【完結】女神の使徒に選ばれた私の自由気ままな異世界旅行とのんびりスローライフ

あろえ

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第四章:火の妖精と王都観光

第39話:王都観光3

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 紳士服に着替えたホウオウさんと一緒に歩き進め、手配してもらった馬車に乗るため、私たちは王都の広場にやってくる。

 事前にシルフくんにも意見を聞いてみたところ、たまに王都の子供たちと遊んでいるらしく、おすすめされた場所でもあった。

 しかし、今は子供が遊べるようなところではない。まだホウオウさんの銅像に花を添えて、祈りを捧げる人たちがいる。

 祀られている妖精としては、子供の遊ぶ姿を見た方が喜ぶのかなーと思っていたけど、ホウオウさんに祈りを捧げる人が見れたので、それはそれでよかったのかもしれない。

 心なしか、ホウオウさんも安堵しているように見える。

「懐かしい銅像だな」
「ご存知なんですね」
「ああ。最初は、銅像なんてやめてくれ、と反対していたから、よく覚えている」
「えっ、どうして反対されていたんですか? 銅像があった方が信仰しやすいと思いますけど」
「単純に恥ずかしいだろ。魔除け代わりに雑貨品や木彫りを置かれるのは構わないが、銅像まで作られるのは気がのらなかったんだ」

 そういうものなのかなーと思う反面、ホウオウさんの気持ちがわからなくもなかった。

 仮に勇者であるお父さんの銅像が作られていたら、とても複雑な気持ちを抱いていたはずだから。

「実際に王都の広場に銅像が作られたということは、最終的には許可を出されたんですね」
「まあ、仕方なくだな。当時、銅像を作るためのモデルになってほしいと、とある人物に依頼されたんだ。何度も断ったんだが、会う度に言われ続け、気づけば五年も経っていた」
「す、すごい執念ですね……」
「人間の感覚であれば、普通はそう思うんだろうが……、長い年月を生きる妖精にとっては、大した時間ではない。また言いに来たなー、くらいの感覚でしかなかった」

 きっと人間と比較すると、妖精は時間の感覚がかなり遅いんだろう。

 エルフのエマとノエルさんとも、たまに感覚にズレが生じるから、ホウオウさんもそんな感じなんだと思った。

「本当はそのまま断るつもりだったんだが、そいつに生まれたばかりの子供を紹介された時、こう言われたんだ。何度でも頼みに来るぞ、我が友よ、と」

 ホウオウさんの嬉しそうな表情を見れば、今でも大切な思い出なんだと察することができる。

 本来であれば、祀られる妖精と祀る人間が対等な関係にはならない……と言いたいところだが、私も例外みたいなものなので、強くは言えない。

 ホウオウさんも、友達だと言ってもいいと思えるような方だったんだろう。

「その方とは、とても親しい関係だったんですね」
「何が自分の心に響くかなんて、意外にわからないものだ。俺は友と呼ばれたことに喜びを感じて、ついつい銅像を作ることを許可してしまった」

 そんな思い出深い銅像だったんだなーと眺めていると、広場に三人組の小さな子供がやってきた。

 広場で遊べない影響か、一人の子が不貞腐れている。

「火の妖精に頼んだからって、平和になるわけでもねえのにな」
「おい、こんな場所で言うなよ。罰当たりだって、怒られるぞ」
「そうだよ。勇者を召喚したのも、火の妖精のおかげって母ちゃんが言ってたぜ」

 不貞腐れたガキ大将が不穏な言葉を口にしたため、怒られたくない取り巻きの子供たちが必死になだめている。

 しかし、その思いは伝わらず、ガキ大将は目を細めた。

「じゃあ、お前らは火の妖精を見たことがあるのかよ。その肝心の勇者だって、もういなくなっちまったんだぜ?」
「……」
「……」

 私まで何も言い返す言葉が思い浮かばなくなるほど、耳の痛い話である。

 突然、異世界に呼び出されたお父さんにも、事情があるのは当たり前のこと。日本で仕事しながら、休日は勇者として活動していたのであれば、十分すぎるほど頑張ったと思う。

 でも、現地に住む人たちが納得するのかは、別の話だ。

 魔物が蔓延る世界では、魔族との争いが終わっただけで、平和が訪れたわけではない。この地の瘴気を妖精が浄化したとしても、魔物の被害がなくなるわけではないんだと思う。

 まだ魔物との戦いが残っているのに、異界に帰ってしまった勇者に不満を抱いているのだ。

 子供だから仕方ないのかな……と思っていると、ガキ大将の元にホウオウさんが近づいていく。

「おい、坊主」
「な、なんだよ」

 急に大人の男性に見下ろされて、ガキ大将は当然のように萎縮する。

 その彼の頭の上に、ホウオウさんは優しくポンッと手を起き、目線を合わせるようにしゃがんだ。

「無理に火の妖精を崇める必要はない。信仰するもしないも、お前の自由だ。今はまだ難しいかもしれないが、いつか自分の意思で選んでくれ」

 どうやら怒られると思っていたみたいで、ホウオウさんの言葉を聞いたガキ大将は、目をパチパチとさせるほど混乱している。

 挙動不審になり、周囲をチラチラと確認した後、ホウオウさんの手を払った。

「べ、別に信仰しないなんて言ってないだろ。変なやつ。おい、行こうぜ」

 彼はツンデレなのか……と思いつつも、失礼な発言をした子供を叱らなかったホウオウさんに、私は近づいていく。

「本当に今の対応でよかったんですか?」
「構わない。意外にああいう子供の方が信仰心が厚く、丹念に祈りを捧げてくれるものだ」
「そういうものなんですかね。まあ、男の子は素直になれないと言いますし、大人になったら理解してくれることを願いましょう」

 もしかしたら、わざわざ広場に足を運んだのも、自分から言い出すのが恥ずかしかっただけで、本当は祈りを捧げたかったのかもしれない。

 心の中にいろいろな葛藤があり、素直になれないだけであって……。

 まあ、当の本人は気づいていないけど、信仰すべき火の妖精と話ができたんだから、よしとしてもらおう。

 彼が熱心に祈りを捧げるのであれば、きっと罰も当たりはしない……というか、ホウオウさんは罰を与えないはずだ。

「じゃあ、予定通り、王城に行きましょうか。この先の馬車乗り場で、貴族用のものを用意してもらっているんですよね」
「そういえば、今まで馬車に乗った経験はないな。楽しみだ」

 空を飛べるとそうなるよねーと思いながら、私は馬車との待ち合わせ場所に向かうのであった。
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