タイムトラベル同好会

小松広和

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第1章 タイムトラベル同好会というクラブ

第2話 謎の定期券

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   俺の完璧なるタイムマシンの理論を軽く無視して胡桃は続けた。
「そういえば昨日変な物を拾ったのよ」
「それは俺の理論を聞くより大切なことなのか?」
「これなんだけど」
どうやら俺の話を聞く気は全くないようだ。

 胡桃は鞄から何かを取り出すと俺に見せた。
「定期券か?」
それは丁度定期券の形とサイズだ。更にプラスチックのようなもので保護されている。いや硝子かもしれない。持った加減は硝子っぽい重さなのだが、このような落としやすいものを硝子で包むだろうか。もしかして強化硝子? たかが定期券にコストの高い強化硝子なんてあり得ない。

「どうしたんだ、これ?」
「拾ったのよ。駅近くの雑居ビルの辺りで」
俺はその定期券もどきを受け取ると、裏や表を隈無く見回した。
「どう見ても定期券か電車の乗車券だな」
「でも、見たことない文字よ」
確かに書かれている文字は見たことがないものだ。英語や韓国のハングルでもなければ、アラビア文字でもない。勿論、日本語でもない。それどころか数字すら書かれていなかった。

「定期券なら数字が書かれてるはずよね」
「よし、この硝子をたたき割って中身を出してみようぜ」
「そんなことして何の意味があるのよ」
「この定期券の材質を見たいんだ」
「そんなの紙かプラスチックに決まってるじゃない。見た目でわかるわよ」
俺は定期券もどきを持ち上げ透かすように覗き込んで言った。

「これは未知の材質かもしれない」
「何言ってるの?」
「よく見てみろ。こうやって透かしてみると向こうの景色が見えるんだ。紙やプラスチックならこんなことありえねえだろう?」
胡桃は定期券もどきを見上げた。
「信じられないけど本当ね」
「だから硝子を砕いてみようぜ」
「それもそうね」

 俺はいつも使っている工具箱の中から金槌を取りだした。そして、定期券を机に置くと容赦なく金槌を振り下ろす。
「なに?」
定期券の硝子はびくともしない。それどころか小さな傷すら付いていないのだ。俺は意地になって金槌を振り続けた。硝子の強度と俺の忍耐力では完璧な硝子の勝ちだった。そして俺が疲れ果てて金槌を投げ出すまでさほど時間はかからなかった。

「すごい強度ね」
疲れて座り込んでいる俺の横で胡桃が言う。
「どういうことだ。ダイヤモンドでできてるのか?」
ダイヤモンドなど強化硝子以上にあり得ない。

 俺は室内を見回すと幾つかの工具を持ち出した。のこぎり、ペンチ、ガスバーナー。ガスバーナーはちょっとという気もするが、この際何でもありだ。
 しかし、どれもこの頑丈な硝子の前には無力だった。何の素材を使えばこうなるというのだ。俺はそれを手に持つと力一杯壁に向かって投げつけた。別に腹を立てたわけではない。『どうとでもなれ』という投げやりな気持ちからだ。

「ちょっと何するのよ!」
胡桃が慌てて叫んだ。
「これだけやって傷一つ付かないんだ。投げたくらいで壊れるわけねえだろ」
「それはそうだけど。投げつけるのは乱暴よ。人前でそんなことをしたら乱暴な人だと誤解されるわ。気を付けなさい」
胡桃は部屋の隅に定期券もどきを拾いに行った。これくらいのことで乱暴者扱いされるのは気に食わない。第一お前は俺の母親か? なぜ当たり前のように注意するのだ? だから女の幼なじみなどいらない・・・・。

「ちょっとこれ見て!」
部屋の隅から胡桃の大声が聞こえた。
「なんだよ大きな声を上げて」
俺は落ち着けとばかり冷静な口調で言ったが、それもすぐに否定されてしまった。

 何ということだ。胡桃が持っている定期券もどきから何かの映像が浮かび上がってるではないか。それもただの映像ではない。立体映像だ。そこに映し出されているのは二人の若い男女だった。

「こんなことってあるの?」
「どういうことだ。これは一体なんだ?」
俺たちはややパニックになりながら映像を眺め続けた。
「もしかしてこれは未来人がやってきて落としていったものじゃないか?」
自分でも声が弾んでいるのが分かる。
「そんな馬鹿なことあるわけないでしょ?」
否定しながらも胡桃の声もやや上ずっているようだ。

 俺は興奮を隠せず胡桃に言った。
「これを拾った場所に行ってみようぜ」
「行ってどうするのよ?」
「決まってるじゃねえか。これを落とした未来人を捜すんだよ」
「何言ってるの。未来人なんているわけないでしょ」
確かに胡桃の言わんとすることも分からないではない。だが目の前で立体映像を見せられたのも事実だ。行ってみる価値は十分あるだろう。

 俺は定期券を突き出して続けた。
「この技術、未来のものに決まっている」
「立体映像くらい今の技術でも作れるわ」
それはそうだ。しかし、これは何の変哲もない定期券だ。こんな小さな平面から立体映像を出すのは今の技術では無理なのではないだろうか。そう考えると未来人の持ち物であると思っていい気がする。

「とにかく言ってみようぜ」
「行かないわよ。そんなの時間の無駄よ」
これはまずい。胡桃は一度言ったことは変えない頑固者だ。しかし、こんなチャンスはそうあるものではない。ここは何としても胡桃を説得してこの定期券もどきを拾った場所に行かなくてはなるまい。もしかして未来人に遭遇できるかもしれないのだ。未来人が存在すると言うことはタイムマシンもそこにあると言うことだ。これは長年の夢が叶う時と言っても過言ではないだろう。だが、胡桃を俺の思う通りにさせるのは未来人を見つけるより困難である。

 俺は駄目を承知で胡桃に頼んでみることにした。当たって砕けろだ。
「どうしても行ってみたいんだ。いいだろ」
俺は胡桃の手を力一杯握りしめて言った。
「えっ!?」
胡桃は驚いたような表情で俺を見ている。何を驚いているのだ?
「じ、時間の無駄よ・・・・」

 やはりダメか。しかし諦めることはできない。千載一遇のチャンスなんだ。俺は何としてもタイムマシンを見たいんだ。
「お願いだ。俺にはお前が必要なんだ。二人で行こう」
「わ、わかったわよ」
あれ? 今なんて言った?

 胡桃は声をやや震わせながら下を向いている。不思議なこともあるものだ。胡桃が自分の意見を曲げて俺の言うことを聞いている。胡桃は頑固さを考えるとてっきり断られると思ったのだが、なぜかは分からぬがオーケーが貰えた。それにしても胡桃の顔が少し赤い気もするが気のせいだろうか。まあ何でもいい。今の俺はそれどころではないのだ。
 俺は胡桃の気が変わらないうちにさっさと帰り支度を済ませると部室を出た。
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