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第一章
第24話:ルーナのお見舞い2
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太陽が傾き始めた時間になっても、ルーナの部屋に長居をしたジルは、いつまでも嬉しそうに話していた。
「それでね、最初は薬草を炒めてたの。焦げちゃった部分とシナシナになった部分は、もったいないけど捨てちゃった。一回だけ食べてみたけど、すごい苦かったんだよ」
「えー、焦げた薬草まで食べる人はなかなかいないよ。お腹は壊さなかった?」
「うん、大丈夫。今まで失敗したやつは全部食べてるけど、お腹を壊したことはないもん」
「お腹が強いんだね。でも、エリスさんに言ったら心配されちゃうから、今の話は言っちゃダメだよ」
「もう、聞いてしまいましたけどね」
ドアの隙間からコッソリと顔を覗かせるエリスは、少し前から話を聞いていた。夢中になって話すジルは気づいていなかったが、さすがにルーナはわかっていたため、入るタイミングを教えるように、エリスの名前を出したのだ。
唐突に怒られそうな事案が発生したため、ビクッと怯えるジルは、自然とルーナの手を握り締める。あそこに怖い人がいるの~、と甘える姿は、もうどっちが本当の姉かわからない。
ちなみに、いくら懐いたとはいえ、ルーナと長時間話せるか心配したエリスは、何度か部屋を訪れていた。それに気づいたルーナは、大丈夫だと頷くように返事をしていたのだが、それもジルは気づいていない。
ジルの心はいま、ルーナに染まっているのだ。
「色々興味が出てくるのはわかるけど、もし錬金術師になれたとしても、毒草だけは食べないでよね。そもそも、錬金術で使う素材を食べても、おいしそうなものはないと思うけど」
意外なことをしていた弟に対して、いつか本当に毒草を食べたジルを見つけてしまいそうだと思い、エリスは大きなため息を吐いた。もう二度とジルを看病する生活に戻りたくはないから。
そこへ、ひそかに話を聞いていたアーニャがやって来ると、落ち込むエリスの肩にポンッと手を乗せる。振り向いたエリスは、アーニャの渾身のドヤ顔を見てしまい、委縮した。
「意外に花はおいしいものが多いわよ。蜂が花から密を吸う気持ちもわかるわ。特に、ピンク色の花を咲かせるものは、だいたいおいしいの。甘みが違うのよ」
花を食べていた事実をベラベラと話したアーニャに対して、話を聞いていた三人は真顔になった。当然のことだろう、錬金術を作る過程で花を食べるタイミングはないし、人生のなかで花を食べる機会はない。それなのに、どれがおいしい花か理解するほど、アーニャは食べていたのである。
これには、さすがに三人とも引いていた。
アーニャさんって、そういうが趣味あったんだ、と。
自分でも変わってると思ってたけど、僕と同じ様に食べる人がいたんだ、と。
姉さん、ポーション作りで疲れてるんじゃないかな、と。
そんな三人の冷たい視線を感じ、アーニャはちょっぴり心に傷がつく。
「なによ、ただの興味本位じゃない。最近は食べてないわよ。それより、長い時間ルーナの傍にいてくれるのは嬉しいけど、大丈夫なの? 日が暮れたら危ないわよ」
優しい言葉を投げかけているように思えるが、アーニャの心配は、日が暮れるまでにトマトソース付きのオムライスをちゃんと作れるの? という意味である。
「あっ、そうだった。随分と時間が経っちゃったし、今度は私がルーナちゃんの相手をするから、ジルはオムライスを作ってきて」
「うん、わかったぁー」
「じゃあ、またね、ジルくん。オムライス楽しみにしてるね~」
笑顔で手を振るルーナに見送られ、ジルはアーニャと一緒に部屋を後にした。そして、一緒にキッチンまで歩き進めて別れようとしたとき、ジルはアーニャの腕を両手でつかむ。
「アーニャお姉ちゃん、お願いがあるの」
さっきまでルーナと話していた嬉しそうな顔とは違い、ジルは真剣な顔でアーニャを見つめていた。……身長差があるため、やっぱり上目遣いで!
「な、なによ、いきなり。錬金術の試験には、手を貸せないわよ。少しくらいなら、ヒントを上げてもいいけど」
もうすでに、ベストアンサーをエリス経由で届けていることを、アーニャは知らない!
「あのね、どうしてもエリスお姉ちゃんに聞かれたくないし、アーニャお姉ちゃん以外に相談できそうな人がいないの。だから、ちょっとだけ時間ちょうだい」
「私以外に相談する人がいないなんて、もしかして、あんた……」
黒い噂で避けられたり、恐れられたりするアーニャは、ジルのことが急激に心配になってしまう。まだ小さくて呪いから回復したばかりなのに、嫌われているのではないか、と。
破壊神と言われようとも、本当のアーニャは心優しい女の子。急速に感情移入をしたアーニャは、胸がギュッと締め付けられるような思いになり、優しい目でジルを見つめ返す。
一方、切羽詰まったジルは、クリティカル攻撃を発動させる!
「あのね、勢いだけでここに来ちゃったけど、時間がないの。だから、お願い! 今度、違うタイプのオムライスを作るから」
追い打ちをかけるように、ジルはアーニャの心をえぐった。最高の殺し文句を使い、アーニャが逃げられないように完全包囲。さらに、ウルウルとした瞳で見上げ、可愛さアピールも忘れない。
ルーナの手の平でゴロゴロと転がった後、今度はアーニャを手の平で転がし始めてしまう!
「何でも話しなさい。こう見えて、得意分野は相談なのよ。冒険者として数々の依頼をこなしてきた私は、悩み相談のプロみたいなものね。じっくりと聞いてあげるわ」
立ったままでは相談ができないと思い、キッチンの椅子にジルを座らせ、アーニャは向かい合う。なお、アーニャがこういった相談を受けるのは、人生で初めてのことであり、ちょっと嬉しい。いつも話し合いや相談を担当しているのは、妹のルーナなのである。
そんなことを知らないジルは、両手をギュッと握り締め、アーニャにお願いをする。
「魔法を使ってるところを、見せてほしいの」
「それでね、最初は薬草を炒めてたの。焦げちゃった部分とシナシナになった部分は、もったいないけど捨てちゃった。一回だけ食べてみたけど、すごい苦かったんだよ」
「えー、焦げた薬草まで食べる人はなかなかいないよ。お腹は壊さなかった?」
「うん、大丈夫。今まで失敗したやつは全部食べてるけど、お腹を壊したことはないもん」
「お腹が強いんだね。でも、エリスさんに言ったら心配されちゃうから、今の話は言っちゃダメだよ」
「もう、聞いてしまいましたけどね」
ドアの隙間からコッソリと顔を覗かせるエリスは、少し前から話を聞いていた。夢中になって話すジルは気づいていなかったが、さすがにルーナはわかっていたため、入るタイミングを教えるように、エリスの名前を出したのだ。
唐突に怒られそうな事案が発生したため、ビクッと怯えるジルは、自然とルーナの手を握り締める。あそこに怖い人がいるの~、と甘える姿は、もうどっちが本当の姉かわからない。
ちなみに、いくら懐いたとはいえ、ルーナと長時間話せるか心配したエリスは、何度か部屋を訪れていた。それに気づいたルーナは、大丈夫だと頷くように返事をしていたのだが、それもジルは気づいていない。
ジルの心はいま、ルーナに染まっているのだ。
「色々興味が出てくるのはわかるけど、もし錬金術師になれたとしても、毒草だけは食べないでよね。そもそも、錬金術で使う素材を食べても、おいしそうなものはないと思うけど」
意外なことをしていた弟に対して、いつか本当に毒草を食べたジルを見つけてしまいそうだと思い、エリスは大きなため息を吐いた。もう二度とジルを看病する生活に戻りたくはないから。
そこへ、ひそかに話を聞いていたアーニャがやって来ると、落ち込むエリスの肩にポンッと手を乗せる。振り向いたエリスは、アーニャの渾身のドヤ顔を見てしまい、委縮した。
「意外に花はおいしいものが多いわよ。蜂が花から密を吸う気持ちもわかるわ。特に、ピンク色の花を咲かせるものは、だいたいおいしいの。甘みが違うのよ」
花を食べていた事実をベラベラと話したアーニャに対して、話を聞いていた三人は真顔になった。当然のことだろう、錬金術を作る過程で花を食べるタイミングはないし、人生のなかで花を食べる機会はない。それなのに、どれがおいしい花か理解するほど、アーニャは食べていたのである。
これには、さすがに三人とも引いていた。
アーニャさんって、そういうが趣味あったんだ、と。
自分でも変わってると思ってたけど、僕と同じ様に食べる人がいたんだ、と。
姉さん、ポーション作りで疲れてるんじゃないかな、と。
そんな三人の冷たい視線を感じ、アーニャはちょっぴり心に傷がつく。
「なによ、ただの興味本位じゃない。最近は食べてないわよ。それより、長い時間ルーナの傍にいてくれるのは嬉しいけど、大丈夫なの? 日が暮れたら危ないわよ」
優しい言葉を投げかけているように思えるが、アーニャの心配は、日が暮れるまでにトマトソース付きのオムライスをちゃんと作れるの? という意味である。
「あっ、そうだった。随分と時間が経っちゃったし、今度は私がルーナちゃんの相手をするから、ジルはオムライスを作ってきて」
「うん、わかったぁー」
「じゃあ、またね、ジルくん。オムライス楽しみにしてるね~」
笑顔で手を振るルーナに見送られ、ジルはアーニャと一緒に部屋を後にした。そして、一緒にキッチンまで歩き進めて別れようとしたとき、ジルはアーニャの腕を両手でつかむ。
「アーニャお姉ちゃん、お願いがあるの」
さっきまでルーナと話していた嬉しそうな顔とは違い、ジルは真剣な顔でアーニャを見つめていた。……身長差があるため、やっぱり上目遣いで!
「な、なによ、いきなり。錬金術の試験には、手を貸せないわよ。少しくらいなら、ヒントを上げてもいいけど」
もうすでに、ベストアンサーをエリス経由で届けていることを、アーニャは知らない!
「あのね、どうしてもエリスお姉ちゃんに聞かれたくないし、アーニャお姉ちゃん以外に相談できそうな人がいないの。だから、ちょっとだけ時間ちょうだい」
「私以外に相談する人がいないなんて、もしかして、あんた……」
黒い噂で避けられたり、恐れられたりするアーニャは、ジルのことが急激に心配になってしまう。まだ小さくて呪いから回復したばかりなのに、嫌われているのではないか、と。
破壊神と言われようとも、本当のアーニャは心優しい女の子。急速に感情移入をしたアーニャは、胸がギュッと締め付けられるような思いになり、優しい目でジルを見つめ返す。
一方、切羽詰まったジルは、クリティカル攻撃を発動させる!
「あのね、勢いだけでここに来ちゃったけど、時間がないの。だから、お願い! 今度、違うタイプのオムライスを作るから」
追い打ちをかけるように、ジルはアーニャの心をえぐった。最高の殺し文句を使い、アーニャが逃げられないように完全包囲。さらに、ウルウルとした瞳で見上げ、可愛さアピールも忘れない。
ルーナの手の平でゴロゴロと転がった後、今度はアーニャを手の平で転がし始めてしまう!
「何でも話しなさい。こう見えて、得意分野は相談なのよ。冒険者として数々の依頼をこなしてきた私は、悩み相談のプロみたいなものね。じっくりと聞いてあげるわ」
立ったままでは相談ができないと思い、キッチンの椅子にジルを座らせ、アーニャは向かい合う。なお、アーニャがこういった相談を受けるのは、人生で初めてのことであり、ちょっと嬉しい。いつも話し合いや相談を担当しているのは、妹のルーナなのである。
そんなことを知らないジルは、両手をギュッと握り締め、アーニャにお願いをする。
「魔法を使ってるところを、見せてほしいの」
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