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第四章:火の妖精と王都観光
第43話:王都観光7
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王様とホウオウさんが他愛のない話をしていると、あっという間に夕暮れ時になっていた。
すでに二人の仲直りを見届ける役目が終わっている私は、窓からベランダに出て、異世界の夕日を眺めている。
赤みがかかった日差しに照らされる王都の景色は、昼間と違う良さがあり、うっとりと見とれるほど綺麗だった。
「城から夕日を眺めるなんて、映画のワンシーンみたいだなー……」
そのまま感傷に浸っていると、部屋にメイドさんと共にエマがやってくる。
「胡桃、もう帰る時間」
友達の家に迎えに来た妹みたいな感じがするのは、気のせいだろうか。一応、ここは王城なんだけど。
まあ、エマは時の賢者と呼ばれるほどの人物なので、王様の前で自然体で過ごしても問題はないんだろう。
「では、私はそろそろお暇させていただきますね。ホウオウさんはどうされますか?」
「そうだな。俺もお暇させてもらおうか。あまり長い時間、神殿を留守にしたくない」
そう言ったホウオウさんが席を立つと、王様は寂しそうな表情を浮かべた。
「一晩ぐらい泊まっていってもらいたいものだが、それぞれ事情があるであろう。無理に引き留めることはせん」
正直、王城に泊まって、もっとお姫様気分を堪能したい気持ちはある。
でも、異世界に一人で泊まるというのは、さすがにハードルが高かった。
お父さんが再婚してからというもの、エマやノエルさんと一緒に暮らし始めて、なんだかんだで毎日賑やかな時間を過ごしている。
今までお父さんと二人暮らしだった私にとっては、それが何よりも楽しかった。
もしかしたら、エマの寂しがり屋が移ってしまい、帰りたいと思っているだけの可能性もあるが。
「ホウオウさんは、もう貢ぎ物を受け取れそうな感じですか?」
「どうだろうな。今回のようなものであれば、俺はいつでも受け取るつもりなんだが」
どうやらホウオウさんのスタンスは変わらないみたいだ。
あくまで貢ぎ物は要求するものではない、という認識なんだろう。
もしかしたら、祀られる妖精としては、変えられない認識なのかもしれない。
一方、二年前に止まった時間が動き始めた王様は違う。ホウオウさんの言葉を聞いても、温かい笑みを浮かべていた。
「一歩でも前進したのであれば、何よりだ。ホウオウにも受け取れない理由があるのであろう」
本当に大丈夫かな、と心配する気持ちはあるものの、私が必要以上に首を突っ込む問題ではない。
感謝の想いをしっかり込めて貢ぎ物を作り続けるなんて、簡単そうに見えて難しいし、人の心は強制できないから。
後は王様や料理人たちの心の問題になるだろうけど……、王様の威厳のある表情を見る限りは、本当にもう大丈夫なのかもしれない。
「心配せずとも、もう下を向くことはない。たとえホウオウが受け取らなかったとしても、何度でも持っていくぞ、我が友よ」
突然、どこかで聞いたことがあるような言葉が耳に入り、私は少し戸惑った。
「クククッ。そうか、楽しみにしているぞ」
しかし、ホウオウさんの笑う姿を見て、すぐに思い出す。
広場の銅像を作った話を聞いた際に、ホウオウさんがこんなことを言っていたから。
『本当はそのまま断るつもりだったんだが、そいつに生まれたばかりの子供を紹介された時、こう言われたんだ。何度でも頼みに来るぞ、我が友よ、と』
あの銅像を作ったのは、王様の先祖で間違いない。ホウオウさんにとっては、世代が変わり続けても、ずっと王族は友達だという認識なんだろう。
きっとこの二人は、切っても切れないような運命なんだと思った。
もう私は必要ないと思うから、エマと一緒に帰らせてもらおう。
「じゃあ、私はエマの魔法で帰りますね。ホウオウさんもお送りしましょうか?」
「いや、気遣ってくれなくても構わない。今回の観光を経て、人間たちとの感覚のズレを感じたから、それくらいは改善していかないとな」
それだけ言うと、ホウオウさんは夕日が見えるベランダまで歩き、突然、鳥の姿に変化する。
燃え滾るような赤い火を纏い、夕日に照らされながら、王城を飛び立っていった。
何気なく接していたけど、火を纏う神秘的な鳥の姿を見たら、本当に妖精なんだなーと、強く実感する。
それは、この世界の住人にとっても同じことだった。
「父ちゃん! あれ、見てよ! 火の妖精が飛んでる! 俺はやっぱりいると思ってたんだよなー!」
騎士の訓練所から小さな子供の声が聞こえたので、ベランダから見下ろしてみると、そこには広場で火の妖精の存在を疑っていたガキ大将の姿が見えた。
調子の良い子だなーと思いつつも、あの子がホウオウさんの心を動かしたのは間違いない。
祈るだけでは届かない声が、ホウオウさんの耳に届いたのだから。
その日、王都に住む大勢の人がホウオウさんの姿を目撃した。
夕焼けに照らされた火の妖精は、見ているだけで心が浄化されるんじゃないかと思うほど綺麗なものだった。
その光景を私はエマと一緒に見ながら、ホウオウさんを見送る。
王都に住む人たちが、火の妖精に平和を願う気持ちがわかるなーと思いながら。
すでに二人の仲直りを見届ける役目が終わっている私は、窓からベランダに出て、異世界の夕日を眺めている。
赤みがかかった日差しに照らされる王都の景色は、昼間と違う良さがあり、うっとりと見とれるほど綺麗だった。
「城から夕日を眺めるなんて、映画のワンシーンみたいだなー……」
そのまま感傷に浸っていると、部屋にメイドさんと共にエマがやってくる。
「胡桃、もう帰る時間」
友達の家に迎えに来た妹みたいな感じがするのは、気のせいだろうか。一応、ここは王城なんだけど。
まあ、エマは時の賢者と呼ばれるほどの人物なので、王様の前で自然体で過ごしても問題はないんだろう。
「では、私はそろそろお暇させていただきますね。ホウオウさんはどうされますか?」
「そうだな。俺もお暇させてもらおうか。あまり長い時間、神殿を留守にしたくない」
そう言ったホウオウさんが席を立つと、王様は寂しそうな表情を浮かべた。
「一晩ぐらい泊まっていってもらいたいものだが、それぞれ事情があるであろう。無理に引き留めることはせん」
正直、王城に泊まって、もっとお姫様気分を堪能したい気持ちはある。
でも、異世界に一人で泊まるというのは、さすがにハードルが高かった。
お父さんが再婚してからというもの、エマやノエルさんと一緒に暮らし始めて、なんだかんだで毎日賑やかな時間を過ごしている。
今までお父さんと二人暮らしだった私にとっては、それが何よりも楽しかった。
もしかしたら、エマの寂しがり屋が移ってしまい、帰りたいと思っているだけの可能性もあるが。
「ホウオウさんは、もう貢ぎ物を受け取れそうな感じですか?」
「どうだろうな。今回のようなものであれば、俺はいつでも受け取るつもりなんだが」
どうやらホウオウさんのスタンスは変わらないみたいだ。
あくまで貢ぎ物は要求するものではない、という認識なんだろう。
もしかしたら、祀られる妖精としては、変えられない認識なのかもしれない。
一方、二年前に止まった時間が動き始めた王様は違う。ホウオウさんの言葉を聞いても、温かい笑みを浮かべていた。
「一歩でも前進したのであれば、何よりだ。ホウオウにも受け取れない理由があるのであろう」
本当に大丈夫かな、と心配する気持ちはあるものの、私が必要以上に首を突っ込む問題ではない。
感謝の想いをしっかり込めて貢ぎ物を作り続けるなんて、簡単そうに見えて難しいし、人の心は強制できないから。
後は王様や料理人たちの心の問題になるだろうけど……、王様の威厳のある表情を見る限りは、本当にもう大丈夫なのかもしれない。
「心配せずとも、もう下を向くことはない。たとえホウオウが受け取らなかったとしても、何度でも持っていくぞ、我が友よ」
突然、どこかで聞いたことがあるような言葉が耳に入り、私は少し戸惑った。
「クククッ。そうか、楽しみにしているぞ」
しかし、ホウオウさんの笑う姿を見て、すぐに思い出す。
広場の銅像を作った話を聞いた際に、ホウオウさんがこんなことを言っていたから。
『本当はそのまま断るつもりだったんだが、そいつに生まれたばかりの子供を紹介された時、こう言われたんだ。何度でも頼みに来るぞ、我が友よ、と』
あの銅像を作ったのは、王様の先祖で間違いない。ホウオウさんにとっては、世代が変わり続けても、ずっと王族は友達だという認識なんだろう。
きっとこの二人は、切っても切れないような運命なんだと思った。
もう私は必要ないと思うから、エマと一緒に帰らせてもらおう。
「じゃあ、私はエマの魔法で帰りますね。ホウオウさんもお送りしましょうか?」
「いや、気遣ってくれなくても構わない。今回の観光を経て、人間たちとの感覚のズレを感じたから、それくらいは改善していかないとな」
それだけ言うと、ホウオウさんは夕日が見えるベランダまで歩き、突然、鳥の姿に変化する。
燃え滾るような赤い火を纏い、夕日に照らされながら、王城を飛び立っていった。
何気なく接していたけど、火を纏う神秘的な鳥の姿を見たら、本当に妖精なんだなーと、強く実感する。
それは、この世界の住人にとっても同じことだった。
「父ちゃん! あれ、見てよ! 火の妖精が飛んでる! 俺はやっぱりいると思ってたんだよなー!」
騎士の訓練所から小さな子供の声が聞こえたので、ベランダから見下ろしてみると、そこには広場で火の妖精の存在を疑っていたガキ大将の姿が見えた。
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祈るだけでは届かない声が、ホウオウさんの耳に届いたのだから。
その日、王都に住む大勢の人がホウオウさんの姿を目撃した。
夕焼けに照らされた火の妖精は、見ているだけで心が浄化されるんじゃないかと思うほど綺麗なものだった。
その光景を私はエマと一緒に見ながら、ホウオウさんを見送る。
王都に住む人たちが、火の妖精に平和を願う気持ちがわかるなーと思いながら。
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