10 / 45
第2章 謎の転校生
第10話 萌という女
しおりを挟む
翌日から俺の生活が一変した。萌はチャンスがあれば話しかけてくる。それに対して俺は適当な返事をする程度で接する。下手に嬉しそうな顔をすればクラスメイトの男子に暗殺されかねない雰囲気なのだ。
「ねえ、今日の帰り一緒に帰ろう」
「部活があるから無理だ。てか何で俺がお前と帰らねばならんのだ?」
「萌は宮本君が好きなんだよ。一緒に帰りたいじゃん」
「どうしてあったばかりの人を好きになるんだ?」
「もう、私達は許嫁でしょ?」
「だから、お前がいい加減なことを言うたびに俺の生活はどんどん危うくなるんだぞ」
「どう危うくなるの?」
「それはいろいろだ」
この女は恐らく俺をからかっているのだろうが、その割にはなかなかしぶとい。いくら冷たくしてもこの態度を続けている。何が目的なんだ? 本当に俺が好きなのか? 教室に入ってすぐ好きになるわけがない。やはりからかっていると考えるのが普通だろう。
「ところで宮本君て何部に入ってるの?」
「タイムトラベル同好会だ」
「何それ?」
「何でもいいだろ」
「じゃあ、萌もその部に入る。いいでしょ?」
「もちろ・・・・」
と言いかけ俺は考えた。それは部員が増えるのは大歓迎だ。しかし、もしこいつが入部すればどうなる? 何か嫌な予感しかしねえ。
「ねえ、いいでしょう?」
「ダメだ。現在定員オーバーだ」
「どういうこと?」
「とにかく今は無理なんだ」
ちょっと長く話しすぎたようだ。周りの生徒ががやがやと話し始めている。何しろこいつら許嫁説を真剣に信じてやがる。少しでも仲の良い素振りでもしようものなら噂に尾ひれが付きかねない。女子には喜ばれ、男子には妬まれる。何という人生だ。何度も言うが俺は女にもてたいと思ったことは一度もない。
俺はこの場をトイレに行くことで切り抜けた。男子トイレは唯一の逃げ場になっている。萌は朝登校してからずっと俺をつけ回しているのだ。教室では席が隣、休み時間はくっついてくる。こんな状況では許嫁説の信憑性が上がる一方ではないか。従って放課後になるとホッとする。なぜか部活の時間になると萌は追っては来なから不思議だ。
俺は部室でタイムマシンを作りながら体を休めていた。この時間が一番落ち着く。
「真歴。随分転校生と仲がいいそうじゃない」
前言撤回。ここはここで苦労が絶えないようだ。
「あ、そうだ。お前さ休み時間俺の横にいてくれないか? そうしたら転校生も俺に話しかけてこなくなるかもしれねえ」
「嫌よ。妙な噂が立つに決まってるもの」
「どんな噂だ?」
「それは許嫁と正妻が・・・・とか」
「何だそれ?」
「とにかく無理なの!」
いい方法だと思ったんだが、胡桃が嫌だというのなら仕方ないか。
俺は胡桃と別れ帰宅の途に着いた。胡桃は友達と帰り、俺は一人で帰る習慣になっている。暫く歩くと突然萌が目の前に現れた。
「随分遅い帰りね」
「こんなところで何してるんだ?」
「宮本君を待ってたのよ」
「なぜだ?」
「話がしたかったからかな?」
これはもしかすると好都合なのではないだろうか? 萌と二人きりで話すチャンスだ。
俺は落ち着いた声で続けた。
「いつも話してるじゃないか」
「だって、ちゃんと答えてくれないし」
萌は手を後ろで組んだまま数歩歩いた。そしてこちらを振り向き、
「ねえ、萌と付き合ってよ」
と言った。
「い、いきなり、な、何言い出すんだ!」
俺は驚きのあまり身構えてしまった。なぜ、こんな重要なことを簡単に言えるのだ?
「だって、好きなんだもん」
「だいたいお前って何者なんだ?」
「何者って失礼ね」
俺は明らかに動揺している。硬派で女に興味はないと断言している俺だが、こんなことを言われるのは初めての経験だ。どうしたらいいかわからなくなるのは当然のことだろう。
「いきなり許嫁なんて嘘を付いたりして、どういうつもりなんだ?」
「嘘じゃないわ。これから頑張ってそうするつもりだもん」
何なんだこの破壊力抜群の言葉は! こんな可愛い子からこんなことを言われると硬派を止めようかと思ってしまうではないか。
「あ、会ったばかりの人を好きなるわけないだろ!? イケメンならともかく俺の顔はありきたりの平凡なレベルだ」
俺の声は完全に上ずっている。
「会ったばかりじゃないわ。萌ずっと影で片思いしてたのよ」
「嘘つけ!」
「本当よ。萌、隣の学校に通ってたんだけど、偶然会った宮本君に一目惚れしちゃったの」
何か嘘くさい話だ。一目惚れしたくらいで転校して来るか?
「俺のことを好きだって言う女は今までいなかったんだ。そんなレベルの男に一目惚れなんて信じられねえな」
「本当よ。信じて」
萌は瞳を潤ませながらこちらを見つめてくる。俺はこの手の表情に弱い。しかも女に免疫がないため、どうしていいかわからなくなってしまうのだ。今まで俺は母親と胡桃くらいしか接した女がいないんだから仕方がない。第一、胡桃がこんな表情をするわけがない。
「分かった。分かった。信じるよ」
俺は適当な返事をした。
「うれしい!」
萌がいきなり腕にしがみついてきた。
「わあ、な、な、な、何すんだ!」
「だって、嬉しかったんだもん」
俺は慌てて萌を振りほどくと咳払いを一つして言った。
「いいか、俺は女には興味ないんだ。だから誰とも付き合わない。以上」
「え~。宮本君て同性に興味があるの~? 萌ショック!」
「違~う!」
「だってそういうことでしょ?」
「俺は硬派なだけだ!」
「硬派って何?」
「女といちゃついたりしない男のことだ」
「ちょっとハードル高そうだけど、絶対諦めないよ」
そう言うと萌は俺の前から立ち去っていった。嵐のような女だな。本当にわけのわからん存在だ。
それにしても俺のキャラが変えられそうで怖い。女にもてるというのはこういうことなのか? 考えてみれば俺の周りには可愛い女なんて存在しないからな。どう考えても胡桃はこれに該当しないだろう。萌がしがみ付いた腕が何だか熱く感じられた。
「ねえ、今日の帰り一緒に帰ろう」
「部活があるから無理だ。てか何で俺がお前と帰らねばならんのだ?」
「萌は宮本君が好きなんだよ。一緒に帰りたいじゃん」
「どうしてあったばかりの人を好きになるんだ?」
「もう、私達は許嫁でしょ?」
「だから、お前がいい加減なことを言うたびに俺の生活はどんどん危うくなるんだぞ」
「どう危うくなるの?」
「それはいろいろだ」
この女は恐らく俺をからかっているのだろうが、その割にはなかなかしぶとい。いくら冷たくしてもこの態度を続けている。何が目的なんだ? 本当に俺が好きなのか? 教室に入ってすぐ好きになるわけがない。やはりからかっていると考えるのが普通だろう。
「ところで宮本君て何部に入ってるの?」
「タイムトラベル同好会だ」
「何それ?」
「何でもいいだろ」
「じゃあ、萌もその部に入る。いいでしょ?」
「もちろ・・・・」
と言いかけ俺は考えた。それは部員が増えるのは大歓迎だ。しかし、もしこいつが入部すればどうなる? 何か嫌な予感しかしねえ。
「ねえ、いいでしょう?」
「ダメだ。現在定員オーバーだ」
「どういうこと?」
「とにかく今は無理なんだ」
ちょっと長く話しすぎたようだ。周りの生徒ががやがやと話し始めている。何しろこいつら許嫁説を真剣に信じてやがる。少しでも仲の良い素振りでもしようものなら噂に尾ひれが付きかねない。女子には喜ばれ、男子には妬まれる。何という人生だ。何度も言うが俺は女にもてたいと思ったことは一度もない。
俺はこの場をトイレに行くことで切り抜けた。男子トイレは唯一の逃げ場になっている。萌は朝登校してからずっと俺をつけ回しているのだ。教室では席が隣、休み時間はくっついてくる。こんな状況では許嫁説の信憑性が上がる一方ではないか。従って放課後になるとホッとする。なぜか部活の時間になると萌は追っては来なから不思議だ。
俺は部室でタイムマシンを作りながら体を休めていた。この時間が一番落ち着く。
「真歴。随分転校生と仲がいいそうじゃない」
前言撤回。ここはここで苦労が絶えないようだ。
「あ、そうだ。お前さ休み時間俺の横にいてくれないか? そうしたら転校生も俺に話しかけてこなくなるかもしれねえ」
「嫌よ。妙な噂が立つに決まってるもの」
「どんな噂だ?」
「それは許嫁と正妻が・・・・とか」
「何だそれ?」
「とにかく無理なの!」
いい方法だと思ったんだが、胡桃が嫌だというのなら仕方ないか。
俺は胡桃と別れ帰宅の途に着いた。胡桃は友達と帰り、俺は一人で帰る習慣になっている。暫く歩くと突然萌が目の前に現れた。
「随分遅い帰りね」
「こんなところで何してるんだ?」
「宮本君を待ってたのよ」
「なぜだ?」
「話がしたかったからかな?」
これはもしかすると好都合なのではないだろうか? 萌と二人きりで話すチャンスだ。
俺は落ち着いた声で続けた。
「いつも話してるじゃないか」
「だって、ちゃんと答えてくれないし」
萌は手を後ろで組んだまま数歩歩いた。そしてこちらを振り向き、
「ねえ、萌と付き合ってよ」
と言った。
「い、いきなり、な、何言い出すんだ!」
俺は驚きのあまり身構えてしまった。なぜ、こんな重要なことを簡単に言えるのだ?
「だって、好きなんだもん」
「だいたいお前って何者なんだ?」
「何者って失礼ね」
俺は明らかに動揺している。硬派で女に興味はないと断言している俺だが、こんなことを言われるのは初めての経験だ。どうしたらいいかわからなくなるのは当然のことだろう。
「いきなり許嫁なんて嘘を付いたりして、どういうつもりなんだ?」
「嘘じゃないわ。これから頑張ってそうするつもりだもん」
何なんだこの破壊力抜群の言葉は! こんな可愛い子からこんなことを言われると硬派を止めようかと思ってしまうではないか。
「あ、会ったばかりの人を好きなるわけないだろ!? イケメンならともかく俺の顔はありきたりの平凡なレベルだ」
俺の声は完全に上ずっている。
「会ったばかりじゃないわ。萌ずっと影で片思いしてたのよ」
「嘘つけ!」
「本当よ。萌、隣の学校に通ってたんだけど、偶然会った宮本君に一目惚れしちゃったの」
何か嘘くさい話だ。一目惚れしたくらいで転校して来るか?
「俺のことを好きだって言う女は今までいなかったんだ。そんなレベルの男に一目惚れなんて信じられねえな」
「本当よ。信じて」
萌は瞳を潤ませながらこちらを見つめてくる。俺はこの手の表情に弱い。しかも女に免疫がないため、どうしていいかわからなくなってしまうのだ。今まで俺は母親と胡桃くらいしか接した女がいないんだから仕方がない。第一、胡桃がこんな表情をするわけがない。
「分かった。分かった。信じるよ」
俺は適当な返事をした。
「うれしい!」
萌がいきなり腕にしがみついてきた。
「わあ、な、な、な、何すんだ!」
「だって、嬉しかったんだもん」
俺は慌てて萌を振りほどくと咳払いを一つして言った。
「いいか、俺は女には興味ないんだ。だから誰とも付き合わない。以上」
「え~。宮本君て同性に興味があるの~? 萌ショック!」
「違~う!」
「だってそういうことでしょ?」
「俺は硬派なだけだ!」
「硬派って何?」
「女といちゃついたりしない男のことだ」
「ちょっとハードル高そうだけど、絶対諦めないよ」
そう言うと萌は俺の前から立ち去っていった。嵐のような女だな。本当にわけのわからん存在だ。
それにしても俺のキャラが変えられそうで怖い。女にもてるというのはこういうことなのか? 考えてみれば俺の周りには可愛い女なんて存在しないからな。どう考えても胡桃はこれに該当しないだろう。萌がしがみ付いた腕が何だか熱く感じられた。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【R15】メイド・イン・ヘブン
あおみなみ
ライト文芸
「私はここしか知らないけれど、多分ここは天国だと思う」
ミステリアスな美青年「ナル」と、恋人の「ベル」。
年の差カップルには、大きな秘密があった。
日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~
海獺屋ぼの
ライト文芸
ある日、女子校に通う夏木聖那は『魔法少女募集』という奇妙な求人広告を見つけた。
そして彼女はその求人の日当二万円という金額に目がくらんで週末限定の『魔法少女』をすることを決意する。
そんな普通の女子高生が魔法少女のアルバイトを通して大人へと成長していく物語。
パラダイス・ロスト
真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。
※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる