【完結】ちびっこ錬金術師は愛される

あろえ

文字の大きさ
上 下
20 / 99
第一章

第20話:ポーション作りをがんばる!1

しおりを挟む
 翌日、錬金術ギルドにやって来たジルは、気合いが入っていた。エリスから低級ポーション作成キットをもらった後、作業部屋にこもってポーション作成に励んでいる。

 ――アーニャお姉ちゃんに呪いを解いてもらったんだから、僕が頑張らないと。

 ルーナの呪いのことを聞いて、子供なりに何かを悟ったジルは、キリッと表情が引き締まっていた。

 普通の子供であれば、いきなりポーションを作れ、と言われても困るだけ。しかし、ジルは前世で料理の勉強を続けていたことで、創作料理を考案するくらいの知識がある。

 つまり、やる気を出せば、ポーションを作るためのアイデアがどんどんと沸いてくるのだ!

「うーん、焦げた薬草はダメみたい。次は薬草のステーキにしよう」

 ただし、アイデアが正しいとは限らない! 思考は調理に近いため、今はフライパンの代わりに鍋を使い、薬草を焼いている。錬金術でフライパンを使う工程など存在するはずもなく、作業部屋に用意されていなかった。

 ちなみに、品質よりも量を優先する場合は鍋を使うこともあるため、小さなコンロが備え付けられている。主に、錬金術師の上級者が使用し、錬金術見習いが使うことはないのだが……、料理を得意とするジルは、鍋やコンロの方が使い慣れていた。

 そもそも、低ランクポーション作成キットに調理器具が入っていないため、薬草を焼くという行為は誰もしないのだが、本人が気づくはずもない。

「薬草のステーキもダメそうだなぁ。他に葉っぱだけで作れそうな料理は……、天ぷら! でも、油がない」

 ポーションは液体だということも忘れる、ジル。完全に思考が料理へシフトしている。

 その後も試行錯誤をして、調合しているのか調理しているのかわからない、ジルの錬金術が進んでいく。

 しかし、薬草を真水に浸しても、クタクタになるまで煮ても、冷やしてみても、一向にポーションらしきものは作れない。薬草のエキスが真水に溶け込んだ不味いスープと、薬草を焼いたステーキ……ではなく、ただの焦げた草ができただけだった。

 ***

 正午になると、昼休憩のエリスと一緒にサンドウィッチを食べる。頑張っても何の成果も得られなかったジルは、まだ二日目なのに落ち込んでいた。

「あっ、そうだ。低級ポーションの見本品を持ってきたよ。最初はもっと悪いものが作れるようになると思うけど、これがHP回復ポーション(小)だね」

 エリスから受け取ったポーションは、薄い青色だった。光にかざしてみても、やっぱり青い。自分が作ったものと比べてみると、薬草のエキスがにじみ出ただけの緑色の薬草スープで、ポーションとは一目で違うことがわかる。

 しかし、ジルが一番気になったのは、見た目ではなかった。

 ――ポーションって、変な感じのモヤモヤがあるんだなぁ。目に見えない空気みたいなものが、綺麗に溶け込んでるような……。

 ジーッとポーションを観察するジルの頭を、エリスは優しく撫で始める。

「まだ二日目だし、焦っちゃダメだよ。簡単にできるものじゃないの。錬金術師になれる人はほんの一握りしかいないんだから、もっと落ち着いてやった方がいいよ」

 エリスは慰めるように声をかけたが、それだけ厳しい試験にジルは挑んでいる。

 誰でも慣れる冒険者と違うのは、百人に一人の割合でしか錬金術師になれないと言われるほど、門が狭い。訓練しても練習しても、才能がないものはポーションを作れないからだ。そのため、無駄な薬草の出費を防ぎ、才能のある人材を確保するようになって、必要以上にレシピを公開しなくなっていった。

 偽ポーションが出回ってしまえば、多くの人の命を奪うテロになりかねない世界なのである。

 だが、可愛い弟が頑張ろうとしている姿を見て、姉であるエリスが我慢できるはずもない。ポーションを作れない自分には見守ることしかできないと思っていたけれど、たった一つだけ、アドバイスを口にしてしまう。

「独り言なんだけど、空気中のマナを集束させて、物質変換させるだけで誰でもポーションは作れるって、アーニャさんが言ってたなー。錬金術ができる人からすれば、簡単なんだなー」

「えっ? アーニャお姉ちゃんが?」

 錬金術ギルドの廊下でアーニャと話していたときのこと。オムライスの誘惑に負けたアーニャが、ついついこぼしてしまったベストアンサーを、エリスはしっかりと聞いていた。一晩考えてもわからなかったので、アーニャの言葉をそのまま伝える形になってしまったけれど。

「アーニャさんが言ってたことを思い出してただけだから、気にしないで。ただの独り言なの。それじゃあ、午後も頑張ってね。私は途中でルーナちゃんの様子を見に行くけど、夕方になったら迎えに来るから」

 それだけ言うと、エリスは部屋を出ていった。

 一人でポツーンと取り残されたジルは、低級ポーションをジーッと眺めて、エリスが言い残した言葉の意味を考える。

 ポーションを作れるアーニャは簡単に言ってしまうが、マナを用いて物質変換するのは難しい。現にエリスは、答えを聞いても何も理解できていなかった。物質変換する工程を見たことがないし、マナという言葉を知っていても、存在を認識したことがないため、想像もできないのだ。

 マナを感じられない人にマナの話をしても、絶対に伝わらないことであって……。

「ポーションのモヤモヤした感じって、もしかして、これがマナなのかな。夢の中の世界ではなかったけど、こっちだと空気中にいっぱいあるもんね」

 わかっちゃう人も……たまにいる!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

今度生まれ変わることがあれば・・・全て忘れて幸せになりたい。・・・なんて思うか!!

れもんぴーる
ファンタジー
冤罪をかけられ、家族にも婚約者にも裏切られたリュカ。 父に送り込まれた刺客に殺されてしまうが、なんと自分を陥れた兄と裏切った婚約者の一人息子として生まれ変わってしまう。5歳になり、前世の記憶を取り戻し自暴自棄になるノエルだったが、一人一人に復讐していくことを決めた。 メイドしてはまだまだなメイドちゃんがそんな悲しみを背負ったノエルの心を支えてくれます。 復讐物を書きたかったのですが、生ぬるかったかもしれません。色々突っ込みどころはありますが、おおらかな気持ちで読んでくださると嬉しいです(*´▽`*) *なろうにも投稿しています

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

水しか操れない無能と言われて虐げられてきた令嬢に転生していたようです。ところで皆さん。人体の殆どが水分から出来ているって知ってました?

ラララキヲ
ファンタジー
 わたくしは出来損ない。  誰もが5属性の魔力を持って生まれてくるこの世界で、水の魔力だけしか持っていなかった欠陥品。  それでも、そんなわたくしでも侯爵家の血と伯爵家の血を引いている『血だけは価値のある女』。  水の魔力しかないわたくしは皆から無能と呼ばれた。平民さえもわたくしの事を馬鹿にする。  そんなわたくしでも期待されている事がある。  それは『子を生むこと』。  血は良いのだから次はまともな者が生まれてくるだろう、と期待されている。わたくしにはそれしか価値がないから……  政略結婚で決められた婚約者。  そんな婚約者と親しくする御令嬢。二人が愛し合っているのならわたくしはむしろ邪魔だと思い、わたくしは父に相談した。  婚約者の為にもわたくしが身を引くべきではないかと……  しかし……──  そんなわたくしはある日突然……本当に突然、前世の記憶を思い出した。  前世の記憶、前世の知識……  わたくしの頭は霧が晴れたかのように世界が突然広がった……  水魔法しか使えない出来損ない……  でも水は使える……  水……水分……液体…………  あら? なんだかなんでもできる気がするわ……?  そしてわたくしは、前世の雑な知識でわたくしを虐げた人たちに仕返しを始める……──   【※女性蔑視な発言が多々出てきますので嫌な方は注意して下さい】 【※知識の無い者がフワッとした知識で書いてますので『これは違う!』が許せない人は読まない方が良いです】 【※ファンタジーに現実を引き合いに出してあれこれ考えてしまう人にも合わないと思います】 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるよ! ◇なろうにも上げてます。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

処理中です...