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第四章 取り敢えず四天王を倒せ!

第六十二話 有名人

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 私達のパーティーが次の四天王コーチャが住む西の町に近付くにつれ少し様子が変わってきた。
「今日は少し早いがこの町に泊まることにしよう」
勇者様言った。確かにお日様はまだ高い。

「もう少し行けるんじゃない?」
「次の町へは少し距離が有る。それにこの辺りから西を守る四天王コーチャの支配下に入るんだ」
「わかりました。HPが減ったままコーチャに出会っては大変と言うことですね?」
さすがクレア。頭が回る。私は『早く休めるのでラッキー』としか思わなかったもんね。

 宿に入るといつものように記帳をして部屋に案内して貰うわけだが。
「ええー! あなたはもしかして四天王のゾーチャを倒したあああああさんですか?」
「ああ、そうだが」
それを聞くと宿主がお店の奥に大きな声で叫んだ。

「おい! 大勇者様がお見えになったぞ! 最大限のおもてなしをしろ!」
「はい!」
従業員が慌てて出てくる。と言っても二人だけど。
「荷物をお持ちいたします」
「お疲れでしょう? お湯を汲んで参りました。足を浸けてお疲れをお取りください」
凄い待遇になっちゃったよね。どうなっているの?

「ご活躍はお伺いしております。史上初めて四天王を倒されたんですよね?」
「どうして知っているのだ?」
「もう異世界中の噂ですよ。ゾーチャが倒されたと言うことで魔王が厳戒態勢を取りましたから」
え? そんな大事になってるの?

「私達は大勇者様が来るのをお待ちしていたんです」
「どうしてだ?」
「はい、私達はコーチャに苦しめられているのです」
「苦しめられている?」
「コーチャは定期的に町を襲います。それを避けるためにはコーチャに献上品を納めなければなりません」
「コーチャがここに来るのか?」
「いえ、コーチャは私達の弱点を知り尽くしております。そして的確に私達が困ることをしてくるのです」
「この町を攻撃してくるのではないのか?」
「攻撃することもありますが、私達が死に絶えたら献上品を取れなくなるため、殺さずに困らせるのです」
「悪代官のような奴だな」

 勇者様が足湯に足を浸けながら続けた。
「例えば?」
「逆らったら町の周りに強いモンスターを配置して町から出られなくするとか。雨が降らないよう魔法をかけて水不足にするとか。とにかく何をすれば私達が困るかを的確に知っているのです」

「どうして困ることがわかるんだ?」
勇者様の素朴な疑問に突然ポチが答えた。
「コーチャは千里眼を持っているんだ。だから誰がどんな人物かを正確に知ることが出来のさ」
「何だと」
「だからこの町に来たパーティーがどんな職業でどのレベルかもわかっているはずだ」
「そうか。そのパーティーの弱点がわかっていればそれに対応したモンスターを派遣すればいいわけね」
アイラがいち早く気付いた。クレアは少し不満そうだ。勿論私は全くわからなかった。

「だからコーチャと戦う時は気を付けてくださいね」
私の弱点もわかってるのかな? 私の弱点は火に弱くて水に弱くて雷に弱くて突風に弱くて・・・・あれ? 私って弱点だらけじゃん! これは何とかしなきゃ一撃でやられちゃうよ。

「ねえ大勇者様。この剣はやっぱりアンドロメダの剣ですか? それとも死滅の剣ですか?」
勇者様の足を洗っている若い女性従業員がいかにも作られた可愛らしい声で話しかけている。
「いや、ただの勇者の剣だが」
「ええー! それでもゾーチャを倒せるんですか? 素敵!」
「偶然勝てただけだ」
「謙遜なさるなんて益々素敵だわー! 大勇者様はご結婚されているんですか?」
「まだだが」
「私なんてどうですか?」
勇者様が女とも知らないで可哀想に。私は余裕の笑みを浮かべた。

「残念だが私は女性だ」
「ええーーー!!! 嘘でしょ!?」
「本当だ」
「女性でもいいです。結婚してください」
えええええーーーーーーーーー!!!!! 私はコーチャ対策の前に新たなピンチを迎えたのだった。
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