【完結】女神の使徒に選ばれた私の自由気ままな異世界旅行とのんびりスローライフ

あろえ

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第三章:エマと一緒に異世界旅行

第29話:おや、シルフくんの様子が……!?

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 いよいよ魔法の練習が始まるとなり、私はエマに期待の眼差しを向ける。

「風魔法であれば、ウィンドウォールで敵の攻撃を防ぐ方法が一般的」

 シルフくんが風の妖精ということもあり、その魔力を受け取った私は、風魔法との相性がいい。

 うまく使いこなせば、神様と崇められる妖精と同等レベルなので、初めて使う魔法にワクワクしていた。

「ウィンドウォール……。敵の攻撃を防ぐ風の障壁みたいなものだね。それで、どうすればいいの?」
「これは簡単。魔力をこうして、こうして、こう」

 前方にブワッと強い風が下から上に舞い上がり、風の障壁が展開される。

 空気の密度も濃いのか、風が巡回している影響なのかはわからないが、障壁の向こう側が見えなくなるほど強い風だった。

 ただ、一言だけ言いたい。

「いや、わからないから」

 エマの説明が雑すぎて、サッパリやり方がわからない。今ので魔法が使えたら、誰も苦労しないだろう。

 なお、エマが不満を抱いているのは明らかで、とても渋い顔をしていた。

「わかりやすく教えたつもりなのに……」
「ええー……。じゃあ、せめてもっとゆっくりやってみてよ。今のだと何一つ理解できないから」

 食レポはうまくなっているのに、どうして魔法の教え方はこんなにも下手なんだろうか。

 ノエルさんの言っていた、今まで友達がいなかった、という問題の影響なのかもしれない。

 今まで魔法を教える機会がなくて、どう教えていいのかわからないのだ。

 ……まあ、私も友達と疎遠になって、あまり人のことを言える立場にないけど。

 もう一度エマが教えてくれる気になったみたいなので、今度はしっかりとついていってみようと思う。

「まずは魔力を手にこうする」

 きっと手に魔力を集めると言いたいんだろう。

 シルフくんが魔力を流してくれた時に、ハッキリとそれを感じているから、ここまでは問題ない。

「その次にこうした魔力をこうする」

 どうしよう、早くもわからなくなった。エマが手を前に突き出しているから、魔力を放つ方向を決めるのかな。

「最後は魔力をこうするだけ」

 ……。あっという間に魔法のレクチャーが終わってしまった。

 エマの前にウィンドウォールが展開されるけど、これ、魔力を放つだけでいいんだろうか。

 心配に思いながらも、思い切ってエイッと放ってみると、魔力を集めていた手がポワッと輝く。

「やっほー! ボクのこと、呼んだ?」

 ウィンドウォールが展開されることはなく、なぜかシルフくんを呼び出すことに成功した。

 契約しているとはいえ、妖精を召喚する方が難しいのでは? と、思った次第である。

 納得のいかないエマが眉間にシワを寄せているが、何も知らないシルフくんが首を傾げているので、先に状況を説明しよう。

「ごめんね、シルフくん。実は、今からヤルバリル大森林に向かうところなんだけど、その前に魔法の練習をしておきたいなーって思ったら、間違えて呼び出しちゃったみたいで」
「そうなんだ。じゃあ、せっかくだから、ボクも胡桃たちと一緒に旅をしようかな。だいぶ体の調子も良くなってきたからね」

 そう言ったシルフくんが、まばゆい光を放った次の瞬間、驚くべき姿に変身する。

 なんと、体が大きく成長して、小学四年生くらいの男の子になってしまったのだ。

 愛くるしい姿はそのままに、妖精らしい羽が見えなくなり、うまく人間に化けている。

「すごーい! シルフくんって、人の姿になれるの⁉」
「まあね! 魔力が戻ってきたら、これくらいは朝飯前さ」
「えーっ! 可愛い……! もう弟みたいな感じだね」
「ふふーんっ! もっとボクを褒め称えてくれてもいいよ」

 中身まで子供っぽい……と思いつつも、シルフくんはもともとそんな感じだったので、気にしないでおこう。

 兄弟がいなかった私にとって、こんなに嬉しいことはない。

 可愛いペット枠でありつつ、弟枠にも収まったシルフくんは、今後も可愛がっていこうと思う。

 特に異世界では、子供っぽいエマがしっかり者になり、アルくんがペット枠に収まってくれるのだから。

「わ、わー。す、すごいー」
「グ、グルルー」

 なお、当の本人たちは、シルフくんを神だと崇めている立場なので、ぎこちない。

 可愛らしい子供にしか見えないものの、敬うべき存在であるのは変わらなかった。

 さすがに、この状況を見たシルフくんも苦笑いを浮かべている。

「ボクは胡桃と一心同体みたいなものなんだから、あまり気にしなくてもいいよ。ぎこちない旅になると、みんなで楽しめないからね」

 意外にも大人っぽい一面を持つシルフくんである。

 その言葉を聞いて納得したのか、エマとアルくんもコクコクッと頷いていた。

「じゃあ、ボクが一番に精霊鳥に乗るー!」

 切り替えが早いシルフくんは、きっと純粋にアルくんに乗りたかっただけなんだと思う。

 そんなことを思いつつも、私は彼を引き止めた。

「ちょっと待って! まだ魔法の練習が……」
「大丈夫だよ。ボクが道中に教えてあげるから。その辺の魔物をやっつけられるくらいには回復してるし、このままヤルバリル大森林に向かっても問題ないよ」

 結局、身のこなしが軽いシルフくんを止めることができず、早くもビシッとたたずむアルくんにまたがっていた。

 見た目だけで言えば、アルくんの方が威厳があるのは、気のせいだろうか。

 制止が効かないあたり、やっぱり子供だなーと思い、私は先に魔法を練習することを諦める。

 ヤルバリル大森林までの空の旅を満喫するため、エマに手伝ってもらって、アルくんの背にまたがった。

「ところでさ、シルフくんって、性別は男なの?」
「ボクは風だから、そういう性別という概念を持ち合わせていないよ。あえて言うなら、中性的な存在だね」
「そうなんだ。実はさ、私がお風呂に入ってる時とかどうしてるんだろうって、気になってたんだよね」
「心配しなくても、プライバシーは守るようにしているかな。胡桃が見られたくないと思う時は、魔力を通じてわかるからね」

 何気ない会話をシルフくんと交わしていると、エマがアルくんの背にまたがり、呼吸を整えた。

「アルサス、今日はゆっくり行こうね」
「グルルルル」

 これはシルフくんの接待になるのかなーと思いながらも、なんだかんだで私もアルくんとの旅を楽しむのであった。
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