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第二章

第57話:採取の準備2

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 火の魔石で作られたバーナーに火をつけると、アーニャはポーション瓶を近づけ、何度も軽く振って混ぜ合わせていた。

「ポーション瓶の温度を一定に保つのは基本よ。軽く振って混ぜて、熱を分散することを常に意識しなさい。薬草の一部が熱で変色するだけでも、品質に大きな差が生まれるわ」

 ちゃんと見ておくように言われたジルは、アーニャのポーション瓶から目を離さない。ジーッと見ることに集中しすぎて、話を半分聞いていないが……それゆえに、ポーション瓶の変化に気づく。

「あれ? 木の実は溶けちゃったの?」

 ポーション瓶の中に入っていた木の実が、いつの間にかなくなっていたのだ。

「薬草や木の実の中には、熱を加えると溶ける性質を持つものがあるわ。大抵のものは、溶けて濃い魔力に変わるの。ちょうど薬草も溶け始めたようだから、魔力に集中してみなさい」

 アーニャに言われて、ジルはポーション瓶の魔力に意識を向ける。すると、木の実の魔力が火を当てる前より数倍に跳ね上がり、薬草が溶ける度に魔力が上昇していく。

 パッと見た限りでは、両方とも真水に溶け込んでいるように見えるけれど、二つの魔力が混じり合うことはない。小さなポーション瓶の中で、反発するように暴れまわっていた。

「この二つの魔力はマナがないと混ざらないの。もっと言えば、同時にポーションへ変換してあげないと、片方の魔力に飲み込まれて失敗するわ。つまり、二つの同時に物質変換する必要があるのよ」

 そう言ったアーニャがマナを収束し始めると、応えるようにポーション瓶が光り始める。木の実の魔力は水色に輝き、薬草の魔力は青く輝く。そして、ポーションに変換された部分から、反発していた魔力が手を繋ぎ合わせるように、次々と溶け込んでいった。

「きれい……」

 魔力が鮮明に見えているジルは、自分で声が漏れていることに気づいていないほど、目を奪われた。それは、同じマナを使った作業でも、低級ポーションやジェム作りとはまた違う光景だったから。

 ポーションに変換が終わると、ゆっくりと青い光が消えていく。アーニャの手に残されたポーション瓶が青色になっていることから、ポーションが完成したとわかる。

 薄い青色だった低級ポーションとは違い、ハッキリとした青色のポーション。

「これがHP回復ポーション(中)よ。中級から上級冒険者まで、幅広い層が使うものになるわ。あんたにはジェム作りの方が簡単かもしれないけど、作れるようになった方がいいと思うの」

「うん。やってもいい?」

「ちょっと多めに作ってるから、一つだけなら構わないわよ。最初にも言ったけど、今日は教える予定はなくて、採種の準備をしているだけなの。無駄な時間を費やすことはできないわ」

 勝手にやりなさい、と半分無視するように、アーニャはポーション作りを再開する。一つ一つ手作りでやらなければいけないし、魔力やマナに集中するため、ジルの様子を見ている暇は本当になかった。

 許可をもらったジルは、アーニャの方を何度もチラチラと見ながら、ポーションに熱を加えて混ぜ合わせる。

 実際に見れたことが大きいのだろう、理科の実験や料理の作業に近いものを、ジルはアッサリとこなす傾向がある。なんだかんだで気になるアーニャが感心するほどには、手慣れた動きを見せていた。

(こういう作業は、この子好きなのよね。今朝のフレンチトーストだって、盛り付けが完璧だったもの。まあ、今回ばかりはマナ操作でミスを……熱ッ!)

 ジルを気にしすぎて、先にミスをしてしまうアーニャである。失敗しないように素早くリカバリーする姿は、さすがともいえる。

 そんなアーニャの慌ただしい姿を、ジルはキッチリ目撃していた。

 ――うわぁ、本当はあんな感じで素早くやるんだぁ。時間がないって言ってたのに、僕のためにゆっくりやってくれてたのかな。アーニャお姉ちゃんって、本当に優しいよね。

 慌てれば慌てるほど、アーニャの株が上がる。そのことに、必死にリカバリーするアーニャは気づかない。

 一足先に木の実と薬草が溶けたジルは、熱いポーション瓶に少し手間取りながらも、マナを使ってポーションに変換していく。

 薬草とマナを混ぜ合わせるように意識すると、木の実の魔力が襲い掛かるようにやってくる。急いで木の実の魔力をポーションに変換すると、今度は薬草の魔力が暴れてしまう。

 二つの魔力を同時にポーションへ変換するのは、ジルにとっては難しい。チャーハンとオムライスを一緒に作っているようなもので、手に負える状況じゃなかった。

「もっと薬草の魔力に意識しなさい。違うわ、今度は木の実の魔力が雑になってるわよ。ああもう、マナの制御が乱れてるわ。一つのことを見るんじゃなくて、もっと全体を見て……。頑張りなさい! 頑張るのよ!」

 てんやわんやと慌てるジルを、アーニャはきっちり応援するのだった。
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