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第六章:BBQ
第49話:BBQ1
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刻々とデカ小豆を使った大人のどら焼きの発売日が近づく中、私たちは前祝いと言わんばかりに、エマの空間魔法で異世界に訪れていた。
魔物のいる森があり、綺麗な水が流れる川辺でやることと言えば、もちろんBBQである。
「よしっ、今日は絶好のBBQ日和だね」
雲一つない晴れ渡る空に、火が暴れそうな風もない。後はBBQの準備が整えば、いつでも始められるような状態だった。
すでにシルフくんも人型で活動しているし、アルくんも召喚してもらっている。
「うおおおっ! アルくん、久しぶりだねえ!」
「グルルルルルッ!」
先週はポスター作りの影響で異世界に来られなかったので、久しぶりにモフモフを堪能させていただく。
首を傾げるノエルさんに不審な目を向けられてしまうが、気にする必要はない。
アルくんと仲良く過ごしていても、悪いことはないのだから。
「あらっ、精霊鳥は人族に懐いたかしら……? まあ、胡桃ちゃんは風の妖精様と契約しているし、そういうこともあるわよね」
人生経験が豊富すぎるノエルさんは、アッサリと受け入れてくれた。
アルくんの威厳を保つためにも、どら焼き欲しさの行動だということは、内緒にしておこう。
ノエルさんに見られないように背を向け、アルくんにコッソリとどら焼きを食べさせてあげた後、BBQの準備に取り掛かる。
「じゃあ、この川辺を拠点として、二手に分かれましょう。お父さんとノエルさんとアルくんで、BBQの準備を。私とエマとシルフくんで、魔物を狩りしてきます」
弓使いのノエルさんと精霊鳥のアルくんが拠点を守れば、魔物が来ても問題はないだろう。
そこに勇者のお父さんも合わさったら、絶対に大丈夫……なはずなんだけど。
「どうしてお父さんは、そんなに重装備なの?」
全身を鎧で覆うプレートアーマーを着用しているだけでなく、顔が完全に隠れるような兜まで装着していた。
もはや、外見だけでは誰なのかわからない。
お父さんの重装備からは、絶対に怪我をしたくない、という強い意図が感じられる。
「これが父さんの勇者装備だ」
「……重くないの?」
「土龍の鱗を素材にしたインナーを着て、力と体力を底上げしている。暑い以外に問題はないぞ」
「た、大変なんだね。勇者って」
「勇者の仕事は、危険だったからな」
異世界に誘う度、お父さんが難色を示したのは、この装備も原因の一つだったのかもしれない。
こっちの世界だと違和感はないと思うけど、日本の感覚だと勇者っぽくないと思ってしまった。
でも、娘としては、それくらい重装備をしていてくれた方が安心する。
力も補強されているみたいなので、BBQの準備はスムーズにやってくれることだろう。
「エマ。収納魔法から食材以外のBBQセットを取り出して」
「うん、わかった」
コクリッと頷いたエマは、鉄板や日よけのテント、ハンモックなど……様々なものを取り出してくれる。
正直、ハンモックが必要だったのかはわからない。なんとなく憧れていたという理由だけで、さりげなく購入して、異世界に持ち込んでいた。
こういう時でもないと体験できないから……と、購入したことを正当化していると、ノエルさんが嬉しそうに近づいてくる。
「まあっ! 異界のグッズがたくさんね。不思議なものばかりだわ」
ノエルさんが興味深そうにしているので、今回は良しとしよう。ハンモックに興味を持つ人が二人になれば、持ってきても損はないと言えるはずだ。
ただ、重装備で表情が見えないお父さんのことが気がかりだけど……、後のことはノエルさんに任せよう。
実家で過ごす限り、夫婦水入らずの時間は限られているし、私が魔物を仕留めないと、BBQが始まらないから。
「じゃあ、私たちは狩りに行ってきますね。クーラーボックスに冷えたジュースやお茶を置いておくので、好きに飲んでください」
「ええ。ありがとう」
「気をつけてな」
早速、BBQグッズに夢中になるお父さんとノエルさんを見届けた後、私は周囲を警戒してくれているアルくんに近づいた。
「アルくん用のジュース、ここに置いておくね。ペットボトルの蓋を開けておくから、こかさないように気をつけて」
「グルルルッ」
「後でおかわりもあげるから、遠慮せずに飲んでね」
「グルッ」
前回、紙パックのジュースを器用に飲んだアルくんには、大きなストローを用意してあげたかったのだが……。
さすがにストローを補佐してあげないと使えないと思い、今回は二リットルのペットボトルを用意した。
中身は百パーセントのぶどうジュースなので、アルくんが気に入ってくれること間違いなし。
お父さんとノエルさんの護衛にも、きっと張り切って対応してくれることだろう。
「後は任せたよ、アルくん」
「グルルッ」
ジュースの香りを確認したアルくんのムスッとした表情が、今回ばかりはキリッと引き締まった気がした。
やっぱり主人に似て、とても食欲に素直な子だと思う。
魔物のいる森があり、綺麗な水が流れる川辺でやることと言えば、もちろんBBQである。
「よしっ、今日は絶好のBBQ日和だね」
雲一つない晴れ渡る空に、火が暴れそうな風もない。後はBBQの準備が整えば、いつでも始められるような状態だった。
すでにシルフくんも人型で活動しているし、アルくんも召喚してもらっている。
「うおおおっ! アルくん、久しぶりだねえ!」
「グルルルルルッ!」
先週はポスター作りの影響で異世界に来られなかったので、久しぶりにモフモフを堪能させていただく。
首を傾げるノエルさんに不審な目を向けられてしまうが、気にする必要はない。
アルくんと仲良く過ごしていても、悪いことはないのだから。
「あらっ、精霊鳥は人族に懐いたかしら……? まあ、胡桃ちゃんは風の妖精様と契約しているし、そういうこともあるわよね」
人生経験が豊富すぎるノエルさんは、アッサリと受け入れてくれた。
アルくんの威厳を保つためにも、どら焼き欲しさの行動だということは、内緒にしておこう。
ノエルさんに見られないように背を向け、アルくんにコッソリとどら焼きを食べさせてあげた後、BBQの準備に取り掛かる。
「じゃあ、この川辺を拠点として、二手に分かれましょう。お父さんとノエルさんとアルくんで、BBQの準備を。私とエマとシルフくんで、魔物を狩りしてきます」
弓使いのノエルさんと精霊鳥のアルくんが拠点を守れば、魔物が来ても問題はないだろう。
そこに勇者のお父さんも合わさったら、絶対に大丈夫……なはずなんだけど。
「どうしてお父さんは、そんなに重装備なの?」
全身を鎧で覆うプレートアーマーを着用しているだけでなく、顔が完全に隠れるような兜まで装着していた。
もはや、外見だけでは誰なのかわからない。
お父さんの重装備からは、絶対に怪我をしたくない、という強い意図が感じられる。
「これが父さんの勇者装備だ」
「……重くないの?」
「土龍の鱗を素材にしたインナーを着て、力と体力を底上げしている。暑い以外に問題はないぞ」
「た、大変なんだね。勇者って」
「勇者の仕事は、危険だったからな」
異世界に誘う度、お父さんが難色を示したのは、この装備も原因の一つだったのかもしれない。
こっちの世界だと違和感はないと思うけど、日本の感覚だと勇者っぽくないと思ってしまった。
でも、娘としては、それくらい重装備をしていてくれた方が安心する。
力も補強されているみたいなので、BBQの準備はスムーズにやってくれることだろう。
「エマ。収納魔法から食材以外のBBQセットを取り出して」
「うん、わかった」
コクリッと頷いたエマは、鉄板や日よけのテント、ハンモックなど……様々なものを取り出してくれる。
正直、ハンモックが必要だったのかはわからない。なんとなく憧れていたという理由だけで、さりげなく購入して、異世界に持ち込んでいた。
こういう時でもないと体験できないから……と、購入したことを正当化していると、ノエルさんが嬉しそうに近づいてくる。
「まあっ! 異界のグッズがたくさんね。不思議なものばかりだわ」
ノエルさんが興味深そうにしているので、今回は良しとしよう。ハンモックに興味を持つ人が二人になれば、持ってきても損はないと言えるはずだ。
ただ、重装備で表情が見えないお父さんのことが気がかりだけど……、後のことはノエルさんに任せよう。
実家で過ごす限り、夫婦水入らずの時間は限られているし、私が魔物を仕留めないと、BBQが始まらないから。
「じゃあ、私たちは狩りに行ってきますね。クーラーボックスに冷えたジュースやお茶を置いておくので、好きに飲んでください」
「ええ。ありがとう」
「気をつけてな」
早速、BBQグッズに夢中になるお父さんとノエルさんを見届けた後、私は周囲を警戒してくれているアルくんに近づいた。
「アルくん用のジュース、ここに置いておくね。ペットボトルの蓋を開けておくから、こかさないように気をつけて」
「グルルルッ」
「後でおかわりもあげるから、遠慮せずに飲んでね」
「グルッ」
前回、紙パックのジュースを器用に飲んだアルくんには、大きなストローを用意してあげたかったのだが……。
さすがにストローを補佐してあげないと使えないと思い、今回は二リットルのペットボトルを用意した。
中身は百パーセントのぶどうジュースなので、アルくんが気に入ってくれること間違いなし。
お父さんとノエルさんの護衛にも、きっと張り切って対応してくれることだろう。
「後は任せたよ、アルくん」
「グルルッ」
ジュースの香りを確認したアルくんのムスッとした表情が、今回ばかりはキリッと引き締まった気がした。
やっぱり主人に似て、とても食欲に素直な子だと思う。
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