【完結】女神の使徒に選ばれた私の自由気ままな異世界旅行とのんびりスローライフ

あろえ

文字の大きさ
上 下
23 / 54
第二章:デカ小豆のお菓子

第23話:大人のどら焼きの販売に向けて

しおりを挟む
 二日後の夜のこと。ノエルさんとエマが仲良くお風呂に入っている間に、私はお父さんとデカ小豆のどら焼きを試食していた。

「……完璧だな」
「文句ないよね」

 甘みを抑えたコク深い餡と、少し甘めの生地が絶妙にマッチしている。

 舌触りも喉ごしもよく、食べ続けても重く感じることがないため、大人のどら焼きというテーマにピッタリだった。

 なにより、デカ小豆の豊かな香りが食欲をそそる。

 ついつい口にどら焼きを運んで、自然と食べ続けてしまうような感覚に陥るほど、絶妙なバランスだった。

 まさかエマの舌がここまで繊細だったなんて。異世界からやってきたという意味では、神の舌チート能力を持ってきたとも言える。

 もちろん、私が最終的に餡と生地の砂糖や量を調整して、どら焼き全体のバランスも考えた。

 大人のどら焼きというコンセプトだって、私が考えている。

 それでも、エマの声が大きかったわけであって……。

「優秀な人材が増えるって、最高だね」

 顧客の接客を任せられるノエルさんがいて、商品開発部部長のエマがいて、一応、店のことは何でもできるお父さんがいる。

 最初は異世界人の二人と一緒に生活することになったら、もっと負担がかかるものだと思っていたけど、想像以上に楽をさせてもらっていた。

 ノエルさんとエマが頑張ってくれている影響も多いが、きっとそれだけではない。

 今までの経営のやり方にも問題があったんだろう。

 物価が上がり続け、コンビニまでライバル店になり始めた昨今、手作り販売で菓子店を営むのは難しい。

 老舗の菓子店やデパ地下の有名店が閉店する話も耳に入るし、どの店も企業努力を重ねて、生き残ろうと必死だった。

 うちの店も同じ状況ではあるものの……いろいろと苦労しているのは、今に限ったことではない。

 父子家庭ということもあり、小さい頃から親子で苦労を積み重ねている。

 私が経営や経理を掛け持ちしたり、お父さんが店内の清掃や仕入れの管理をしたり、家事も二人で分担したりして、毎日忙しく過ごしていた。

 だから、ノエルさんとエマが負担を減らしてくれて、本当に助かっている。

 二人が手伝ってくれるおかげで、おいしい商品を真心を込めて手作りして、笑顔で商品を販売できる環境が整えられたのは、とても良いことだと思った。

「自慢の家族が二人も増えたな」

 お父さんも新商品だけでなく、現在の環境に満足しているみたいだ。

 このまま良い連鎖が続いていけば、もっとノエルさんとエマにも日本を楽しんでもらえるかもしれない。

 みんなで幸せに暮らせる日が、すぐそこまでやってきる。

 思わず、お風呂上がりに台所にやってきたエマとノエルさんに、キンキンに冷えた牛乳を出してあげた。

「こっちの世界の飲み物は味が豊かだし、いつも冷えていていいわね」
「ぷはぁ~。ポカポカになった体に染みわたる」

 まだ日本で生活を始めて二日目なのに、本当に二人は馴染むのが早い。

 ちゃんと髪の毛もドライヤーで乾かしているため、お風呂の入り方も覚えたみたいだ。

 私もどことなく二人の姿を見慣れたのか、家にいるのが当たり前のような感覚で過ごしている。

「どら焼き♪ どら焼き♪」

 食に走ってばかりのエマだが、決して勝手に食べようとしているわけではない。お風呂上がりに和菓子を一つだけ食べることを許可している。

 ちゃんと分別をわきまえて行動できる子なので、安心して一緒に暮らせていた。

 そして、ノエルさんのこともなんとなくわかり始めている。

 私と感性が似ている点が多いと思い、今日はお風呂で愛用している桜のバスボムをノエルさんに勧めてみたのだ。

 彼女の癒された顔を見れば、気に入ってくれたんだなーと察する。

「胡桃ちゃん。今日のお風呂、とってもよかったわ」
「楽しんでいただけて何よりです」
「あれが桜という花の香りなのね。実際に咲いているところが見てみたいけど、難しいのよね?」
「今は季節外れなので難しいんですけど、桜が咲く頃にいろいろとお出かけできるといいですね」

 異世界人の二人が楽しめることは、きっといっぱいある。

 食事や生活だけではなく、観光や日本の旅行などもさせてあげたかった。

 そのためにも、商売繁盛が必須である。

 本来であれば、今後の方針や予定を経営担当の私がパパッと決めてしまうのだが、今回は話し合いたい相手がいた。

「じゃあ、お父さんとエマは解散で。ノエルさんは、菓子店の繁盛計画の話をしよう」

 製菓専門学校を卒業してからというもの、機械音痴のお父さんの代わりに、ホームページの管理やネット広告だけでなく、確定申告まで私がやっている。

 ハッキリ言って、お父さんが異世界で勇者活動している間に、実質の経営者は私に変わっていた。

 なお、本人も『じゃあ、任せた』と言わんばかりに立ち去り、お風呂に行くくらいなので、問題はない。

 エマも漫画の続きが気になるみたいで、私の部屋へと向かっていった。

 一方、ノエルさんは違う。日本で過ごすために稼がないといけないと理解しているため、真剣な表情を浮かべている。

 とりあえず、二人で台所の椅子に腰を下ろして、繁盛計画を伝えることにした。

「新商品を出すにあたり、お客さんにその存在を知ってもらう必要があるので、ポスターや画像を作って宣伝したいんですよね」
「ポスターは……店内に貼られている紙のことよね」
「それもそうなんですけど、他の店に貼らせてもらったり、情報雑誌やホームページに載せたりと、いろいろな形があります」
「なるほどね。文明が発展した影響で宣伝の方法がいくつもあるのね」

 パソコンを使った編集作業もあるが、いくらノエルさんでも使いこなすのは難しいだろう。

 そんな裏方の作業は私に任せて、お願いしたいことがある。

「いつもポスターを作る際、お菓子や店内の風景を載せる程度に済ませるんですけど、今回はノエルさんとエマの写真を使って、お客さんを引き寄せようと考えています」
「写真? というのは、何かしら」
「ああー、写真はですね、とても正確なイラストみたいなもので……」

 説明するより見てもらった方が早いと思い、スマホを持ってきて、ノエルさんをパシャッと撮ってみる。

 その画像を本人に見せたところ、とても驚いていた。

「すごいのね。想像以上に精妙な絵だわ。雑誌に使われていた絵は、こういうことだったのね」
「そうなんですよ。この機能を使って、ノエルさんとエマが和菓子を食べているところを撮影して、店と商品をアピールしようかなって考えています」

 他店では絶対に真似できないデカ小豆を使った新商品と、耳を隠した美人エルフのモデルを器用する作戦。

 この二段構えで猛プッシュすれば、商売繫盛すること間違いなし!

 しかし、モデル採用をノエルさんに伝えたところ、とても恥ずかしそうにしていた。

「だ、大丈夫かしら。エマはともかくとして、私はこの世界で最も年老いた人類に分類されるはずなのだけれど」
「トップランクの美貌を持っているんですから、余裕ですよ。外国人観光客向けにも適していますし、和菓子を食べる異国の美人姉妹とした方が、インパクトが強いんです」
「やだわ、そんな美人姉妹だなんて。私とエマは親子なのに~」

 どうやら若く見られるのは、相当嬉しいみたいだ。

 顔を赤くしたノエルさんは、頬に手を添えて、盛大に照れている。

「え~、どうしようかしら。もうポーズとか決まってるの? 雑誌を借りて勉強した方がいいかしら」

 なお、意外に褒められ慣れていないらしく、ノエルさんはやる気をみなぎらせている。

 普通の姿が取りたいだけなのに、ポーズの研究を始めたので、ちょっと言いにくくなってしまった。

「じゃあ、いったん新商品のデカ小豆を使った大人のどら焼きは、ポスターを作り終えてからの販売としますね。こちらで準備を進めておきますので、写真を取る時は協力してください」
も何か手伝おうか?」
「ううん、大丈夫だよ。気にしなくても……ん?」

 突然、耳元で聞き覚えのある声が聞こえてきたと思ったら、シルフくんが宙にぷかぷかと浮かんでいた。

 こっちの世界にも出てこられるんだーと呑気に思っていると、ノエルさんが驚愕の表情を浮かべていることに気づく。

 その瞬間、私は改めて思った。

 エルフにとって妖精とは、本当に神様みたいな存在なんだな、と。

「く、胡桃ちゃん……? こ、こちらは、か、風の妖精様じゃないかしら」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

アラフォー少女の異世界ぶらり漫遊記

道草家守
恋愛
書籍版が発売しました!旅立ち編から石城迷宮編まで好評レンタル中です! 若返りの元勇者、お忍び休暇を満喫す? 30歳で勇者召喚された三上祈里(女)は、魔王を倒し勇者王(男)として10年間統治していたが、転移特典のせいで殺到する見合いにうんざりしていた。 やさぐれた祈里は酒の勢いで「実年齢にモド〜ル」を飲むが、なぜか推定10歳の銀髪碧眼美少女になってしまう。  ……ちょっとまて、この美少女顔なら誰にも気づかれないのでは??? 溜まりまくった休暇を取ることにした祈里は、さくっと城を抜けだし旅に出た! せっかくの異世界だ、めいいっぱいおいしいもの食べて観光なんぞをしてみよう。 見た目は美少女、心はアラフォーの勇者王(+お供の傭兵)による、異世界お忍び満喫旅。 と、昔に置いてきた恋のあれこれ。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~

紅月シン
ファンタジー
 聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。  いや嘘だ。  本当は不満でいっぱいだった。  食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。  だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。  しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。  そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。  二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。  だが彼女は知らなかった。  三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。  知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。 ※完結しました。 ※小説家になろう様にも投稿しています

「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。 「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」 精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。 それでも生きるしかないリリアは決心する。 誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう! それなのに―…… 「麗しき私の乙女よ」 すっごい美形…。えっ精霊王!? どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!? 森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります

秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。 そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。 「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」 聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。

処理中です...