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第3章 未来への旅立ち
第21話 未来って凄い! 凄すぎるぜ!!
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壁の中はまるで別世界だ。明るい照明の中、まっすぐな通路が延びている。照明という表現をしたが、言ったが厳密に言えば照明らしき物は見あたらない。システムはよくわからないが壁そのものが光っているように見える。
「これだけ明るいのに全然眩しくないわね」
胡桃は少し緊張気味に言った。
「とにかく進んでみようよ」
萌の方は全く緊張していない感じだ。どちらかというと萌より胡桃の方が度胸が据わっているイメージだが、実際はそうでもないのだろうか? やはり女ってわからない。
百メートルほど進むといかにも高級そうな扉がある。俺たちが扉の前に立つと扉はゆっくりと音もなく開いた。
扉の中もまた別世界だ。中に入ると小さなカウンターがあり、その奥には卵を縦に割ったような椅子が三十席ほどてんでバラバラに置かれている。全く規則性は感じられない。これもデザインなのだろうか。そして俺は凄い発見をする。なんと、その椅子には脚がないではないか! 宙に浮いているのだ。これぞ未来と言うほかにない形状だ。やはりこれはタイムマシンに違いないと俺は確信できた。
仕組みはさっぱり分からないが、俺は嬉しくなり思わず拳を握りしめた。更に椅子の一つがゆっくりと動き出したのを見ると、どうやら好きな位置に移動できるようだ。
未来の光景に見とれていると、受付の女性が俺たちに話しかけてきた。
「#&%$#$#」
・・・・何を言っているのかさっぱり分からない。俺たちは顔を見合わせた。
「旅行が楽しすぎて母国の言語ををお忘れですか?」
女性はにっこりと笑って言う。
「まだ旅行気分が抜けなくて」
萌がとっさに答えた。
「では、こちらの言葉でご案内しますね」
何というラッキー!
「二十一世紀の日本はどうでしたか? 名残惜しいですが、九泊十日の歴史旅行も終わりを告げようとしています。この後は皆様の暮らす七十世紀にご案内致しますのでごゆっくりおくつろぎください。では、お好きな席へどうぞ」
「よっしゃー!!!」
俺は思わず腕を天高く突き上げガッツポーズをすると、胡桃と萌が慌てて俺を押さえた。
「バカなの? 私達が未来人でないことがばれるでしょう!」
胡桃は俺を押さえるだけでなく俺の鳩尾を正拳突きしている。こんなのやられ慣れている俺じゃなかったら気を失ってるぞ!
俺たちは怪しまれないように席に着こうとした。
「あっ、申し訳ございません。言い忘れておりました。パスポートのご提示をお願い致します」
俺達はピタッと止まった。これはやばい。でも、当然こうなるわな。俺は恐る恐る例の定期券を差し出した。
「ピピプル様とクレタ様ですね」
「は、はい」
「お二人は新婚旅行ですね」
「違う!」
ボカ! 思わず出てしまった俺の言葉を聞いた胡桃は俺の頭を思いっきりはたいた。胡桃は手加減というものを知らない女だ。俺は倒れるのを必死で我慢して平静を装った。
「こちらの方もパスポートのご提示をお願いします?」
「私はパスポートをなくしてしまいまして」
萌がとっさに答える。こういう時の一人称は『萌』ではなく『私』なんだ。それにしてもよくこんな涼しい顔で嘘がつけるものだ。俺が妙な感心をしていると受付の女性は困った表情で話し始めた。
「申し訳ございませんが、パスポートの再発行を現地事務局でお願い致します。今からですと出発の時間までに間に合いませんので、明日以降の便でお願い致します」
萌は助けを求める目でこちらを見ている。
「この人は私たちの連れなんです。何とかなりませんか?」
胡桃がとっさに嘘をつく。
「困りましたね。それでは本部と連絡を取ってみますので少々お待ちください」
女性はそう言い残すと壁の向こうに消えていった。
ん? 壁の向こう? ドアじゃないところに入り口があるんだ! 確かに客が出入りできないドアがあるとややこしいし紛らわしい。よく考えられたシステムだ。さすが未来の世界。凄すぎるぜ!
暫くすると女性が戻ってきてにっこり笑って言った。
「本部に問い合わせましたところ、帰還致しました後でパスポートの再発行をお願いいたします。よろしいでしょうか?」
「はい。わかりました」
萌は落ち着いた声で言う。もしかして萌は前の学校で演劇部にでも入っていたのだろうか? いやこの容姿からすると現役の女優かも知れない。身分を隠して転校してきたとか。
俺達が席について暫くするとほぼ満席状態になった。
「それでは皆さん、いよいよ出発の時間がまいりました。現地語での案内を終了させていただきます。%#$&%%#☆」
周りの人たちは一斉にシートベルトを締め始めた。それを見た俺たちも慌ててシートベルトを締める。辺りが暗くなると天井がスクリーンになり、日本の名所が映し出された。富士山から始まった映像はやがて京都の清水寺になり、最終的にはスカイツリーで締めくくられた。どれくらいの時間映像を見ただろう。室内に明るさが戻ってきた。
「○$#&&※★&%」
アナウンスはさっぱり分からないが、他の乗客が席を立ち始めたので、到着したのが分かった。それにしても全く揺れなかったぞ。本当に移動したのだろうか?
俺たちは他の乗客の後についてタイムマシンを降りた。乗った時と同じ明るく長い廊下が続く。先ほどと少し違ったのは、廊下の壁にいろいろな宣伝が流れていることだ。どの宣伝も動画で構成されており、前に行かないと音は聞こえてこない。歴史の動画辞書に未来グッズ、全てが興味をそそられる物ばかりだ。
「すごいな、この宣伝。つい欲しくなる物ばかりだ」
この言葉に胡桃が驚いた声で言った。
「真歴って、化粧品やワンピースに興味あるの?」
「え? どういうことだ? 俺が化粧品に興味があるわけないだろう」
「私にはおしゃれ小物の宣伝が多いわ」
萌が不思議そうな顔で答えた。
そうか、この宣伝は見る人によって見える物が変わるんだ。その人が興味ありそうな物を宣伝する方が効率がいいというわけか。これまた凄いぞ未来!
暫くするとロビーらしきところに出た。天井には青空と雲が映し出されている。これがまた素晴らしいクオリティだ。本物にしか見えない。そして時折小鳥が囀りながら飛んでいく。何とも心安らぐ空間になっている。よく見るとこの小鳥も映像のようだ。クオリティ高過ぎだろ!
広いロビーに出ると乗客達はそれぞれ違った方向に進み始めた。ここからは目的地が違うというわけか。
「俺たちこれからどこに行けばいいんだ?」
「わからないわ」
胡桃は心配そうな声で答える。
「足下を見て。矢印よ」
萌が突然声を上げる。見ると足下の床に矢印が見える。
「この方向に進めってことか?」
「そうみたいね」
胡桃は矢印の指す方向を見ながら言った。
どうせ、どこに行っていいのか分からないのだ。この指示に従ってみることにしよう。俺たちは矢印の方向に進んだ。その先に何が待っているかはわからないが、不安を胸に進むしかないのだ。
「これだけ明るいのに全然眩しくないわね」
胡桃は少し緊張気味に言った。
「とにかく進んでみようよ」
萌の方は全く緊張していない感じだ。どちらかというと萌より胡桃の方が度胸が据わっているイメージだが、実際はそうでもないのだろうか? やはり女ってわからない。
百メートルほど進むといかにも高級そうな扉がある。俺たちが扉の前に立つと扉はゆっくりと音もなく開いた。
扉の中もまた別世界だ。中に入ると小さなカウンターがあり、その奥には卵を縦に割ったような椅子が三十席ほどてんでバラバラに置かれている。全く規則性は感じられない。これもデザインなのだろうか。そして俺は凄い発見をする。なんと、その椅子には脚がないではないか! 宙に浮いているのだ。これぞ未来と言うほかにない形状だ。やはりこれはタイムマシンに違いないと俺は確信できた。
仕組みはさっぱり分からないが、俺は嬉しくなり思わず拳を握りしめた。更に椅子の一つがゆっくりと動き出したのを見ると、どうやら好きな位置に移動できるようだ。
未来の光景に見とれていると、受付の女性が俺たちに話しかけてきた。
「#&%$#$#」
・・・・何を言っているのかさっぱり分からない。俺たちは顔を見合わせた。
「旅行が楽しすぎて母国の言語ををお忘れですか?」
女性はにっこりと笑って言う。
「まだ旅行気分が抜けなくて」
萌がとっさに答えた。
「では、こちらの言葉でご案内しますね」
何というラッキー!
「二十一世紀の日本はどうでしたか? 名残惜しいですが、九泊十日の歴史旅行も終わりを告げようとしています。この後は皆様の暮らす七十世紀にご案内致しますのでごゆっくりおくつろぎください。では、お好きな席へどうぞ」
「よっしゃー!!!」
俺は思わず腕を天高く突き上げガッツポーズをすると、胡桃と萌が慌てて俺を押さえた。
「バカなの? 私達が未来人でないことがばれるでしょう!」
胡桃は俺を押さえるだけでなく俺の鳩尾を正拳突きしている。こんなのやられ慣れている俺じゃなかったら気を失ってるぞ!
俺たちは怪しまれないように席に着こうとした。
「あっ、申し訳ございません。言い忘れておりました。パスポートのご提示をお願い致します」
俺達はピタッと止まった。これはやばい。でも、当然こうなるわな。俺は恐る恐る例の定期券を差し出した。
「ピピプル様とクレタ様ですね」
「は、はい」
「お二人は新婚旅行ですね」
「違う!」
ボカ! 思わず出てしまった俺の言葉を聞いた胡桃は俺の頭を思いっきりはたいた。胡桃は手加減というものを知らない女だ。俺は倒れるのを必死で我慢して平静を装った。
「こちらの方もパスポートのご提示をお願いします?」
「私はパスポートをなくしてしまいまして」
萌がとっさに答える。こういう時の一人称は『萌』ではなく『私』なんだ。それにしてもよくこんな涼しい顔で嘘がつけるものだ。俺が妙な感心をしていると受付の女性は困った表情で話し始めた。
「申し訳ございませんが、パスポートの再発行を現地事務局でお願い致します。今からですと出発の時間までに間に合いませんので、明日以降の便でお願い致します」
萌は助けを求める目でこちらを見ている。
「この人は私たちの連れなんです。何とかなりませんか?」
胡桃がとっさに嘘をつく。
「困りましたね。それでは本部と連絡を取ってみますので少々お待ちください」
女性はそう言い残すと壁の向こうに消えていった。
ん? 壁の向こう? ドアじゃないところに入り口があるんだ! 確かに客が出入りできないドアがあるとややこしいし紛らわしい。よく考えられたシステムだ。さすが未来の世界。凄すぎるぜ!
暫くすると女性が戻ってきてにっこり笑って言った。
「本部に問い合わせましたところ、帰還致しました後でパスポートの再発行をお願いいたします。よろしいでしょうか?」
「はい。わかりました」
萌は落ち着いた声で言う。もしかして萌は前の学校で演劇部にでも入っていたのだろうか? いやこの容姿からすると現役の女優かも知れない。身分を隠して転校してきたとか。
俺達が席について暫くするとほぼ満席状態になった。
「それでは皆さん、いよいよ出発の時間がまいりました。現地語での案内を終了させていただきます。%#$&%%#☆」
周りの人たちは一斉にシートベルトを締め始めた。それを見た俺たちも慌ててシートベルトを締める。辺りが暗くなると天井がスクリーンになり、日本の名所が映し出された。富士山から始まった映像はやがて京都の清水寺になり、最終的にはスカイツリーで締めくくられた。どれくらいの時間映像を見ただろう。室内に明るさが戻ってきた。
「○$#&&※★&%」
アナウンスはさっぱり分からないが、他の乗客が席を立ち始めたので、到着したのが分かった。それにしても全く揺れなかったぞ。本当に移動したのだろうか?
俺たちは他の乗客の後についてタイムマシンを降りた。乗った時と同じ明るく長い廊下が続く。先ほどと少し違ったのは、廊下の壁にいろいろな宣伝が流れていることだ。どの宣伝も動画で構成されており、前に行かないと音は聞こえてこない。歴史の動画辞書に未来グッズ、全てが興味をそそられる物ばかりだ。
「すごいな、この宣伝。つい欲しくなる物ばかりだ」
この言葉に胡桃が驚いた声で言った。
「真歴って、化粧品やワンピースに興味あるの?」
「え? どういうことだ? 俺が化粧品に興味があるわけないだろう」
「私にはおしゃれ小物の宣伝が多いわ」
萌が不思議そうな顔で答えた。
そうか、この宣伝は見る人によって見える物が変わるんだ。その人が興味ありそうな物を宣伝する方が効率がいいというわけか。これまた凄いぞ未来!
暫くするとロビーらしきところに出た。天井には青空と雲が映し出されている。これがまた素晴らしいクオリティだ。本物にしか見えない。そして時折小鳥が囀りながら飛んでいく。何とも心安らぐ空間になっている。よく見るとこの小鳥も映像のようだ。クオリティ高過ぎだろ!
広いロビーに出ると乗客達はそれぞれ違った方向に進み始めた。ここからは目的地が違うというわけか。
「俺たちこれからどこに行けばいいんだ?」
「わからないわ」
胡桃は心配そうな声で答える。
「足下を見て。矢印よ」
萌が突然声を上げる。見ると足下の床に矢印が見える。
「この方向に進めってことか?」
「そうみたいね」
胡桃は矢印の指す方向を見ながら言った。
どうせ、どこに行っていいのか分からないのだ。この指示に従ってみることにしよう。俺たちは矢印の方向に進んだ。その先に何が待っているかはわからないが、不安を胸に進むしかないのだ。
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