タイムトラベル同好会

小松広和

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第2章 謎の転校生

第14話 未来人へのシグナル

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「離れなさいって言ってるでしょ!」
「嫌よ! どうしてあなたの言うことを聞かなくはいけないの!?」
「いい加減にしなさいったら!」
ついに胡桃が実力行使に出た。無理矢理俺たちを離そうと俺と萌の間に体をねじ込ませてきたのである。しかし、萌も負けてはいない。今まで以上に俺の腕に強くしがみつく。はっきり言って腕が痛い。俺がいくら硬派だといえ、学校で評判の可愛い女の子に抱き付かれたら悪い気はしない。だが、今回はそんな悠長なことを言っている場合ではない。とにかく、このままでは俺の腕はよくて脱臼、悪けりゃちぎれてしまうだろう。

 その時、萌がいきなり俺の腕を離した。当然、俺と胡桃は勢い余ってしりもちをついてこけてしまった。
 勝者胡桃! いや待てよ。大岡裁判的には萌の勝ちなのか?
 俺と胡桃が立ち上がると胡桃はさっと俺と萌の間に立って両手を広げた。

「どういうつもり?」
「もう真歴に触れさせないわ」
「ふふふ、大きく出たわね」
胡桃は歯を食いしばるように両手を広げ続けている。

「力ずくであなたをのけることもできるのよ」
「やれるものならやってみなさいよ」
本気で言ってるのか萌。胡桃はアフリカ象三頭と綱引きができるほどの怪力なんだぞ。嘘ですけど・・・・。

 て言うかこの状況って、まさかとは思うが二人の女性が俺を取り合っている構図なのか? 硬派の俺にとっては関係のないことだが、人によってはこれ以上ない幸せな状況なのでは? 恐らく一生こんな状況を経験しない男の方が多いと思う。それを考えると今の俺は貴重な体験をしていることになる。
「真歴! 今度この女に触れたら死を覚悟しなさい!」
これが胡桃でなかったら、俺も幸せを痛感できたのかも知れない。

「あら? 宮本君は萌に抱きつかれてる方が嬉しそうだけど」
「何ですってー!!」
 まさに一触即発の中、突然胡桃の鞄から警報のような音が流れた。
『ウィーン、ウィーン』
「何この音?」
胡桃は慌てて鞄を開けた。
「この定期券‥‥」
音の主は例の定期券だった。

「どうなってるのよ?」
定期券は赤く光り警報音を鳴らし続けている。暫く音沙汰がなかったのに、急にどうしたというのだ?

「定期券が光るなんて初めて見たわ」
萌が定期券に触れようとすると、胡桃はそれを制した。
「何よ!」
「あなたには関係ないって言ってるでしょ!」

 おいおい、そんなこと言ってる時じゃないぞ。いよいよ未来人と遭遇できるんじゃないのか? 俺は興奮してくるのを感じた。
「ちょっと貸せ」
胡桃から定期券を取り上げると、俺はそれを空にかざして見上げた。しかし、どの角度で見ても何ら変化はない。

 そして、俺は思い出したように慌てて辺りを見回した。もしかしたらこの警報音を聞いて未来人がやって来るかもしれない。持ち主だったらこの警告音が何を意味するのかわかるはずだ。しかし、周りには不審な人物は見あたらない。俺は立ち上がり遠くまで視野を広げて観察した。

 そうこうしているうちに定期券の警報は鳴り止み、赤い光も消えてしまった。
「くそ、あと少しだったのに!」
悔しさで俺の体が震える。
「いったい何が起こってるの?」
萌が見たこともない表情で聞く。胡桃は当然何も答えない。当然、俺も胡桃が怖いので何も言わなかった。

「これが未来人の持ち物なの?」
鋭い!
「ここまでくると、なんか怖いわ」
胡桃はやや震えているようだ。こんなに強い胡桃でも恐怖を感じることがあるというのだろうか。今がチャンスとばかり俺は言った。
「これは俺が持っていることにするよ」
「ダメよ」
「大丈夫。お前に黙って無茶はしないから」
「本当?」
「ああ、約束する」
「ちょっと~、萌を無視して何の話をしてるのよ」
「別に」
胡桃がそっけなく答える。

「今日はもう帰りましょう」
「いや、もう少し」
「今日は帰りましょうって言ってるのよ」
胡桃はちらっと萌を見る。俺はこの言葉に何らかの深い意味がありそうな気がして、
「ああ」
俺はしぶしぶ答えた。

「せっかくのチャンスなのに帰っちゃうの?」
萌は俺の心を読み取っているかのように言った。
「帰るわよ!!」
胡桃があまりに語気を強めて言ったので萌は黙ってしまった。そして俺は硬直してしまった。胡桃のきつい言い回しに反応してしまうのは条件反射なのかも知れない。何て空しい条件反射なんだ。
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