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第二章:デカ小豆のお菓子
第24話:復活したシルフくん
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「く、胡桃ちゃん……? こ、こちらは、か、風の妖精様じゃないかしら」
突然現れたシルフくんを見て、ノエルさんは混乱していた。
自分が神様だと崇めている存在が、急に目の前に現れたのだから、当然のことかもしれない。
ノエルさんに隠すつもりはなかったけど、私もシルフくんのことがよくわからなくて、何とも言えなかったわけで……。
ここは本人に直接話してもらった方が早いと思い、私はスポーツドリンクを出すことを条件にして、シルフくんに説明を任せた。
真剣な表情で話を聞くノエルさんを前にして、シルフくんはスポーツドリンクをおいしそうに飲みながら話してくれる。
出会って一緒に食事したことも、空間魔法で世界を渡ってはいけなかったことも、シルフくんと契約したことも。
そして、彼の話が一区切りつく頃には、ノエルさんが申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
「異界の人は魔力中毒に陥ると知らなかったとはいえ、胡桃ちゃんを危ない目に合わせてしまうなんて。本当にごめんなさい」
「いえいえ。体に異常をきたす前にシルフくんが助けてくれましたし、今後は異世界を動き回れるようになりましたから、問題ありませんよ」
元はと言えば、私が行きたいと言いだしたのが原因であり、ノエルさんが悪いわけではない。
女神に認められたお父さんが、エマの空間魔法で行ったり来たりしていた分、余計に問題をややこしくさせている。
それが例外なだけだなんて、普通は気づくことがないから、仕方のないことだろう。
結果的には、みんなが幸せな方向に向かっているので、文句を言うつもりはなかった。
「それにシルフくんの魔力があれば、普通ではいけないところも行けるようになるみたいなんですよ。異世界旅行が捗りますよね」
日本でも『関係者以外立ち入り禁止』という区域が存在すると、興味本位に覗きたくなってしまう。
異世界で女神に選ばれた人しか入れない聖域ともなれば、胸が躍らないわけがない。
しかし、ノエルさんはそうではないみたいで、顔が引きつっていた。
「胡桃ちゃん? それって、聖女様のお仕事か、女神様のお仕事ではないのかしら」
「今、なんて言いましたか?」
不穏なことを指摘され、思わずノエルさんに聞き返してしまう。
私は異世界で自由に動ける権利を手にしただけであって、聖女や女神の仕事を委託された覚えはない、はずなのだが……。
「普通の人がいけない場所……つまり、王族が管理している神殿や妖精様が住まう土地、いわゆる聖域に足を運ぶのよね。遊びに行くような場所ではないから、何かしら役割を求められるんじゃないかしら」
言われてみれば、確かにそうだ。いや、異世界という存在に浮かれて気づかなかっただけで、普通に考えればわかるだろう。
観光に行ってもいい場所ではない、と。
思わず、追及するようにシルフくんにジト目を向けたら、そっぽを向かれてしまった。
「シルフくん? 何か話さなきゃいけないことがあるんじゃないかな。大きな役割を担うことはない、とか言われた気がするんだけど?」
「ボ、ボクもちょうどその話をしようかなーって思ってたところだよ」
本当かなー? と疑いたくなる気持ちはあるものの、わざわざ日本で姿を現したのであれば、何か理由があるはずだ。
エマじゃあるまいし、どら焼きに釣られた、とかではない……と思う。
残っていたものを一つ出してあげたら、喜んで食べ始めたけど。
「先に言っておくけど、昼間にも言った通り、胡桃にやってもらうことはほとんどないんだよ」
「ほとんど、ね?」
「そんなに揚げ足を取らないでよ。胡桃にも悪い話じゃないんだからさ。だって、ボクと一緒に聖域を訪れたら、絶対に出会うことがない妖精たちと触れ合えるんだよ?」
うぐっ……。それは確かに魅力的ではある。
異世界らしい場所に向かい、ファンタジーな妖精たちと触れ合えるとなれば、とても楽しい旅行になりそうだ。
「じゃあ、ノエルさんの言ってた聖女や女神様の仕事っていうのは?」
「今の世界には必要のないことだから、胡桃がやる必要はないって感じかな」
どういう意味なんだろう……と思い、ノエルさんに顔を向けても、私と同じように首を傾げている。
それを見たシルフくんは、仕方ないなーと言わんばかりに大きなため息を吐いた。
突然現れたシルフくんを見て、ノエルさんは混乱していた。
自分が神様だと崇めている存在が、急に目の前に現れたのだから、当然のことかもしれない。
ノエルさんに隠すつもりはなかったけど、私もシルフくんのことがよくわからなくて、何とも言えなかったわけで……。
ここは本人に直接話してもらった方が早いと思い、私はスポーツドリンクを出すことを条件にして、シルフくんに説明を任せた。
真剣な表情で話を聞くノエルさんを前にして、シルフくんはスポーツドリンクをおいしそうに飲みながら話してくれる。
出会って一緒に食事したことも、空間魔法で世界を渡ってはいけなかったことも、シルフくんと契約したことも。
そして、彼の話が一区切りつく頃には、ノエルさんが申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
「異界の人は魔力中毒に陥ると知らなかったとはいえ、胡桃ちゃんを危ない目に合わせてしまうなんて。本当にごめんなさい」
「いえいえ。体に異常をきたす前にシルフくんが助けてくれましたし、今後は異世界を動き回れるようになりましたから、問題ありませんよ」
元はと言えば、私が行きたいと言いだしたのが原因であり、ノエルさんが悪いわけではない。
女神に認められたお父さんが、エマの空間魔法で行ったり来たりしていた分、余計に問題をややこしくさせている。
それが例外なだけだなんて、普通は気づくことがないから、仕方のないことだろう。
結果的には、みんなが幸せな方向に向かっているので、文句を言うつもりはなかった。
「それにシルフくんの魔力があれば、普通ではいけないところも行けるようになるみたいなんですよ。異世界旅行が捗りますよね」
日本でも『関係者以外立ち入り禁止』という区域が存在すると、興味本位に覗きたくなってしまう。
異世界で女神に選ばれた人しか入れない聖域ともなれば、胸が躍らないわけがない。
しかし、ノエルさんはそうではないみたいで、顔が引きつっていた。
「胡桃ちゃん? それって、聖女様のお仕事か、女神様のお仕事ではないのかしら」
「今、なんて言いましたか?」
不穏なことを指摘され、思わずノエルさんに聞き返してしまう。
私は異世界で自由に動ける権利を手にしただけであって、聖女や女神の仕事を委託された覚えはない、はずなのだが……。
「普通の人がいけない場所……つまり、王族が管理している神殿や妖精様が住まう土地、いわゆる聖域に足を運ぶのよね。遊びに行くような場所ではないから、何かしら役割を求められるんじゃないかしら」
言われてみれば、確かにそうだ。いや、異世界という存在に浮かれて気づかなかっただけで、普通に考えればわかるだろう。
観光に行ってもいい場所ではない、と。
思わず、追及するようにシルフくんにジト目を向けたら、そっぽを向かれてしまった。
「シルフくん? 何か話さなきゃいけないことがあるんじゃないかな。大きな役割を担うことはない、とか言われた気がするんだけど?」
「ボ、ボクもちょうどその話をしようかなーって思ってたところだよ」
本当かなー? と疑いたくなる気持ちはあるものの、わざわざ日本で姿を現したのであれば、何か理由があるはずだ。
エマじゃあるまいし、どら焼きに釣られた、とかではない……と思う。
残っていたものを一つ出してあげたら、喜んで食べ始めたけど。
「先に言っておくけど、昼間にも言った通り、胡桃にやってもらうことはほとんどないんだよ」
「ほとんど、ね?」
「そんなに揚げ足を取らないでよ。胡桃にも悪い話じゃないんだからさ。だって、ボクと一緒に聖域を訪れたら、絶対に出会うことがない妖精たちと触れ合えるんだよ?」
うぐっ……。それは確かに魅力的ではある。
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「じゃあ、ノエルさんの言ってた聖女や女神様の仕事っていうのは?」
「今の世界には必要のないことだから、胡桃がやる必要はないって感じかな」
どういう意味なんだろう……と思い、ノエルさんに顔を向けても、私と同じように首を傾げている。
それを見たシルフくんは、仕方ないなーと言わんばかりに大きなため息を吐いた。
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