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第一章
第52話:アーニャのポーション5
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四人が朝ごはんを食べ終えると、アーニャがポーションケースを開けて、一本のポーション瓶をルーナに手渡した。
「ル、ルーナ。とりあえず、今日は、こ、これを飲んでちょうだい」
遮光性を高めた特注のポーション瓶の中身は、エリクサー(微小)。アーニャ自身もどうやって作ったのかわからない、幻のポーションになる。
朝ごはんを食べて心を落ち着かせたとはいえ、まだアーニャも緊張するほど、大きな出来事だった。ここまでアーニャが緊張することは珍しく、ルーナは不審に思ってしまう。
「どうしたの、姉さん。何かあった?」
「な、何でもないわよ。気にしないで」
エリクサーといっても、名前に(微小)がつくようなポーションである。どれくらいの効果があるかわからないため、来る途中にエリスと相談して、ルーナが飲むまでは名前を伏せることにしていた。
飲む方も緊張するだろうし、過度な期待をさせれば、効果がイマイチだったときに落ち込んでしまう。ちょうど昨日は石化の呪いが進み、気分が滅入っていたのだ。心の傷をえぐるような真似をしたくはない。
「姉さんって、隠し事が下手なんだよね。すぐに顔に出るから、ちょっと怖いんだけどなー」
早く飲みなさいよ、顔はすぐに隠してあげるわ! と、両手でバッと顔を隠すアーニャなのだが、こっそりと指の隙間から覗いている。その光景が余計に、何かありますよ、と言っているように見えることを、アーニャは気づかない。
ルーナは苦笑いを浮かべながらも、害のあることを姉がするはずがないと思い、キュポンッとポーション瓶を開けて、ポーションを口にする。
期待をするように、アーニャとエリスが前のめりになったため、ルーナは飲みにくい。ゴクリッと喉が動いたところを確認すると、二人は息を潜めるように固まる。
すべてのポーションを飲み終えたルーナは、ポーション瓶を見つめ、キョトンとした顔を浮かべていた。
「姉さん、これ、本当にポーション? 初めてこんなにおいしいポーションを飲んだよ。それになんか、体に馴染んでくるというか……」
そうルーナが声を発したときだった。毛布で隠しているルーナの足の一部が、淡い光を放ち始める。
今まで見たことのない反応に目を丸くするアーニャに対して、エリスはポロッと言葉をこぼす。本物だ……、と。
ジルに使った天然もののエリクサーと、まったく同じ淡い光。当然、エリクサー(微小)であるため、光る範囲は狭いし、光は弱い。でも、この神々しい淡い光を、見間違えるはずもなかった。
その淡い光が止むと、思わず、ジルはアーニャに問いかける。
「アーニャお姉ちゃん。これって、もしかして……エリクサー?」
優しい魔力がルーナの足元へ流れていったことに気づいたジルは、エリクサーを飲んだ経験もあり、すぐに気づく。
その言葉を聞いたルーナは、急いで毛布に手を入れ、自分の足を触った。
飲んだ直後から、妙にムズムズする感覚が太ももにあったのだが、実際に触ると、自分の身に何が起きたのかを確信する。
ああ、自分の足だ。これは自分の足で、石じゃない。石化が解けている。固くないし、冷たくもない。つまめば、痛い。いま触っているのは、紛れもなく、自分の足。
「姉さん……足が、戻ってる。昨日石化した部分が、全部、戻ってる」
直接触ってアーニャも確認したかったが、それよりも先に、姉としてやらなければいけないことを見つける。
涙が噴き出てくるルーナを見て、アーニャは優しく抱き締めてあげた。昨日、エリスに慰められたことを思い出して。
今まで治療薬作りを任せてきた姉に甘えることを、ルーナはずっと、絶対にやってはいけないことだと思っていた。もし石化が治らなかったときに、姉を道連れにしかねないほど苦しめてしまうと、ルーナはわかっていたから。
でも、それももう終わり。その呪縛から解放されたことを、自分の足が教えてくれた。そして、アーニャ自身が、自分を受け入れてくれている。
「怖かった、怖かったの、姉さん。本当はずっと怖くて、自分の体が何かに奪われていくみたいで。でも、でも、それを言ったら、姉さんまで離れていく気がして」
まだ完全に石化が解けたわけではない。もう一度エリクサーを作れるかわからない。それでも、確実に希望は残されている。二年という長い年月は、決して無駄な時間ではなかった。アーニャが錬金術師として歩んだ時間は、決して、無駄な時間ではなかったのだ。
「近くにいるじゃない……バカ」
精一杯の言葉を絞り出して、アーニャは目を閉じた。体の震えを誤魔化すように、ルーナを強く抱きしめて。
「ル、ルーナ。とりあえず、今日は、こ、これを飲んでちょうだい」
遮光性を高めた特注のポーション瓶の中身は、エリクサー(微小)。アーニャ自身もどうやって作ったのかわからない、幻のポーションになる。
朝ごはんを食べて心を落ち着かせたとはいえ、まだアーニャも緊張するほど、大きな出来事だった。ここまでアーニャが緊張することは珍しく、ルーナは不審に思ってしまう。
「どうしたの、姉さん。何かあった?」
「な、何でもないわよ。気にしないで」
エリクサーといっても、名前に(微小)がつくようなポーションである。どれくらいの効果があるかわからないため、来る途中にエリスと相談して、ルーナが飲むまでは名前を伏せることにしていた。
飲む方も緊張するだろうし、過度な期待をさせれば、効果がイマイチだったときに落ち込んでしまう。ちょうど昨日は石化の呪いが進み、気分が滅入っていたのだ。心の傷をえぐるような真似をしたくはない。
「姉さんって、隠し事が下手なんだよね。すぐに顔に出るから、ちょっと怖いんだけどなー」
早く飲みなさいよ、顔はすぐに隠してあげるわ! と、両手でバッと顔を隠すアーニャなのだが、こっそりと指の隙間から覗いている。その光景が余計に、何かありますよ、と言っているように見えることを、アーニャは気づかない。
ルーナは苦笑いを浮かべながらも、害のあることを姉がするはずがないと思い、キュポンッとポーション瓶を開けて、ポーションを口にする。
期待をするように、アーニャとエリスが前のめりになったため、ルーナは飲みにくい。ゴクリッと喉が動いたところを確認すると、二人は息を潜めるように固まる。
すべてのポーションを飲み終えたルーナは、ポーション瓶を見つめ、キョトンとした顔を浮かべていた。
「姉さん、これ、本当にポーション? 初めてこんなにおいしいポーションを飲んだよ。それになんか、体に馴染んでくるというか……」
そうルーナが声を発したときだった。毛布で隠しているルーナの足の一部が、淡い光を放ち始める。
今まで見たことのない反応に目を丸くするアーニャに対して、エリスはポロッと言葉をこぼす。本物だ……、と。
ジルに使った天然もののエリクサーと、まったく同じ淡い光。当然、エリクサー(微小)であるため、光る範囲は狭いし、光は弱い。でも、この神々しい淡い光を、見間違えるはずもなかった。
その淡い光が止むと、思わず、ジルはアーニャに問いかける。
「アーニャお姉ちゃん。これって、もしかして……エリクサー?」
優しい魔力がルーナの足元へ流れていったことに気づいたジルは、エリクサーを飲んだ経験もあり、すぐに気づく。
その言葉を聞いたルーナは、急いで毛布に手を入れ、自分の足を触った。
飲んだ直後から、妙にムズムズする感覚が太ももにあったのだが、実際に触ると、自分の身に何が起きたのかを確信する。
ああ、自分の足だ。これは自分の足で、石じゃない。石化が解けている。固くないし、冷たくもない。つまめば、痛い。いま触っているのは、紛れもなく、自分の足。
「姉さん……足が、戻ってる。昨日石化した部分が、全部、戻ってる」
直接触ってアーニャも確認したかったが、それよりも先に、姉としてやらなければいけないことを見つける。
涙が噴き出てくるルーナを見て、アーニャは優しく抱き締めてあげた。昨日、エリスに慰められたことを思い出して。
今まで治療薬作りを任せてきた姉に甘えることを、ルーナはずっと、絶対にやってはいけないことだと思っていた。もし石化が治らなかったときに、姉を道連れにしかねないほど苦しめてしまうと、ルーナはわかっていたから。
でも、それももう終わり。その呪縛から解放されたことを、自分の足が教えてくれた。そして、アーニャ自身が、自分を受け入れてくれている。
「怖かった、怖かったの、姉さん。本当はずっと怖くて、自分の体が何かに奪われていくみたいで。でも、でも、それを言ったら、姉さんまで離れていく気がして」
まだ完全に石化が解けたわけではない。もう一度エリクサーを作れるかわからない。それでも、確実に希望は残されている。二年という長い年月は、決して無駄な時間ではなかった。アーニャが錬金術師として歩んだ時間は、決して、無駄な時間ではなかったのだ。
「近くにいるじゃない……バカ」
精一杯の言葉を絞り出して、アーニャは目を閉じた。体の震えを誤魔化すように、ルーナを強く抱きしめて。
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