【完結】女神の使徒に選ばれた私の自由気ままな異世界旅行とのんびりスローライフ

あろえ

文字の大きさ
上 下
13 / 54
第二章:デカ小豆のお菓子

第13話:お好み焼き1

しおりを挟む
 エマの転移魔法で我が家の裏庭に帰ってくると、こっちの世界でも時間の流れは同じみたいで、すっかり夕暮れ時になっていた。

 見慣れた景色のはずなのに、異世界から戻ってきたばかりだと、まるで違って見える。

 裏庭からガチャッとドアを開けて入るだけでも、最先端の日本の文化に感動してしまっていた。

 靴をしまう収納スペースと空気清浄機だけでなく、キャラクターをモチーフにしたクマさんのスリッパまで存在する。

 こんな何気ないものに技術力を感じて、心が動かされる日が来るなんて、夢にも思わなかった。

 ちなみに、クマさんのスリッパは私の愛用品である。

「……」

 なお、エマが羨ましそうな目でクマさんのスリッパを見つめてくるので、今度別バージョンのものを買ってあげようと思う。

 ひとまず、今日は客人用のスリッパで許してほしい。

 エマが靴から客人用のスリッパに履き替えたところを見届けると、ちょうどお父さんとノエルさんがやってきた。

「ただいま~。ごめんね、帰るのが遅くなっちゃって」
「おかえり。こっちも何とか片づいたばかりだから、気にしないでくれ。今日の夜ごはんは出前で済ませるか?」
「ううん、今からごはんを作るよ。その代わり、エマに電化製品とかゴミの分別の仕方を教えてあげて。乙女の問題に引っ掛かりそうなものは、放っておいてくれてもいいから」
「わかったよ」

 いったんお父さんとノエルさんにエマを預けて、私は急いで洗面所に向かう。

 手を洗って、うがいした後、エプロンをつけてキッチンに立った。

 今朝、急遽ピクニックに向かうことにしたため、すでに四人分の食料を消費している。

 買い物なしで四人分の料理となると……、サンドウィッチよりも簡単なものしかできない。

 しかし、日本の料理文化の著しい発達のおかげで、こういう時には奥の手というものが存在する。

 それは……、

「これだけ食材が少ないと、やっぱりお好み焼きしかないわ」

 簡単ですぐに作れておいしい料理、お好み焼き。

 キッチンの収納棚に封印されたお好み焼きの粉(とろろエキス入り)と、冷蔵庫に眠るお好み焼きソースがあれば、約束された味が手に入る。

 これには、ノエルさんとエマも喜ぶこと間違いなし。ふっふっふ、今日は特別にホットプレートの上で作ろうかな。

 早速、キャベツを洗って千切りにした後、お好み焼きの粉と水を混ぜ合わせる。

 油っぽくなりすぎない程度に天かすや卵なども混ぜて、居間に持ち運んだ。

 そこにお好み焼きソースやマヨネーズ、ヘラや菜箸、解凍した豚肉……などを持ち込んでいると、エマが勢いよくやってくる。

 そして、お好み焼きのタネを見て、微妙な表情を浮かべた。

「く、胡桃の料理、おいしいって、し、信じてるから」
「疑ってるじゃん。言っておくけど、これはあくまで準備段階であって、今からが本番なんだからね」

 疑いの眼差しを向けてくるエマの前で、ホットプレートにスイッチを入れて、油を引く。

 エマがそれに触らないように様子を見つつ、お好み焼きのタネをホットプレートに流し入れ、その上に豚肉を乗せた。

「……どら焼き」

 なお、食いしん坊のエマにとっては、お好み焼きの形がどら焼きに見えたみたいだが。

 そういえば、ピクニックに持っていったデザート用のどら焼きは、アルくんに食べさせたんだっけ。

「夜ごはんの前にどら焼きは食べるものじゃないから、もう少し後でね」

 アルくん並みにムスッとした表情を浮かべるエマを見れば、魔法を使ったことで、想像以上にエネルギーを消耗しているんだと察する。

 きっとかなりお腹が空いているに違いない。

「仕方ない。醤油味のせんべいを少しだけ出してあげよう」
「せんべい……?」

 首を傾げたエマにせんべいを渡してあげると、今朝食べたお菓子の名前だと理解したみたいで、喜んで受け取ってくれた。

「今度のは、色も味も濃い」

 バリバリボリボリと食べ始めるエマを横目に、私はお好み焼きをひっくり返す。

「よしっ、形が崩れずにうまくいった」
「……」

 とにかく食べ物を与えると大人しくなるという点では、子供とまったく変わらなかった。

 なお、初めてであろう醤油をせんべいで提供したことについては、深く反省している。

 今朝も同じようなことを反省した気がするので、お詫びの印に、紙パックのあま~いコーヒー牛乳も授けよう。

「……! にがあまっ♪ にがあまっ♪」

 エマがとっても上機嫌になり、そろそろ料理が出来上がる頃、お父さんとノエルさんがやってきた。

 ちょうどお好み焼きソースを塗り始めて、ホットプレートの上に垂れたこともあり、とても芳ばしい香りが広がる。

 箸や食器の準備をしてくれるお父さんと、お好み焼きを無言で見つめるエルフの親子、そして、仕上げに鰹節を躍らせて二人の気を引いた後、マヨネーズでトドメを刺す私。

「「おぉー……!」」

 普通にお好み焼きを作っただけで歓声が上がった私は、エルフの二人から拍手をもらい、優越感に浸るのであった。

「まだまだ作れるから、好きなだけお食べ」

 ちょっとキャラがおかしくなったのは、気にしないでほしい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

アラフォー少女の異世界ぶらり漫遊記

道草家守
恋愛
書籍版が発売しました!旅立ち編から石城迷宮編まで好評レンタル中です! 若返りの元勇者、お忍び休暇を満喫す? 30歳で勇者召喚された三上祈里(女)は、魔王を倒し勇者王(男)として10年間統治していたが、転移特典のせいで殺到する見合いにうんざりしていた。 やさぐれた祈里は酒の勢いで「実年齢にモド〜ル」を飲むが、なぜか推定10歳の銀髪碧眼美少女になってしまう。  ……ちょっとまて、この美少女顔なら誰にも気づかれないのでは??? 溜まりまくった休暇を取ることにした祈里は、さくっと城を抜けだし旅に出た! せっかくの異世界だ、めいいっぱいおいしいもの食べて観光なんぞをしてみよう。 見た目は美少女、心はアラフォーの勇者王(+お供の傭兵)による、異世界お忍び満喫旅。 と、昔に置いてきた恋のあれこれ。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~

紅月シン
ファンタジー
 聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。  いや嘘だ。  本当は不満でいっぱいだった。  食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。  だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。  しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。  そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。  二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。  だが彼女は知らなかった。  三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。  知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。 ※完結しました。 ※小説家になろう様にも投稿しています

「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。 「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」 精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。 それでも生きるしかないリリアは決心する。 誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう! それなのに―…… 「麗しき私の乙女よ」 すっごい美形…。えっ精霊王!? どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!? 森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります

秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。 そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。 「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」 聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。

処理中です...