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第二章
第72話:エリス、察する1
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翌朝、ルーナの部屋で寝泊まりするエリスとジルは、早めに起床していた。
石化の呪いで悩むルーナが寂しくないように寝泊まりしているけれど、元々エリスとジルは、二人に恩を返したいだけ。おいしい朝ごはんを一緒に食べるために、コッソリ準備する……はずだった。
「フレンチトーストを作るのに、こんなに染み込ませないといけないの? よくこんなに長い時間も待っていられるわね、ジル」
久しぶりのフレンチトーストにウキウキして早起きした、アーニャがいるのである。仲良くジルと二人で隣同士に座って、パンに甘い卵液を浸るところを眺めている。その向かい側で座るエリスは、目をパチクリとさせていた。
あれ? ルーナちゃんに続いて、これも私の役目じゃないの? と疑問に思っている。
「この待ってる時間が楽しいんだよー? アーニャお姉ちゃんもよく見てて」
「じれったいわね。もっと一気にシュンッと吸い取る方法を、ジルは知らないの?」
しかも、必要以上にジルのことを名前で呼ぶアーニャに、違和感を覚える。距離感が……近すぎる、と。
確かにジルのことを一度だけ名前で呼んだことはあった。しかし、あの日以降は一度も名前で呼ぶことはなく、あんた、エリスの弟、この子……などと誤魔化していたのだ。それなのに、二人で旅に出かけただけで、名前呼びである。
これは何かあったに違いないと、エリスは察した。
「だーめ。染み込ませる時間も料理のうちなの。ほらっ、この部分をよく見て。色が変わり始めてるでしょ」
「まだ全然変わってないじゃない。エリスもそう思うわよね? ……エリス?」
「えっ!? あ、はい。そう思います」
「どうしたの、さっきからボーッとしてるわよ。もしかして、何日もルーナの面倒を見てたから、疲れが溜まってるの? あの子、たまに我が儘になる時があるし」
さらに、妙に優しい! 最近は穏やかな雰囲気が少し混ざって、丸くなり始めたと思っていたけれど、今は全然違う。お姉さんっぽいオーラが溢れ出し、大人の女性に生まれ変わったみたいなのだ。
「全然大丈夫です。ちょ、ちょっと朝が苦手なだけなので」
「本当でしょうね、無理はしちゃダメよ。まだ朝ごはんまで時間があるみたいだから、もう少し眠ってきたらどう?」
不思議なくらいに優しすぎる! 今日のアーニャは、フレンチトーストよりも甘い!
今までツンツンと厳しい態度で隠し続けてきたアーニャの優しさが、前面に押し出されている。月光草を採取するという目的でジルと一緒に数日出かけただけなのに、いったい何があったというのだろうか。短期間の間で人がここまで変わるなんてことは……。
(ま、まさか! いえ、そんなはずはないわ。アーニャさんとジルは一回りも年が離れているのよ。でも、そう考えると……)
エリスの頭の中で、名推理……ならぬ、迷推理が閃く!
フレンチトーストが食べたくて早く起きたわけではない、ジルと一緒に過ごす時間が欲しくて早起きをしたのではないか。必要以上に名前で呼んでいるのは、心の距離をグッと縮めてイチャイチャしているだけ。ジルの姉である自分に優しくするのは、今後はもっと親しい関係になるための……、布石ッ!!
二人が付き合い始めたと考えれば、すべてが納得できる! でも、もし違っていた時は関係がギクシャクするかもしれない。そのため、エリスは二人を監視して証拠を見つけることにした。
「じゃあ、お言葉に甘えて、もうちょっと寝てこようかな。ジルのこと、よろしくお願いしますね」
「わかったわ。朝食ができるまで、ちゃんと休んでくるのよ」
エリスは気づいた。朝食ができるまで、とアーニャが念を押したことに。
これはもう、朝食ができるまでは二人で過ごしたいの、とアーニャが言っているようなものであり、付き合っています、と宣言したといっても過言ではない。しかし、早とちりの可能性も、まだ僅かにある。
二人の関係を確信へと変えるため、エリスはルーナの部屋へ戻るフリをして、そーっと扉から覗くことにした。
「やっぱり朝は甘いものに限るわね。早くできないかしら」
「もっと時間がかかるよ。早く取り出しちゃうと、全然甘くならないの」
「手間暇がかかりすぎるという意味では、厄介な料理ね。でも、フレンチトーストと一緒に食べるアイスがまたおいしくて……待ちなさい! アイスはどうしたのよ!」
「アイスはね、昨日の夜に作っておいたよ。冷凍庫に入ってるの」
「やるじゃない。本当にジルはできる助手ね」
などと言い、アーニャはジルの頭を撫で始めた。アイスを食べられる喜びで、本人は頭を撫でていることに気づいていない。身長の低いジルの隣にいるため、感謝の気持ちを伝えようとして、反射的に手が動いただけである。
しかし! コッソリと覗いていたエリスは違う! 今まで二人の関係を見守り続けてきたけれど、アーニャがナデナデしたことなど一度もなかった!
よって、エリスは確信する。二人は付き合い始めたのだと。
一応、本当に一応補足しておくが、二人は付き合っていない。完全にエリスの勘違いである。
「そういうことだったのね。やっぱり姉である以上、弟の恋には敏感になっちゃうけど、相手がアーニャさんなら……応援せざるを得ないよね」
本人はまったく気づいていないが。
石化の呪いで悩むルーナが寂しくないように寝泊まりしているけれど、元々エリスとジルは、二人に恩を返したいだけ。おいしい朝ごはんを一緒に食べるために、コッソリ準備する……はずだった。
「フレンチトーストを作るのに、こんなに染み込ませないといけないの? よくこんなに長い時間も待っていられるわね、ジル」
久しぶりのフレンチトーストにウキウキして早起きした、アーニャがいるのである。仲良くジルと二人で隣同士に座って、パンに甘い卵液を浸るところを眺めている。その向かい側で座るエリスは、目をパチクリとさせていた。
あれ? ルーナちゃんに続いて、これも私の役目じゃないの? と疑問に思っている。
「この待ってる時間が楽しいんだよー? アーニャお姉ちゃんもよく見てて」
「じれったいわね。もっと一気にシュンッと吸い取る方法を、ジルは知らないの?」
しかも、必要以上にジルのことを名前で呼ぶアーニャに、違和感を覚える。距離感が……近すぎる、と。
確かにジルのことを一度だけ名前で呼んだことはあった。しかし、あの日以降は一度も名前で呼ぶことはなく、あんた、エリスの弟、この子……などと誤魔化していたのだ。それなのに、二人で旅に出かけただけで、名前呼びである。
これは何かあったに違いないと、エリスは察した。
「だーめ。染み込ませる時間も料理のうちなの。ほらっ、この部分をよく見て。色が変わり始めてるでしょ」
「まだ全然変わってないじゃない。エリスもそう思うわよね? ……エリス?」
「えっ!? あ、はい。そう思います」
「どうしたの、さっきからボーッとしてるわよ。もしかして、何日もルーナの面倒を見てたから、疲れが溜まってるの? あの子、たまに我が儘になる時があるし」
さらに、妙に優しい! 最近は穏やかな雰囲気が少し混ざって、丸くなり始めたと思っていたけれど、今は全然違う。お姉さんっぽいオーラが溢れ出し、大人の女性に生まれ変わったみたいなのだ。
「全然大丈夫です。ちょ、ちょっと朝が苦手なだけなので」
「本当でしょうね、無理はしちゃダメよ。まだ朝ごはんまで時間があるみたいだから、もう少し眠ってきたらどう?」
不思議なくらいに優しすぎる! 今日のアーニャは、フレンチトーストよりも甘い!
今までツンツンと厳しい態度で隠し続けてきたアーニャの優しさが、前面に押し出されている。月光草を採取するという目的でジルと一緒に数日出かけただけなのに、いったい何があったというのだろうか。短期間の間で人がここまで変わるなんてことは……。
(ま、まさか! いえ、そんなはずはないわ。アーニャさんとジルは一回りも年が離れているのよ。でも、そう考えると……)
エリスの頭の中で、名推理……ならぬ、迷推理が閃く!
フレンチトーストが食べたくて早く起きたわけではない、ジルと一緒に過ごす時間が欲しくて早起きをしたのではないか。必要以上に名前で呼んでいるのは、心の距離をグッと縮めてイチャイチャしているだけ。ジルの姉である自分に優しくするのは、今後はもっと親しい関係になるための……、布石ッ!!
二人が付き合い始めたと考えれば、すべてが納得できる! でも、もし違っていた時は関係がギクシャクするかもしれない。そのため、エリスは二人を監視して証拠を見つけることにした。
「じゃあ、お言葉に甘えて、もうちょっと寝てこようかな。ジルのこと、よろしくお願いしますね」
「わかったわ。朝食ができるまで、ちゃんと休んでくるのよ」
エリスは気づいた。朝食ができるまで、とアーニャが念を押したことに。
これはもう、朝食ができるまでは二人で過ごしたいの、とアーニャが言っているようなものであり、付き合っています、と宣言したといっても過言ではない。しかし、早とちりの可能性も、まだ僅かにある。
二人の関係を確信へと変えるため、エリスはルーナの部屋へ戻るフリをして、そーっと扉から覗くことにした。
「やっぱり朝は甘いものに限るわね。早くできないかしら」
「もっと時間がかかるよ。早く取り出しちゃうと、全然甘くならないの」
「手間暇がかかりすぎるという意味では、厄介な料理ね。でも、フレンチトーストと一緒に食べるアイスがまたおいしくて……待ちなさい! アイスはどうしたのよ!」
「アイスはね、昨日の夜に作っておいたよ。冷凍庫に入ってるの」
「やるじゃない。本当にジルはできる助手ね」
などと言い、アーニャはジルの頭を撫で始めた。アイスを食べられる喜びで、本人は頭を撫でていることに気づいていない。身長の低いジルの隣にいるため、感謝の気持ちを伝えようとして、反射的に手が動いただけである。
しかし! コッソリと覗いていたエリスは違う! 今まで二人の関係を見守り続けてきたけれど、アーニャがナデナデしたことなど一度もなかった!
よって、エリスは確信する。二人は付き合い始めたのだと。
一応、本当に一応補足しておくが、二人は付き合っていない。完全にエリスの勘違いである。
「そういうことだったのね。やっぱり姉である以上、弟の恋には敏感になっちゃうけど、相手がアーニャさんなら……応援せざるを得ないよね」
本人はまったく気づいていないが。
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