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第六章:BBQ
第50話:BBQ2
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BBQの食材を確保するため、川辺を離れた私は、エマとシルフくんと一緒に森の中を歩いていた。
「このあたりの森って、なんだか傾斜になってない?」
「うん、ちょっとした山だから。ここは魔物が多く生息している場所で、人里から離れている」
今まで転移魔法を使う際には、日本から王都に移動していたが、今回は違う。
BBQに適した場所に転移したこともあって、周囲の地形がさっぱりわからなかった。
「人里から離れているのなら、このあたりの魔物は人に悪影響を与える心配が少ないんだね」
「そうでもない。魔物同士で勢力争いをする分、生き残った魔物はかなり危険。繁殖しすぎると人里になだれ込むようになるため、警戒区域にも指定されている」
「ほえ~、危険な場所なんだ」
「うん、普通はね。年に一度は騎士団を派遣して、魔物を駆除するくらいだから」
危険な場所だと聞かされても、エマと呑気に会話するくらいには、緊張感がない。
この状況を可能にしているのは、風の妖精であるシルフくんのおかげだった。
「むっ。あっちに大きめの魔物がいるね。たぶん、豚の魔物のオークだよ」
風の魔力を用いて索敵してくれるため、予め危険を察知できる影響が大きい。戦闘が初心者の私でも、奇襲されない限りは対応できるだろう。
万が一のことがあったとしても、時の賢者であるエマが守ってくれるのだから、何も心配はいらない。
「じゃあ、作戦通りでお願いね。エマは守りに専念して、シルフくんが索敵で場所を教えてくれる。それで、私が攻撃の役割ね」
「うん、わかった」
「了解だよ」
ゲームみたいに魔物を倒して経験値が得られるわけではないけど、一人の魔法使いとして戦いを経験してみたい。
せっかくの風魔法の才能を腐らせるのはもったいないと思い、私は魔物に戦いを挑もうとしていた。
最強のボディーガードを引き連れ、BBQの食材を手にしたいという貪欲な心を持ちながら。
シルフくんの指示に従って、しばらく歩き進めると、すぐに大きな豚の魔物を発見する。
体長が二メートルはあるであろう魔物で、普通の人間ではとても敵いそうにないと思うほど、不気味なオーラを放っていた。
ひとまず、ちょっとだけビビった私は、エマの後ろに隠れる。
「あれが本物のオークなんだね……」
「うん。この距離で狙ったら、たぶん普通に勝てるよ?」
今ならわかる。以前、日本で車を見た時、私を盾にしたエマの気持ちが!
身を守るための防衛本能が働き、自然と体が動いてしまうのだ!
しかし、私はすでに火の妖精であるホウオウさんと対峙したり、王様に敵意を向けられたりした経験がある。
初めて見るオークであったとしても、手が震えるほどの恐怖を抱くことはなかった。
よって、つえを持った左手を前に出して、右手に魔力を込めて後ろに引く。
シルフくんの魔力特性ともっとも合う簡単な風魔法は――、
「ウィンドアロー」
シューンッと猛スピードで風の矢が放たれ、一直線にオークに襲い掛かる。
魔法の存在に気づいたオークが振り向いた時には、見事に風の矢が射抜いていた。
グオオオオオッ ドシーンッ
初めての狩りが無事に終わり、私は大きなため息をつく。
「ふぅー。これが動物だったら罪悪感で胸が締め付けられると思うけど、魔物だと心が痛まないね」
目の前で返り血を浴びたり、近接武器で戦ったりしていたら、また違う感情を抱いたのかもしれない。
安全な位置から魔法を放って、少しずつ戦いに慣れていこうと思っている。
「魔物相手に心を痛めていたら、この世界では生きていけない。どれだけ倒しても湧いてくるから、安全に倒せるなら倒した方がいい」
「でも、エマはいつも最低限の範囲でしか、魔物を倒さなくない? 率先して狩ってる姿を見たことがないんだけど」
「どこかに危険な魔物がいるかもしれないから、できるだけ力を温存している。生き残るためには、手を抜いて生活するくらいがちょうどいいって、ママが言ってた」
確かに、エルフが長寿の種族とはいえ、危険な世界を生き続けられるとは限らない。
二百四十年も生き抜いた経験は、エルフの中でも素晴らしい実績なんだろう。
「ノエルさんって、すごいんだね」
「うん。怒るとすごい怖い」
「ちょっと会話がズレてるけど、気持ちがわからなくないよ。優しい人ほど怒ると怖いからね」
変な形で話がまとまると、シルフくんが倒した魔物の方に向かって走っていった。
「じゃあ、ボクが魔法で魔物を解体するよ。胡桃はあっちを向いていた方がいいかもね」
「うん。お願いね」
「任せてよ。ボクのこと、見直しちゃっても知らないよー」
率先して魔物の処理をしてくれるシルフくんは、きっと褒められたい願望を持っているに違いない。
最近は忙しくて構ってあげられなかったから、妖精の契約者として、今日はいっぱい褒めてあげようと思った。
「このあたりの森って、なんだか傾斜になってない?」
「うん、ちょっとした山だから。ここは魔物が多く生息している場所で、人里から離れている」
今まで転移魔法を使う際には、日本から王都に移動していたが、今回は違う。
BBQに適した場所に転移したこともあって、周囲の地形がさっぱりわからなかった。
「人里から離れているのなら、このあたりの魔物は人に悪影響を与える心配が少ないんだね」
「そうでもない。魔物同士で勢力争いをする分、生き残った魔物はかなり危険。繁殖しすぎると人里になだれ込むようになるため、警戒区域にも指定されている」
「ほえ~、危険な場所なんだ」
「うん、普通はね。年に一度は騎士団を派遣して、魔物を駆除するくらいだから」
危険な場所だと聞かされても、エマと呑気に会話するくらいには、緊張感がない。
この状況を可能にしているのは、風の妖精であるシルフくんのおかげだった。
「むっ。あっちに大きめの魔物がいるね。たぶん、豚の魔物のオークだよ」
風の魔力を用いて索敵してくれるため、予め危険を察知できる影響が大きい。戦闘が初心者の私でも、奇襲されない限りは対応できるだろう。
万が一のことがあったとしても、時の賢者であるエマが守ってくれるのだから、何も心配はいらない。
「じゃあ、作戦通りでお願いね。エマは守りに専念して、シルフくんが索敵で場所を教えてくれる。それで、私が攻撃の役割ね」
「うん、わかった」
「了解だよ」
ゲームみたいに魔物を倒して経験値が得られるわけではないけど、一人の魔法使いとして戦いを経験してみたい。
せっかくの風魔法の才能を腐らせるのはもったいないと思い、私は魔物に戦いを挑もうとしていた。
最強のボディーガードを引き連れ、BBQの食材を手にしたいという貪欲な心を持ちながら。
シルフくんの指示に従って、しばらく歩き進めると、すぐに大きな豚の魔物を発見する。
体長が二メートルはあるであろう魔物で、普通の人間ではとても敵いそうにないと思うほど、不気味なオーラを放っていた。
ひとまず、ちょっとだけビビった私は、エマの後ろに隠れる。
「あれが本物のオークなんだね……」
「うん。この距離で狙ったら、たぶん普通に勝てるよ?」
今ならわかる。以前、日本で車を見た時、私を盾にしたエマの気持ちが!
身を守るための防衛本能が働き、自然と体が動いてしまうのだ!
しかし、私はすでに火の妖精であるホウオウさんと対峙したり、王様に敵意を向けられたりした経験がある。
初めて見るオークであったとしても、手が震えるほどの恐怖を抱くことはなかった。
よって、つえを持った左手を前に出して、右手に魔力を込めて後ろに引く。
シルフくんの魔力特性ともっとも合う簡単な風魔法は――、
「ウィンドアロー」
シューンッと猛スピードで風の矢が放たれ、一直線にオークに襲い掛かる。
魔法の存在に気づいたオークが振り向いた時には、見事に風の矢が射抜いていた。
グオオオオオッ ドシーンッ
初めての狩りが無事に終わり、私は大きなため息をつく。
「ふぅー。これが動物だったら罪悪感で胸が締め付けられると思うけど、魔物だと心が痛まないね」
目の前で返り血を浴びたり、近接武器で戦ったりしていたら、また違う感情を抱いたのかもしれない。
安全な位置から魔法を放って、少しずつ戦いに慣れていこうと思っている。
「魔物相手に心を痛めていたら、この世界では生きていけない。どれだけ倒しても湧いてくるから、安全に倒せるなら倒した方がいい」
「でも、エマはいつも最低限の範囲でしか、魔物を倒さなくない? 率先して狩ってる姿を見たことがないんだけど」
「どこかに危険な魔物がいるかもしれないから、できるだけ力を温存している。生き残るためには、手を抜いて生活するくらいがちょうどいいって、ママが言ってた」
確かに、エルフが長寿の種族とはいえ、危険な世界を生き続けられるとは限らない。
二百四十年も生き抜いた経験は、エルフの中でも素晴らしい実績なんだろう。
「ノエルさんって、すごいんだね」
「うん。怒るとすごい怖い」
「ちょっと会話がズレてるけど、気持ちがわからなくないよ。優しい人ほど怒ると怖いからね」
変な形で話がまとまると、シルフくんが倒した魔物の方に向かって走っていった。
「じゃあ、ボクが魔法で魔物を解体するよ。胡桃はあっちを向いていた方がいいかもね」
「うん。お願いね」
「任せてよ。ボクのこと、見直しちゃっても知らないよー」
率先して魔物の処理をしてくれるシルフくんは、きっと褒められたい願望を持っているに違いない。
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