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第一章:異世界にピクニックへ!
第12話:ピクニックを終えて
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シルフくんが消えてから、数時間が経過する頃。
エマと一緒にアルくんの背に乗った私は、空の上から異世界の夕焼けを眺めていた。
夕焼けに照らされた森の木々が綺麗な反面、魔物が活発に動き始めたみたいで、禍々しい雰囲気を持った生き物が徘徊している。
アニメの世界でしか見ない大きな狼や、二足歩行する豚の魔物、そして、上空には電気をバリバリと放電させる大きな鳥の魔物が羽ばたいていた。
安全な場所で眺めている分には、ファンタジー世界らしい光景に胸が躍るが、人と魔物は相容れない存在であり、意志疎通することはない。
私たちがエサだと認定された瞬間、命を奪い合う戦いが始まるのだから、あまり呑気なことは言っていられなかった。
しかし、非現実的な光景や体験ばかりしている私は、夢見心地でふわふわしている。
異世界で遊び続けて程よい疲労感に包まれていることもあり、幸せを噛み締めていた。
「本当に来たんだなー、異世界に」
「楽しい?」
「うん、とっても! 日帰りで帰るのがもったいないくらいだよ」
「でも、これ以上は危ない。夜は魔物の動きが活発になるし、アンデッド系の魔物も徘徊する。街の外で活動しない方がいい」
「無茶なお願いをするつもりないから、大丈夫だよ。お父さんにも、夜までには帰るって言ってあるもんね。あーあ、明日からまた仕事を頑張らないとだなー」
急に現実が押し寄せてくるような感覚に陥るけど、こればかりは仕方ない。
無理を言って付き合ってくれたエマのためにも、ちゃんと日本で稼いでいろいろ買ってあげないと。
義理の家族になったとはいえ、エマとは持ちつ持たれつの関係を築いていきたいから。
できる限り仕事の休日に異世界旅行へ来るためにも、エマの機嫌はしっかり取りたいところである。
「今日はいろいろとありがとね」
「これくらいの旅行なら、いつでも大丈夫。ちょうどいい運動になった」
「そっか。じゃあ、またお願いするよ。もっといっぱい時間を取って、いろいろなところを見て回りたいから」
「王城や自然で喜ぶくらいなら、しばらくは飽きないと思う。危険な場所はおすすめしないけど、まあ……妖精の力が引き出せれば、選択肢は広がるかも」
エマに言われて、胸の中に消えていったシルフくんのことを思い出す。
心の中で呼びかけても応答がないから、眠っているだけなのか、声が届いていないのかは、わからない。
でも、魔力が下腹部を中心に集まり、少しずつ体に溶け込み、馴染んでくるような感覚はあった。
早く魔法を使ってみたいけど、シルフくんの言いつけは守って、ちゃんと我慢した方がいい。
命に関わる恐れがあるため、さすがに慎重を期して行動しなければならなかった。
「シルフくんが、ヤルバリル大森林をオススメしてたよね。あれってどんなところなの?」
「火の精霊が祀られている場所。王族しか入れない結界があるから、私も行ったことはない」
「それって、勝手に訪れても大丈夫なのかな」
「妖精のお導きがあれば……、たぶん?」
本当に大丈夫なんだろうか。異世界で捕まったり、法に引っかかったりする行為だけは、ご遠慮願いたい。
それでも、異世界には日本で感じられないほどの浪漫がある。
私が訪れているのは、アニメや小説の世界ではなく、現実に存在する異世界なのだから。
「ねえ、女神に選ばれた者しか入れない聖域って、他にどんなものがあるんだろう」
「私の知る限り、謎に包まれた海底神殿や精霊の古城には、古代の遺産が眠っていると聞いている。今や魔物の巣窟化としていて、誰も近づけないらしい。魔王の驚異が去ったとはいえ、まだ街の周辺しか案内は……。怖い話をしたつもりなのに、どうして胡桃は楽しそう?」
「映画やアニメでしか見ない内容だったから、つい……」
「映画? アニメ?」
「ああー……伝わらないよね。大丈夫、そのうち日本で見せてあげるから」
ファンタジー世界の住人に、ファンタジー作品を見せても、面白くないかもしれない。
現代を舞台にした日常ものの作品を見せた方が、日本の勉強にもなるだろう。
ファッション雑誌に興味を抱いてたし、漫画から勧めてみようかな。
そのためにも、まずは我が家に帰る必要がある。
「よし。じゃあ、向こうの世界に帰ろっか」
「うん。お腹空いた」
急に子供っぽくなったエマに安堵しつつ、アルくんに安全な場所まで運んでもらう。
そして、ちゃっかり別れ際にモフモフさせてもらった後、空間魔法で日本に帰るのであった。
エマと一緒にアルくんの背に乗った私は、空の上から異世界の夕焼けを眺めていた。
夕焼けに照らされた森の木々が綺麗な反面、魔物が活発に動き始めたみたいで、禍々しい雰囲気を持った生き物が徘徊している。
アニメの世界でしか見ない大きな狼や、二足歩行する豚の魔物、そして、上空には電気をバリバリと放電させる大きな鳥の魔物が羽ばたいていた。
安全な場所で眺めている分には、ファンタジー世界らしい光景に胸が躍るが、人と魔物は相容れない存在であり、意志疎通することはない。
私たちがエサだと認定された瞬間、命を奪い合う戦いが始まるのだから、あまり呑気なことは言っていられなかった。
しかし、非現実的な光景や体験ばかりしている私は、夢見心地でふわふわしている。
異世界で遊び続けて程よい疲労感に包まれていることもあり、幸せを噛み締めていた。
「本当に来たんだなー、異世界に」
「楽しい?」
「うん、とっても! 日帰りで帰るのがもったいないくらいだよ」
「でも、これ以上は危ない。夜は魔物の動きが活発になるし、アンデッド系の魔物も徘徊する。街の外で活動しない方がいい」
「無茶なお願いをするつもりないから、大丈夫だよ。お父さんにも、夜までには帰るって言ってあるもんね。あーあ、明日からまた仕事を頑張らないとだなー」
急に現実が押し寄せてくるような感覚に陥るけど、こればかりは仕方ない。
無理を言って付き合ってくれたエマのためにも、ちゃんと日本で稼いでいろいろ買ってあげないと。
義理の家族になったとはいえ、エマとは持ちつ持たれつの関係を築いていきたいから。
できる限り仕事の休日に異世界旅行へ来るためにも、エマの機嫌はしっかり取りたいところである。
「今日はいろいろとありがとね」
「これくらいの旅行なら、いつでも大丈夫。ちょうどいい運動になった」
「そっか。じゃあ、またお願いするよ。もっといっぱい時間を取って、いろいろなところを見て回りたいから」
「王城や自然で喜ぶくらいなら、しばらくは飽きないと思う。危険な場所はおすすめしないけど、まあ……妖精の力が引き出せれば、選択肢は広がるかも」
エマに言われて、胸の中に消えていったシルフくんのことを思い出す。
心の中で呼びかけても応答がないから、眠っているだけなのか、声が届いていないのかは、わからない。
でも、魔力が下腹部を中心に集まり、少しずつ体に溶け込み、馴染んでくるような感覚はあった。
早く魔法を使ってみたいけど、シルフくんの言いつけは守って、ちゃんと我慢した方がいい。
命に関わる恐れがあるため、さすがに慎重を期して行動しなければならなかった。
「シルフくんが、ヤルバリル大森林をオススメしてたよね。あれってどんなところなの?」
「火の精霊が祀られている場所。王族しか入れない結界があるから、私も行ったことはない」
「それって、勝手に訪れても大丈夫なのかな」
「妖精のお導きがあれば……、たぶん?」
本当に大丈夫なんだろうか。異世界で捕まったり、法に引っかかったりする行為だけは、ご遠慮願いたい。
それでも、異世界には日本で感じられないほどの浪漫がある。
私が訪れているのは、アニメや小説の世界ではなく、現実に存在する異世界なのだから。
「ねえ、女神に選ばれた者しか入れない聖域って、他にどんなものがあるんだろう」
「私の知る限り、謎に包まれた海底神殿や精霊の古城には、古代の遺産が眠っていると聞いている。今や魔物の巣窟化としていて、誰も近づけないらしい。魔王の驚異が去ったとはいえ、まだ街の周辺しか案内は……。怖い話をしたつもりなのに、どうして胡桃は楽しそう?」
「映画やアニメでしか見ない内容だったから、つい……」
「映画? アニメ?」
「ああー……伝わらないよね。大丈夫、そのうち日本で見せてあげるから」
ファンタジー世界の住人に、ファンタジー作品を見せても、面白くないかもしれない。
現代を舞台にした日常ものの作品を見せた方が、日本の勉強にもなるだろう。
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そのためにも、まずは我が家に帰る必要がある。
「よし。じゃあ、向こうの世界に帰ろっか」
「うん。お腹空いた」
急に子供っぽくなったエマに安堵しつつ、アルくんに安全な場所まで運んでもらう。
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