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第一章
第13話:アーニャさんはオムライスが好き
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ワーワーとアーニャが叫び終えると、ゼエゼエと大きく息を乱した。そこで、ようやくエリスが話の軌道を修正する。
「エリクサーをもらったことは事実ですし、私やジルにできることがあれば、遠慮なく言ってくださいね」
「別にいいって言ってるじゃない。いつもと同じように妹のルーナの面倒を見てくれたら、それで構わないわよ。私は気にしてないんだから」
「もう、遠慮しなくてもいいんですよ。弟の命を助けてもらった以上、こっちが気になるんですから」
エリスは不満気ではあるが、アーニャは遠慮しているわけではなかった。
元々この街の出身ではないアーニャが、心を許して接することができるのは、エリスしかいない。妹とも仲良くしてくれているエリスに、それ以上のことを求める気などなく、今の関係を続けてほしいと思っていた。
「あっ、そうだ。アーニャさんさえよければ、ルーナちゃんの元へジルも一緒に連れて行ってもいいですか?」
「却下ね。動けないルーナがいる家に、男を連れていくのは論外よ」
子供とはいえ、ジルは男。ましてや、アーニャの心に愛の乱れ撃ちを叩き込んだ男の子を、妹の前に連れ込むわけにはいかない。絶対に、拒否である。
だが、エリスも折れる気などない。アーニャの担当を二年も続けてきたエリスは、弱点を知っている。
周囲を確認して、耳うちをするように、そーっとアーニャの耳元にエリスは顔を近づけた。
「ここだけの話なんですけど、うちのジル、おいし~いオムライスを作れるんですよね。ルーナちゃんとも、元気になったら連れていく約束をしてたんですけど、ダメですか?」
普通、おいしいオムライスを作れるから、という理由で男を連れ込むことはない。それは当然のことだろう、なんでやねん! と、突っ込んで終わりである。……普通であれば。
そう、アーニャは普通ではないのだ。エリスに耳うちをされたいま、アーニャは驚愕の表情を浮かべている!
(なんですって! おいしいオムライスを作れるなんて、もう連れ込むしかないじゃない!)
なーんて思ってしまうほど、アーニャはオムライスが好き。大切な妹と同じくらい、オムライスが好き! 一日一食はオムライスを食べないと落ち着かないほど、オムライスが大好きっ!!
「……そ、そう。ルーナと約束してたのなら、仕方ないわね。ま、まあ、ついでにうちのキッチンくらいは使わせてあげてもいいわ。私も鬼じゃないから」
前言撤回することに必死なアーニャ。オムライスを作ってもらうことに必死なアーニャ。早くもオムライスが食べたくて仕方がない、それがアーニャなのである!
「じゃあ、ジルと伺いますね。たまには、オムライス以外にも食べた方がいいと思いますけど」
「うるさいわね。オムライスの良さがわかってない人は、だいたいそういうのよ。そんなことより、エリスの弟のオムライス、流派はどこ?」
「えっ? オムライスに流派とかあるんですか?」
「あるに決まってるじゃない。そんなことも知らなかったわけ? 仕方ないわね、どんな感じのオムライスだったか、詳しく話してみなさい。まずは具材からよ」
グイグイと圧をかけるように、アーニャは顔を近づけていく。
「鶏肉とタマネギ……でしたけど」
「はいはいはい、なるほどね。嫌いじゃないわ。オーソドックスな具材であり、シンプルに攻めるパターンよ。変化をつけてベーコンやハムを使ったり、ニンジンやピーマンを入れたりしないのは、それだけ腕に自信があるからかしら」
「多分、そこまで深くは考えていないと思います」
冷静なエリスのツッコミなど、頭がオムライスのことで頭がいっぱいのアーニャには通用しない。
「ベーコンを入れるなら、マッシュルームは必然よね。肉から溢れ出る油をキノコが吸い取り、ケチャップの酸味と合うんだから。そこにまろやかな卵が合わさることで、三位一体となるの。それで、卵はどうだったの? 多い派? 少ない派?」
「えっと、私は詳しくないですけど、卵を三つ使ってて、半熟で……」
「た、た、卵が半熟ですってー! 王城で出る最高級のオムライスパターンじゃないの! ふわふわの卵がチキンライスを包み込み、トロトロの卵がゆっくりと流れ落ちる、オムライスの大革命! 見た目以上に繊細で作ることが困難であり、この街では食べられないと思っていたのにッ!!」
オムライスの話になると急激に早口になるのは、アーニャがオムライスオタクだからである。目をキラキラと輝かせる姿は、エリスが二年間付き合ってきたなかで、一番嬉しそうだった。
「こうしてはいられないわ。今日の予定は全てキャンセルしなさい。今すぐ家に戻って、オムライスを食べるわ」
「ちょ、ちょっと待ってください。ジルはまだポーション作りの試験中で……」
「なに言ってんのよ! あんなの空気中のマナを集束させて、物質変換させるだけじゃない! 誰にでもできるわよ!」
試験中に大きな声で模範回答を言ってしまうアーニャ! だが、ジルの部屋は離れていて聞こえていない! そして、動揺するエリスも気づいていない!
なお、仕事中にアーニャの担当であるエリスが抜け出すことは黙認されている。錬金術ギルドは、アーニャに怒りを向けられたくないのだ。なぜなら、アーニャは破壊神だから。
「アーニャさんは元々冒険者で、魔法が得意だから簡単に作れただけですよ。それに、昼ごはんを食べたんじゃないんですか?」
「はあ? オムライスは別腹に決まってるじゃない」
「甘いものみたいに言わないでください!」
この後、アーニャの猛プッシュに圧倒されたエリスは、ジルを呼びに行くことになった。試験初日、まさかの命の恩人による妨害であった。
「エリクサーをもらったことは事実ですし、私やジルにできることがあれば、遠慮なく言ってくださいね」
「別にいいって言ってるじゃない。いつもと同じように妹のルーナの面倒を見てくれたら、それで構わないわよ。私は気にしてないんだから」
「もう、遠慮しなくてもいいんですよ。弟の命を助けてもらった以上、こっちが気になるんですから」
エリスは不満気ではあるが、アーニャは遠慮しているわけではなかった。
元々この街の出身ではないアーニャが、心を許して接することができるのは、エリスしかいない。妹とも仲良くしてくれているエリスに、それ以上のことを求める気などなく、今の関係を続けてほしいと思っていた。
「あっ、そうだ。アーニャさんさえよければ、ルーナちゃんの元へジルも一緒に連れて行ってもいいですか?」
「却下ね。動けないルーナがいる家に、男を連れていくのは論外よ」
子供とはいえ、ジルは男。ましてや、アーニャの心に愛の乱れ撃ちを叩き込んだ男の子を、妹の前に連れ込むわけにはいかない。絶対に、拒否である。
だが、エリスも折れる気などない。アーニャの担当を二年も続けてきたエリスは、弱点を知っている。
周囲を確認して、耳うちをするように、そーっとアーニャの耳元にエリスは顔を近づけた。
「ここだけの話なんですけど、うちのジル、おいし~いオムライスを作れるんですよね。ルーナちゃんとも、元気になったら連れていく約束をしてたんですけど、ダメですか?」
普通、おいしいオムライスを作れるから、という理由で男を連れ込むことはない。それは当然のことだろう、なんでやねん! と、突っ込んで終わりである。……普通であれば。
そう、アーニャは普通ではないのだ。エリスに耳うちをされたいま、アーニャは驚愕の表情を浮かべている!
(なんですって! おいしいオムライスを作れるなんて、もう連れ込むしかないじゃない!)
なーんて思ってしまうほど、アーニャはオムライスが好き。大切な妹と同じくらい、オムライスが好き! 一日一食はオムライスを食べないと落ち着かないほど、オムライスが大好きっ!!
「……そ、そう。ルーナと約束してたのなら、仕方ないわね。ま、まあ、ついでにうちのキッチンくらいは使わせてあげてもいいわ。私も鬼じゃないから」
前言撤回することに必死なアーニャ。オムライスを作ってもらうことに必死なアーニャ。早くもオムライスが食べたくて仕方がない、それがアーニャなのである!
「じゃあ、ジルと伺いますね。たまには、オムライス以外にも食べた方がいいと思いますけど」
「うるさいわね。オムライスの良さがわかってない人は、だいたいそういうのよ。そんなことより、エリスの弟のオムライス、流派はどこ?」
「えっ? オムライスに流派とかあるんですか?」
「あるに決まってるじゃない。そんなことも知らなかったわけ? 仕方ないわね、どんな感じのオムライスだったか、詳しく話してみなさい。まずは具材からよ」
グイグイと圧をかけるように、アーニャは顔を近づけていく。
「鶏肉とタマネギ……でしたけど」
「はいはいはい、なるほどね。嫌いじゃないわ。オーソドックスな具材であり、シンプルに攻めるパターンよ。変化をつけてベーコンやハムを使ったり、ニンジンやピーマンを入れたりしないのは、それだけ腕に自信があるからかしら」
「多分、そこまで深くは考えていないと思います」
冷静なエリスのツッコミなど、頭がオムライスのことで頭がいっぱいのアーニャには通用しない。
「ベーコンを入れるなら、マッシュルームは必然よね。肉から溢れ出る油をキノコが吸い取り、ケチャップの酸味と合うんだから。そこにまろやかな卵が合わさることで、三位一体となるの。それで、卵はどうだったの? 多い派? 少ない派?」
「えっと、私は詳しくないですけど、卵を三つ使ってて、半熟で……」
「た、た、卵が半熟ですってー! 王城で出る最高級のオムライスパターンじゃないの! ふわふわの卵がチキンライスを包み込み、トロトロの卵がゆっくりと流れ落ちる、オムライスの大革命! 見た目以上に繊細で作ることが困難であり、この街では食べられないと思っていたのにッ!!」
オムライスの話になると急激に早口になるのは、アーニャがオムライスオタクだからである。目をキラキラと輝かせる姿は、エリスが二年間付き合ってきたなかで、一番嬉しそうだった。
「こうしてはいられないわ。今日の予定は全てキャンセルしなさい。今すぐ家に戻って、オムライスを食べるわ」
「ちょ、ちょっと待ってください。ジルはまだポーション作りの試験中で……」
「なに言ってんのよ! あんなの空気中のマナを集束させて、物質変換させるだけじゃない! 誰にでもできるわよ!」
試験中に大きな声で模範回答を言ってしまうアーニャ! だが、ジルの部屋は離れていて聞こえていない! そして、動揺するエリスも気づいていない!
なお、仕事中にアーニャの担当であるエリスが抜け出すことは黙認されている。錬金術ギルドは、アーニャに怒りを向けられたくないのだ。なぜなら、アーニャは破壊神だから。
「アーニャさんは元々冒険者で、魔法が得意だから簡単に作れただけですよ。それに、昼ごはんを食べたんじゃないんですか?」
「はあ? オムライスは別腹に決まってるじゃない」
「甘いものみたいに言わないでください!」
この後、アーニャの猛プッシュに圧倒されたエリスは、ジルを呼びに行くことになった。試験初日、まさかの命の恩人による妨害であった。
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