【完結】女神の使徒に選ばれた私の自由気ままな異世界旅行とのんびりスローライフ

あろえ

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第六章:BBQ

第53話:BBQ5

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 大人たちの話し合いが終わり、野菜も焼いて、みんなでワイワイとBBQを楽しむ頃。

 一足早くお腹がいっぱいになった私は、アルくんの生態を観察していた。

「アルくん。さすがにこの食べ物は厳しいかい?」
「グルルルル」

 大丈夫だ、と力強い瞳で答えてくれたので、焼きとうもろこしをアルくんに差し出した。

 異世界に来る前に下茹でしておいたものだが、軽く焼き目を入れている。

 おいしい食べ物ではあるものの、人間でも食べにくい食材なので、さすがにアルくんには厳しいと思っていたのだが。

 私の手から焼きとうもろこしをクチバシで受け取ると、丸ごと口の中に入れてしまう。

「そ、そうきたか。エマに雑食と言われていたことを、すっかりと忘れていたよ」

 相変わらずムスッとはしているものの、ドヤ~! と、自慢げな表情をしているように見えた。

 満足げな表情で食事する子供は、他にもいるが。

「絶妙なホクホク加減とカリカリ感」
「BBQっていいよね~」

 焼きおにぎりを口にするエマと、焼きとうもろこしを食べるシルフくんは、もはや兄弟としか思えないほど打ち解けている。

 エマにとって、シルフくんは崇拝すべき風の妖精であるため、今までどこか遠慮しているように見えた。

 でも、一緒にBBQをしたことで、その壁がなくなったのかもしれない。二人で仲良く食事する姿は、とても微笑ましいと思った。

 一方、お父さんとノエルさんは、いつもと同じように過ごしている。

「外でのんびりと昼ごはんが食べられるなんて、何年ぶりだろうな」
「平穏な日常を過ごせることが、かけがえのない幸せですね」

 勇者として激動の時間を過ごしてきたであろうお父さんと、その旅に同行したノエルさんは、感傷に浸っている。

 平和な川辺で過ごす時間で、誰よりもスローライフを満喫しているような気がした。

 そんな中、意外だったのはホウオウさんだ。

 どうやらハンモックに興味を持ったみたいで、恐る恐る寝転がり、ユラユラと揺られている。

 思っている以上に人気のあるアイテムだと悟った瞬間であった。

 なんだかんだであまり話せていないなーと思った私は、ホウオウさんに近づいていく。

 そして、ハンモックで揺られる彼の顔を覗き込むと、なぜか真顔だった。

「ハンモックの寝心地はどうですか?」
「不思議な感じだな。馴染みのないものではあるが、悪くはないと思っているぞ」

 初めて体験する感覚に戸惑っているみたいだ。

 こんな形で日々の疲れが抜けるのであれば、貢ぎ物として献上するのもいいかもしれない。

 さすがにみんなで使ったものを貢ぐわけにはいかないので、本当に気に入っているのかどうか、後で確認しておこう。

 ただ、ホウオウさんの表情を見る限りは、使命感から解放されたかのように、とても穏やかだった。

「こうして結界から離れて、外に出かける日が増えるとは、夢にも思わなかったな」
「私もインドア派なので、気持ちはわかります。これはちょっと不躾な質問になってしまいますが、何千年も神殿で暮らしていたら、息が詰まったり、他の場所に移ったりしたいと思わないんですか?」
「祀られる妖精は、居心地が良いと思わない限り、国の行く末を見守ろうとは思わない。俺にとっては、いつまでも神殿が最高の家だ」

 新しいものに興味が移りやすい人と違って、長い時間を生きる妖精は、飽きにくい性格なのかもしれない。

 神殿を建てた人たちとの思い出もあるのかもしれないけど、迷わずに言い切れるのは、普通にすごいと思った。

「無論、たまにはこういった息抜きも必要だと思うが」
「そう言っていただけると嬉しいですね。無理に付き合わせていないかと、心配していたんですよ」
「自分から率先して動かない分、誘ってもらえるのはありがたいと思っているぞ。神殿に閉じこもってばかりだと、また百年後に人の前に姿を現すのとになるかもしれないからな」

 確かに……と納得してしまうほどには、人間と妖精で時間間隔が違う。

 風の妖精で落ち着かないシルフくんは例外で、きっとのんびり屋さんの妖精が多いんだろう。

 そんなことを考えていると、ハンモックで横になっていたホウオウさんが起き上がった。

「さっきからシルフの視線が気になる。もうそろそろこっちに来そうだな」
「ホウオウさんに遊んでもらいたいんじゃないですかね」
「ハンモックに興味があるんだろう。あいつは揺れるものに目がない」
「もはや、子供なのか猫なのかわからなくなってきましたね。いや、風の妖精なんですけどね」
「似たようなものだ。まあ、たまにはのんびりと遊んでやるのもいいかもしれないな」

 ホウオウさんがハンモックから降りると、狙っていたと言わんばかりにシルフくんが近づいてくる。

「ホウオウのじいちゃん。どっちが川で魚を多く採れるか、競争しようよ」

 どうやら狙っていたのは、ハンモックではなく、ホウオウさんだったらしい。

 本人も少し驚いた顔をしたものの、大きく頷いてあげている。

「いいだろう。その勝負、受けてたとう。ただし、食べられないほど小さな魚はかうんとせず、川に逃がしてやれよ」
「ふっふーん。それくらいはわかってるよ」

 この日、ホウオウさんとシルフくんが川に向かった後、今日の夜ごはんは異世界の魚になりそうだなーと思いながら、私は念願のハンモックに身を委ねる。

 お腹がいっぱいなるまでBBQを食べて、外で優雅に昼寝を楽しむ私は、あまりにもそれが心地よくて、すぐに眠ってしまうのであった。
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