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第二章
第84話:解毒ポーション1
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ジルが待つ作業部屋に戻ってきたアーニャは、ちゃんと扉が閉まっているか何度も確認した後、ホッと一息をついた。
「どうしたの、アーニャお姉ちゃん」
「気にしないでいいわ。それより、今日の予定を変更するわよ。今から解毒ポーションの作り方を教えるから、できる限りいっぱい作ってほしいの」
「うん。アーニャお姉ちゃんが言うなら、作ってみる」
「いい子ね。また後でエリスが説明してくれると思うけど、私が弱体化してることは絶対に内緒よ。もしかしたら、エリスに気づかれているかもしれないの」
ギルドマスターの部屋で行われた話し合いで、機転を利かせてエリスが守ってくれたことはありがたかった。でも、不自然だと思われたに違いない。
ほとんど面識のないギルドマスターのバランや公爵家のミレイユには、面倒くさがりでイライラする人だと思われた程度だろう。破壊神という二つ名持ちで、黒い噂が絶えない以上、非協力的な態度を取っても疑問に持たれることはない。
でも、毎日一緒にいるエリスは違う。日頃からギルドに迷惑をかけたくないと言っているエリスが、ギルドマスターに噛みついて、自分を守ってくれたのだ。
(ルーナの治療薬が完成するまでは、エリスに言えない。ジルの力を借りないと、私一人では採取もできないのよ。騙しててごめんね、エリス)
どんな理由があったとしても、素直に打ち明けられないことが、アーニャは悔しかった。
「本当に言っちゃダメなの? 弱くなったことを伝えても、エリスお姉ちゃんはアーニャお姉ちゃんのことを嫌いにならないと思うよ」
「……実際にどうなるかなんて、誰にもわからないじゃない。望む未来が来なかったときが怖いから、避けて通ることを選ぶの。ジルも大人になればわかるわ」
「むう。子供にもわかるように教えてほしいなぁ」
「反抗しないでよ。私だって不安なんだから」
珍しくジルにムスッとした表情を浮かべられて、心が弱っているアーニャは目線を反らす。
エリスを信頼しているからこそ、嫌われるのが怖い。破壊神という二つ名で守られなくなった自分がどう思われるのか、不安で仕方なかった。
いつもと雰囲気の違うアーニャに気づき、ジルは顔を覗き込むように体を傾ける。
「相談に乗ろうか? 僕はアーニャお姉ちゃんの助手だから」
「……子供のうちは無理よ。ジルが大人になったら、お願いするかもね。とにかく、今から解毒ポーションの作り方を教えるわ。準備するわよ」
「はーい」
一回りも年が離れた小さい子供に相談することはないけれど、不安なときに一人にならなくてもいいのは、ありがたかった。
昔のアーニャなら、もっとイライラして八つ当たりをしただろうし、オムライスの焼け食いもしただろう。翌日、お腹に無駄な肉がついている気がして、虚無感に苛まれるまでがセットになる。
でも、今は不安が残るものの、ジルに錬金術を教えて対策を取ろうと思うほどには、心が持ち直せていた。
(私も変わったわね。話し合いではエリスに助けられ、ジルと一緒にいるだけで冷静になってる。ルーナがいなくても、私は一人じゃない。この関係だけは……このままずっと続いてほしい)
せっせと錬金術の準備を始めるジルを見て、アーニャは考えることをやめる。考えても答えが出ないことに費やす時間はない。
魔草ラフレシアと魔封狼の対策を強化するため、マジックポーチから薬草を取り出す。
「今回ばかりは冒険者たちを信じるしかないわ。ジェムで魔封狼と戦うには、限度があるもの。解毒ポーションとHP回復ポーションを大量に作って、現地で魔封狼を一匹残らず討伐してもらう必要があるわ」
「忙しくなりそうだね。よーし、がんばっていっぱい作るぞぉ!」
「頼りにしてるわよ。他の連中も緊急依頼で作るだろうから、私は爆弾を作成するわ。時間内にいくつ作れるかわからないけど、やるだけやってやるわよ」
ジルにつられるようにやる気を出したアーニャは、自分の変なテンションに違和感を覚える。こんなキャラだったかしら、と思う反面、焼け食いする自分よりは悪くないと思うのだった。
「どうしたの、アーニャお姉ちゃん」
「気にしないでいいわ。それより、今日の予定を変更するわよ。今から解毒ポーションの作り方を教えるから、できる限りいっぱい作ってほしいの」
「うん。アーニャお姉ちゃんが言うなら、作ってみる」
「いい子ね。また後でエリスが説明してくれると思うけど、私が弱体化してることは絶対に内緒よ。もしかしたら、エリスに気づかれているかもしれないの」
ギルドマスターの部屋で行われた話し合いで、機転を利かせてエリスが守ってくれたことはありがたかった。でも、不自然だと思われたに違いない。
ほとんど面識のないギルドマスターのバランや公爵家のミレイユには、面倒くさがりでイライラする人だと思われた程度だろう。破壊神という二つ名持ちで、黒い噂が絶えない以上、非協力的な態度を取っても疑問に持たれることはない。
でも、毎日一緒にいるエリスは違う。日頃からギルドに迷惑をかけたくないと言っているエリスが、ギルドマスターに噛みついて、自分を守ってくれたのだ。
(ルーナの治療薬が完成するまでは、エリスに言えない。ジルの力を借りないと、私一人では採取もできないのよ。騙しててごめんね、エリス)
どんな理由があったとしても、素直に打ち明けられないことが、アーニャは悔しかった。
「本当に言っちゃダメなの? 弱くなったことを伝えても、エリスお姉ちゃんはアーニャお姉ちゃんのことを嫌いにならないと思うよ」
「……実際にどうなるかなんて、誰にもわからないじゃない。望む未来が来なかったときが怖いから、避けて通ることを選ぶの。ジルも大人になればわかるわ」
「むう。子供にもわかるように教えてほしいなぁ」
「反抗しないでよ。私だって不安なんだから」
珍しくジルにムスッとした表情を浮かべられて、心が弱っているアーニャは目線を反らす。
エリスを信頼しているからこそ、嫌われるのが怖い。破壊神という二つ名で守られなくなった自分がどう思われるのか、不安で仕方なかった。
いつもと雰囲気の違うアーニャに気づき、ジルは顔を覗き込むように体を傾ける。
「相談に乗ろうか? 僕はアーニャお姉ちゃんの助手だから」
「……子供のうちは無理よ。ジルが大人になったら、お願いするかもね。とにかく、今から解毒ポーションの作り方を教えるわ。準備するわよ」
「はーい」
一回りも年が離れた小さい子供に相談することはないけれど、不安なときに一人にならなくてもいいのは、ありがたかった。
昔のアーニャなら、もっとイライラして八つ当たりをしただろうし、オムライスの焼け食いもしただろう。翌日、お腹に無駄な肉がついている気がして、虚無感に苛まれるまでがセットになる。
でも、今は不安が残るものの、ジルに錬金術を教えて対策を取ろうと思うほどには、心が持ち直せていた。
(私も変わったわね。話し合いではエリスに助けられ、ジルと一緒にいるだけで冷静になってる。ルーナがいなくても、私は一人じゃない。この関係だけは……このままずっと続いてほしい)
せっせと錬金術の準備を始めるジルを見て、アーニャは考えることをやめる。考えても答えが出ないことに費やす時間はない。
魔草ラフレシアと魔封狼の対策を強化するため、マジックポーチから薬草を取り出す。
「今回ばかりは冒険者たちを信じるしかないわ。ジェムで魔封狼と戦うには、限度があるもの。解毒ポーションとHP回復ポーションを大量に作って、現地で魔封狼を一匹残らず討伐してもらう必要があるわ」
「忙しくなりそうだね。よーし、がんばっていっぱい作るぞぉ!」
「頼りにしてるわよ。他の連中も緊急依頼で作るだろうから、私は爆弾を作成するわ。時間内にいくつ作れるかわからないけど、やるだけやってやるわよ」
ジルにつられるようにやる気を出したアーニャは、自分の変なテンションに違和感を覚える。こんなキャラだったかしら、と思う反面、焼け食いする自分よりは悪くないと思うのだった。
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