上 下
53 / 54
第六章:BBQ

第53話:BBQ5

しおりを挟む
 大人たちの話し合いが終わり、野菜も焼いて、みんなでワイワイとBBQを楽しむ頃。

 一足早くお腹がいっぱいになった私は、アルくんの生態を観察していた。

「アルくん。さすがにこの食べ物は厳しいかい?」
「グルルルル」

 大丈夫だ、と力強い瞳で答えてくれたので、焼きとうもろこしをアルくんに差し出した。

 異世界に来る前に下茹でしておいたものだが、軽く焼き目を入れている。

 おいしい食べ物ではあるものの、人間でも食べにくい食材なので、さすがにアルくんには厳しいと思っていたのだが。

 私の手から焼きとうもろこしをクチバシで受け取ると、丸ごと口の中に入れてしまう。

「そ、そうきたか。エマに雑食と言われていたことを、すっかりと忘れていたよ」

 相変わらずムスッとはしているものの、ドヤ~! と、自慢げな表情をしているように見えた。

 満足げな表情で食事する子供は、他にもいるが。

「絶妙なホクホク加減とカリカリ感」
「BBQっていいよね~」

 焼きおにぎりを口にするエマと、焼きとうもろこしを食べるシルフくんは、もはや兄弟としか思えないほど打ち解けている。

 エマにとって、シルフくんは崇拝すべき風の妖精であるため、今までどこか遠慮しているように見えた。

 でも、一緒にBBQをしたことで、その壁がなくなったのかもしれない。二人で仲良く食事する姿は、とても微笑ましいと思った。

 一方、お父さんとノエルさんは、いつもと同じように過ごしている。

「外でのんびりと昼ごはんが食べられるなんて、何年ぶりだろうな」
「平穏な日常を過ごせることが、かけがえのない幸せですね」

 勇者として激動の時間を過ごしてきたであろうお父さんと、その旅に同行したノエルさんは、感傷に浸っている。

 平和な川辺で過ごす時間で、誰よりもスローライフを満喫しているような気がした。

 そんな中、意外だったのはホウオウさんだ。

 どうやらハンモックに興味を持ったみたいで、恐る恐る寝転がり、ユラユラと揺られている。

 思っている以上に人気のあるアイテムだと悟った瞬間であった。

 なんだかんだであまり話せていないなーと思った私は、ホウオウさんに近づいていく。

 そして、ハンモックで揺られる彼の顔を覗き込むと、なぜか真顔だった。

「ハンモックの寝心地はどうですか?」
「不思議な感じだな。馴染みのないものではあるが、悪くはないと思っているぞ」

 初めて体験する感覚に戸惑っているみたいだ。

 こんな形で日々の疲れが抜けるのであれば、貢ぎ物として献上するのもいいかもしれない。

 さすがにみんなで使ったものを貢ぐわけにはいかないので、本当に気に入っているのかどうか、後で確認しておこう。

 ただ、ホウオウさんの表情を見る限りは、使命感から解放されたかのように、とても穏やかだった。

「こうして結界から離れて、外に出かける日が増えるとは、夢にも思わなかったな」
「私もインドア派なので、気持ちはわかります。これはちょっと不躾な質問になってしまいますが、何千年も神殿で暮らしていたら、息が詰まったり、他の場所に移ったりしたいと思わないんですか?」
「祀られる妖精は、居心地が良いと思わない限り、国の行く末を見守ろうとは思わない。俺にとっては、いつまでも神殿が最高の家だ」

 新しいものに興味が移りやすい人と違って、長い時間を生きる妖精は、飽きにくい性格なのかもしれない。

 神殿を建てた人たちとの思い出もあるのかもしれないけど、迷わずに言い切れるのは、普通にすごいと思った。

「無論、たまにはこういった息抜きも必要だと思うが」
「そう言っていただけると嬉しいですね。無理に付き合わせていないかと、心配していたんですよ」
「自分から率先して動かない分、誘ってもらえるのはありがたいと思っているぞ。神殿に閉じこもってばかりだと、また百年後に人の前に姿を現すのとになるかもしれないからな」

 確かに……と納得してしまうほどには、人間と妖精で時間間隔が違う。

 風の妖精で落ち着かないシルフくんは例外で、きっとのんびり屋さんの妖精が多いんだろう。

 そんなことを考えていると、ハンモックで横になっていたホウオウさんが起き上がった。

「さっきからシルフの視線が気になる。もうそろそろこっちに来そうだな」
「ホウオウさんに遊んでもらいたいんじゃないですかね」
「ハンモックに興味があるんだろう。あいつは揺れるものに目がない」
「もはや、子供なのか猫なのかわからなくなってきましたね。いや、風の妖精なんですけどね」
「似たようなものだ。まあ、たまにはのんびりと遊んでやるのもいいかもしれないな」

 ホウオウさんがハンモックから降りると、狙っていたと言わんばかりにシルフくんが近づいてくる。

「ホウオウのじいちゃん。どっちが川で魚を多く採れるか、競争しようよ」

 どうやら狙っていたのは、ハンモックではなく、ホウオウさんだったらしい。

 本人も少し驚いた顔をしたものの、大きく頷いてあげている。

「いいだろう。その勝負、受けてたとう。ただし、食べられないほど小さな魚はかうんとせず、川に逃がしてやれよ」
「ふっふーん。それくらいはわかってるよ」

 この日、ホウオウさんとシルフくんが川に向かった後、今日の夜ごはんは異世界の魚になりそうだなーと思いながら、私は念願のハンモックに身を委ねる。

 お腹がいっぱいなるまでBBQを食べて、外で優雅に昼寝を楽しむ私は、あまりにもそれが心地よくて、すぐに眠ってしまうのであった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

推しの悪役令嬢を幸せにします!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:113pt お気に入り:213

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:120pt お気に入り:4,850

悪役令嬢と弟が相思相愛だったのでお邪魔虫は退場します!どうか末永くお幸せに!

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:433pt お気に入り:3,904

異世界に行ったら【いのちだいじに】な行動を心がけてみた

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:42pt お気に入り:625

手乗りドラゴンと行く追放公爵令息の冒険譚

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:4,531pt お気に入り:2,491

正しい聖女さまのつくりかた

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:840

王命で泣く泣く番と決められ、婚姻後すぐに捨てられました。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,448pt お気に入り:204

処理中です...