タイムトラベル同好会

小松広和

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第2章 謎の転校生

第13話 対抗意識

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 次の日から萌は毎日部室に顔を出すようになった。正式部員になったのだから当然のことなのかもしれないけど。あんなことがあった後だけに当分部室には来ないと思っていたのだが、萌はそんな柔な人物ではなかった。そして、胡桃も当然毎日部室に来ている。喧嘩した影響があるのだろうか二人は決して話そうとしなかった。

「ねえ、宮本君何作ってるの?」
萌が俺に近付いて聞いてくる。胡桃がこちらを睨んでいるのが分かる。
「タイムマシンだ」
俺は性懲りもなくタイムマシン八号機の制作にかかっていた。
「すっご~い!」
萌は大袈裟に驚いた。まあ、萌らしい表現だ。

「ねえ、タイムマシンが完成したらどこ行くの?」
「過去かな?」
「へえ、そうなんだ」
「俺は歴史上の出来事をこの目で見たいんだ。例えば本能寺の変とか」
「宮本君て本当に歴史が好きなんだね」
「ああ、大好きだ」

 胡桃は本を読むのを止め、じっとこちらを観察している。
「ねえ、タイムマシンが完成したら、萌も一緒に連れていってね」
「お前も歴史が好きなのか?」
「大好きよ」
必要以上に可愛い萌の声に胡桃が反応する。

「過去へなんか行ったらパラレルワールドでこの世界に戻ってこれなくなるわよ」
「???」
突然胡桃が難しいことを言い出した。
「あら、SFみたいなことを言うのね」
萌はパラレルワールドとやらを理解しているようだ。
「萌は宮本君と一緒ならどんな世界でもいいわよ」
また、胡桃を刺激するようなことを言う。やっぱりわざと挑発してるなこれは。

「でも、どうせ行くなら未来がいいかな」
「へえ、どうしてだ?」
「地球の未来って気になるじゃない。きっとすごい進化してるんだろうなって」
そういや未来人のことをすっかり忘れていた。早く未来人を捜してタイムマシンに乗せて貰わないと。
 しかし、考えてみるとタイムマシンに乗るのに定期やパスポートがいるのか? そうか。旅行会社が過去へ行くツアーを企画してるのか。これなら納得できる。ということはやたらと大きなタイムマシンが存在するのだろうか?

「宮本君。このタイムマシンて二人乗り?」
「いや、一人乗りだ」
「え~、二人乗りに改良してよ」
萌は俺の腕を引っ張り甘えた声を出す。さすがにこれはやり過ぎだろう。

「ちょっといい加減にしなさいよ!」
やっぱり。遂に胡桃の怒りが限界を超えたようだ。今日は工具を片づけてないぞ!
胡桃がゆっくり俺の方に向かってきた。お、俺は何もしてないぞ。落ち着け胡桃!

 胡桃は俺の前まで来ると俺の手をぎゅっと握った。
「早まるな胡桃! 俺は何もしてないぞ!」
「ねえ、真歴、こんなぶりっこほっといて例の場所に行ってみない」
「え?」
よくはわからないが、命拾いしたような気がする。

「例の場所って?」
「駅前の雑居ビル群よ」
「おお、行こうぜ!」
俺はその言葉に思いっきり反応した。

「例の場所って何?」
突然の展開に萌が当然の疑問文を投げかける。
「未来人に会えるかもしれない場所さ」
「真歴! 余計なこと言わないで。これは私達二人の秘密でしょ?」
胡桃は今までに出したことがないような色っぽい声で言った。もちろん胡桃はこういうキャラではない。負けたくないという意識は人をこんなに変えさせるものだろうか。はっきり言って怖い。

 俺と胡桃は部室を出ると例の雑居ビル群へと向かった。萌も当然のように付いて来ようとするが、胡桃はこれを許さない。
「ちょっと付いてこないでよ!」
「何で私が行っちゃいけないの?」
「これは私と真歴の問題なの。あなたには関係ないわ」
「そんなこと言われたら益々萌も一緒に行かないといけないじゃない」
「どうしてよ!?」
「二人の秘密なんて言っている場所にあなたと宮本君を行かせるわけないでしょう」

 結局、萌は雑居ビル群まで付いてきた。
 胡桃の行動に疑問に思った俺は小さな声で聞いた。
「萌が付いてくるの分かってて、どうしてここに来たんだ?」
「部室の雰囲気が耐えられなかったのよ」
胡桃は小さな声で俺を睨み付けながら言った。俺が思っている以上に怒ってるのかもしれない。

「ここに未来人がいるの?」
「あんたには関係ないって言ってるでしょ!」
「こんなおもしろそうな話、ほうっておけないわ」
萌は目を輝かせて言う。

「これは私と真歴のことなの。あなたは帰って!」
萌は暫く胡桃を睨みつけると、突然俺の腕にしがみ付いた。
「ねえ、萌ここにいてもいいでしょう?」
いつにもまして甘えた声を出している。よく人を睨み付けてすぐ、こんな声が出せるものだ。

「ちょっと離れなさいよ!」
ついに胡桃が切れた。長年の付き合いで胡桃の声を聞くだけでその感情がわかるようになっている。この声はかなり危険なトーンである。はっきり言って胡桃が怒ると怖い。今まで何度『今度こそは死ぬ』という目に会ったことか。将来こいつと結婚する奴は気の毒だ。リアルにそう考えてしまう俺であった。
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