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第三章:エマと一緒に異世界旅行
第36話:どら焼きづくり
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ファンダール王国に接待されることが決まり、私はホウオウさんを必死に説得した。
おもてなしも貢ぎ物扱いになるのか、接待される行為が苦手なのかはわからない。首を縦にも横にも振らず、難色を示されてしまう。
しかし、ホウオウさんもこのままの関係が続くのは良くないと思っていたみたいで、身分を証さないことを条件に了承してくれた。
これで庶民には絶対にできない体験が味わえる……! とは思うものの、王様にどら焼きづくりを教えるという約束も果たさなければならなくなってしまう。
そのため、私は翌日から行動を始めて、王様にどら焼きを作る準備を進めてもらった。
異世界にどら焼きという概念がないので、主に食材の用意と、王城で作る設備を用意してもらう。
そして、日本に住むエマたちにも協力してもらい、私は異世界に来られる平日の夜に王様を訪ねて、どら焼きの指導をすることになった。
「生地を作るときは、もう少し丁寧に混ぜてください」
「う、うむ」
一国の王が厨房でどら焼きを作るなんて、何とも言えない光景である。
もちろん、甘味づくりが初めてなので、慣れない作業でうまくいかない。今はまだ、心を込めて作る余裕なんてなかった。
しかし、それではホウオウさんが受け取ってくれないので、少しずつレクチャーしていく。
「生地を作る時は、赤ちゃんをあやすように優しく混ぜてください」
「そうか。言う通りにしよう」
王様は反論することもなく、素直に受け入れて行動してくれるが……、なかなかうまくいかない。
「すみません。混ぜる速度がちょっと遅いですね。あまり時間をかけたくない行程でもあるんですよ」
優しい気持ちを込めて、作業が遅くなりすぎると、どら焼きの生地に支障が出てしまう。
ホウオウさんを接待する日まで時間がないし、私もどら焼きづくりを指導できる日が限られるので、とにかく時間を無駄にしたくなかった。
それは、一国の王という地位を持つ王様も同じこと。
「なかなか難しいものだな。赤子をあやすように、手早く混ぜる、か……」
「泡立つのも良くないので、少し落ち着いた感じでいきましょう」
「う、うむ……」
なんだかんだで戸惑いながら作業する王様を見て、私は教えることが苦手なんだと自覚した。
魔法を教えるのが苦手なエマに対して、もう文句を言うことはできないだろう。
何かいい方法はないかなーと思っていると、年配の料理人がコッソリと厨房に入ってきた。
「国王陛下。不甲斐ない結果に終わっておりますが、やはり火の妖精様の貢ぎ物は、我々が作るべきかと……」
きっとこの国の料理長だろう。今までホウオウさんの貢ぎ物を作ってきたのに、急に王様がやると言い出したから、いろいろな意味で心配なんだと思う。
一国の王が貢ぎ物を作るだけでも前代未聞なのに、急に現れた私に教えてもらっているんだから。
料理長自身も、解雇されるのではないかと、心配していてもおかしくはない。
そんなことは王様もわかっているみたいで、料理人に真っすぐと向き合い、ゆっくりと首を振った。
「お前たちを信用していないわけではない。しかし、今回はこのような形でホウオウの了承を得ている。取り決めを違えるわけにはいかんのだ」
王様の決意のある言葉に、料理人の方も身を引くしかなかった。
今回ばかりは味で勝負するわけではなく、ホウオウさんへの想いが込もっていなければ、意味がない。
貢ぎ物を作るのであれば、直接ホウオウさんと関わり続けてきた王様の方が適任者だろう。
しかし、私だけで教えるのは時間的に無理があるので、料理に精通する方が協力してくれると、心強い。
そのため、真剣な表情で向き合ってみる。
「私はこちらにお邪魔する期間が決められております。ホウオウさんをお迎えするまで時間がありませんから、王様の貢ぎ物づくりに協力してください」
「……わかりました。今回に限り、我々は国王陛下の補佐に徹しましょう」
火の妖精に捧げる貢ぎ物を作るため、王様と私の料理人の方が手を取り、一つの目標に向かって進んでいく。
「では、後回しにしていましたが、料理人の方たちに餡のバランスを考えていただきましょうか。この地域で取り扱う食材によって、味のバランスを調整する必要があるんです。料理人の方にお任せした方が、最適解を生み出してくれるでしょう」
「うむ、そうだな。わかった。そのあたりはお前たちに一任しよう。当日までに何としてでも仕上げて、ワシに作り方を教えてくれ」
「ハッ! かしこまりました!」
よしっ、全員で頑張ろう! と一致団結した瞬間、一人のメイドさんが厨房を訪ねてきた。
「失礼します。国王陛下、胡桃様のお召し物を作るために、体のサイズを測らせていただきたいのですが」
急に私の話になるが……。
まあまあまあ、せっかく国に接待してもらえるので、そういう展開にもなりますよね?
魔法使いの服装でホウオウさんと一緒にブラブラするよりは、素敵なお召し物を着た方がいいのかなーと、普通は思うじゃないですか。
だから、ちょーーーっと提案してみたところ、用意してくれると言われたので、お言葉に甘えちゃおうかなーって。
まあまあまあ、良い思いをした方が私のモチベーションにも繋がりますから、これくらいは許させると思うんですよ。
なんたって、私は女神の使徒ですからね!
「こほんっ。測定につきましては、王様の練習に目処がついてから、でお願いしましょうか」
さすがにちょっと申し訳ないので、教える方を優先させていただきますが。
おもてなしも貢ぎ物扱いになるのか、接待される行為が苦手なのかはわからない。首を縦にも横にも振らず、難色を示されてしまう。
しかし、ホウオウさんもこのままの関係が続くのは良くないと思っていたみたいで、身分を証さないことを条件に了承してくれた。
これで庶民には絶対にできない体験が味わえる……! とは思うものの、王様にどら焼きづくりを教えるという約束も果たさなければならなくなってしまう。
そのため、私は翌日から行動を始めて、王様にどら焼きを作る準備を進めてもらった。
異世界にどら焼きという概念がないので、主に食材の用意と、王城で作る設備を用意してもらう。
そして、日本に住むエマたちにも協力してもらい、私は異世界に来られる平日の夜に王様を訪ねて、どら焼きの指導をすることになった。
「生地を作るときは、もう少し丁寧に混ぜてください」
「う、うむ」
一国の王が厨房でどら焼きを作るなんて、何とも言えない光景である。
もちろん、甘味づくりが初めてなので、慣れない作業でうまくいかない。今はまだ、心を込めて作る余裕なんてなかった。
しかし、それではホウオウさんが受け取ってくれないので、少しずつレクチャーしていく。
「生地を作る時は、赤ちゃんをあやすように優しく混ぜてください」
「そうか。言う通りにしよう」
王様は反論することもなく、素直に受け入れて行動してくれるが……、なかなかうまくいかない。
「すみません。混ぜる速度がちょっと遅いですね。あまり時間をかけたくない行程でもあるんですよ」
優しい気持ちを込めて、作業が遅くなりすぎると、どら焼きの生地に支障が出てしまう。
ホウオウさんを接待する日まで時間がないし、私もどら焼きづくりを指導できる日が限られるので、とにかく時間を無駄にしたくなかった。
それは、一国の王という地位を持つ王様も同じこと。
「なかなか難しいものだな。赤子をあやすように、手早く混ぜる、か……」
「泡立つのも良くないので、少し落ち着いた感じでいきましょう」
「う、うむ……」
なんだかんだで戸惑いながら作業する王様を見て、私は教えることが苦手なんだと自覚した。
魔法を教えるのが苦手なエマに対して、もう文句を言うことはできないだろう。
何かいい方法はないかなーと思っていると、年配の料理人がコッソリと厨房に入ってきた。
「国王陛下。不甲斐ない結果に終わっておりますが、やはり火の妖精様の貢ぎ物は、我々が作るべきかと……」
きっとこの国の料理長だろう。今までホウオウさんの貢ぎ物を作ってきたのに、急に王様がやると言い出したから、いろいろな意味で心配なんだと思う。
一国の王が貢ぎ物を作るだけでも前代未聞なのに、急に現れた私に教えてもらっているんだから。
料理長自身も、解雇されるのではないかと、心配していてもおかしくはない。
そんなことは王様もわかっているみたいで、料理人に真っすぐと向き合い、ゆっくりと首を振った。
「お前たちを信用していないわけではない。しかし、今回はこのような形でホウオウの了承を得ている。取り決めを違えるわけにはいかんのだ」
王様の決意のある言葉に、料理人の方も身を引くしかなかった。
今回ばかりは味で勝負するわけではなく、ホウオウさんへの想いが込もっていなければ、意味がない。
貢ぎ物を作るのであれば、直接ホウオウさんと関わり続けてきた王様の方が適任者だろう。
しかし、私だけで教えるのは時間的に無理があるので、料理に精通する方が協力してくれると、心強い。
そのため、真剣な表情で向き合ってみる。
「私はこちらにお邪魔する期間が決められております。ホウオウさんをお迎えするまで時間がありませんから、王様の貢ぎ物づくりに協力してください」
「……わかりました。今回に限り、我々は国王陛下の補佐に徹しましょう」
火の妖精に捧げる貢ぎ物を作るため、王様と私の料理人の方が手を取り、一つの目標に向かって進んでいく。
「では、後回しにしていましたが、料理人の方たちに餡のバランスを考えていただきましょうか。この地域で取り扱う食材によって、味のバランスを調整する必要があるんです。料理人の方にお任せした方が、最適解を生み出してくれるでしょう」
「うむ、そうだな。わかった。そのあたりはお前たちに一任しよう。当日までに何としてでも仕上げて、ワシに作り方を教えてくれ」
「ハッ! かしこまりました!」
よしっ、全員で頑張ろう! と一致団結した瞬間、一人のメイドさんが厨房を訪ねてきた。
「失礼します。国王陛下、胡桃様のお召し物を作るために、体のサイズを測らせていただきたいのですが」
急に私の話になるが……。
まあまあまあ、せっかく国に接待してもらえるので、そういう展開にもなりますよね?
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だから、ちょーーーっと提案してみたところ、用意してくれると言われたので、お言葉に甘えちゃおうかなーって。
まあまあまあ、良い思いをした方が私のモチベーションにも繋がりますから、これくらいは許させると思うんですよ。
なんたって、私は女神の使徒ですからね!
「こほんっ。測定につきましては、王様の練習に目処がついてから、でお願いしましょうか」
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