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第一章
第20話:ポーション作りをがんばる!1
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翌日、錬金術ギルドにやって来たジルは、気合いが入っていた。エリスから低級ポーション作成キットをもらった後、作業部屋にこもってポーション作成に励んでいる。
――アーニャお姉ちゃんに呪いを解いてもらったんだから、僕が頑張らないと。
ルーナの呪いのことを聞いて、子供なりに何かを悟ったジルは、キリッと表情が引き締まっていた。
普通の子供であれば、いきなりポーションを作れ、と言われても困るだけ。しかし、ジルは前世で料理の勉強を続けていたことで、創作料理を考案するくらいの知識がある。
つまり、やる気を出せば、ポーションを作るためのアイデアがどんどんと沸いてくるのだ!
「うーん、焦げた薬草はダメみたい。次は薬草のステーキにしよう」
ただし、アイデアが正しいとは限らない! 思考は調理に近いため、今はフライパンの代わりに鍋を使い、薬草を焼いている。錬金術でフライパンを使う工程など存在するはずもなく、作業部屋に用意されていなかった。
ちなみに、品質よりも量を優先する場合は鍋を使うこともあるため、小さなコンロが備え付けられている。主に、錬金術師の上級者が使用し、錬金術見習いが使うことはないのだが……、料理を得意とするジルは、鍋やコンロの方が使い慣れていた。
そもそも、低ランクポーション作成キットに調理器具が入っていないため、薬草を焼くという行為は誰もしないのだが、本人が気づくはずもない。
「薬草のステーキもダメそうだなぁ。他に葉っぱだけで作れそうな料理は……、天ぷら! でも、油がない」
ポーションは液体だということも忘れる、ジル。完全に思考が料理へシフトしている。
その後も試行錯誤をして、調合しているのか調理しているのかわからない、ジルの錬金術が進んでいく。
しかし、薬草を真水に浸しても、クタクタになるまで煮ても、冷やしてみても、一向にポーションらしきものは作れない。薬草のエキスが真水に溶け込んだ不味いスープと、薬草を焼いたステーキ……ではなく、ただの焦げた草ができただけだった。
***
正午になると、昼休憩のエリスと一緒にサンドウィッチを食べる。頑張っても何の成果も得られなかったジルは、まだ二日目なのに落ち込んでいた。
「あっ、そうだ。低級ポーションの見本品を持ってきたよ。最初はもっと悪いものが作れるようになると思うけど、これがHP回復ポーション(小)だね」
エリスから受け取ったポーションは、薄い青色だった。光にかざしてみても、やっぱり青い。自分が作ったものと比べてみると、薬草のエキスがにじみ出ただけの緑色の薬草スープで、ポーションとは一目で違うことがわかる。
しかし、ジルが一番気になったのは、見た目ではなかった。
――ポーションって、変な感じのモヤモヤがあるんだなぁ。目に見えない空気みたいなものが、綺麗に溶け込んでるような……。
ジーッとポーションを観察するジルの頭を、エリスは優しく撫で始める。
「まだ二日目だし、焦っちゃダメだよ。簡単にできるものじゃないの。錬金術師になれる人はほんの一握りしかいないんだから、もっと落ち着いてやった方がいいよ」
エリスは慰めるように声をかけたが、それだけ厳しい試験にジルは挑んでいる。
誰でも慣れる冒険者と違うのは、百人に一人の割合でしか錬金術師になれないと言われるほど、門が狭い。訓練しても練習しても、才能がないものはポーションを作れないからだ。そのため、無駄な薬草の出費を防ぎ、才能のある人材を確保するようになって、必要以上にレシピを公開しなくなっていった。
偽ポーションが出回ってしまえば、多くの人の命を奪うテロになりかねない世界なのである。
だが、可愛い弟が頑張ろうとしている姿を見て、姉であるエリスが我慢できるはずもない。ポーションを作れない自分には見守ることしかできないと思っていたけれど、たった一つだけ、アドバイスを口にしてしまう。
「独り言なんだけど、空気中のマナを集束させて、物質変換させるだけで誰でもポーションは作れるって、アーニャさんが言ってたなー。錬金術ができる人からすれば、簡単なんだなー」
「えっ? アーニャお姉ちゃんが?」
錬金術ギルドの廊下でアーニャと話していたときのこと。オムライスの誘惑に負けたアーニャが、ついついこぼしてしまったベストアンサーを、エリスはしっかりと聞いていた。一晩考えてもわからなかったので、アーニャの言葉をそのまま伝える形になってしまったけれど。
「アーニャさんが言ってたことを思い出してただけだから、気にしないで。ただの独り言なの。それじゃあ、午後も頑張ってね。私は途中でルーナちゃんの様子を見に行くけど、夕方になったら迎えに来るから」
それだけ言うと、エリスは部屋を出ていった。
一人でポツーンと取り残されたジルは、低級ポーションをジーッと眺めて、エリスが言い残した言葉の意味を考える。
ポーションを作れるアーニャは簡単に言ってしまうが、マナを用いて物質変換するのは難しい。現にエリスは、答えを聞いても何も理解できていなかった。物質変換する工程を見たことがないし、マナという言葉を知っていても、存在を認識したことがないため、想像もできないのだ。
マナを感じられない人にマナの話をしても、絶対に伝わらないことであって……。
「ポーションのモヤモヤした感じって、もしかして、これがマナなのかな。夢の中の世界ではなかったけど、こっちだと空気中にいっぱいあるもんね」
わかっちゃう人も……たまにいる!
――アーニャお姉ちゃんに呪いを解いてもらったんだから、僕が頑張らないと。
ルーナの呪いのことを聞いて、子供なりに何かを悟ったジルは、キリッと表情が引き締まっていた。
普通の子供であれば、いきなりポーションを作れ、と言われても困るだけ。しかし、ジルは前世で料理の勉強を続けていたことで、創作料理を考案するくらいの知識がある。
つまり、やる気を出せば、ポーションを作るためのアイデアがどんどんと沸いてくるのだ!
「うーん、焦げた薬草はダメみたい。次は薬草のステーキにしよう」
ただし、アイデアが正しいとは限らない! 思考は調理に近いため、今はフライパンの代わりに鍋を使い、薬草を焼いている。錬金術でフライパンを使う工程など存在するはずもなく、作業部屋に用意されていなかった。
ちなみに、品質よりも量を優先する場合は鍋を使うこともあるため、小さなコンロが備え付けられている。主に、錬金術師の上級者が使用し、錬金術見習いが使うことはないのだが……、料理を得意とするジルは、鍋やコンロの方が使い慣れていた。
そもそも、低ランクポーション作成キットに調理器具が入っていないため、薬草を焼くという行為は誰もしないのだが、本人が気づくはずもない。
「薬草のステーキもダメそうだなぁ。他に葉っぱだけで作れそうな料理は……、天ぷら! でも、油がない」
ポーションは液体だということも忘れる、ジル。完全に思考が料理へシフトしている。
その後も試行錯誤をして、調合しているのか調理しているのかわからない、ジルの錬金術が進んでいく。
しかし、薬草を真水に浸しても、クタクタになるまで煮ても、冷やしてみても、一向にポーションらしきものは作れない。薬草のエキスが真水に溶け込んだ不味いスープと、薬草を焼いたステーキ……ではなく、ただの焦げた草ができただけだった。
***
正午になると、昼休憩のエリスと一緒にサンドウィッチを食べる。頑張っても何の成果も得られなかったジルは、まだ二日目なのに落ち込んでいた。
「あっ、そうだ。低級ポーションの見本品を持ってきたよ。最初はもっと悪いものが作れるようになると思うけど、これがHP回復ポーション(小)だね」
エリスから受け取ったポーションは、薄い青色だった。光にかざしてみても、やっぱり青い。自分が作ったものと比べてみると、薬草のエキスがにじみ出ただけの緑色の薬草スープで、ポーションとは一目で違うことがわかる。
しかし、ジルが一番気になったのは、見た目ではなかった。
――ポーションって、変な感じのモヤモヤがあるんだなぁ。目に見えない空気みたいなものが、綺麗に溶け込んでるような……。
ジーッとポーションを観察するジルの頭を、エリスは優しく撫で始める。
「まだ二日目だし、焦っちゃダメだよ。簡単にできるものじゃないの。錬金術師になれる人はほんの一握りしかいないんだから、もっと落ち着いてやった方がいいよ」
エリスは慰めるように声をかけたが、それだけ厳しい試験にジルは挑んでいる。
誰でも慣れる冒険者と違うのは、百人に一人の割合でしか錬金術師になれないと言われるほど、門が狭い。訓練しても練習しても、才能がないものはポーションを作れないからだ。そのため、無駄な薬草の出費を防ぎ、才能のある人材を確保するようになって、必要以上にレシピを公開しなくなっていった。
偽ポーションが出回ってしまえば、多くの人の命を奪うテロになりかねない世界なのである。
だが、可愛い弟が頑張ろうとしている姿を見て、姉であるエリスが我慢できるはずもない。ポーションを作れない自分には見守ることしかできないと思っていたけれど、たった一つだけ、アドバイスを口にしてしまう。
「独り言なんだけど、空気中のマナを集束させて、物質変換させるだけで誰でもポーションは作れるって、アーニャさんが言ってたなー。錬金術ができる人からすれば、簡単なんだなー」
「えっ? アーニャお姉ちゃんが?」
錬金術ギルドの廊下でアーニャと話していたときのこと。オムライスの誘惑に負けたアーニャが、ついついこぼしてしまったベストアンサーを、エリスはしっかりと聞いていた。一晩考えてもわからなかったので、アーニャの言葉をそのまま伝える形になってしまったけれど。
「アーニャさんが言ってたことを思い出してただけだから、気にしないで。ただの独り言なの。それじゃあ、午後も頑張ってね。私は途中でルーナちゃんの様子を見に行くけど、夕方になったら迎えに来るから」
それだけ言うと、エリスは部屋を出ていった。
一人でポツーンと取り残されたジルは、低級ポーションをジーッと眺めて、エリスが言い残した言葉の意味を考える。
ポーションを作れるアーニャは簡単に言ってしまうが、マナを用いて物質変換するのは難しい。現にエリスは、答えを聞いても何も理解できていなかった。物質変換する工程を見たことがないし、マナという言葉を知っていても、存在を認識したことがないため、想像もできないのだ。
マナを感じられない人にマナの話をしても、絶対に伝わらないことであって……。
「ポーションのモヤモヤした感じって、もしかして、これがマナなのかな。夢の中の世界ではなかったけど、こっちだと空気中にいっぱいあるもんね」
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