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第一章

第31話:ジェム作り1

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 エリスからEランクの魔石を受け取った後、アーニャとジルは作業部屋に来ていた。机の前に並んで立つ二人は、それぞれ三角錐の形をした緑色の魔石を手に持っている。

「錬金術の攻撃アイテムと言えば、基本は魔法石よ」

「魔法石?」

「そう、魔石を加工して作る攻撃アイテムのことね。有名なのは、属性魔法を封じ込めた『ジェム』と、攻撃魔法を魔物化させた召喚魔法の『クリスタル』があるの。ジェムは冒険者や商人が愛用してるけど、クリスタルは貴族のお守りや家宝になってるわね。まあ、クリスタル化させるには……」

 ベラベラと得意げに説明したアーニャだったが、ジルのポカーンとした顔を見て、言葉を詰まらせた。

「アーニャお姉ちゃん……」

「そうね、あんたには難しかったわね。魔法を封じ込めた石を作ると思ってちょうだい」

「うん、わかった」

 少し話し足りないとアーニャが感じてしまうのは、今まで錬金術のことを誰かに話す機会がなかったからだろうか。意外に誰かと話すことが好きなのかもしれないと、アーニャは新たな自分を発見していた。

 そんなことが頭によぎりながらも、アーニャは自分のポーチから、二つのナイフを取り出す。

「前に使ってたミスリルナイフが一本余ってるから、あんたにあげるわ。少し年季が入ってるけど、切れ味は衰えてないの」

 そう言って、ピッカピカになるまで磨いてあげたミスリルナイフを、ジルに手渡した。その影響か、少しだけアーニャの目元にクマができている。

 徹夜明けのアーニャなのである。

「あ、ありがとう」

 受け取ったジルは、不自然なほど磨き上げられたミスリルナイフよりも、ポーチの方が気になっていた。二本のミスリルナイフが入っていたにしては、随分とコンパクトなアーニャのポーチ。

 ――いまナイフよりも小さいポーチから、ナイフが出てきた気がするんだけど、気のせいかなぁ。

 渡されたナイフと見比べてみても、絶対におかしいと思うほど、アーニャのポーチは小さい。

「このナイフって、アーニャお姉ちゃんのポーチに入ってたよね?」

「そうよ。……ああ、そういうことね。これはマジックポーチよ。小さいのにいっぱい物が入るポーチだと思ったらいいわ」

 自分が磨き上げたミスリルナイフよりも、小さいポーチからミスリルナイフが二本も出てきたことに興味を抱いたジルに、ちょっぴり、アーニャは落ち込んだ。

 もう少し喜ぶと思って、昨日の夜は頑張ってあげたのに。いや、別にあんたのためじゃないけど、と、憂鬱な気分になってしまう。

「どっかの聡明な錬金術師が昔に作ったみたいで、今はほぼ手に入らないけどね。冒険者だったら、三人くらいしか持ってないんじゃないかしら。けっこうレアなアイテムなのよ」

「えーっ! アーニャお姉ちゃん、すごーい!」

 純粋な子供であるジルは、目をキラキラと輝かせて、アーニャを見つめる。尊敬と憧れが混じり合うようなその視線は、アーニャの落ち込んだ心を慰めるように、温かく包み込んでくれる気がして……。

「まあ、それだけ私が活躍してたってだけの話よ」

 スッカリ機嫌を良くしてしまう。アーニャの機嫌が戻るまで、十秒もかかっていない。大袈裟に驚くジルのリアクションを見て、この子はなかなか聞き上手ね、なーんて心の中で褒めてしまう始末だった。

「えーっ! アーニャお姉ちゃんの冒険の話、聞いてみたーい!」

「話してあげたいのはやまやまだけど、今日は錬金術を教えるために時間を取ったのよ。気になるなら、一緒に冒険してたルーナに聞くといいわ」

「じゃあ、今日の午後はルーナお姉ちゃんに冒険のことを話してもらう!」

「そうしなさい。さっ、始めるわよ」

 上機嫌になったアーニャは、お姉さんオーラを全開にして、主導権を握る。楽しみができたジルは、やる気に満ち溢れていた。

「魔石には、いくつか種類があるわ。三角錐の形をした魔石は、炎属性。四角推は水属性、五角錐は風属性っていう感じで、形によって属性が変わるの」

「じゃあ、この三角のやつは炎属性なんだ。持ってても熱くないのに、不思議だね」

「あんたに渡したナイフだって、持ってるだけじゃ切れないでしょ。使わなければ、ただの石っころと同じよ」

「そっか。もっと危ないものだと思ってたけど、意外にきれいだね。……ん? 中に、何か入ってる?」

 魔石を部屋の明かりに照らしてみると、三角錐の中心に何かが入っているとジルは気づいた。

「それが魔石の核ね。それを傷付けないように、まずは周りの魔石を削っていくわ。ここでさっき渡した、ミスリルナイフの出番よ」

 自分のミスリルナイフを手に持ったアーニャは、手本を見せるように、魔石をスパンッ! と軽々しく切っていく。その姿を見たジルは、桃の種を取るみたいな感じだー、などと、ちょっと間の抜けたことを考えていた。

「あんた、こう言うのは得意なんじゃない? 普通のナイフなら力を入れてゴリゴリ削らないといけないところだけど……」

「うわっ! アーニャお姉ちゃん、このナイフ切れ味がすごいよ!」

 ようやく気づいたのね、私がピカピカになるまで磨き上げたミスリルナイフの切れ味に! などと心の中でマウントを取り、最高のドヤ顔を作って、アーニャはジルを見下ろした。

「でしょ!!」
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