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第一章:異世界にピクニックへ!
第2話:勇者、父
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父の再婚相手が、まさかのバツイチ子持ちエルフであることに衝撃を受けた私が、落ち着きを取り戻す頃。
エルフの二人に緑茶とサラダ味のせんべいを出して、再びお父さんと向かい合って座っていた。
「どうしてこうなったの? エルフ族と結婚なんて、ゲームとか漫画でしか聞かない話だよ」
「胡桃が混乱する気持ちもわかる。でもな、これが現実なんだよ。驚かせてしまうかもしれないが、父さんは異世界に勇者として召喚されて、魔王軍と戦ったんだ」
「それは確かにビックリだね。もはや、どこをどう突っ込んでいいのかもわからないよ」
二十歳にもなって、父親が勇者として活躍した話を聞かされる日が来るなんて……。
二年前に一緒に電車に乗った時は、駅の階段を走って息切れしていたのに、よく勇者になれたよね。本当にビックリだよ。
「一応の確認なんだけど、お父さんって、今年でいくつだっけ?」
「今年で四十五歳だ。すでにアラフィフの仲間入りを果たしている」
「そっか、なかなか聞けないね。四十五歳の口から、勇者という言葉を」
やっぱりお父さんが中二病をこじらせただけなんじゃないか、と疑いたくなる気持ちは大きいものの、目の前の光景がそれを否定する。
ファンタジーの世界にしかいないはずのエルフが、我が家でのんびりと過ごしている姿を見たら、納得せざるを得なかった。
彼女たちは緑茶を飲んでは「落ち着いた味ね」「うん」と和み、せんべいを口にしては「塩気が利いているのに、甘みもあるわ」「バリバリしてる」と、感動している。
これが日本で初めて食べるものだったと考えると、もっとちゃんとした料理や和菓子を出すべきだったと、私は反省した。
「おいしいわね」
「おいしい」
二人が喜んでくれているから、おもてなしという意味では、意外に成功しているのかもしれないが。
はぁ~、と大きなため息をついた私は、これが現実だと受け入れることに決めて、再びお父さんと向き合う。
「別に馴れ初めを聞きたいわけじゃないけど、状況が把握できないから聞かせてよ。お父さんが、ゆ、勇者だった話」
「父さんだって、自分が勇者だと打ち明けるのは、恥ずかしいだぞ。だから、話半分に聞いてくれ。初めて異世界に召喚されたのは二年前で、そこから何度も日本と異世界を行ったり来たりして……」
お父さんの話は、ラノベでもよくあるような話だった。
異世界に召喚されて、剣や魔法で魔物を討伐して、魔王軍と命を懸けた死闘を繰り返す。世界の平和を守るための戦いだ。
その勇者の旅にノエルさんとエマさんが同行することになり、長い時間を共に過ごして、親睦を深めたらしい。
勇者とその仲間が結婚するなんて、それもラノベでよくある話だと思った。
一般的なラノベと違う点があるとすれば、アラフィフ勇者と共に召喚された聖女と賢者も年配の方だったこと。
そして――、
「最終的に魔王と幹部に情を訴えて、話し合いで解決した。今は各国と同盟を結び、戦争は終結したよ」
とても日本人らしい解決方法、話し合いで終わらせたことだった。
わかりあえるなら最初から話し合えばよかったのに、とは思うものの、そう簡単な問題ではないんだろう。
戦いを繰り返すうちに、互いに非難の声が高まって、初めて話し合いが成立したのかもしれない。
ラノベとは終わり方が異なるけど……、異世界を救うために魔王を殺してきた、と報告されるよりはずっといいと思った。
「休みの日にお父さんの姿が見当たらないなーと思っていたけど、まさか異世界に行っていたなんてね」
「今まで隠し続けてきて悪かった。どうやって話を切り出せばいいのか、わからなかったんだ」
「別に責めるつもりはないよ。無事に戻ってこられてよかったなーとしか思ってないから」
実際に途中で打ち明けられていたら、私は魔王軍と戦うことを止めていたと思う。
たとえお父さんしか救えない世界だったとしても、たった一人の身内を死地に向かわせたいとは思わない。
お父さんもそれがわかっていたから、最後まで黙ってやり通したんだろう。
まあ、異世界でこれほど綺麗なエルフの女性を捕まえたなら、カッコつけたかっただけなのかもしれないけど。
「もう話は終わったのかしら」
「ああ。胡桃は小さくても子供じゃないからな。簡単に事情を説明したら、わかってくれるさ」
「人族の成長は早いわね。寿命の長いエルフからしたら、二十歳なんてまだまだ子供なのに」
「胡桃がしっかり者でなければ、異世界で活動はできなかった。今まで仕事を任せきりにしていた部分も多いから、ノエルも手伝ってくれ」
「お任せくださいな~。魔法を使えば、ちょちょいのちょいですよ」
「はっはっは。日常生活で魔法は禁止だぞ」
お父さんとノエルさんがのんびりと話す中、娘のエマさんはマイペースみたいで、せんべいをボリボリと食べ続けている。
異世界で旅をしていた影響か、三人は穏やかな雰囲気に包み込まれていた。
一方、急に新しい家族を紹介された私は、複雑な感情を抱いている。
エルフの二人が日本で暮らしたいなら、引き止めはしない。でも、いろいろと頭を悩ませる問題が生まれるだろう。
周囲にエルフだと隠し通さなければならなかったり、戸籍や住民票などの法的な問題があったり、異世界との文化の違いだったりと、ややこしいことになりかねない。
なにより、私にも直接関与する大きな問題が……、金だッ!
家族経営で菓子店を営んでいる以上、ノエルさんに手伝ってもらっても、収入は変わらない。それなのに、生活費だけは二人分も増えてしまう。
お父さんが異世界でお世話になったなら、無下に扱うことはできない。こっちの世界で頼れる人が、私かお父さんしかいないこともわかってる。
それでも、私にもメリットがほしい。父の再婚者とその娘を養い、心労だけが増えるなんて、絶対にごめんだ。
綺麗事だけで生きていけるほど、今の日本は甘くない! 物価の上昇がすごくて、生活費がとんでもないことになってるんだから!
よって、私にはそれ相応の対価を求める権利がある!
己の欲望に突き動かされた私は、勇気を振り絞って右手を大きく挙げた。
「ノエルさんに質問なんですけど、私も異世界に行くことはできますか?」
魔王軍との争いが終わり、平和になった異世界に旅行したい。
漫画やアニメに詳しい身としては、このチャンスを逃すはずがなかった。
「もちろん、私たちが住んでいた世界に胡桃ちゃんも行けるわ。でも、条件が二つあるの」
異世界旅行という名のバカンスを前にして、私はゴクリッと喉を鳴らす。
「まず一つ目は、双方の世界がエネルギーで干渉し合う時間帯にしか、異界の道を繋げられないことね。私たちの世界から魔力が流れ込むことで、アクセスを可能にするわ」
「なるほど。その時期を逃すと異世界に行けなくなるし、逆に帰ってこられなくなる恐れもある、ということですね……」
「そうなの。今のところは、月曜日から金曜日まで、毎週繋がるようになっているわ」
繋がりすぎっ! 私にとってはありがたいことだけど!!
家族経営している菓子店は、火曜日と水曜日が定休日だから、この世界の生活にも支障はきたさない。
もう一つの条件さえ整えば、私の異世界旅行が現実味を帯びてくる……!
「二つ目の条件は、娘のエマみたいに空間魔法を使える人がいることよ。早い話、エマの魔力次第では、今すぐ行って帰ってくることもできるわ」
「エマさんの魔力次第では、今すぐにでも……?」
キラーンッと目を輝かせた私は、エマさんに期待の眼差しを向ける。
すると、彼女は急に話を振られたことに驚いたのか、せんべいをくわえたまま、キョトンッとしていた。
「……行きたいの?」
「行きたい!」
「向こうの世界は、ほとんど自然ばかりで何もないよ?」
「それがいいの! 大自然を満喫する異世界旅行がしたい!」
「……別にいいけど、私にも条件がある。空間魔法はエネルギーを大量に使うから、食料が欲しい」
「よしっ、わかった! じゃあ、異世界にピクニックへ行こう!」
思わず、前のめりになった私を前にして、圧倒されたエマさんはコクリッと頷くのであった。
エルフの二人に緑茶とサラダ味のせんべいを出して、再びお父さんと向かい合って座っていた。
「どうしてこうなったの? エルフ族と結婚なんて、ゲームとか漫画でしか聞かない話だよ」
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「それは確かにビックリだね。もはや、どこをどう突っ込んでいいのかもわからないよ」
二十歳にもなって、父親が勇者として活躍した話を聞かされる日が来るなんて……。
二年前に一緒に電車に乗った時は、駅の階段を走って息切れしていたのに、よく勇者になれたよね。本当にビックリだよ。
「一応の確認なんだけど、お父さんって、今年でいくつだっけ?」
「今年で四十五歳だ。すでにアラフィフの仲間入りを果たしている」
「そっか、なかなか聞けないね。四十五歳の口から、勇者という言葉を」
やっぱりお父さんが中二病をこじらせただけなんじゃないか、と疑いたくなる気持ちは大きいものの、目の前の光景がそれを否定する。
ファンタジーの世界にしかいないはずのエルフが、我が家でのんびりと過ごしている姿を見たら、納得せざるを得なかった。
彼女たちは緑茶を飲んでは「落ち着いた味ね」「うん」と和み、せんべいを口にしては「塩気が利いているのに、甘みもあるわ」「バリバリしてる」と、感動している。
これが日本で初めて食べるものだったと考えると、もっとちゃんとした料理や和菓子を出すべきだったと、私は反省した。
「おいしいわね」
「おいしい」
二人が喜んでくれているから、おもてなしという意味では、意外に成功しているのかもしれないが。
はぁ~、と大きなため息をついた私は、これが現実だと受け入れることに決めて、再びお父さんと向き合う。
「別に馴れ初めを聞きたいわけじゃないけど、状況が把握できないから聞かせてよ。お父さんが、ゆ、勇者だった話」
「父さんだって、自分が勇者だと打ち明けるのは、恥ずかしいだぞ。だから、話半分に聞いてくれ。初めて異世界に召喚されたのは二年前で、そこから何度も日本と異世界を行ったり来たりして……」
お父さんの話は、ラノベでもよくあるような話だった。
異世界に召喚されて、剣や魔法で魔物を討伐して、魔王軍と命を懸けた死闘を繰り返す。世界の平和を守るための戦いだ。
その勇者の旅にノエルさんとエマさんが同行することになり、長い時間を共に過ごして、親睦を深めたらしい。
勇者とその仲間が結婚するなんて、それもラノベでよくある話だと思った。
一般的なラノベと違う点があるとすれば、アラフィフ勇者と共に召喚された聖女と賢者も年配の方だったこと。
そして――、
「最終的に魔王と幹部に情を訴えて、話し合いで解決した。今は各国と同盟を結び、戦争は終結したよ」
とても日本人らしい解決方法、話し合いで終わらせたことだった。
わかりあえるなら最初から話し合えばよかったのに、とは思うものの、そう簡単な問題ではないんだろう。
戦いを繰り返すうちに、互いに非難の声が高まって、初めて話し合いが成立したのかもしれない。
ラノベとは終わり方が異なるけど……、異世界を救うために魔王を殺してきた、と報告されるよりはずっといいと思った。
「休みの日にお父さんの姿が見当たらないなーと思っていたけど、まさか異世界に行っていたなんてね」
「今まで隠し続けてきて悪かった。どうやって話を切り出せばいいのか、わからなかったんだ」
「別に責めるつもりはないよ。無事に戻ってこられてよかったなーとしか思ってないから」
実際に途中で打ち明けられていたら、私は魔王軍と戦うことを止めていたと思う。
たとえお父さんしか救えない世界だったとしても、たった一人の身内を死地に向かわせたいとは思わない。
お父さんもそれがわかっていたから、最後まで黙ってやり通したんだろう。
まあ、異世界でこれほど綺麗なエルフの女性を捕まえたなら、カッコつけたかっただけなのかもしれないけど。
「もう話は終わったのかしら」
「ああ。胡桃は小さくても子供じゃないからな。簡単に事情を説明したら、わかってくれるさ」
「人族の成長は早いわね。寿命の長いエルフからしたら、二十歳なんてまだまだ子供なのに」
「胡桃がしっかり者でなければ、異世界で活動はできなかった。今まで仕事を任せきりにしていた部分も多いから、ノエルも手伝ってくれ」
「お任せくださいな~。魔法を使えば、ちょちょいのちょいですよ」
「はっはっは。日常生活で魔法は禁止だぞ」
お父さんとノエルさんがのんびりと話す中、娘のエマさんはマイペースみたいで、せんべいをボリボリと食べ続けている。
異世界で旅をしていた影響か、三人は穏やかな雰囲気に包み込まれていた。
一方、急に新しい家族を紹介された私は、複雑な感情を抱いている。
エルフの二人が日本で暮らしたいなら、引き止めはしない。でも、いろいろと頭を悩ませる問題が生まれるだろう。
周囲にエルフだと隠し通さなければならなかったり、戸籍や住民票などの法的な問題があったり、異世界との文化の違いだったりと、ややこしいことになりかねない。
なにより、私にも直接関与する大きな問題が……、金だッ!
家族経営で菓子店を営んでいる以上、ノエルさんに手伝ってもらっても、収入は変わらない。それなのに、生活費だけは二人分も増えてしまう。
お父さんが異世界でお世話になったなら、無下に扱うことはできない。こっちの世界で頼れる人が、私かお父さんしかいないこともわかってる。
それでも、私にもメリットがほしい。父の再婚者とその娘を養い、心労だけが増えるなんて、絶対にごめんだ。
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すると、彼女は急に話を振られたことに驚いたのか、せんべいをくわえたまま、キョトンッとしていた。
「……行きたいの?」
「行きたい!」
「向こうの世界は、ほとんど自然ばかりで何もないよ?」
「それがいいの! 大自然を満喫する異世界旅行がしたい!」
「……別にいいけど、私にも条件がある。空間魔法はエネルギーを大量に使うから、食料が欲しい」
「よしっ、わかった! じゃあ、異世界にピクニックへ行こう!」
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