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第一章
第18話:オムライスを食べる
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トマトソースがかけられたオムライスを渡され、椅子に座ったアーニャは嬉しそうに眺めていた。
「チキンライスの上にトロトロの卵が覆い被さる、半熟卵パターン! そこに鮮やかな赤いトマトソースがかけられ、崩れきっていないトマトがヒョコヒョコと顔を出し、爽やかさを演出。何より、ここまでフレッシュなトマトソースの香りが、今までのオムライスにはなかったわ」
よくもまあ、オムライスを見ただけでそこまで饒舌になりますね、と、エリスは少しばかり温かい目で見ていた。
目をキラキラと輝かせる姿は、エリスが憧れているアーニャとはかけ離れている。どちらかといえば、弟のジルのように無邪気な雰囲気。意外な一面ではあるものの……、子供っぽい。
「よかったですね、アーニャさん。おいしそうなオムライスが出てきて」
思わず、子供扱いしてしまうほど、アーニャが幼く見えていた。
しかし、相手はあくまで【破壊神】アーニャなのだ。冒険者たちが恐れ、黒い噂が後を絶たない問題児。その牙が、エリスに襲い掛かる……!
「エリス。このオムライスを見て、それだけなの?」
「……えっ?」
オムライスの悪口は決して言ってはならない。だが、新作オムライスを称賛しないなど、アーニャにとってはあり得ないことなのである!
「このオムライスを見て、それだけしか感想が出てこないのって聞いてるのよ! 普通はもっと色々あるでしょ。トロトロの半熟卵に包まれてみたいとか、トマトソースのお風呂に入りたいとか、チキンライスと一緒に眠りたいとか! なんでオムライスを褒める言葉が出てこないのよ!」
アーニャも褒めていない! 誰からも理解されない、謎の願望を公表しただけ!
今までで見たこともないようなアーニャの鋭い視線を向けられたエリスは、そのことに気づいていないが。
「いや、あの、ほら。弟のジルが作ったことに感動しちゃって、そっちに目がいってしまうんです。大切な弟なので。よ、よーし、ジルはいい子だね。頑張ったねー」
オムライス信者からの逃亡を試みて、エリスは必死に弟を甘やかす。完全に棒読みになり、高速で頭を撫でてくるエリスに、さすがのジルも状況を把握。
まだ食べてもいないのに加熱するアーニャのオムライス愛を目の当たりにして、ジルの心に不安が募り始める。
口に合わなかったらどうしようか、と。
「それもそうね。弟想いのエリスなら、仕方がないことだわ」
妹思いのアーニャは共感したため、エリスは謎のプレッシャーから解放された。
「私はオムライスに感謝して、先に食べるわ。早くルーナの分も作ってあげて。きっと楽しみにしてるから」
「わ、わかりました! ほら、ジル。ルーナちゃんの分も作ってあげて」
「う、うん」
エリスに急かされ、ジルはルーナの分を作り始めよう……としたものの、オムライスを食べ始めるアーニャの反応が気になって仕方がない。卵を溶きながらチラチラ確認していると、急にアーニャが机をバンッ! と叩いた。ビクッとジルは怯えるのだが、おいしそうにオムライスを頬張るアーニャを見れば、杞憂だったとわかる。
そして、アーニャの饒舌が次々に炸裂する!
「あんた天才ね! オムライス界の先駆者になれるわ!」
「チキンライスも基礎がしっかりしてるわね。良い腕前よ」
「王城で出されるオムライス並みにおいしいわね」
と、後ろから何度も声をかけ続けてくるのだ。その都度、「あ、ありがと……」と律義に答えるジルは、ルーナの卵を焼くことができない。
同じくらいオムライス好きのルーナが待っているため、心を鬼にして、ジルはアーニャを無視することにした。
「チキンライスにトマトソースをかけてもいいんじゃない? むしろ、焼いたチキンにかけてもおいしいわよ。そのままトマトソースだけっていうのは……、何よ、意外にいけるわね。実質、トマトソースという名のスープね」
ジルは聞いていないが、エリスが相槌を打っているため、アーニャの饒舌が止まる気配はない。
ルーナの分の卵が焼き上がると、急いでトマトソースをかけ、ジルとエリスはアーニャの元から離れた。いつオムライスについて意見を求められるか、戦々恐々としていた二人は、キッチンから逃げ出したかったのだ。
迷うことなく歩き進めた二人は、ルーナの部屋へ逃げ込む。すると、器用に下半身を動かさずに、ベッドの上でのたうち回るルーナがいた。
「えーっ! エリスさん、それは待って! 思ってたオムライスと違いますから! キャー! 半熟卵とトマトソースの色合いに引き込まれて、やだー! 照れちゃうー!!」
まだこっちのオムライス信者の方が可愛い、そう思う二人だった。
「チキンライスの上にトロトロの卵が覆い被さる、半熟卵パターン! そこに鮮やかな赤いトマトソースがかけられ、崩れきっていないトマトがヒョコヒョコと顔を出し、爽やかさを演出。何より、ここまでフレッシュなトマトソースの香りが、今までのオムライスにはなかったわ」
よくもまあ、オムライスを見ただけでそこまで饒舌になりますね、と、エリスは少しばかり温かい目で見ていた。
目をキラキラと輝かせる姿は、エリスが憧れているアーニャとはかけ離れている。どちらかといえば、弟のジルのように無邪気な雰囲気。意外な一面ではあるものの……、子供っぽい。
「よかったですね、アーニャさん。おいしそうなオムライスが出てきて」
思わず、子供扱いしてしまうほど、アーニャが幼く見えていた。
しかし、相手はあくまで【破壊神】アーニャなのだ。冒険者たちが恐れ、黒い噂が後を絶たない問題児。その牙が、エリスに襲い掛かる……!
「エリス。このオムライスを見て、それだけなの?」
「……えっ?」
オムライスの悪口は決して言ってはならない。だが、新作オムライスを称賛しないなど、アーニャにとってはあり得ないことなのである!
「このオムライスを見て、それだけしか感想が出てこないのって聞いてるのよ! 普通はもっと色々あるでしょ。トロトロの半熟卵に包まれてみたいとか、トマトソースのお風呂に入りたいとか、チキンライスと一緒に眠りたいとか! なんでオムライスを褒める言葉が出てこないのよ!」
アーニャも褒めていない! 誰からも理解されない、謎の願望を公表しただけ!
今までで見たこともないようなアーニャの鋭い視線を向けられたエリスは、そのことに気づいていないが。
「いや、あの、ほら。弟のジルが作ったことに感動しちゃって、そっちに目がいってしまうんです。大切な弟なので。よ、よーし、ジルはいい子だね。頑張ったねー」
オムライス信者からの逃亡を試みて、エリスは必死に弟を甘やかす。完全に棒読みになり、高速で頭を撫でてくるエリスに、さすがのジルも状況を把握。
まだ食べてもいないのに加熱するアーニャのオムライス愛を目の当たりにして、ジルの心に不安が募り始める。
口に合わなかったらどうしようか、と。
「それもそうね。弟想いのエリスなら、仕方がないことだわ」
妹思いのアーニャは共感したため、エリスは謎のプレッシャーから解放された。
「私はオムライスに感謝して、先に食べるわ。早くルーナの分も作ってあげて。きっと楽しみにしてるから」
「わ、わかりました! ほら、ジル。ルーナちゃんの分も作ってあげて」
「う、うん」
エリスに急かされ、ジルはルーナの分を作り始めよう……としたものの、オムライスを食べ始めるアーニャの反応が気になって仕方がない。卵を溶きながらチラチラ確認していると、急にアーニャが机をバンッ! と叩いた。ビクッとジルは怯えるのだが、おいしそうにオムライスを頬張るアーニャを見れば、杞憂だったとわかる。
そして、アーニャの饒舌が次々に炸裂する!
「あんた天才ね! オムライス界の先駆者になれるわ!」
「チキンライスも基礎がしっかりしてるわね。良い腕前よ」
「王城で出されるオムライス並みにおいしいわね」
と、後ろから何度も声をかけ続けてくるのだ。その都度、「あ、ありがと……」と律義に答えるジルは、ルーナの卵を焼くことができない。
同じくらいオムライス好きのルーナが待っているため、心を鬼にして、ジルはアーニャを無視することにした。
「チキンライスにトマトソースをかけてもいいんじゃない? むしろ、焼いたチキンにかけてもおいしいわよ。そのままトマトソースだけっていうのは……、何よ、意外にいけるわね。実質、トマトソースという名のスープね」
ジルは聞いていないが、エリスが相槌を打っているため、アーニャの饒舌が止まる気配はない。
ルーナの分の卵が焼き上がると、急いでトマトソースをかけ、ジルとエリスはアーニャの元から離れた。いつオムライスについて意見を求められるか、戦々恐々としていた二人は、キッチンから逃げ出したかったのだ。
迷うことなく歩き進めた二人は、ルーナの部屋へ逃げ込む。すると、器用に下半身を動かさずに、ベッドの上でのたうち回るルーナがいた。
「えーっ! エリスさん、それは待って! 思ってたオムライスと違いますから! キャー! 半熟卵とトマトソースの色合いに引き込まれて、やだー! 照れちゃうー!!」
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