102 / 104
第三部
第102話:黒田、グレンに気持ちを伝える
しおりを挟む
夏休みの早朝、誰もいない学園のグラウンドで、私はある人を待っていた。
夏休みを共に過ごし、言葉ではなく、剣で気持ちを伝えられる人物。朝の頭が回っていない時間に素直にぶつかろうと思い、呼び出しておいたのだ。
よって、今日の私は剣術大会で着用したゴスロリ衣装に再び身を包み、剣を待っている。
当然、今やってきた彼は、騎士の格好をしていた。
「急にどうしたんだ? 剣を使いたいなんて」
フラスティン家の護衛騎士、グレンである。
もちろん、今日は告白します、と言って呼び出すわけにいかないので、グレンに詳しい話をしていない。きっとチンブンカンプン状態だろう。
「今日は余裕がないの。少し付き合ってほしいだけよ」
「……別に構わないが」
私が緊張している影響か、グレンは首を傾げていた。
「私が剣を持つのは、今日で最後よ。護衛はグレンに任せるし、剣の道に未練はない。少しだけ力を借りるだけ」
自分に言い聞かせるように声を出した私は、グレンに向けて剣を構える。空気を読んでくれたグレンも、同じように構えてくれた。
が、秘密兵器と呼ばれた黒田と対峙して、やっぱり怖気づくように足を一歩後ろに引いている。
「親父よりも隙がない」
「筆頭騎士と比較しないで。それで勝っても微妙な気分よ」
構えだけは超一流の黒田である。とても今から告白する人物とは思えない。
「それで、どうして急に剣を持とうと思ったんだ?」
「騎士は言葉で語らないわ。剣で語るものよ」
「いや、貴族だろ」
「細かいことは言わないの! とにかく私の剣を受け止めなさい!」
生まれて初めて告白するということもあり、まったく気持ちに余裕がない私は、大きく息を吸って深呼吸をした。
グレンが来てくれた以上、もう後には戻れない。いや、戻らない。
自分のためにも、グレンのためにも、このまま勢い任せで気持ちを伝えるべきだ。最初から順番なんてぐちゃぐちゃだったんだから。
グレンはルビアや王妃様と相談して、私の気持ちを考えずに騎士になっているんだもの。普通は主になる私に相談するべきでしょう。勝手に騎士団まで退団するなんて、本当に驚いたのよ。
おまけに、私に好意を伝えたのが、お父様の前ってどういうこと? ビックリしすぎて、何も言えなかったじゃない。本当にもう……。
いい? 私の遅れた返事、ちゃんと受け取りなさいよね。この真っ直ぐな私の想いを!
グッと力強く剣を握りしめた私は、それはもう、寝起きのグレンに全力で攻め立てる!
「突きーーー!」
勢いよく放った突きがグレンの胸部に命中し、吹き飛ぶように背中から倒れた。完全に防具が損傷しているのは、想いを込め過ぎたからである。
ついつい昔のノリでやってしまい、力加減を忘れてしまった。前世で控え選手だったこともあり、最終兵器黒田である自覚に欠けていた。
これはまずいと思い、急いで回復魔法をかけにいく。
「ごめん。ちょっと想いを込めすぎたみたい」
「……想いがこもっていることに、悪い気はしない。だが、一撃が重いのは困る」
「後でいくらでも謝るわ。これでも色々考えて、精一杯だったのよ」
どんな形であったとしても、気持ちを伝えた方が楽になる。アラサーの黒田としては、告白することが第一優先だった。
勢い任せじゃないと、初めての告白なんてできそうになかったのだ。
グレンの恥ずかしそうな顔を見れば、なんだかんだで伝わっているだろう。あとは、もう少しちゃんと言わなければならないことを伝えるだけ。
「私はグレンが思っているほど、良い女じゃないわ。とても優柔不断で、色々な意味で自分の気持ちが制御できないの。他に好きな人だっているわ」
「ん? それくらいは知ってるぞ?」
「……えっ? 知ってて騎士になるなんて、グレンはダメ女が好きなの?」
正直、嫌われることを覚悟してきた。最悪、フラスティン家から王国の騎士団にもう一度入られないか、王妃様に頼もうとも思っていた。
それなのに、グレンは逆ハーレムを受け入れてくれるの……?
「ダメかどうかは俺が判断することだ。今も昔も、忠義を尽くすべき相手だと思っている」
騎士として生きることができるようになったから、そういうことを言ってくれるのかな。一人の男としては、複雑な心境だと思うもの。
「このままいけば、グレンを傷つけることもあると思うわ。だから、もしツラいと思ったら、騎士の仕事を投げ出しても――」
「生涯かけて忠義を尽くす、そう決めている。騎士として生きる方法を教えたくせに、そんなこともわからないんだな」
真っすぐ見つめてくるグレンを見て、最初からすべてを知ったうえで、私の騎士になってくれたのだと察した。
それはとてもありがたくもあり、嬉しくもあり、恥ずかしくもある。
「確認しておきたかっただけよ。知らない間に引き下がれないようなところまで来てしまったんだもの」
だから、少しつれない態度を取ってしまう。私の心には、それくらい余裕がなかったのだ。
一方、最初から知ったうえで騎士になってくれたグレンは、とても凛々しい表情を浮かべている。
「気にするな。何があっても、俺が守ってやる。だから、前だけを見据えていればいい」
どうして告白した私の方が慰めてもらっているんだろうか。
なんか……とてもズルイ言い方ね。そういうところ、本当に好きだわ。
「二人の時だけでいいから、クロエって呼んでもらってもいい?」
「いや、それはまた別の話だろう」
「ケチね。まあいいわ。何とか気持ちの確認ができただけでも落ち着いたもの」
「今後は剣以外の方法で伝えてくれるとありがたいけどな」
「善処するわ」
回復魔法での治療も終わり、二人で立ち上がると、グレンは手を差し出してきた。
「女子寮まで送っていく。早く行くぞ、クロエ」
「……グレンって、何気にそういうの得意よね」
「うるさい」
「ねえ、もう一回言って?」
「二度と言わん」
「ほら、ご主人様の命令は絶対なのよ」
「騎士は臨機応変に対応することを求められる」
変に意地っ張りなグレンの手を取り、私は女子寮へ戻っていった。朝からとても幸せな気持ちになったのは、言うまでもないだろう。
夏休みを共に過ごし、言葉ではなく、剣で気持ちを伝えられる人物。朝の頭が回っていない時間に素直にぶつかろうと思い、呼び出しておいたのだ。
よって、今日の私は剣術大会で着用したゴスロリ衣装に再び身を包み、剣を待っている。
当然、今やってきた彼は、騎士の格好をしていた。
「急にどうしたんだ? 剣を使いたいなんて」
フラスティン家の護衛騎士、グレンである。
もちろん、今日は告白します、と言って呼び出すわけにいかないので、グレンに詳しい話をしていない。きっとチンブンカンプン状態だろう。
「今日は余裕がないの。少し付き合ってほしいだけよ」
「……別に構わないが」
私が緊張している影響か、グレンは首を傾げていた。
「私が剣を持つのは、今日で最後よ。護衛はグレンに任せるし、剣の道に未練はない。少しだけ力を借りるだけ」
自分に言い聞かせるように声を出した私は、グレンに向けて剣を構える。空気を読んでくれたグレンも、同じように構えてくれた。
が、秘密兵器と呼ばれた黒田と対峙して、やっぱり怖気づくように足を一歩後ろに引いている。
「親父よりも隙がない」
「筆頭騎士と比較しないで。それで勝っても微妙な気分よ」
構えだけは超一流の黒田である。とても今から告白する人物とは思えない。
「それで、どうして急に剣を持とうと思ったんだ?」
「騎士は言葉で語らないわ。剣で語るものよ」
「いや、貴族だろ」
「細かいことは言わないの! とにかく私の剣を受け止めなさい!」
生まれて初めて告白するということもあり、まったく気持ちに余裕がない私は、大きく息を吸って深呼吸をした。
グレンが来てくれた以上、もう後には戻れない。いや、戻らない。
自分のためにも、グレンのためにも、このまま勢い任せで気持ちを伝えるべきだ。最初から順番なんてぐちゃぐちゃだったんだから。
グレンはルビアや王妃様と相談して、私の気持ちを考えずに騎士になっているんだもの。普通は主になる私に相談するべきでしょう。勝手に騎士団まで退団するなんて、本当に驚いたのよ。
おまけに、私に好意を伝えたのが、お父様の前ってどういうこと? ビックリしすぎて、何も言えなかったじゃない。本当にもう……。
いい? 私の遅れた返事、ちゃんと受け取りなさいよね。この真っ直ぐな私の想いを!
グッと力強く剣を握りしめた私は、それはもう、寝起きのグレンに全力で攻め立てる!
「突きーーー!」
勢いよく放った突きがグレンの胸部に命中し、吹き飛ぶように背中から倒れた。完全に防具が損傷しているのは、想いを込め過ぎたからである。
ついつい昔のノリでやってしまい、力加減を忘れてしまった。前世で控え選手だったこともあり、最終兵器黒田である自覚に欠けていた。
これはまずいと思い、急いで回復魔法をかけにいく。
「ごめん。ちょっと想いを込めすぎたみたい」
「……想いがこもっていることに、悪い気はしない。だが、一撃が重いのは困る」
「後でいくらでも謝るわ。これでも色々考えて、精一杯だったのよ」
どんな形であったとしても、気持ちを伝えた方が楽になる。アラサーの黒田としては、告白することが第一優先だった。
勢い任せじゃないと、初めての告白なんてできそうになかったのだ。
グレンの恥ずかしそうな顔を見れば、なんだかんだで伝わっているだろう。あとは、もう少しちゃんと言わなければならないことを伝えるだけ。
「私はグレンが思っているほど、良い女じゃないわ。とても優柔不断で、色々な意味で自分の気持ちが制御できないの。他に好きな人だっているわ」
「ん? それくらいは知ってるぞ?」
「……えっ? 知ってて騎士になるなんて、グレンはダメ女が好きなの?」
正直、嫌われることを覚悟してきた。最悪、フラスティン家から王国の騎士団にもう一度入られないか、王妃様に頼もうとも思っていた。
それなのに、グレンは逆ハーレムを受け入れてくれるの……?
「ダメかどうかは俺が判断することだ。今も昔も、忠義を尽くすべき相手だと思っている」
騎士として生きることができるようになったから、そういうことを言ってくれるのかな。一人の男としては、複雑な心境だと思うもの。
「このままいけば、グレンを傷つけることもあると思うわ。だから、もしツラいと思ったら、騎士の仕事を投げ出しても――」
「生涯かけて忠義を尽くす、そう決めている。騎士として生きる方法を教えたくせに、そんなこともわからないんだな」
真っすぐ見つめてくるグレンを見て、最初からすべてを知ったうえで、私の騎士になってくれたのだと察した。
それはとてもありがたくもあり、嬉しくもあり、恥ずかしくもある。
「確認しておきたかっただけよ。知らない間に引き下がれないようなところまで来てしまったんだもの」
だから、少しつれない態度を取ってしまう。私の心には、それくらい余裕がなかったのだ。
一方、最初から知ったうえで騎士になってくれたグレンは、とても凛々しい表情を浮かべている。
「気にするな。何があっても、俺が守ってやる。だから、前だけを見据えていればいい」
どうして告白した私の方が慰めてもらっているんだろうか。
なんか……とてもズルイ言い方ね。そういうところ、本当に好きだわ。
「二人の時だけでいいから、クロエって呼んでもらってもいい?」
「いや、それはまた別の話だろう」
「ケチね。まあいいわ。何とか気持ちの確認ができただけでも落ち着いたもの」
「今後は剣以外の方法で伝えてくれるとありがたいけどな」
「善処するわ」
回復魔法での治療も終わり、二人で立ち上がると、グレンは手を差し出してきた。
「女子寮まで送っていく。早く行くぞ、クロエ」
「……グレンって、何気にそういうの得意よね」
「うるさい」
「ねえ、もう一回言って?」
「二度と言わん」
「ほら、ご主人様の命令は絶対なのよ」
「騎士は臨機応変に対応することを求められる」
変に意地っ張りなグレンの手を取り、私は女子寮へ戻っていった。朝からとても幸せな気持ちになったのは、言うまでもないだろう。
0
お気に入りに追加
441
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

聖女のわたしを隣国に売っておいて、いまさら「母国が滅んでもよいのか」と言われましても。
ふまさ
恋愛
「──わかった、これまでのことは謝罪しよう。とりあえず、国に帰ってきてくれ。次の聖女は急ぎ見つけることを約束する。それまでは我慢してくれないか。でないと国が滅びる。お前もそれは嫌だろ?」
出来るだけ優しく、テンサンド王国の第一王子であるショーンがアーリンに語りかける。ひきつった笑みを浮かべながら。
だがアーリンは考える間もなく、
「──お断りします」
と、きっぱりと告げたのだった。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました
宵闇 月
恋愛
異世界に転生したらスマホゲームの悪役令嬢でした。
しかも前世の推し且つ今世の婚約者は既にヒロインに攻略された後でした。
断罪まであと一年と少し。
だったら断罪回避より今から全力で奪い返してみせますわ。
と意気込んだはいいけど
あれ?
婚約者様の様子がおかしいのだけど…
※ 4/26
内容とタイトルが合ってないない気がするのでタイトル変更しました。

家族と移住した先で隠しキャラ拾いました
狭山ひびき@バカふり160万部突破
恋愛
「はい、ちゅーもーっく! 本日わたしは、とうとう王太子殿下から婚約破棄をされました! これがその証拠です!」
ヴィルヘルミーネ・フェルゼンシュタインは、そう言って家族に王太子から届いた手紙を見せた。
「「「やっぱりかー」」」
すぐさま合いの手を入れる家族は、前世から家族である。
日本で死んで、この世界――前世でヴィルヘルミーネがはまっていた乙女ゲームの世界に転生したのだ。
しかも、ヴィルヘルミーネは悪役令嬢、そして家族は当然悪役令嬢の家族として。
ゆえに、王太子から婚約破棄を突きつけられることもわかっていた。
前世の記憶を取り戻した一年前から準備に準備を重ね、婚約破棄後の身の振り方を決めていたヴィルヘルミーネたちは慌てず、こう宣言した。
「船に乗ってシュティリエ国へ逃亡するぞー!」「「「おー!」」」
前世も今も、実に能天気な家族たちは、こうして断罪される前にそそくさと海を挟んだ隣国シュティリエ国へ逃亡したのである。
そして、シュティリエ国へ逃亡し、新しい生活をはじめた矢先、ヴィルヘルミーネは庭先で真っ黒い兎を見つけて保護をする。
まさかこの兎が、乙女ゲームのラスボスであるとは気づかづに――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる