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第二章:デカ小豆のお菓子
第16話:ハイスペックなノエルさん
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エルフの二人と同居することになった翌日。
私は菓子づくりの仕込みで早起きして、いつもと同じ慌ただしい朝を迎えていた。
和菓子にとって命とも言えるあま~い餡を作り、それに合う様々な商品を作っていく。
酸味の利いたイチゴ大福には、少し甘めの餡を。モチッとした触感のお饅頭には、甘さ控えめの餡を。ふわふわの生地に焼き目を入れたどら焼きには、たっぷりの粒餡を。
それぞれの商品に適した餡を入れて、おいしさを包み込むように優しく作っていく。
「うん、今日も上出来かな。後は形を崩れないようにしてっと……」
こうして朝から和菓子を一つずつ手作りするため、一日で用意できる商品の数には限度がある。
大手企業が工場で大量生産して、コンビニやスーパーで安く販売するような時代になったが、うちは一つずつ丁寧に作るように心がけていた。
どれだけ文明が発達したとしても、味や食感は機械に負けない。手作りでしか作れない味があると思っている。
手軽さやコスト面では負けてしまうけど……と弱音をこぼしつつも、どら焼きを作り続けていると、お父さんとノエルさんが起きてきて、それらを包装してくれる。
手慣れた手付きでパパッと作業するお父さんと、教わりながらも丁寧に作業してくれるノエルさんは、相変わらず仲睦まじい雰囲気だった。
「これはもう少し商品を内側に寄せた方がやりやすいぞ」
「そうなのね。次はそう意識してみるわ」
私は朝から何を見せられているんだ。意外に二人の距離が近いなー、もう。
お父さんたちのことを気にしないようにして、そのまま商品を作り続けていると、午前の開店時間を迎える。
平日の朝ではあるものの、うちにとっては休み明けなので、顔馴染みのお客さんが早い時間に来てくれることが多かった。
本来であれば、そういう忙しい時間帯だけでも私も店内に立つのだが、今日はノエルさんにお願いしている。
人生経験が豊富なことが影響しているのか、何でも卒なくこなすノエルさんは、少し教えただけでレジ打ちのやり方まで覚えていた。
とても異世界からやってきたとは思えない。ハイスペックすぎて、早くも店に馴染んでいる。
これには、よく買いに来てくれる近所のお婆ちゃんも驚き、ノエルさんに声をかけていた。
「こんな美人な外人さんと再婚するなんて、世の中はようわからんもんだねえ」
「ちょっとご縁があっただけなんですよ~」
「おまけに日本語も上手ときたもんだ。あんた、日本に来て何年目だい?」
「今日で二日目です~」
「冗談も言えるのかい。こりゃおったまげたね」
アハハハ、と和やかに会話するものの、ノエルさんは素直に答えただけである。
危ないような危なくないような絶妙な会話で、見事に乗り切っていた。
これには、お父さんの性格も影響しているだろう。
「今日の会計は、どら焼き二つで四百万円だ」
「はいはい。四十円ね」
「急遽値上がりして、四千万円になったかもしれない」
普段なら、馬鹿を言っていないでちゃんと仕事しろ、と私が突っ込みを入れて、お婆ちゃんに謝るところまでがセットなのだが。
今日はノエルさんが優しくペチッと頭を叩いて、場をなだめてくれていた。
その光景を見て、私はすべてを察する。
こんなことを異世界でもやっていたんだな、と。
ノエルさんがお父さんの扱いに慣れているみたいだから、このまま店を任せてもいいかもしれない。
私は裏方作業に専念して、ゆっくりと仕事をさせてもらおう。
「しまった。今日は売れ行きが良くて、もう袋がなくなったぞ」
「足りなくなると思いまして、こちらに用意しておきましたよ」
「そうか。ノエルは頼りになるなー、ハッハッハ」
意外に良いコンビなのかもしれないなーと思いつつ、私は調理場の方へと向かっていく。
なんといっても――、
「まいどあり~!!」
と、お父さんの大きな声が響き渡るほど、うちの店は元気が自慢なのだから。
お淑やかなノエルさんがいてくれた方が、絶対にバランスがいい。
私は菓子づくりの仕込みで早起きして、いつもと同じ慌ただしい朝を迎えていた。
和菓子にとって命とも言えるあま~い餡を作り、それに合う様々な商品を作っていく。
酸味の利いたイチゴ大福には、少し甘めの餡を。モチッとした触感のお饅頭には、甘さ控えめの餡を。ふわふわの生地に焼き目を入れたどら焼きには、たっぷりの粒餡を。
それぞれの商品に適した餡を入れて、おいしさを包み込むように優しく作っていく。
「うん、今日も上出来かな。後は形を崩れないようにしてっと……」
こうして朝から和菓子を一つずつ手作りするため、一日で用意できる商品の数には限度がある。
大手企業が工場で大量生産して、コンビニやスーパーで安く販売するような時代になったが、うちは一つずつ丁寧に作るように心がけていた。
どれだけ文明が発達したとしても、味や食感は機械に負けない。手作りでしか作れない味があると思っている。
手軽さやコスト面では負けてしまうけど……と弱音をこぼしつつも、どら焼きを作り続けていると、お父さんとノエルさんが起きてきて、それらを包装してくれる。
手慣れた手付きでパパッと作業するお父さんと、教わりながらも丁寧に作業してくれるノエルさんは、相変わらず仲睦まじい雰囲気だった。
「これはもう少し商品を内側に寄せた方がやりやすいぞ」
「そうなのね。次はそう意識してみるわ」
私は朝から何を見せられているんだ。意外に二人の距離が近いなー、もう。
お父さんたちのことを気にしないようにして、そのまま商品を作り続けていると、午前の開店時間を迎える。
平日の朝ではあるものの、うちにとっては休み明けなので、顔馴染みのお客さんが早い時間に来てくれることが多かった。
本来であれば、そういう忙しい時間帯だけでも私も店内に立つのだが、今日はノエルさんにお願いしている。
人生経験が豊富なことが影響しているのか、何でも卒なくこなすノエルさんは、少し教えただけでレジ打ちのやり方まで覚えていた。
とても異世界からやってきたとは思えない。ハイスペックすぎて、早くも店に馴染んでいる。
これには、よく買いに来てくれる近所のお婆ちゃんも驚き、ノエルさんに声をかけていた。
「こんな美人な外人さんと再婚するなんて、世の中はようわからんもんだねえ」
「ちょっとご縁があっただけなんですよ~」
「おまけに日本語も上手ときたもんだ。あんた、日本に来て何年目だい?」
「今日で二日目です~」
「冗談も言えるのかい。こりゃおったまげたね」
アハハハ、と和やかに会話するものの、ノエルさんは素直に答えただけである。
危ないような危なくないような絶妙な会話で、見事に乗り切っていた。
これには、お父さんの性格も影響しているだろう。
「今日の会計は、どら焼き二つで四百万円だ」
「はいはい。四十円ね」
「急遽値上がりして、四千万円になったかもしれない」
普段なら、馬鹿を言っていないでちゃんと仕事しろ、と私が突っ込みを入れて、お婆ちゃんに謝るところまでがセットなのだが。
今日はノエルさんが優しくペチッと頭を叩いて、場をなだめてくれていた。
その光景を見て、私はすべてを察する。
こんなことを異世界でもやっていたんだな、と。
ノエルさんがお父さんの扱いに慣れているみたいだから、このまま店を任せてもいいかもしれない。
私は裏方作業に専念して、ゆっくりと仕事をさせてもらおう。
「しまった。今日は売れ行きが良くて、もう袋がなくなったぞ」
「足りなくなると思いまして、こちらに用意しておきましたよ」
「そうか。ノエルは頼りになるなー、ハッハッハ」
意外に良いコンビなのかもしれないなーと思いつつ、私は調理場の方へと向かっていく。
なんといっても――、
「まいどあり~!!」
と、お父さんの大きな声が響き渡るほど、うちの店は元気が自慢なのだから。
お淑やかなノエルさんがいてくれた方が、絶対にバランスがいい。
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