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第四章:火の妖精と王都観光
第38話:王都観光2
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ホウオウさんと一緒に王都の街を歩き進め、裏通りに入ると、看板の文字が読めないほど朽ち果てている、一軒の店にたどり着いた。
エマにおすすめしてもらったドワーフの鍛冶屋さんである。
彼女の話では――、
『あそこの店のドワーフは頑固で職人気質だから、たぶん妖精様も気に入るはず』
とのこと。
正直、店の外観を見る限り、不安しかない。しかし、エマの紹介であれば、信じてみようと思う。
火の妖精なら、鍛冶師とも相性がいいはずだから。
「ホウさん、この店がいいらしいですよ。中に入りましょう」
「随分と古い建物だな」
「こういう店が隠れた名店なんです。……たぶん」
恐る恐る店内に入ってみると、その外観とは裏腹にちゃんとしている。
決して多くの品を取り扱っているわけではないが、どの武器も綺麗に手入れされている印象だった。
試しに剣を一本手に取ったホウオウさんは、その刀身をじっくりと眺める。
「この店の職人は良い腕だな」
一見、建物や棚の古さに目がいきがちだが、綺麗に掃除されているみたいで、ホコリが全然ない。とても管理が行き届いている店だった。
「……」
なお、ドワーフの店主は微動だにせず、表情が一切変わらない。
ホウオウさんが認めるくらいだし、店主の腕は相当いいんだろう。
そんな店で、私はマイ包丁を買いたいと思っている。
観光している身としては、自分のお土産が欲しかった。
「ホウさんは、どの包丁が切れ味いいと思いますか?」
「難しい相談だ。あまり品質に差がないように感じるが……あえて選ぶのであれば、これだな」
ホウオウさんが手に取った包丁の値段は、金貨十枚。
紙幣の価値をノエルさんに確認しておいたところ、だいたい金貨一枚で一万円だと言っていたので、この包丁は十万円もすることになる。
異世界のドワーフが丹精込めて作った包丁で、ホウオウさんが認めたものとはいえ、なかなか庶民の手が出る値段とは言えない。
「じゃあ、これをください」
それをサラリッと買ってしまうのには、理由がある。
ホウオウさんの接待という名目で、王様にたっぷりとお小遣いをもらっているのだ。
もちろん、王様にも私用で使ってもいいと許可をいただいている。
これで王都の経済も潤うし、私も良い品が入って喜ぶし、ホウオウさんも……。
ホウオウさんには、これから楽しんでもらおうと思います。うん、おもてなしをもっと頑張ろう。
でも、すでに王都にあまり来ないホウオウさんは、観光するだけでも十分に楽しんでくれているように見えた。
きっと今まで火を纏った鳥の姿で見下ろしていただけで、人の姿で観光した経験がないんだろう。
思っている以上にうまく接待できているのかもしれない。
お会計を済ませ、ドワーフの店を後にした私たちは、そのまま近くの服屋さんに吸い込まれるように入っていく。
こぢんまりとした店内には、花が飾られていたり、日当たりがよかったりして、とても明るい。ちょっと通路が狭いけど、子供用から大人用まで、幅広い服を取り扱っていた。
この服屋さんはノエルさんのおすすめで、おばあさんとその娘さんが家族経営している親切な店なんだそうだ。
今も店の奥でおばあさんが服を縫い、娘さんが店内に立っている。
この店を訪れた目的を果たすため、私は彼女の方に近づいていった。
「すいませ~ん」
「はいは~い」
「実はこの後、王城に呼ばれているんですけど、彼の服が用意できていなくて。こちらの店で着飾っていただこうかなと思っているんですが……」
「あら、そうなのね。うーん、困ったわ。うちは王城に招く人に着せる服なんてないのよね」
店の娘さんには申し訳ないが、確かに今私が着ている貴族用の服と比較したら、この店の品質は劣っているように見える。
貴族向けの高価な品ではなく、庶民用の服が用意されているのだから、当たり前のことだろう。
だからといって、この店の服が妖精に適しないのかと聞かれたら、それはまた別の話だ。
「ホウさん、どうされますか? 他の店にします?」
店内の品を確認するホウオウさんを見れば、この店が正解なんだと察する。
「いや、この店にしよう。あまり堅い服装でなくても構わない。適当に見繕ってくれ」
「そう? じゃあ、できる限り紳士的なものを用意してみるわね。ちょっと待ってて」
店の娘さんが奥へかけていくと、服を縫っていたおばあさんと何度か会話する。
とても驚いた顔をしているので、そういう客が来るとは思わなかったに違いない。
いろいろと二人で服を選んでくれた結果、奥から男性用の紳士服を取り出して、持ってきてくれた。
「これでもいいかしら?」
「ああ、構わない」
「じゃあ、少しサイズを測らせてもらうわね~」
「頼む」
なんだかお父さんのスーツを買いに来たみたいだなーと思いつつ、ホウオウさんの服のサイズを調整してもらうのであった。
エマにおすすめしてもらったドワーフの鍛冶屋さんである。
彼女の話では――、
『あそこの店のドワーフは頑固で職人気質だから、たぶん妖精様も気に入るはず』
とのこと。
正直、店の外観を見る限り、不安しかない。しかし、エマの紹介であれば、信じてみようと思う。
火の妖精なら、鍛冶師とも相性がいいはずだから。
「ホウさん、この店がいいらしいですよ。中に入りましょう」
「随分と古い建物だな」
「こういう店が隠れた名店なんです。……たぶん」
恐る恐る店内に入ってみると、その外観とは裏腹にちゃんとしている。
決して多くの品を取り扱っているわけではないが、どの武器も綺麗に手入れされている印象だった。
試しに剣を一本手に取ったホウオウさんは、その刀身をじっくりと眺める。
「この店の職人は良い腕だな」
一見、建物や棚の古さに目がいきがちだが、綺麗に掃除されているみたいで、ホコリが全然ない。とても管理が行き届いている店だった。
「……」
なお、ドワーフの店主は微動だにせず、表情が一切変わらない。
ホウオウさんが認めるくらいだし、店主の腕は相当いいんだろう。
そんな店で、私はマイ包丁を買いたいと思っている。
観光している身としては、自分のお土産が欲しかった。
「ホウさんは、どの包丁が切れ味いいと思いますか?」
「難しい相談だ。あまり品質に差がないように感じるが……あえて選ぶのであれば、これだな」
ホウオウさんが手に取った包丁の値段は、金貨十枚。
紙幣の価値をノエルさんに確認しておいたところ、だいたい金貨一枚で一万円だと言っていたので、この包丁は十万円もすることになる。
異世界のドワーフが丹精込めて作った包丁で、ホウオウさんが認めたものとはいえ、なかなか庶民の手が出る値段とは言えない。
「じゃあ、これをください」
それをサラリッと買ってしまうのには、理由がある。
ホウオウさんの接待という名目で、王様にたっぷりとお小遣いをもらっているのだ。
もちろん、王様にも私用で使ってもいいと許可をいただいている。
これで王都の経済も潤うし、私も良い品が入って喜ぶし、ホウオウさんも……。
ホウオウさんには、これから楽しんでもらおうと思います。うん、おもてなしをもっと頑張ろう。
でも、すでに王都にあまり来ないホウオウさんは、観光するだけでも十分に楽しんでくれているように見えた。
きっと今まで火を纏った鳥の姿で見下ろしていただけで、人の姿で観光した経験がないんだろう。
思っている以上にうまく接待できているのかもしれない。
お会計を済ませ、ドワーフの店を後にした私たちは、そのまま近くの服屋さんに吸い込まれるように入っていく。
こぢんまりとした店内には、花が飾られていたり、日当たりがよかったりして、とても明るい。ちょっと通路が狭いけど、子供用から大人用まで、幅広い服を取り扱っていた。
この服屋さんはノエルさんのおすすめで、おばあさんとその娘さんが家族経営している親切な店なんだそうだ。
今も店の奥でおばあさんが服を縫い、娘さんが店内に立っている。
この店を訪れた目的を果たすため、私は彼女の方に近づいていった。
「すいませ~ん」
「はいは~い」
「実はこの後、王城に呼ばれているんですけど、彼の服が用意できていなくて。こちらの店で着飾っていただこうかなと思っているんですが……」
「あら、そうなのね。うーん、困ったわ。うちは王城に招く人に着せる服なんてないのよね」
店の娘さんには申し訳ないが、確かに今私が着ている貴族用の服と比較したら、この店の品質は劣っているように見える。
貴族向けの高価な品ではなく、庶民用の服が用意されているのだから、当たり前のことだろう。
だからといって、この店の服が妖精に適しないのかと聞かれたら、それはまた別の話だ。
「ホウさん、どうされますか? 他の店にします?」
店内の品を確認するホウオウさんを見れば、この店が正解なんだと察する。
「いや、この店にしよう。あまり堅い服装でなくても構わない。適当に見繕ってくれ」
「そう? じゃあ、できる限り紳士的なものを用意してみるわね。ちょっと待ってて」
店の娘さんが奥へかけていくと、服を縫っていたおばあさんと何度か会話する。
とても驚いた顔をしているので、そういう客が来るとは思わなかったに違いない。
いろいろと二人で服を選んでくれた結果、奥から男性用の紳士服を取り出して、持ってきてくれた。
「これでもいいかしら?」
「ああ、構わない」
「じゃあ、少しサイズを測らせてもらうわね~」
「頼む」
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