びている。照明という表現をしたが、言ったが厳密に言えば照明らしき物は見あたらない。システムはよくわからないが壁そのものが光っているように見える。

「これだけ明るいのに全然眩しくないわね」
胡桃は少し緊張気味に言った。
「とにかく進んでみようよ」
萌の方は全く緊張していない感じだ。どちらかというと萌より胡桃の方が度胸が据わっているイメージだが、実際はそうでもないのだろうか? やはり女ってわからない。

 百メートルほど進むといかにも高級そうな扉がある。俺たちが扉の前に立つと扉はゆっくりと音もなく開いた。
 扉の中もまた別世界だ。中に入ると小さなカウンターがあり、その奥には卵を縦に割ったような椅子が三十席ほどてんでバラバラに置かれている。全く規則性は感じられない。これもデザインなのだろうか。そして俺は凄い発見をする。なんと、その椅子には脚がないではないか! 宙に浮いているのだ。これぞ未来と言うほかにない形状だ。やはりこれはタイムマシンに違いないと俺は確信できた。

 仕組みはさっぱり分からないが、俺は嬉しくなり思わず拳を握りしめた。更に椅子の一つがゆっくりと動き出したのを見ると、どうやら好きな位置に移動できるようだ。
未来の光景に見とれていると、受付の女性が俺たちに話しかけてきた。
「#&%$#$#」
・・・・何を言っているのかさっぱり分からない。俺たちは顔を見合わせた。 

「旅行が楽しすぎて母国の言語ををお忘れですか?」
女性はにっこりと笑って言う。
「まだ旅行気分が抜けなくて」
萌がとっさに答えた。
「では、こちらの言葉でご案内しますね」
何というラッキー! 

「二十一世紀の日本はどうでしたか? 名残惜しいですが、九泊十日の歴史旅行も終わりを告げようとしています。この後は皆様の暮らす七十世紀にご案内致しますのでごゆっくりおくつろぎください。では、お好きな席へどうぞ」
「よっしゃー!!!」
俺は思わず腕を天高く突き上げガッツポーズをすると、胡桃と萌が慌てて俺を押さえた。

「バカなの? 私達が未来人でないことがばれるでしょう!」
胡桃は俺を押さえるだけでなく俺の鳩尾を正拳突きしている。こんなのやられ慣れている俺じゃなかったら気を失ってるぞ!

 俺たちは怪しまれないように席に着こうとした。
「あっ、申し訳ございません。言い忘れておりました。パスポートのご提示をお願い致します」
俺達はピタッと止まった。これはやばい。でも、当然こうなるわな。俺は恐る恐る例の定期券を差し出した。

「ピピプル様とクレタ様ですね」
「は、はい」
「お二人は新婚旅行ですね」
「違う!」
 ボカ! 思わず出てしまった俺の言葉を聞いた胡桃は俺の頭を思いっきりはたいた。胡桃は手加減というものを知らない女だ。俺は倒れるのを必死で我慢して平静を装った。

「こちらの方もパスポートのご提示をお願いします?」
「私はパスポートをなくしてしまいまして」
萌がとっさに答える。こういう時の一人称は『萌』ではなく『私』なんだ。それにしてもよくこんな涼しい顔で嘘がつけるものだ。俺が妙な感心をしていると受付の女性は困った表情で話し始めた。
「申し訳ございませんが、パスポートの再発行を現地事務局でお願い致します。今からですと出発の時間までに間に合いませんので、明日以降の便でお願い致します」
萌は助けを求める目でこちらを見ている。

「この人は私たちの連れなんです。何とかなりませんか?」
胡桃がとっさに嘘をつく。
「困りましたね。それでは本部と連絡を取ってみますので少々お待ちください」
女性はそう言い残すと壁の向こうに消えていった。

 ん? 壁の向こう? ドアじゃないところに入り口があるんだ! 確かに客が出入りできないドアがあるとややこしいし紛らわしい。よく考えられたシステムだ。さすが未来の世界。凄すぎるぜ!

暫くすると女性が戻ってきてにっこり笑って言った。
「本部に問い合わせましたところ、帰還致しました後でパスポートの再発行をお願いいたします。よろしいでしょうか?」
「はい。わかりました」
萌は落ち着いた声で言う。もしかして萌は前の学校で演劇部にでも入っていたのだろうか? いやこの容姿からすると現役の女優かも知れない。身分を隠して転校してきたとか。

 俺達が席について暫くするとほぼ満席状態になった。
「それでは皆さん、いよいよ出発の時間がまいりました。現地語での案内を終了させていただきます。%#$&%%#☆」
周りの人たちは一斉にシートベルトを締め始めた。それを見た俺たちも慌ててシートベルトを締める。辺りが暗くなると天井がスクリーンになり、日本の名所が映し出された。富士山から始まった映像はやがて京都の清水寺になり、最終的にはスカイツリーで締めくくられた。どれくらいの時間映像を見ただろう。室内に明るさが戻ってきた。

「○$#&&※★&%」
アナウンスはさっぱり分からないが、他の乗客が席を立ち始めたので、到着したのが分かった。それにしても全く揺れなかったぞ。本当に移動したのだろうか?

 俺たちは他の乗客の後についてタイムマシンを降りた。乗った時と同じ明るく長い廊下が続く。先ほどと少し違ったのは、廊下の壁にいろいろな宣伝が流れていることだ。どの宣伝も動画で構成されており、前に行かないと音は聞こえてこない。歴史の動画辞書に未来グッズ、全てが興味をそそられる物ばかりだ。

「すごいな、この宣伝。つい欲しくなる物ばかりだ」
この言葉に胡桃が驚いた声で言った。
「真歴って、化粧品やワンピースに興味あるの?」
「え? どういうことだ? 俺が化粧品に興味があるわけないだろう」
「私にはおしゃれ小物の宣伝が多いわ」
萌が不思議そうな顔で答えた。

 そうか、この宣伝は見る人によって見える物が変わるんだ。その人が興味ありそうな物を宣伝する方が効率がいいというわけか。これまた凄いぞ未来!
 暫くするとロビーらしきところに出た。天井には青空と雲が映し出されている。これがまた素晴らしいクオリティだ。本物にしか見えない。そして時折小鳥が囀りながら飛んでいく。何とも心安らぐ空間になっている。よく見るとこの小鳥も映像のようだ。クオリティ高過ぎだろ!

 広いロビーに出ると乗客達はそれぞれ違った方向に進み始めた。ここからは目的地が違うというわけか。
「俺たちこれからどこに行けばいいんだ?」
「わからないわ」
胡桃は心配そうな声で答える。

「足下を見て。矢印よ」
萌が突然声を上げる。見ると足下の床に矢印が見える。
「この方向に進めってことか?」
「そうみたいね」
胡桃は矢印の指す方向を見ながら言った。
 どうせ、どこに行っていいのか分からないのだ。この指示に従ってみることにしよう。俺たちは矢印の方向に進んだ。その先に何が待っているかはわからないが、不安を胸に進むしかないのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~

海獺屋ぼの
ライト文芸
ある日、女子校に通う夏木聖那は『魔法少女募集』という奇妙な求人広告を見つけた。 そして彼女はその求人の日当二万円という金額に目がくらんで週末限定の『魔法少女』をすることを決意する。 そんな普通の女子高生が魔法少女のアルバイトを通して大人へと成長していく物語。

和泉と六郎の甘々な日々 ~実は和泉さんが一方的に六郎さんに甘えてるだけと言う説も有るけど和泉さんはそんな説にはそっぽを向いている~

くろねこ教授
ライト文芸
ふにゃーんと六郎さんに甘える和泉さん。ただそれだけの物語。 OL和泉さん。 会社では鬼の柿崎主任と怖れられる彼女。 だが、家では年上男性の六郎さんに甘やかされ放題。 ふにゃーんが口癖の和泉さんだ。 

最終死発電車

真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。 直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。 外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。 生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。 「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

もしもしお時間いいですか?

ベアりんぐ
ライト文芸
 日常の中に漠然とした不安を抱えていた中学1年の智樹は、誰か知らない人との繋がりを求めて、深夜に知らない番号へと電話をしていた……そんな中、繋がった同い年の少女ハルと毎日通話をしていると、ハルがある提案をした……。  2人の繋がりの中にある感情を、1人の視点から紡いでいく物語の果てに、一体彼らは何をみるのか。彼らの想いはどこへ向かっていくのか。彼の数年間を、見えないレールに乗せて——。 ※こちらカクヨム、小説家になろうでも掲載しています。

後悔と快感の中で

なつき
エッセイ・ノンフィクション
後悔してる私 快感に溺れてしまってる私 なつきの体験談かも知れないです もしもあの人達がこれを読んだらどうしよう もっと後悔して もっと溺れてしまうかも ※感想を聞かせてもらえたらうれしいです

月曜日の方違さんは、たどりつけない

猫村まぬる
ライト文芸
「わたし、月曜日にはぜったいにまっすぐにたどりつけないの」 寝坊、迷子、自然災害、ありえない街、多元世界、時空移動、シロクマ……。 クラスメイトの方違くるりさんはちょっと内気で小柄な、ごく普通の女子高校生。だけどなぜか、月曜日には目的地にたどりつけない。そしてそんな方違さんと出会ってしまった、クラスメイトの「僕」、苗村まもる。二人は月曜日のトラブルをいっしょに乗り越えるうちに、だんだん互いに特別な存在になってゆく。日本のどこかの山間の田舎町を舞台にした、一年十二か月の物語。 第7回ライト文芸大賞で奨励賞をいただきました。ありがとうございます、

処理中です...