【完結】ちびっこ錬金術師は愛される

あろえ

文字の大きさ
上 下
21 / 99
第一章

第21話:ポーション作りをがんばる!2

しおりを挟む
 モヤモヤしたものがマナなのかなーと思い始めたジルは、見本品の低級ポーションと、自分が作った薬草スープを何度も見比べていた。

「なんでモヤモヤの種類が違うんだろう。空気のモヤモヤとも、またちょっと違うよね。ポーションのモヤモヤが一番きれいだもん」

 腕を組んで考え始めるが、なかなか答えは出てこない。未使用の薬草にもモヤモヤが存在するため、さらに頭を悩ませていた。

「でも、マナは絶対これだと思うんだけどなぁ。魔法もポーションもなかった夢の中の世界では、こんなモヤモヤとしたものはなかったから」

 マナ、それは、空気中に含まれる酸素のような存在。普通に過ごしていたら、認識することすら難しい。錬金術師になれない人の多くは、マナの存在を認識できず、自分自身の魔力を用いて物質変換を試みるため、薬草スープをポーションに変換できずにいた。

 この世界の植物や動物は、体内に取り込まれたマナを魔力というエネルギーに変換する働きがあり、魔力を使う魔法を得意とする者は多いが、マナを使う錬金術を難しく感じる傾向にある。

 例えるなら、息を吸う前の空気がマナであり、息を吐いた後の空気が魔力になる。魔力を使ってできるのは魔法であり、マナを使ってできるものは錬金術。似てはいるものの、まったく別の存在に変わるのだ。

 そんな気難しいことをジルがわかるわけもないのだが……、偶然にも、地球で過ごした前世の記憶が蘇ったばかり。呪いに悩まされた影響でモヤモヤするものを感じると思っていたけれど、エリスの言葉とポーションを見て、考えが変わり始めていた。

 このモヤモヤを使えば、薬草スープがポーションになるんじゃないか、と。

 思い立ったが吉日。早速、ジルは自分が作り出した薬草スープにマナを収束させ、ポーションを作り出……。

「どうやってマナを使えばいいんだろう。僕は学校に行ってないから、魔法も習ったことがないし。うーん、エリスお姉ちゃんにも相談できない、よね……」

 モヤモヤしたものがマナとわかっても、まだジルは十歳。三年も寝込んでいたこともあって、魔力を使う魔法にもあまり馴染みはない。そのため、すぐに行動はできなかった。

 そして、マナが見えていない姉に、「モヤモヤしたものをポーション作りに使いたいんだけど、どうすればいいと思う?」と、相談することもできない。もし相談すれば、マナが認識でないエリスを心配させてしまうだろう。

 三年もツライ思いをさせた姉に、ジルはこれ以上の心配をかけたくない。呪いから解放された後、このことをジルが相談せずにいたのも、エリスを思ってのこと。

 マナの存在を把握できただけでも、錬金術師として大きな一歩を歩みだしているのだが……、早くも大きな壁にぶつかってしまう。

「とりあえず、何か作りながら考え……ん?」

 先ほどまで焼いていた薬草ステーキが目に入ったジルは、違和感を覚えた。

「焼いた薬草にはモヤモヤがないけど、使ってない薬草にはモヤモヤがある。薬草スープにもモヤモヤがあるけど、真水にはモヤモヤがない。でも、ポーションのモヤモヤとはちょっと違って……。あーーーん、もう。全然わかんないよぉーーー!」

 難しい! ジルには難し過ぎたのである! ぴえんっ!!

 前世の記憶があるとはいえ、今はまだ十歳の小さな男の子。ましてや、三年も寝たきりで過ごし続けたため、精神年齢は同年代の子供よりも低い。

 心の中で「エリスお姉ちゃん、一人じゃ寂しいよぉ」なんて泣きべそモードになりつつも、「でも、アーニャお姉ちゃんのためにがんばるだもーん」と、決して逃げ出すことはない。

 こういう時に思い出すのは、前世で料理を習得した特訓の日々。ジルの頭の中には、料理以外の専門知識は存在しないのだ!

 よって、思考が再び料理人モードに切り替わる。鍋に水を入れ、コンロの上に置き、ジルは火を付けた!

「やっぱり、一番出汁を取るべきだと思う」

 沸騰したお湯に薬草を入れるジルなのだが……、しばらくして、最初に作った薬草スープが出来上がってしまうのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!

よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。

異世界人生を楽しみたい そのためにも赤ん坊から努力する

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は朝霧 雷斗(アサギリ ライト) 前世の記憶を持ったまま僕は別の世界に転生した 生まれてからすぐに両親の持っていた本を読み魔法があることを学ぶ 魔力は筋力と同じ、訓練をすれば上達する ということで努力していくことにしました

転生したので好きに生きよう!

ゆっけ
ファンタジー
前世では妹によって全てを奪われ続けていた少女。そんな少女はある日、事故にあい亡くなってしまう。 不思議な場所で目覚める少女は女神と出会う。その女神は全く人の話を聞かないで少女を地上へと送る。 奪われ続けた少女が異世界で周囲から愛される話。…にしようと思います。 ※見切り発車感が凄い。 ※マイペースに更新する予定なのでいつ次話が更新するか作者も不明。

義妹がピンク色の髪をしています

ゆーぞー
ファンタジー
彼女を見て思い出した。私には前世の記憶がある。そしてピンク色の髪の少女が妹としてやって来た。ヤバい、うちは男爵。でも貧乏だから王族も通うような学校には行けないよね。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

処理中です...