タイムトラベル同好会

小松広和

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第1章 タイムトラベル同好会というクラブ

第6話 未来人に会うのためなら何でもやってやる

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 まさか完璧だと思われた『一緒に登校しよう作戦』が失敗に終わるとは思わなかった。早急に次の作戦を考えなくてはいけない。さてどうしたものか。俺は教室をうろうろしながら考えた。
 そうだ! もうすぐ胡桃の誕生日ではないか。胡桃の好きな物をプレゼントして定期券と交換して貰うというのはどうだ? 欲しいものを目の前に出されたら交換するに決まっている。

 でも、胡桃の欲しい物って一体何だ? 昔だったらミニチュアの家具類が好きだったが、流石に今は違うだろう。そういや小さな頃はよくおままごとに付き合わされていたっけ。まさか本人に聞くわけにもいくまい。第一そんなの恥ずかしいではないか。それに胡桃の性格から考えて、はっきり『これが欲しい』と言うわけがない。女子高生の欲しがる物? いやいや、あいつはきゃぴきゃぴした女子高生とは違う気がする。う~む。これは難しい。

 俺はいつの間にか教室を出て廊下をうろついていた。すると前から胡桃の親友である中村美紀が歩いてくるではないか。そうだ。こいつに聞けば胡桃の好きなものが分かるかもしれないぞ。俺は慌てて美紀を呼び止めた。

「宮本君、どうしたの?」
「ちょっと聞きたいことがあるんだ」
「え? なになに?」
「胡桃って何が好きかなって思って」
「どうしてそんなこと急に聞くの? あっ、そうか。もうすぐ胡桃の誕生日だもんね」
美紀の目が輝き始める。特ダネを掴んだ目だ。

「いや、そういうんじゃなくて」
「じゃあ、どういうの?」
こいつも胡桃と似たような性格なのか? 鋭く追求してくる。
「理由なんてなくて、ただ知りたいだけだ」
「ふうん」
美紀は笑みを浮かべて頷く。これは何か企んでいる顔だ。

「胡桃の好きな物ねぇ。ええっと。そうだ宮本君にリボンを巻いて渡してみたら?」
「真剣に考えてくれ」
「結構考えてるんだけどね。じゃあ、百万本の赤い薔薇なんてどう?」
「そんな金あるわけねえだろ」
「自作のタイムマシンとか」
「それは本当か!」
「冗談よ」
こいつ完全に俺をからかってやがる。

「そういや、最近可愛い下着が欲しいって言ってたっけ」
「そんな物買いに行けるか!」
「やっぱり買ってあげるんじゃない」
「いや、そうじゃなくて・・・・」
「うふふ」
「何がおかしいんだよ」
「やっぱり婚約指輪がいいよ」
「そんな高い物買えるか! てか何で婚約なんだ? もっと真剣に考えてくれ」
「そうねえ、まあ、服でもプレゼントしてみたら?」
結局、美紀からは有力な情報を聞き出すことはできなかった。

 服か~。女物の服なんてこの俺が買いに行けるのか? 絶対無理じゃねえか。それ以前に胡桃の服のサイズを知らないぞ。これは一緒に買い物に行って本人に選ばせるしかないか。それも何か恥ずかしい気もするが。だいたいこの俺が女と買い物になど行けるのか? 俺は硬派だぞ。でも未来人との出会いが待ってるし・・・・。これは究極の選択だな。

 放課後の部室で俺は迷っていた。やはり未来人との出会いというロマンを考えると作戦二を実行したくなる。しかし、胡桃と二人で買い物なんて想像も付かない。それにどうやって誘うかも問題だ。

 俺はタイムマシン七号試作機をいじりながら、歴史書を読んでいる胡桃をちらっと見た。
「何よ」
どうやら気付いたらしい。
「何でもない」
「何か変ね」
「別にいつも通りだ」
俺は胡桃の方を見ずに答えた。

「そういや、あんた美紀に私の欲しい物を聞いたらしいわね」
あのおしゃべりが!! でも、考えてみれば女子高生にあんな話題を提供して黙ってるわけないか。
「私にプレゼントでもくれるの?」
「それは、その、そのつもりでいるが・・・・」
「どうしたの急に」
「誕生日プレゼントだ」
「そんなの今までくれたことなかったじゃない」
俺は言葉に詰まった。今までの俺の所業がこんなところで仇にあるとは思わなかった。どう言えばいいか分からないぞ。

「ほ、ほら。俺たち高校三年生だろ。来年はバラバラな進路になるかもしれないじゃないか。だから今年はどうしてもプレゼントしたくて」
俺は天才かもしれない。とっさにこんな言葉が出るなんて素晴らしい。
「家が隣なんだから別にいいじゃない」
それもそうだ。これは困った。よしそれなら。

「幼稚園から12年間俺達は同じ学校に通ってきたんだ」
「14年間でしょ。そんな簡単な計算もできないの?」
買うの止めようかな?
「そ、そうだ14年だ。この14年間俺はお前に頼りっきりだった。これは俺なりのけじめのつもりなんだ」
人間ピンチに遭遇すると実力以上の能力を発揮するらしい。まさに今の俺はこの状態なのかもしれない。

「じゃあ、好きにすれば?」
胡桃は書物に目を戻しながら言った。一応難関を一つクリアか。後は買い物に誘うだけだな。
「そ、そこでだ。服なる物をプレゼントしようと思うのだが、今度の日曜は何か予定はあるか?」
殆ど棒読み状態だ。
「それって二人で買い物に行くってこと?」
「そういうことになる」
「それじゃあ、まるでデートみたいになっちゃうじゃない。それでもいいわけ?」
「そんなのいいわけあるか!」
「え?」
「あっ、いや、いいに決まっている」
これも未来人に会うため、未来人に会うため、未来人に会うため!

「ふーん。何か仕方なく行こうって感じだけど」
何でこいつはこんなに鋭いんだ?
「そんなことはないぞ。これは感謝の気持ちなんだ。だからお前と二人で行かなくては意味がないだ」
「へえ」
胡桃は不敵な笑みを浮かべて俺を見ている。妙な敗北感を感じるのはなぜだ?
「じゃあ、今度の日曜日に行きましょう。朝の十時に駅前で待ち合わせるのはどう?」
「わかった」
取りあえず第二段階も突破したようだ。誘うのに十年はかかると思ったがうまくいった。
 俺は深呼吸をしながら自分を落ち着かせた。この何とも言えぬ緊張感は一体何なんだ? まあいい。これで未来人に会えるのならこれくらいなんでもないことだ。しかし、俺には日曜までが俺史上一番に長く感じられたのだった。
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