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第一章
第33話:ジェム作り3
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次の作業に取り掛かるため、二人はいったん机の上を片付けた。そして、ジルの作業スピードに付いていけず、ちょっとだけメンタルが弱ったアーニャが再びリードする。
「魔石から核を取り出したら、中に入っている魔力をマナで追い出す作業よ。元々魔石は魔物の体内にあるから、魔物の魔力を帯びてる今の状態だと使えないの。作業自体は単純だけど、低級ポーションのような弱いマナを集める程度じゃ、話にならないわ。こういう風にマナ濃度を高めて、追い出していくのよ」
空気中のマナを収束しながら圧縮していき、マナ濃度を高めたアーニャは、ゆっくりと魔石に押し当てて、核に含まれた魔力を追い出していく。
「あんたはマナをそれなりに認識してるんだし、だいたい何をやってるかわかるでしょ?」
細かい説明や難しい説明が理解できないジルには、見せた方が早い。錬金術師になる前に二人でマナの話をしていたこともあって、これくらいならジルにも理解できると、アーニャは思っていた。
しかし、実際にはアーニャよりもジルはマナを認識していることも影響して、すでにこの工程を経験している。
――錬金術師の試験の時にこれをやって、大変だったなぁ。低級ポーションがなかなかできなかったもん。
まだ一週間前のことなのだが、ジルは懐かしい気持ちになっている。その後もマナ操作を練習したジルは、どちらかといえば、得意分野だった。
「見えてるから大丈夫だよ」
アーニャが集めたマナを視認できるほどには、ジルはハッキリと見えている。これくらいなら簡単そうだなーと思いながら。
「よく見ておきなさい。新米錬金術師がつまづくのは、だいたいマナ濃度を高めることができずに諦めるんだから。まだまだ新人のあんたはできなくて普通だし、この行程だけは私がやってもいいわね」
普通はマナの存在を見えると言わないため、作業をしっかり見ていると解釈したアーニャは、先輩風をビュービューと吹かして見せつける。しかも、感受性豊かな子供ということを考慮し、失敗したときに落ち込まないようにするため、アーニャは優しく声をかけていた。
(まだまだ駆け出しだから、マナ操作は継続してやらせたいわね。時間が惜しいとはいえ、才能ある錬金術師の芽を積むわけにはいかないわ)
マナ濃度を高める技術を身に付ければ、錬金術で作れる範囲が増え、視野が広がる。十歳という若さでマナを自分と同じくらい認識できると思い込んでいるアーニャは、助手にしては随分と力の入れた英才教育を考えていた。魔法石を覚えさせようとしているのも、大きな理由がある。
核の中に残った魔力を追い出し、全てをマナに置き換えたアーニャは、それをジルに手渡した。
「その状態をよく覚えておきなさい。作れるようになれば、生涯錬金術師として生きていられるわ」
Eランクの魔石を使ったとしても、核を綺麗に取り出さなければいけないため、良質なジェムは一つ銀貨三枚、日本円で三千円で取引されている。材料費が五百円であることを考えると、儲けが大きい。さらには、あちこちで魔物が暴れまわっているこの世界では、需要がなくなるどころか、現在も増え続けている。
一方、新米錬金術師が一番多く作る低級ポーションは、時間をかけて作業する割に、利益が少ない。一本あたり銅貨四枚で四百円の販売になり、材料費はまた別。品質が悪かったり、回復ポーション(小)でなかったりすると、さらに値段は下がる。その結果、早く上達しなければ、生きていけないのだ。
どういった経緯であったとしても、自分の助手になった以上、しっかりと錬金術師として活躍してほしいと、アーニャは願っている。とはいえ、マナの扱いは難しい。練習はさせるが、アーニャもジェム作りを全て任せようとは思っていない。
核を綺麗に取り出すことができるジルには、そっちを重点的にやってもらう予定だ。
簡単に言えば、面倒くさい作業をやらせる代わりに、ちゃんと錬金術を教えますよ、というスタイル。子供とはいえ、アーニャをジルをしっかりと助手扱いをしていた。むしろ、弟子に近いかもしれないが。
「ねえねえ、アーニャお姉ちゃん。ポーションを作る時は、薬草の魔力とマナを合わせるような感じだよね? これは、元の魔力を追い出しちゃってもいいの?」
予想外の質問に、アーニャの眉がピクッと動く。
「あんた、本当にマナの認識能力が高いわね。普通はそんなことを新人が聞いてこないわよ」
そう、普通はそんなことを気づかない。低級ポーションを作るときに、マナを注入して物質変換するものだと、最初は思っている。だが、だんだんマナの扱いに慣れてくると、マナと魔力を融合させることで変質するのではないかと、考え始めるのだ。そして、それは錬金術を二年ほど続けた者が理解すること。
アーニャが驚くのも無理はなく、首を傾げて疑問を抱くジルの方がおかしい。
「最初に魔法石は二種類あるって言ったわね。属性魔法を閉じ込めたジェムは、魔力を追い出してマナに変えるだけでいいわ。クリスタルになると、核の魔物の魔力とマナを融合させて、召喚魔法が作れるようになるの。できるようになったら、クリスタルを作ればいいわ。今はジェムを作るわよ、やってみなさい」
材料が同じでも、マナの扱い方が異なるだけで、性能に大きな差が生まれる。Eランクの魔石だったとしたも、アーニャすらクリスタル化に成功したことはない。それだけ難度の高いアイテムであり、市場に出回らない珍しいアイテムになる。そのため、高価な値段になりやすく、一部の貴族や王族だけで取引されるケースが多い。
ただ、目の前の小さな錬金術師はいつか作り上げてしまうと、アーニャは確信していた。
料理が作れる錬金術師など、今まで聞いたことがない。二つの職業の知識を併せ持つだけでなく、正確で速い作業は、手先が器用な証拠。善くも悪くも純粋な心を持つジルに、期待せざるを得なかった。
この子ができなければ、誰もできないと思えてしまうほど、ジルの錬金術のセンスは高い。それはもう、さっき一度見せただけのマナ濃度の収束から圧縮までを見事に操り、意図も簡単に魔力を追い出……。
「アーニャお姉ちゃん、できたよ」
「なんでできてんのよ!」
さすがに突っ込まずにはいられない! センスがあるとかないとか、そういう問題ではなくなっている!
作っちゃダメなときもあるの! 空気を読みなさい! そう叱ってやりたいアーニャだが……、そうもいかない。
「ぐぬぬぬっ。良い出来じゃない……」
人生で初めてこんなにもわかりやすいうめき声、ぐぬぬぬっ、を発したアーニャ。対してジルは、褒められちゃった、えへへへ、と笑顔を見せていた。
アーニャはそんなジルのニコニコとした笑顔など、一切求めていなかった。
僕にはできないよー、しょんぼり、と落ち込んだところに優しく手を差し伸べ、錬金術は失敗を続けても諦めない者が成功をつかむの、などと、青春ドラマみたいな展開を求めていたのだ。
それもそのはず。冒険者で魔法を使いこなし、魔力にもマナにも精通している天才肌のアーニャでさえ、マナを収束して圧縮するまで、一か月も時間がかかっている。Eランクの魔石でジェムを作ろうとして、何度も壊して発狂しながらやっていた。
センスがあるなどという一言で片づけられない、アーニャはそんな思いで満ち溢れている。ギリギリギリッと歯を噛み締めて悔しがるアーニャは、なかなか見られるものではないだろう。もはや、どちらが本当の子供かわからないが。
そこへジルが、屈託のない笑顔をアーニャに向ける。
「アーニャお姉ちゃんのおかげだね」
「……そうね」
納得いかない、という思いを押し殺して、アーニャはジルに頷くのだった。
「魔石から核を取り出したら、中に入っている魔力をマナで追い出す作業よ。元々魔石は魔物の体内にあるから、魔物の魔力を帯びてる今の状態だと使えないの。作業自体は単純だけど、低級ポーションのような弱いマナを集める程度じゃ、話にならないわ。こういう風にマナ濃度を高めて、追い出していくのよ」
空気中のマナを収束しながら圧縮していき、マナ濃度を高めたアーニャは、ゆっくりと魔石に押し当てて、核に含まれた魔力を追い出していく。
「あんたはマナをそれなりに認識してるんだし、だいたい何をやってるかわかるでしょ?」
細かい説明や難しい説明が理解できないジルには、見せた方が早い。錬金術師になる前に二人でマナの話をしていたこともあって、これくらいならジルにも理解できると、アーニャは思っていた。
しかし、実際にはアーニャよりもジルはマナを認識していることも影響して、すでにこの工程を経験している。
――錬金術師の試験の時にこれをやって、大変だったなぁ。低級ポーションがなかなかできなかったもん。
まだ一週間前のことなのだが、ジルは懐かしい気持ちになっている。その後もマナ操作を練習したジルは、どちらかといえば、得意分野だった。
「見えてるから大丈夫だよ」
アーニャが集めたマナを視認できるほどには、ジルはハッキリと見えている。これくらいなら簡単そうだなーと思いながら。
「よく見ておきなさい。新米錬金術師がつまづくのは、だいたいマナ濃度を高めることができずに諦めるんだから。まだまだ新人のあんたはできなくて普通だし、この行程だけは私がやってもいいわね」
普通はマナの存在を見えると言わないため、作業をしっかり見ていると解釈したアーニャは、先輩風をビュービューと吹かして見せつける。しかも、感受性豊かな子供ということを考慮し、失敗したときに落ち込まないようにするため、アーニャは優しく声をかけていた。
(まだまだ駆け出しだから、マナ操作は継続してやらせたいわね。時間が惜しいとはいえ、才能ある錬金術師の芽を積むわけにはいかないわ)
マナ濃度を高める技術を身に付ければ、錬金術で作れる範囲が増え、視野が広がる。十歳という若さでマナを自分と同じくらい認識できると思い込んでいるアーニャは、助手にしては随分と力の入れた英才教育を考えていた。魔法石を覚えさせようとしているのも、大きな理由がある。
核の中に残った魔力を追い出し、全てをマナに置き換えたアーニャは、それをジルに手渡した。
「その状態をよく覚えておきなさい。作れるようになれば、生涯錬金術師として生きていられるわ」
Eランクの魔石を使ったとしても、核を綺麗に取り出さなければいけないため、良質なジェムは一つ銀貨三枚、日本円で三千円で取引されている。材料費が五百円であることを考えると、儲けが大きい。さらには、あちこちで魔物が暴れまわっているこの世界では、需要がなくなるどころか、現在も増え続けている。
一方、新米錬金術師が一番多く作る低級ポーションは、時間をかけて作業する割に、利益が少ない。一本あたり銅貨四枚で四百円の販売になり、材料費はまた別。品質が悪かったり、回復ポーション(小)でなかったりすると、さらに値段は下がる。その結果、早く上達しなければ、生きていけないのだ。
どういった経緯であったとしても、自分の助手になった以上、しっかりと錬金術師として活躍してほしいと、アーニャは願っている。とはいえ、マナの扱いは難しい。練習はさせるが、アーニャもジェム作りを全て任せようとは思っていない。
核を綺麗に取り出すことができるジルには、そっちを重点的にやってもらう予定だ。
簡単に言えば、面倒くさい作業をやらせる代わりに、ちゃんと錬金術を教えますよ、というスタイル。子供とはいえ、アーニャをジルをしっかりと助手扱いをしていた。むしろ、弟子に近いかもしれないが。
「ねえねえ、アーニャお姉ちゃん。ポーションを作る時は、薬草の魔力とマナを合わせるような感じだよね? これは、元の魔力を追い出しちゃってもいいの?」
予想外の質問に、アーニャの眉がピクッと動く。
「あんた、本当にマナの認識能力が高いわね。普通はそんなことを新人が聞いてこないわよ」
そう、普通はそんなことを気づかない。低級ポーションを作るときに、マナを注入して物質変換するものだと、最初は思っている。だが、だんだんマナの扱いに慣れてくると、マナと魔力を融合させることで変質するのではないかと、考え始めるのだ。そして、それは錬金術を二年ほど続けた者が理解すること。
アーニャが驚くのも無理はなく、首を傾げて疑問を抱くジルの方がおかしい。
「最初に魔法石は二種類あるって言ったわね。属性魔法を閉じ込めたジェムは、魔力を追い出してマナに変えるだけでいいわ。クリスタルになると、核の魔物の魔力とマナを融合させて、召喚魔法が作れるようになるの。できるようになったら、クリスタルを作ればいいわ。今はジェムを作るわよ、やってみなさい」
材料が同じでも、マナの扱い方が異なるだけで、性能に大きな差が生まれる。Eランクの魔石だったとしたも、アーニャすらクリスタル化に成功したことはない。それだけ難度の高いアイテムであり、市場に出回らない珍しいアイテムになる。そのため、高価な値段になりやすく、一部の貴族や王族だけで取引されるケースが多い。
ただ、目の前の小さな錬金術師はいつか作り上げてしまうと、アーニャは確信していた。
料理が作れる錬金術師など、今まで聞いたことがない。二つの職業の知識を併せ持つだけでなく、正確で速い作業は、手先が器用な証拠。善くも悪くも純粋な心を持つジルに、期待せざるを得なかった。
この子ができなければ、誰もできないと思えてしまうほど、ジルの錬金術のセンスは高い。それはもう、さっき一度見せただけのマナ濃度の収束から圧縮までを見事に操り、意図も簡単に魔力を追い出……。
「アーニャお姉ちゃん、できたよ」
「なんでできてんのよ!」
さすがに突っ込まずにはいられない! センスがあるとかないとか、そういう問題ではなくなっている!
作っちゃダメなときもあるの! 空気を読みなさい! そう叱ってやりたいアーニャだが……、そうもいかない。
「ぐぬぬぬっ。良い出来じゃない……」
人生で初めてこんなにもわかりやすいうめき声、ぐぬぬぬっ、を発したアーニャ。対してジルは、褒められちゃった、えへへへ、と笑顔を見せていた。
アーニャはそんなジルのニコニコとした笑顔など、一切求めていなかった。
僕にはできないよー、しょんぼり、と落ち込んだところに優しく手を差し伸べ、錬金術は失敗を続けても諦めない者が成功をつかむの、などと、青春ドラマみたいな展開を求めていたのだ。
それもそのはず。冒険者で魔法を使いこなし、魔力にもマナにも精通している天才肌のアーニャでさえ、マナを収束して圧縮するまで、一か月も時間がかかっている。Eランクの魔石でジェムを作ろうとして、何度も壊して発狂しながらやっていた。
センスがあるなどという一言で片づけられない、アーニャはそんな思いで満ち溢れている。ギリギリギリッと歯を噛み締めて悔しがるアーニャは、なかなか見られるものではないだろう。もはや、どちらが本当の子供かわからないが。
そこへジルが、屈託のない笑顔をアーニャに向ける。
「アーニャお姉ちゃんのおかげだね」
「……そうね」
納得いかない、という思いを押し殺して、アーニャはジルに頷くのだった。
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