【完結】女神の使徒に選ばれた私の自由気ままな異世界旅行とのんびりスローライフ

あろえ

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第一章:異世界にピクニックへ!

第1話:父の再婚者がエルフだった件

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「鳥に乗って空を飛べるなんて、夢みたいだわ」

 心地いい風を浴びる私――天宮胡桃あまみやくるみはいま、異世界で空の旅を満喫していた。

 人が乗れるほど大きな青い精霊鳥の背にまたがり、それを使役する義妹のエルフに抱きついて、どこまでも広がる大森林と綺麗な川を見下ろす。

 まるで、異世界を独り占めしているかのような光景に、胸が高鳴り続けていた。

 壮大な景色を目で楽しみ、新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込んで、羽毛のフワフワした感触に癒される。

 はぁ~。自由気ままに過ごす異世界旅行なんて、控えめに言って最高の贅沢だよ……。

 あまりの心地よさにため息がこぼれると、疲れたと思われたのか、義妹が精霊鳥の背中をトントンッと軽く叩いた。

「向こうの湖で休憩しよう」
「グルルルル」

 精霊鳥が低い声で鳴いた瞬間、カクンッと角度が変わり、フワッとした感覚に包まれる。

 絶対に落ちないとは聞いているものの、一気に加速するスピードに耐えきれず、思わず腕にギュッと力が入った。

「キャーッ! 急降下ヤバすぎ―――ッ!」

 絶叫アトラクションさながらの滑空を体感して、子供みたいな無邪気な笑みがこぼれてしまう。

 大人になってから、何もかも忘れて夢中になるほど楽しめることができたのは、今回が初めてのことだった。

 幸せだー……と、私が異世界旅行を満喫しているのには、理由がある。

 すべてはお父さんのとんでもないカミングアウトから始まっていた――。

 ***

 都内で和菓子を中心とした菓子店を家族で営む私は、何気ない休日の朝に『大事な話がある』と父に呼び出されて、居間で向かい合って座っていた。

「父さんな、実は再婚したんだ」

 突然、何の前触れもなく再婚を事後報告されて、私は目が点になってしまう。

 高校を卒業した後、実家で看板娘として働き続けること、早二年。すでに成人している身なので、今さら父の再婚で騒ぎ立てるなんてことはない。

 若い頃に妻を亡くし、男手一つで育ててくれた父が幸せになるなら、できる限りのお祝いをしてあげたいと思った。

「再婚できてよかったね。相手はどんな人なの?」
「父さんの再婚相手はな、の女性で、胡桃と同い年の二十歳になったばかりの娘がいる。そろそろしてくる頃で……」

 日常会話では聞き慣れない言葉が並び、普通なら頭の中がハテナマークで埋め尽くされるだろう。

 しかし、漫画やアニメに詳しい私は、お父さんの悲しい事情を察してしまった。

 ああー……。うちのお父さんって、妄想癖があったんだ、と。

 きっとお父さんは、最近流行っている異世界転生ものの小説を読み、自分が主人公だと勘違いして、頭の中でエルフの女性と結婚したに違いない。

 まさか妄想と現実の区別もつかなくなるとは思わなかったけど。

 でも、男手一つで育ててくれたお父さんが悪いわけではない。現実逃避でもしなければ、シングルファーザーとしてやっていけないほど、子育ては難しいものだったのだ。

 それだけ迷惑をかけていたと思うと、私は心が痛い。

 現実に異世界もエルフもが存在するはずがないのに……。

 はぁ~、と大きなため息をこぼさないように飲み込み、どうやって妄想の世界から現実の世界に引っ張り出そうか悩んでいると、事態は急変する。

 座っているお父さんの隣で、何かがキラキラと輝き始めたと思ったら、床に大きな魔法陣が展開された。

 何事かと思っているのも束の間、パアーッと眩しい光が放たれると、私の目に信じられない光景が映し出される。

 エルフの象徴とも言える尖った耳をした金髪の女性が二人も現われたのだ!

 大人っぽい服装をした優しそうなエルフ女性が弓を持ち、魔法使いっぽいケープを羽織った可愛らしいエルフの女の子が金属製のロッドを持っている。

 その二人の姿を見て、私は開いた口が塞がらなかった。

「はじめまして。確か、胡桃ちゃんよね? 私はノエル・スフィアート。今日からあなたの義母ママよ。こっちが胡桃ちゃんの義妹になる娘のエマね」
「……よろしく」

 ぽわぽわした美人ママのノエルさんと、恥ずかしそうにツーンッとそっぽを向く娘のエマさん。そして、驚きすぎて声が出ない私を見て笑う父。

 再婚相手が急に訪れる展開は、まだ納得できる。でも、それって普通は玄関からじゃん! ピンポーンってインターホンを鳴らしてくるもんだよ。

 えっ、なに? 転移してくるって。魔法を使えるの? ってか、本当にエルフなの?

 聞きたいことや言いたいことが山ほど出てくるのに、頭の処理能力が追い付かない。

 でも、一つだけ確かなことは――、

「いや、再婚者が美人すぎ」

 出会ったばかりの義母と義妹は、この世のものとは思えないほどの美人さんなのであった。
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