【完結】ちびっこ錬金術師は愛される

あろえ

文字の大きさ
58 / 99
第二章

第58話:採取の準備3

しおりを挟む
「錬金術に失敗は付きものよ。生活ができるなら、何度でも失敗していいの。失敗は成功の基なんだから」

 ポーション作りが終わった後、アーニャとジルは錬金術ギルドを後にして、街中を歩いていた。清々しい気持ちでジルに声をかけるアーニャは、満足そうな顔をしている。

 中級ポーション作りに失敗したジルを慰める気持ちが半分。以前、ジェム作りで教えようとしていた、錬金術は失敗から学ぶという教訓をジルに伝えることがもう半分であり、以前は吹かすことのできなかった先輩風を、今度こそビュービューと吹き散らかしていた。

 一方、ジルは落ち込むことなく、ベラベラと話すアーニャを見つめ、ほんわかとした気持ちで手を繋いでいる。

 ――アーニャお姉ちゃん、さっきから何を言ってるんだろう。難しくて全然わかんないや。でも、手が温かい。

 まったく話は聞いていないが。

 そんな二人の姿が街中で目撃されると、住人たちは口をポカーンと開けて見守っていた。あれが、『この街の守り神であるエリスさん』の弟か……と。

 破壊神と恐れられるアーニャを抑え続けているエリスは、錬金術ギルドだけでなく、冒険者ギルドや住人たちからも高い評価を得ている。アーニャさんがいても事件が起こらないのは、エリスのおかげ、誰もがそう思っていた。

 それを裏づけるように、最近はアーニャの機嫌を良くする小さな男の子が現れたばかり。錬金術ギルドからエリスの弟だと情報が広がり、エリスは不動の地位を勝手に築いている。これは、アーニャの影響力が大きすぎるためだ。

 なんだかんだで人助けをしてくれるアーニャが出歩けば、揉め事や犯罪が起こらない。兵士が巡回するよりも効果的であり、仮にひったくりなどの犯罪が起これば、アーニャが一瞬で捕まえて兵士に突き出してくれるだろう。ましてや、魔物が繁殖した際には、誰よりも心強い味方になる。

 破壊神と呼ばれていながらも、住人にとって、アーニャの存在はありがたいのだ。……怖いことには変わりないが。

「この店に用があるわ」

 二人がブラブラと歩いてたどり着いた先は、看板に書かれた文字が消えてしまった、ボロボロの店。ドアは腐食して開きっぱなしで動かなくなり、店内は明かりがついていないのか、薄暗い。

「本当にここで大丈夫? 人が住んでるの?」

「当然じゃない。私の武器や防具のメンテナンスは、全部ここに任せてるの。腕はそこそこよ」

 アーニャが店を選ぶ基準は、自分にビビらないことが大前提であり、腕前は二の次である。この街では……アーニャの装備を見れる店はここしかなかった。

 怖がり屋さんのジルは、アーニャの手を両手でギュッと握り締め、一緒に店内へ入っていく。キョロキョロと周囲を見回していると、腕を組んで威圧するような態度の店主が出迎えてくれた。

 店と同じようにボロボロのシャツを着て、手入れのされてない髭を生やすアラフィフの男性。半分閉じているような目は、いかにもやる気がなさそうだった。

「アーニャさんじゃないですか。この間メンテナンスした防具に、も、問題でもありましたか?」

 店主はビビっている。しかし、アーニャのなかでは、ビビっているとカウントされない。心から恐怖してビビる人は、ひえー! すいません! といきなり土下座して迎えてくるのだから。

「違うわ、ただの買い物よ。この子に風属性を付与したブーツを作ってほしいの。とびっきり良いやつで構わないわ」

 ここに来た目的は、あくまでジルと一緒に向かう採取の準備である。馬車で移動すれば、行きは楽でも帰りは厳しい。子供の足で移動するのは、もっと厳しい。ジルを担いで移動するのは、戦闘に支障をきたす。

 様々なことを考慮して、ジルが一日歩いても疲れないブーツを買ってあげることにしたのだ。

 ちなみに、冒険者で儲けまくったアーニャの懐はとんでもなく分厚い。二年間休養していようとも、錬金術師として活躍しているため、お金には困っていないのである。

「わかりました。では、良質な素材を作ったブーツがすでに手元にありますので、そちらのサイズを調整して、風属性を付与しましょう」

 しかし、アーニャとジルの事情など、店主にとっては関係のないこと。重要なのは、アーニャが初めて自分の装備を求めてくれたことであり、その期待に応えることだけを考えればいい。

 それが、二年という長い期間も自分を支えてくれた、アーニャへの恩返しになるのだから。

 ボロボロの店が傾きすぎて、街で生活ができなくなるくらい追い込まれた二年前。助けてくれるように颯爽と現れたのが、アーニャだった。

 本当にここは店なの? 大丈夫なんでしょうね、と文句を言いながらも、何度もアーニャは訪れてくれた。優れた装備でメンテナンスが難しいこともあり、来る度にアーニャは大金を払ってくれる。

 ここが潰れたら誰が私の装備を見るのよ、と言いながら、こんなにもらってもいいんですか? と余分にお金を置いていってくれるのだ。これには、破壊神の装備を手入れしているうちに殺される、と思っていた店主も、いつしかアーニャの印象が変わり始めた。

 もうダメだと絶望していた店主だからこそ、アーニャの優しい心に気づいたのだ。厳しい言葉の裏にいつも見え隠れしている、自分への気遣いを。

 そして、冒険者としては別格の強さを持つアーニャが贔屓ひいきにする店というのは、良くも悪くも噂になる。その結果、腕のいい店主が営む隠れた名店だと思われ、高ランク冒険者のみがやってくるようになった。引き受ける仕事は少ないものの、生きていくには十分すぎるほどの利益を得ている。

 だからこそ、アーニャの思いに応えたい。この街に居場所をくれたアーニャに、恩を返したい。街で噂になるほどアーニャと親密になったジルに、最高級の装備を作りたい!

 店主にとって、これほど光栄なことはないのだ!

「足のサイズだけ測らせてもらってもよろしいですか?」

 小さな踏み台をジルの前に出し、しゃがみこんだ店主はいま、アーニャに尽くせることを喜び、震えていた。

 これが武者震いというやつだろうか。負けられない戦場に出る兵士っていうのは、こういう気分なんだろうな、と、感慨深い思いで胸がいっぱいになる!

「アーニャお姉ちゃん、あのおじさん、手が震えてるよ」

 しかし、その熱い思いがジルに伝わることはない。アルコール中毒のオッサンが手を震わせて仕事をしているような雰囲気に、身の危険を感じているのだ。

「あんなの震えてるうちに入らないわ。本当に震える人はね、その場で漏らすのよ」

 数々の恐怖を与え続けてきた破壊神、アーニャは知っている。本当の恐怖は失禁と共にあることを。

「本当に大丈夫?」

「大丈夫だって言ってるじゃない。ほらっ、ちゃんと手を握っててあげるから」

「絶対だよ? 離しちゃダメだよ?」

 両手でジルの手をギュッと握り締めてあげるアーニャを見た店主は、アーニャさんがお姉さんをしている! 破壊神のギャップ萌えだ! などと思い、震える手が加速。それを見たジルの足が、共振するように震え始める。

 必死にアーニャにしがみつくジルは、恐る恐る片足を前に出し、踏み台に乗せた。計測をする者、計測をされる者、その両者が震えているため、無駄に時間がかかるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

親友面した女の巻き添えで死に、転生先は親友?が希望した乙女ゲーム世界!?転生してまでヒロイン(お前)の親友なんかやってられるかっ!!

音無砂月
ファンタジー
親友面してくる金持ちの令嬢マヤに巻き込まれて死んだミキ 生まれ変わった世界はマヤがはまっていた乙女ゲーム『王女アイルはヤンデレ男に溺愛される』の世界 ミキはそこで親友である王女の親友ポジション、レイファ・ミラノ公爵令嬢に転生 一緒に死んだマヤは王女アイルに転生 「また一緒だねミキちゃん♡」 ふざけるなーと絶叫したいミキだけど立ちはだかる身分の差 アイルに転生したマヤに振り回せながら自分の幸せを掴む為にレイファ。極力、乙女ゲームに関わりたくないが、なぜか攻略対象者たちはヒロインであるアイルではなくレイファに好意を寄せてくる。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...