【完結】女神の使徒に選ばれた私の自由気ままな異世界旅行とのんびりスローライフ

あろえ

文字の大きさ
上 下
34 / 54
第三章:エマと一緒に異世界旅行

第34話:ビッグネーム

しおりを挟む
 ホウオウさんとの食事も終わり、妖精の様子を確認するというシルフくんの目的も果たせた私たちは、王都に帰ることにした。

 明確なイメージができる場所であれば、エマの空間魔法で移動できるとのことなので、次に会う時も貢ぎ物を持ってこよう。

 聖女の仕事を担うつもりはないけど、料理を作るだけでホウオウさんの浄化に協力できるのであれば、大きな負担にはならない。

 ましてや――、

「あのどら焼きというのは、なかなか面白い甘味だったな」

 ホウオウさんもどら焼きが好きだと発覚したため、無下にはできなかった。

 意外に辛いのも甘いのもいける妖精さんである。

 この結果には、なんだかんだでどら焼きが好きなエマもご満悦だ。

「どら焼きは世界を救う」

 ホウオウさんの黒いモヤが、どら焼きで一番浄化されたため、あながち嘘でもない。

 お父さんが再婚してからというもの、妙にどら焼きの価値が高まっている気がするので、今後も精進していこう。

 そんなこんなでエマと一緒に先頭を歩き、神殿の出入り口にたどり着くと、眩しい日差しに照らされた。

 時間的にまだ昼を過ぎた頃か……と思い、あまりの眩しさに目を半分閉じると、突然エマに腕を引っ張られる。

 その瞬間、私の足元に炎の矢が突き刺さった。

「貴様ら、ここで何をしておる」

 異世界で魔法や魔物を見ている影響か、敵意を向けられても、私は取り乱さない。

 今日はよく命を狙われる日だなーと、意外に冷静でいる。

 それだけに、聖域に足を踏み入れることができる人物を見て、驚きを隠せなかった。

「こんな場所に入ってこられるなんて、あの人はいったい……」

 当然のように見覚えはない。顎にヒゲを生やした中年の渋い顔をした男性で、立派な赤いローブを着用している。

 右手には赤い宝石の付いた杖を、左手には大きな袋を持っていた。

 誰なんだ……と思っているのも束の間、向こうはそうでもなかったみたいで、眉間にシワを寄せて、目を細めてくる。

「むっ。お主は、時の賢者か」

 ……ん? 時の賢者? もしかして、エマの二つ名かな。

「あっ、王様だ」

 あっ、向こうは王様なんだ。へえ、どうりで立派な服装をしていると思ったよ。

「……えっ! 王様!?」

 とんでもないほどのビッグネームが現われたが、少し考えたらわかることだろう。

 聖域に足を踏み入れられる人間は、女神に選ばれた人か、王族しかいない。

 王城にいた騎士が『公務』と言っていたのも、ホウオウさんの様子を見に来る予定だったんだと思う。

 途中でバッタリと会うこともなく、私たちの方が早く着いてしまった影響で、ややこしい感じになっているけど。

「結界は正常に作動しているはずだが、どうしてお主が聖域内に入ってこられるのだ。場合によっては、厳しく尋問せねばならんぞ」

 異世界が急に怖くなってきたよ。一国の王様に尋問を言い渡されたら、さすがに気分が沈みこんでしまう。

 でも、ホウオウさんと友好的な関係を築けたから、すぐに誤解は解けるはずで――、

「とりあえず、相手を冷静にさせた方がいい。話し合いの場を作るために、まずは王様をボコボコにしよう」

 ややこしい状況を作り出そうとするのは、やめてほしい。それは確実に状況を悪化させる行為だ。

「ちょっと待って、エマ。それは逆効果だから。いったん落ち着いて」
「でも、ママに胡桃を守るように言われてる」
「ママの言いつけの効力、強すぎない? いや、でもそうか。エマはまだ子供なのか」

 王様よりもママの言いつけの方が大事な気がしないこともない。

 エルフ族であることも考慮すると、妖精と契約した私の方を優先することにも納得がいく。

 でも、今はそういう問題ではなかった。

「相手は王様だから、穏便にいこうね」

 王様も、まさか相手がエマだとは思わなかったのか、とても委縮している。

 もしかしたら、王城の城門前で対応してくれた騎士が緊張していたのは、単純にエマを恐れていただけなのかもしれない。

 若くして『時の賢者』という二つ名を持っているのであれば、あながち間違っていない気がする。

 一つだけ確かなことは、王様が戦闘を求めている気配がないことだけだった。

 そんな中、ホウオウさんが仲介に入ってくれるみたいで、前に出てきてくれる。

「ここにいるのは俺の客人だ。攻撃しないでくれ」

 私たちにいきなり先制攻撃をしてきた過去を持つので、あまり人のことは言えないが、今は水に流そう。

「手違いでこうなってしまっただけだ。こちらに戦う意思はない」

 王様が杖を下ろすと、エマも同じように杖を下ろした。

 火の妖精の一言で戦闘を回避できるなら、とてもありがたい。祀られているだけあって、この国ではとても権威があるみたいだ。

「すまない、国王は俺の客だ。少し待っていてくれ」

 そう言ったホウオウさんは、王様の下へと歩いていく。

 すると、王様が手に持っていた袋の中からクッキーや果物を取り出して、ホウオウさんに差し出した。

「今年は例年よりも作物の出来がいい。戦争も終わり、うまい甘味を作り出すこともできた。この地を守るホウオウよ、これを受け取ってはくれぬだろうか」

 その光景を見て、この場にいる誰もがこう思ったことだろう。

 足を運ぶ日を間違えた、と。

 カレーうどんにご飯にどら焼き……と、大量に貢ぎ物を渡してしまった私は、大量の冷や汗が溢れてくる。

 もうすでにホウオウさんのお腹はパンパン。デザートまでしっかりと食べた後であった。

 しかし、ここはホウオウさんが大人の対応を取ってくれれば、何も問題は生まれな――、

「悪いが、受け取れない」

 まさかの受け取ってくれない!

 いったいどうして……と思ってしまうが、国王様とホウオウさんの表情を見る限り、根の深い問題なんだと察した。

「なぜだ! なぜ受け取ってはくれぬ! 昔は受け取ってくれていたであろう!」
「悪いが、俺はその貢ぎ物を欲していない」
「嘘を申すでない。すでに体が蝕まれているはずだ」
「何度でも言おう。俺はその貢ぎ物を欲していない」
「今までの貢ぎ物と何が違う。いい加減に意地を張るのはやめてくれ。このままでは、せっかく平和が訪れた我が国と共倒れになるのだぞ」

 真剣な表情で訴えかける王様が、心の奥底で何を心配しているのか、私にはわからない。

 純粋にホウオウさんの身を案じているのか、国民の命を守りたいのか、国を反映させたいのか。

 魔王軍との戦争があったばかりで、民が疲弊していることを考えたら、王様としての想いが強くなるわけであって……。

「俺はその貢ぎ物を欲していない。わかってくれ」

 頑なに拒むホウオウさんは、決して貢ぎ物を受け取ろうとしなかった。

 戦争が無事に終わった後に栽培されたものであれば、まだ受け取りやすいだろう。

 でも、ホウオウさんが拒むということは、きっと戦時中に栽培していた果物に違いない。

 それに瘴気が混じっているとは思わないが、不安や邪念に満ちている可能性は十分にある。

 妖精にとっては、貢ぎ物が毒になる恐れがあるのだから。

 さっきからホウオウさんも『その貢ぎ物は』と言っているので、受け取れるものを持ってきてほしいと、間接的に伝えているように思う。

 祀られているホウオウさんとしては、あくまで自主的に貢いでもらったものを受け取るスタンスだから、注文を付けられないんだ。

「この国が嫌いにでもなったのか?」
「そうではない」
「では、何を理解しろと……」

 一方、王様は苛立っているように見えるが、決してホウオウさんを粗末に扱っているわけではない。

 戦争を終えたばかりなのに、王都で大きな祭りを開いて、妖精を讃えている。

 今だって、何とかホウオウさんに心を開いてもらおうと、必死になっていた。

 王様としては、純粋に心配な気持ちはあるものの、ホウオウさんが貢ぎ物を受け取ってくれない理由がわからなくて、どうしていいのかわからないんだろう。

 その結果、何だか……見ているこっちがムズムズするような光景だった。

「いい加減に機嫌を直してくれ」
「最初から怒ってなどいない」

 イケオジ国王VSイケオジ妖精の些細なすれ違いを見せつけられて、いったいどうしろというんだろうか。

 なんとなくそれぞれの気持ちがわかるだけに、居ても立っても居られなくなった私は――、

「あのー! いったんお茶にします?」

 とりあえず、両者を落ち着かせることにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

アラフォー少女の異世界ぶらり漫遊記

道草家守
恋愛
書籍版が発売しました!旅立ち編から石城迷宮編まで好評レンタル中です! 若返りの元勇者、お忍び休暇を満喫す? 30歳で勇者召喚された三上祈里(女)は、魔王を倒し勇者王(男)として10年間統治していたが、転移特典のせいで殺到する見合いにうんざりしていた。 やさぐれた祈里は酒の勢いで「実年齢にモド〜ル」を飲むが、なぜか推定10歳の銀髪碧眼美少女になってしまう。  ……ちょっとまて、この美少女顔なら誰にも気づかれないのでは??? 溜まりまくった休暇を取ることにした祈里は、さくっと城を抜けだし旅に出た! せっかくの異世界だ、めいいっぱいおいしいもの食べて観光なんぞをしてみよう。 見た目は美少女、心はアラフォーの勇者王(+お供の傭兵)による、異世界お忍び満喫旅。 と、昔に置いてきた恋のあれこれ。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~

紅月シン
ファンタジー
 聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。  いや嘘だ。  本当は不満でいっぱいだった。  食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。  だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。  しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。  そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。  二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。  だが彼女は知らなかった。  三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。  知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。 ※完結しました。 ※小説家になろう様にも投稿しています

「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。 「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」 精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。 それでも生きるしかないリリアは決心する。 誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう! それなのに―…… 「麗しき私の乙女よ」 すっごい美形…。えっ精霊王!? どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!? 森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります

秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。 そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。 「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」 聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。

処理中です...