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第二章:デカ小豆のお菓子
第14話:お好み焼き2
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初めて食べるお好み焼きに対して、ノエルさんとエマの手は止まらなかった。
「複雑な味が一つにまとまっているわ。おいしいわね」
「うん。この世界のパンは、革命を起こし続けている」
お好み焼きはパンなのか……? と疑問を抱く部分はあるが、異世界の感覚だとパンに分類されてもおかしくはない。
二人ともおいしそうに食べてくれているので、深く気にしないでおこう。
なお、思っている以上に食いつきがよかったため、私がすぐに食べる分はない。
どうせおかわりがすぐに必要になると思い、再びお好み焼きを焼いている。
「胡桃は料理が上手だからな、ハッハッハ」
二人と一緒にお父さんも呑気に食べているが、後片付けをすべて任せているので、許容範囲内だ。
仮に、飲み物を取ってきてくれ、などと言われたら、手が出るとは思う。
さすがに二十年も付き合いがあるため、そういうところはうまい具合に親子関係を築いていた。
お好み焼き第二弾が焼き上がり、私も夜ごはんにありつけるようになると、ノエルさんに視線を向けられる。
「夜ごはんの調理もそうだけれど、胡桃ちゃんがお店の商品も作っているのよね」
「そうですね、私が調理を担当しています。と言っても、お父さんと二人だと役割分担した方が効率的なので、仕事を分けているだけですよ」
お互いに得意分野が違うため、仕事に対して揉めることは少なかった。
デジタル化した今の時代についていけない機械音痴のお父さんには、ホームページやSNSがわからない。そのため、私が専門学校を卒業した頃から、経営や経理をすべて任されている。
今思えば、異世界に行くために仕事を押し付けていたんだなーと、邪推してしまうが。
まあ、そのおかげでノエルさんと再婚できたのであれば、親孝行していたということにしておこう。
「私に何かお手伝いできることはないかしら」
「うーん、気持ちはありがたいですが、うちの調理場は狭いんですよね……。細かい包装作業はお父さんに任せているので、そっちを手伝ってあげてください」
「そうなのね。せっかくなら、胡桃ちゃんの負担も減らしてあげたいのだけれど」
「大したことありませんので、気にしないでください。それよりも、私の代わりにカウンターに立って、お父さんと一緒に商品を販売してくれた方が助かります。裏方の作業に専念できますから」
「わかったわ。じゃあ、そうさせてもらうわね。魔法を使わず、耳を隠しておけば、人前に出ても大丈夫みたいだし」
ノエルさんの言う通り、店内であれば、あまり見た目を気にする必要はない。
店の制服に身を包むし、エルフ耳は三角巾で隠せる。看板娘の私よりもポワポワしていて可愛いので、店内に顔を出すだけでも売り上げに貢献してくれるだろう。
もう一人、ルックスだけで売り上げに貢献してくれそうな人もいるが。
「ノエルさんは店で働くみたいなだけど、エマはどうするの?」
「私はまだ子供だから、仕事は遠慮する」
いくらエルフとはいえ、二十歳にもかかわらず、義理の家族と同居でニートはよろしくない。
今後もエルフの感覚で過ごされたら、私がおばあちゃんになる頃まで、エマが子供扱いされる恐れもある。
「エマが働きたくないなら別にいいけど……。あーあ、残念だなー。店で働いてくれたら、和菓子が食べられる回数も増えてくるのに」
「働く!」
まだどら焼きも食べていないくせに、恐ろしく返答が早い。なんて食欲に素直な子なんだ。
扱いやすくて助かる、と思う反面、異世界で自由にさせてもらっている身としては、申し訳ない気持ちもある。
でも、異世界産の野菜で新商品を作るにしても、時間と労力がかかるし、本当に作れるのかもわからない。
日本での生活費は出すと言ったけど、こっちで過ごす期間の方が長いんだから、ちょっとくらいは協力してもらおうと思っていた。
まあ……その分、二人の面倒をちゃんと見ようとは思っている。
「ずっと疑問に思っていたんだけど、異世界では髪の毛の手入れってどうしてるの?」
ノエルさんもエマも、肌はきれい。顔も可愛いし、スタイルもいい。
それなのに、髪の毛にキューティクルを感じられず、艶がなかった。
「水でバシャッと」
「……それだけ?」
「それだけ」
何かおかしい? と言わんばかりに、エマに首を傾けられてしまう。
ノエルさんに確認してみても、それは同じこと。聞いているこっちの方が頭が痒くなってきそうだった。
「もしかして、髪の毛のケアを何もしていないの? 保湿成分のあるオイルとか薬草とかは?」
「かなりベタッとするから、街にいたら軽くケアをする程度」
「お風呂に入ったりとかは?」
「湯あみは上級貴族しかやらない。濡れタオルで汚れを拭くくらい」
すぐに美容院に突っ込むか。いや、時間的に無理だし、エルフ耳を見られてはならない。
むう……。私の使っているシャンプーとリンスで、傷んだ髪を蘇らせるしか方法が思い浮かばなかった。
果たして、そんなことができるのだろうか……。
二十年ものダメージを溜め込んだエマの髪でも強敵なのに、二百四十年ものダメージを溜め込んだノエルさんの髪も相手にしなければならないなんて。
でも、さすがに同じ女として、放っておくことはできない。
「ノエルさん、エマ。夜ごはんを食べたら、身を清めよう」
人にシャンプーした経験なんてないけど、やってやろうではないか!
「複雑な味が一つにまとまっているわ。おいしいわね」
「うん。この世界のパンは、革命を起こし続けている」
お好み焼きはパンなのか……? と疑問を抱く部分はあるが、異世界の感覚だとパンに分類されてもおかしくはない。
二人ともおいしそうに食べてくれているので、深く気にしないでおこう。
なお、思っている以上に食いつきがよかったため、私がすぐに食べる分はない。
どうせおかわりがすぐに必要になると思い、再びお好み焼きを焼いている。
「胡桃は料理が上手だからな、ハッハッハ」
二人と一緒にお父さんも呑気に食べているが、後片付けをすべて任せているので、許容範囲内だ。
仮に、飲み物を取ってきてくれ、などと言われたら、手が出るとは思う。
さすがに二十年も付き合いがあるため、そういうところはうまい具合に親子関係を築いていた。
お好み焼き第二弾が焼き上がり、私も夜ごはんにありつけるようになると、ノエルさんに視線を向けられる。
「夜ごはんの調理もそうだけれど、胡桃ちゃんがお店の商品も作っているのよね」
「そうですね、私が調理を担当しています。と言っても、お父さんと二人だと役割分担した方が効率的なので、仕事を分けているだけですよ」
お互いに得意分野が違うため、仕事に対して揉めることは少なかった。
デジタル化した今の時代についていけない機械音痴のお父さんには、ホームページやSNSがわからない。そのため、私が専門学校を卒業した頃から、経営や経理をすべて任されている。
今思えば、異世界に行くために仕事を押し付けていたんだなーと、邪推してしまうが。
まあ、そのおかげでノエルさんと再婚できたのであれば、親孝行していたということにしておこう。
「私に何かお手伝いできることはないかしら」
「うーん、気持ちはありがたいですが、うちの調理場は狭いんですよね……。細かい包装作業はお父さんに任せているので、そっちを手伝ってあげてください」
「そうなのね。せっかくなら、胡桃ちゃんの負担も減らしてあげたいのだけれど」
「大したことありませんので、気にしないでください。それよりも、私の代わりにカウンターに立って、お父さんと一緒に商品を販売してくれた方が助かります。裏方の作業に専念できますから」
「わかったわ。じゃあ、そうさせてもらうわね。魔法を使わず、耳を隠しておけば、人前に出ても大丈夫みたいだし」
ノエルさんの言う通り、店内であれば、あまり見た目を気にする必要はない。
店の制服に身を包むし、エルフ耳は三角巾で隠せる。看板娘の私よりもポワポワしていて可愛いので、店内に顔を出すだけでも売り上げに貢献してくれるだろう。
もう一人、ルックスだけで売り上げに貢献してくれそうな人もいるが。
「ノエルさんは店で働くみたいなだけど、エマはどうするの?」
「私はまだ子供だから、仕事は遠慮する」
いくらエルフとはいえ、二十歳にもかかわらず、義理の家族と同居でニートはよろしくない。
今後もエルフの感覚で過ごされたら、私がおばあちゃんになる頃まで、エマが子供扱いされる恐れもある。
「エマが働きたくないなら別にいいけど……。あーあ、残念だなー。店で働いてくれたら、和菓子が食べられる回数も増えてくるのに」
「働く!」
まだどら焼きも食べていないくせに、恐ろしく返答が早い。なんて食欲に素直な子なんだ。
扱いやすくて助かる、と思う反面、異世界で自由にさせてもらっている身としては、申し訳ない気持ちもある。
でも、異世界産の野菜で新商品を作るにしても、時間と労力がかかるし、本当に作れるのかもわからない。
日本での生活費は出すと言ったけど、こっちで過ごす期間の方が長いんだから、ちょっとくらいは協力してもらおうと思っていた。
まあ……その分、二人の面倒をちゃんと見ようとは思っている。
「ずっと疑問に思っていたんだけど、異世界では髪の毛の手入れってどうしてるの?」
ノエルさんもエマも、肌はきれい。顔も可愛いし、スタイルもいい。
それなのに、髪の毛にキューティクルを感じられず、艶がなかった。
「水でバシャッと」
「……それだけ?」
「それだけ」
何かおかしい? と言わんばかりに、エマに首を傾けられてしまう。
ノエルさんに確認してみても、それは同じこと。聞いているこっちの方が頭が痒くなってきそうだった。
「もしかして、髪の毛のケアを何もしていないの? 保湿成分のあるオイルとか薬草とかは?」
「かなりベタッとするから、街にいたら軽くケアをする程度」
「お風呂に入ったりとかは?」
「湯あみは上級貴族しかやらない。濡れタオルで汚れを拭くくらい」
すぐに美容院に突っ込むか。いや、時間的に無理だし、エルフ耳を見られてはならない。
むう……。私の使っているシャンプーとリンスで、傷んだ髪を蘇らせるしか方法が思い浮かばなかった。
果たして、そんなことができるのだろうか……。
二十年ものダメージを溜め込んだエマの髪でも強敵なのに、二百四十年ものダメージを溜め込んだノエルさんの髪も相手にしなければならないなんて。
でも、さすがに同じ女として、放っておくことはできない。
「ノエルさん、エマ。夜ごはんを食べたら、身を清めよう」
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