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第二章
第77話:ポーチ作り2
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魔封狼の革を持ったジルがアーニャの作業部屋にやってくると、椅子に座ってペンを走らせるアーニャがいた。
「アーニャお姉ちゃん。お願いを聞いてもらってもいい?」
「どうしたの。随分と珍しいものを持ってるじゃない」
「うーんとね、ルーナお姉ちゃんと一緒に、これでエリスお姉ちゃんのポーチを作りたいの。でも、なめす方法がわからないから、アーニャお姉ちゃんに教えてもらおうと思って」
「随分と手の込んだことをするのね。店で買ってきた方が早いのに」
ドライな性格のアーニャである。自分では絶対にやろうと思わない面倒くさそうな作業に、嫌そうな顔をしていた。
「悪いけど、革をなめした経験がないから知らないわよ。私が錬金術に関わってる範囲は、ルーナの治療薬に必要なことだけなの」
錬金術とまとめられるものの、色々と幅が広い。魔石を使った便利製品を開発する者もいれば、ポーション作りや攻撃アイテムを中心に作る者もいる。革をなめす錬金術師は、素材や魔石を組み合わせてポーチやアクセサリーを作る者だけで、細かい作業が苦手なアーニャは関わろうとも思わなかった。
「えーっ! どうしよう、せっかく買ってきたのに」
しかし、アーニャならなんでも知っていると思っていたジルは、ガッカリして肩を落とす。ルーナにお願いされたことができないと思い、絶望に満ちた表情をしていた。
「そんなに落ち込まなくてもいいじゃないの。別にできないとは言ってないわ。ジルが持ってるのは、魔封狼の革でしょ。それなら、私のマジックポーチも同じものが使われているから、参考にしてなめせばいいのよ。難しいって話は聞かないし、単純な作業に決まってるわ」
ジェム作りも簡単にこなしたジルなら、それくらいはやれるだろうと、アーニャは思っている。実際に簡単なアイテムなら、アーニャは作り方を知らなくても再現できるから。錬金術をやり続けることで魔力やマナに敏感になり、だいたいのことはわかるようになるのだ。
自分よりも優れた錬金術のセンスを持つジルにとっては、簡単な作業になるだろう。もしかしたら、マジックポーチを再現することだって……。
「アーニャお姉ちゃんが言うなら、きっと大丈夫だね」
何も知らないジルは、非常に単純だった。アーニャに期待をされていることに、まったく気づいていない。
「この前ブーツ作りを見学した時に、魔力を使って色々やってたでしょ。あれを参考にすればいいんじゃないかしら。何か必要な材料があるなら、この部屋にあるものを勝手に使ってもいいわよ」
参考になりそうな作業ってあったっけ? とジルが考えるのも、無理はない。ブーツのサイズを調整してもらっただけで、一から作るところは見ていないのだから。
――最後に属性付与をしていたけど、あのことを言ってるのかな。アーニャお姉ちゃんが言うんだから、あの作業にきっとヒントがあるんだと思う。
互いに過剰なほど信頼と期待を寄せている二人だった。
椅子から立ち上がったアーニャは、自分のマジックポーチをジルに手渡す。
「見られて恥ずかしいものは入れてないけど、ポーチの中は触らないでちょうだい。グチャグチャにされると、どこに何があるのかわからなくなるから。マジックポーチは整理が大変なのよ」
小さなポーチの中で空間が歪んでいるため、何がどこにあるのか目で確認することはできない。手の感覚だけで取り出す必要があり、弱体化したアーニャは戦闘でも使うので、中がグチャグチャになると命に関わってしまう可能性がある。
「ポーチの中に手を入れないでおくね」
「そうね、それなら大丈夫だと思うわ。後、錬金術の作業台なら使ってもいいわよ。夜まで使う予定はないの」
「じゃあ、アーニャお姉ちゃんの作業台を借りようかな。一応、ルーナお姉ちゃんに報告だけしてくる」
「私はどっちでもいいわ。それより、エリスに内緒にするなら、ちゃんと気を付けなさいよ」
「はーい。ルーナお姉ちゃんとも約束したから、絶対大丈夫ー」
そう言って作業部屋を後にするジルを見送ったアーニャは、心の中がモヤモヤとするのだった。
「本当に大丈夫かしら。エリスは周りをよく見てるし、すぐにバレそうな気がするけど。うまく隠せるのか、めちゃくちゃ気になるわ……」
「アーニャお姉ちゃん。お願いを聞いてもらってもいい?」
「どうしたの。随分と珍しいものを持ってるじゃない」
「うーんとね、ルーナお姉ちゃんと一緒に、これでエリスお姉ちゃんのポーチを作りたいの。でも、なめす方法がわからないから、アーニャお姉ちゃんに教えてもらおうと思って」
「随分と手の込んだことをするのね。店で買ってきた方が早いのに」
ドライな性格のアーニャである。自分では絶対にやろうと思わない面倒くさそうな作業に、嫌そうな顔をしていた。
「悪いけど、革をなめした経験がないから知らないわよ。私が錬金術に関わってる範囲は、ルーナの治療薬に必要なことだけなの」
錬金術とまとめられるものの、色々と幅が広い。魔石を使った便利製品を開発する者もいれば、ポーション作りや攻撃アイテムを中心に作る者もいる。革をなめす錬金術師は、素材や魔石を組み合わせてポーチやアクセサリーを作る者だけで、細かい作業が苦手なアーニャは関わろうとも思わなかった。
「えーっ! どうしよう、せっかく買ってきたのに」
しかし、アーニャならなんでも知っていると思っていたジルは、ガッカリして肩を落とす。ルーナにお願いされたことができないと思い、絶望に満ちた表情をしていた。
「そんなに落ち込まなくてもいいじゃないの。別にできないとは言ってないわ。ジルが持ってるのは、魔封狼の革でしょ。それなら、私のマジックポーチも同じものが使われているから、参考にしてなめせばいいのよ。難しいって話は聞かないし、単純な作業に決まってるわ」
ジェム作りも簡単にこなしたジルなら、それくらいはやれるだろうと、アーニャは思っている。実際に簡単なアイテムなら、アーニャは作り方を知らなくても再現できるから。錬金術をやり続けることで魔力やマナに敏感になり、だいたいのことはわかるようになるのだ。
自分よりも優れた錬金術のセンスを持つジルにとっては、簡単な作業になるだろう。もしかしたら、マジックポーチを再現することだって……。
「アーニャお姉ちゃんが言うなら、きっと大丈夫だね」
何も知らないジルは、非常に単純だった。アーニャに期待をされていることに、まったく気づいていない。
「この前ブーツ作りを見学した時に、魔力を使って色々やってたでしょ。あれを参考にすればいいんじゃないかしら。何か必要な材料があるなら、この部屋にあるものを勝手に使ってもいいわよ」
参考になりそうな作業ってあったっけ? とジルが考えるのも、無理はない。ブーツのサイズを調整してもらっただけで、一から作るところは見ていないのだから。
――最後に属性付与をしていたけど、あのことを言ってるのかな。アーニャお姉ちゃんが言うんだから、あの作業にきっとヒントがあるんだと思う。
互いに過剰なほど信頼と期待を寄せている二人だった。
椅子から立ち上がったアーニャは、自分のマジックポーチをジルに手渡す。
「見られて恥ずかしいものは入れてないけど、ポーチの中は触らないでちょうだい。グチャグチャにされると、どこに何があるのかわからなくなるから。マジックポーチは整理が大変なのよ」
小さなポーチの中で空間が歪んでいるため、何がどこにあるのか目で確認することはできない。手の感覚だけで取り出す必要があり、弱体化したアーニャは戦闘でも使うので、中がグチャグチャになると命に関わってしまう可能性がある。
「ポーチの中に手を入れないでおくね」
「そうね、それなら大丈夫だと思うわ。後、錬金術の作業台なら使ってもいいわよ。夜まで使う予定はないの」
「じゃあ、アーニャお姉ちゃんの作業台を借りようかな。一応、ルーナお姉ちゃんに報告だけしてくる」
「私はどっちでもいいわ。それより、エリスに内緒にするなら、ちゃんと気を付けなさいよ」
「はーい。ルーナお姉ちゃんとも約束したから、絶対大丈夫ー」
そう言って作業部屋を後にするジルを見送ったアーニャは、心の中がモヤモヤとするのだった。
「本当に大丈夫かしら。エリスは周りをよく見てるし、すぐにバレそうな気がするけど。うまく隠せるのか、めちゃくちゃ気になるわ……」
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