【完結】女神の使徒に選ばれた私の自由気ままな異世界旅行とのんびりスローライフ

あろえ

文字の大きさ
上 下
49 / 54
第六章:BBQ

第49話:BBQ1

しおりを挟む
 刻々とデカ小豆を使った大人のどら焼きの発売日が近づく中、私たちは前祝いと言わんばかりに、エマの空間魔法で異世界に訪れていた。

 魔物のいる森があり、綺麗な水が流れる川辺でやることと言えば、もちろんBBQである。

「よしっ、今日は絶好のBBQ日和だね」

 雲一つない晴れ渡る空に、火が暴れそうな風もない。後はBBQの準備が整えば、いつでも始められるような状態だった。

 すでにシルフくんも人型で活動しているし、アルくんも召喚してもらっている。

「うおおおっ! アルくん、久しぶりだねえ!」
「グルルルルルッ!」

 先週はポスター作りの影響で異世界に来られなかったので、久しぶりにモフモフを堪能させていただく。

 首を傾げるノエルさんに不審な目を向けられてしまうが、気にする必要はない。

 アルくんと仲良く過ごしていても、悪いことはないのだから。

「あらっ、精霊鳥は人族に懐いたかしら……? まあ、胡桃ちゃんは風の妖精様と契約しているし、そういうこともあるわよね」

 人生経験が豊富すぎるノエルさんは、アッサリと受け入れてくれた。

 アルくんの威厳を保つためにも、どら焼き欲しさの行動だということは、内緒にしておこう。

 ノエルさんに見られないように背を向け、アルくんにコッソリとどら焼きを食べさせてあげた後、BBQの準備に取り掛かる。

「じゃあ、この川辺を拠点として、二手に分かれましょう。お父さんとノエルさんとアルくんで、BBQの準備を。私とエマとシルフくんで、魔物を狩りしてきます」

 弓使いのノエルさんと精霊鳥のアルくんが拠点を守れば、魔物が来ても問題はないだろう。

 そこに勇者のお父さんも合わさったら、絶対に大丈夫……なはずなんだけど。

「どうしてお父さんは、そんなに重装備なの?」

 全身を鎧で覆うプレートアーマーを着用しているだけでなく、顔が完全に隠れるような兜まで装着していた。

 もはや、外見だけでは誰なのかわからない。

 お父さんの重装備からは、絶対に怪我をしたくない、という強い意図が感じられる。

「これが父さんの勇者装備だ」
「……重くないの?」
「土龍の鱗を素材にしたインナーを着て、力と体力を底上げしている。暑い以外に問題はないぞ」
「た、大変なんだね。勇者って」
「勇者の仕事は、危険だったからな」

 異世界に誘う度、お父さんが難色を示したのは、この装備も原因の一つだったのかもしれない。

 こっちの世界だと違和感はないと思うけど、日本の感覚だと勇者っぽくないと思ってしまった。

 でも、娘としては、それくらい重装備をしていてくれた方が安心する。

 力も補強されているみたいなので、BBQの準備はスムーズにやってくれることだろう。

「エマ。収納魔法から食材以外のBBQセットを取り出して」
「うん、わかった」

 コクリッと頷いたエマは、鉄板や日よけのテント、ハンモックなど……様々なものを取り出してくれる。

 正直、ハンモックが必要だったのかはわからない。なんとなく憧れていたという理由だけで、さりげなく購入して、異世界に持ち込んでいた。

 こういう時でもないと体験できないから……と、購入したことを正当化していると、ノエルさんが嬉しそうに近づいてくる。

「まあっ! 異界のグッズがたくさんね。不思議なものばかりだわ」

 ノエルさんが興味深そうにしているので、今回は良しとしよう。ハンモックに興味を持つ人が二人になれば、持ってきても損はないと言えるはずだ。

 ただ、重装備で表情が見えないお父さんのことが気がかりだけど……、後のことはノエルさんに任せよう。

 実家で過ごす限り、夫婦水入らずの時間は限られているし、私が魔物を仕留めないと、BBQが始まらないから。

「じゃあ、私たちは狩りに行ってきますね。クーラーボックスに冷えたジュースやお茶を置いておくので、好きに飲んでください」
「ええ。ありがとう」
「気をつけてな」

 早速、BBQグッズに夢中になるお父さんとノエルさんを見届けた後、私は周囲を警戒してくれているアルくんに近づいた。

「アルくん用のジュース、ここに置いておくね。ペットボトルの蓋を開けておくから、こかさないように気をつけて」
「グルルルッ」
「後でおかわりもあげるから、遠慮せずに飲んでね」
「グルッ」

 前回、紙パックのジュースを器用に飲んだアルくんには、大きなストローを用意してあげたかったのだが……。

 さすがにストローを補佐してあげないと使えないと思い、今回は二リットルのペットボトルを用意した。

 中身は百パーセントのぶどうジュースなので、アルくんが気に入ってくれること間違いなし。

 お父さんとノエルさんの護衛にも、きっと張り切って対応してくれることだろう。

「後は任せたよ、アルくん」
「グルルッ」

 ジュースの香りを確認したアルくんのムスッとした表情が、今回ばかりはキリッと引き締まった気がした。

 やっぱり主人に似て、とても食欲に素直な子だと思う。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

アラフォー少女の異世界ぶらり漫遊記

道草家守
恋愛
書籍版が発売しました!旅立ち編から石城迷宮編まで好評レンタル中です! 若返りの元勇者、お忍び休暇を満喫す? 30歳で勇者召喚された三上祈里(女)は、魔王を倒し勇者王(男)として10年間統治していたが、転移特典のせいで殺到する見合いにうんざりしていた。 やさぐれた祈里は酒の勢いで「実年齢にモド〜ル」を飲むが、なぜか推定10歳の銀髪碧眼美少女になってしまう。  ……ちょっとまて、この美少女顔なら誰にも気づかれないのでは??? 溜まりまくった休暇を取ることにした祈里は、さくっと城を抜けだし旅に出た! せっかくの異世界だ、めいいっぱいおいしいもの食べて観光なんぞをしてみよう。 見た目は美少女、心はアラフォーの勇者王(+お供の傭兵)による、異世界お忍び満喫旅。 と、昔に置いてきた恋のあれこれ。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~

紅月シン
ファンタジー
 聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。  いや嘘だ。  本当は不満でいっぱいだった。  食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。  だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。  しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。  そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。  二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。  だが彼女は知らなかった。  三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。  知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。 ※完結しました。 ※小説家になろう様にも投稿しています

「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。 「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」 精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。 それでも生きるしかないリリアは決心する。 誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう! それなのに―…… 「麗しき私の乙女よ」 すっごい美形…。えっ精霊王!? どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!? 森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります

秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。 そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。 「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」 聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。

処理中です...